■ DVD市場の立役者、続編が販売開始
連日のテレビCMや雑誌広告に加え、PC用ゲームの「ENTER THE MATRIX」、DVDビデオ「アニマトリックス」と、かつてない物量をプロモーションに投下した「マトリックス リローデッド」。6月7日の公開直後は、誰もが「見なければ」と洗脳されたのではないだろうか。製作・配給側は2003年を「マトリックスイヤー」とすべく、以前から準備を整えてきたといい、そのかいあってか、全世界で歴代13位という高い配給収益を得ている。 おそらく、DVD版「マトリックス リローデッド 特別版」の発売も、「マトリックス レボリューション」の公開(11月5日)にタイミングを合わせたものだろう。これもプロモーションの一環といえるが、そのおかげで、わずか4カ月でのスピードリリースが実現。通常、公開3カ月後にDVD発売をアナウンス、その2~3カ月後に発売というのが、発売の早いタイトルのパターンだ。 前作「マトリックス 特別版」が発売されたのが2000年3月。セルDVDの市場規模がまだ小さかった頃の作品なので、マトリックスが「初めて買ったDVD」という方も多いだろう。有名な銃弾を避けるシーンを5.1chで鳴らすため、新たに機材を揃えたという話も良く聞いた。 その後も何度か再販され、店頭によっては標準価格1,500円のキャンペーン品が残っていることが多い。息の長さではトップクラスのソフトといえる。今回のリローデッドについても業界の期待は高く、「ハリー・ポッターと秘密の部屋」と並び、2003年のビデオソフト総売上高を占う上でキーとなる商材だ。ちなみに、前年のビデオソフト総売上高は過去最高の3,000億円(日本映像ソフト協会調べ)。 そのためか、店頭の盛り上がりは結構なもので、ほかのスタッフによると「○○区一の入荷量」というPOPを掲げる店もあったという。また、某量販店で購入したもう1人のスタッフは、レジカウンターに並んでいる全員が、リローデッドを受け取っている場面に遭遇している。 店頭で注意したいのは、前作とジャケットデザインが良く似ていること。店頭では並べて陳列していることが多く、しっかり確認しないと間違える可能性もある。
■ アクションの斬新さとスケールの大きさに脱帽 今作では新開発のバーチャル・シネマトグラフィーと呼ぶ新システムを導入したのが話題だった。視覚効果監修のジョン・ゲイターは、これを「バーチャルな背景にバーチャルな人間を違和感なく配置できるシステム」と説明。スタントマンの顔の差しかえどころか、完全なバーチャルアクターによるショットも可能になり、しかも観客には、本物とバーチャルの差を見抜けないほどの画質だという。 その威力を存分に味わえるのが、ネオ(キアヌ・リーブス)対100人のエージェント・スミス(ヒューゴ・ウィービング)のシーケンスだ。テレビCMでも繰り返し流れていたので、ご存知の方も多いだろう。本物のヒューゴ・ウィービングはもちろん1人で、残りは13人のスタントマン。彼らの動きを取り込んでから100人までコピーし、それぞれをCG上で演技させている。俳優の仕事は素材となる一部を提供することで、あとはポストプロダクションに任せればいい。1人1人のクオリティは相当なもので、DVDで何度リピート再生しても見分けは付かない。 CGだけでなく、セットやエキストラなど、金の使い方もスケールアップした。数え方によっては150~190のセットが用意され、中でも圧巻は距離2.5キロにおよぶ高速道路のオープンセット。最初はロケができそうな高速道路を探したが、10週間も閉鎖するため貸し手がなかなか見つからない。そこで、カリフォルニア州アラメダに片側3車線の高速道路を建設したという。 カーチェイスは従来にない見せ方のもので、非常に複雑なショットの組み合わせでできている。「金と技術を存分に使い、とにかくやりたいことをやってみた」という感じ。ストーリーボードを見たスタッフが一様に、「どうやって撮るんだ?」と口にしたのも分かる気がする。このシーケンスに限らず、前作以上に工夫を凝らしたたショットは多い。バーチャル・シネマトグラフィーの威力もあるが、製作の各工程に求められた完成度は並大抵のものではなかっただろう。 カンフーアクションもその1つ。今回は武器を使った戦いがあったりと、バラエティに富んだ構成になった。時間も手数も多くなり、キアヌ・リーブスの振り付け数は前作のほぼ2倍だという。また、ザ・ツインズ(ニール&エイドリアン・レイメント)や、エージェント・ジョンソン(ダニエル・バーンハート)といった新しい悪役も魅力的だ。
■ 画質は問題なし。超低音に注意!! 最近の作品だけあって、全体的にノイズも少なく、問題なく高画質といえる。マトリックス内が緑、現実世界が青、という前作からの色調を引き継いではいるものの、前作ほど極端には感じず、人肌の淡いピンクもきれいに出ている。また、前作はいやに彩度の低い作品だったが、今回は突然こってりした原色が現れることも多い。独特のカラーは薄れたのものの、画質は格段に向上した。 なお今回から加わったザイオンでは、前作にない低い色温度の温かみのある映像となっている。ネオとトリニティー(キャリー=アン・モス)のロマンスが中心になっているせいだろうか。 全体的に解像感も高く、輪郭もキリっとしている。擬似輪郭やにじみを感じることも少なかった。オープニングに表れるフリッカーのような揺れは演出の一部だろう。総じて、画質について大きな不満はない。DVD Bitrate viewer 1.4でみた平均ビットレートは6.11Mbpsだった。
音声は、オリジナル(英語)が448kbpsのドルビーデジタル5.1ch、日本語吹替が384kbpsのドルビーデジタル5.1ch。サラウンドの聴かせどころは多く、ほぼ全編に何かしらの仕掛けがある印象。サラウンド再生のチェック用ディスクとして使えそうだ。台詞も全体的にクリアで、ダイナミックレンジは意外に広い。 ただ、たまに異様に大きな低音が入っているのが困りもの。特に1時間35分程度に再生される短い低域はすさまじく、自宅のサブウーファがガタガタと揺れ、窓ガラスがビリビリと震えたほど。あとで確認したら、サブウーファは2cmほど移動していた。確かに、普段からサブウーファの箱鳴りとガタツキが気になっていたが、これほどの振動は初めてのこと。瞬間的とはいえ、深夜の視聴には覚悟が必要だろう。この低音、ラスト直前にもう1回来るので、心した方が良い(しかも今度は長い)。リローデッドでも動かないサブウーファ……ボーナスが出たら買い換えたいものだ。
■ インタービュー映像に出たがらない監督兄弟 特典ディスクは片面1層で、計111分の映像を収録。コンテンツは、「メイキング」(約22分)、「マトリックスの世界」(約5分)、「メイキング:フリーウェイ」(約31分)、「コマーシャルの世界」(約10分)、「メイキング:ゲームEnter the Matrix」(約28分)、「アニマトリックス 予告編」(約5分)、「MTV Movie Awords」(約10分)。 「メイキング」は、インタビューを中心にしたよくあるタイプのもの。バーチャル・シネマトグラフィーにも触れているが、あまり詳しくは語られないのが残念。あくまでもプロモーション用といった映像だ。また、あいかわらず監督のウォシャウスキー兄弟については、その人となりが明らかにされない。しゃべりすぎのジョエル・シルバーはもういいから、監督の出番をもっと増やしてほしかった。 一方、「メイキング:フリーウェイ」では、スタント・コーディネーター、R.A.ロンデルの視点でカーチェイスシーンを解説。ラジコンヘリやゴーカートを使った撮影、特殊カメラの製作にも触れており、あの驚異の映像がバーチャル・シネマトグラフィーだけでなく、スタッフの創意と工夫で成り立っていたことがわかる。この手の映像作品としてはかなり詳細なメイキングなので、カースタントに興味があれば十分楽しめるはずだ。これまでにない激しいカーアクションに臨む、プロのカースタントマンの真剣な仕事振りにちょっと感動。安全面への配慮も非常に厳しい。 「コマーシャルの世界」も興味深い。リローデッドとタイアップで制作されたCMを紹介したもので、POWERADE(飲料)、携帯電話などのCMとメイキングが収録されている。前作ではノキア製の携帯電話が話題になったが、実際には発売されていない。今回は量産品をぜひ作ろうということで、製作側がいくつかの大手メーカーにかけあったという。独特のデザインと機構のため、大抵のメーカーが「技術的に難しい」と断る中、Samsungのみが量産を実現可能と返答したそうだ。そうしてできあがったのが「マトリックスフォン」で、米国ではかなり話題になったという(日本未発売)。 日本で放映されたものとしては、40V型液晶テレビのCMがある。放映中、どこがマトリックスなのか良くわからなかったが、今回、出演しているのがエージェント・ジョンソン役のダニエル・バーンハート本人だと判明。そのほか、Samsungのカメラ付き携帯電話などのCMを取り上げている。
■ アクションファンなら必携。レボリューショ発売時の廉価セットが不安? ワーナーということで気になっていた映像と音のクオリティも問題なく、むしろ近作の中ではかなりレベルが高い(最近の大作タイトルなら、どのメーカーも高画質だと思うが)。また、派手なシーンが多く、接待用にもうってつけだろう。価格も2枚組みで2,980円と廉価。アクションファンなら買って損はないタイトルだ。 気になるのは、今後、レボリューションや前作との「格安トリロジーDVD-BOXセットが出るのでは?」という不安。数年後に1,500円の再販キャンペーン対象になるのは一向に構わないが、レボリューション公開後、数カ月後のタイミングに再販されるとちょっとショックかもしれない。
□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ (2003年10月21日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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