昨年のヒット商品となった液晶プロジェクタ「TH-AE300」の後継がついに登場した。外観こそあまり変わらないが、エンジン部は大幅にパワーアップし、「型番の差」以上のアップグレードを果たしている。
■ 設置性チェック~AE300の環境がそのまま使える!!
投写モードはフロント、リア、天吊り、台置きの全てに組み合わせに対応。天吊り金具は純正オプションとして天吊り金具の「TY-PKE300」(45,000円)が用意されている。ちなみに型番からもわかるようにTH-AE300と兼用だ。 また、テレコンバージョン・レンズ「TY-LECTE300」(47,000円)、ワイドコンバージョン・レンズ「TY-LECWE300」(47,000円)もTH-AE300兼用でオプション設定されている。 同じくオプションのエレクター製シェルフ取り付け金具「TY-ERE100」(9,800円)もTH-AE300と兼用。これは天井ではなく本棚やラックにとりつけることができ、「天吊りはしたいが借家なので天井加工ができないが、投写距離を稼ぐために部屋の一番後ろの高いところに取り付けたい」といったニーズに応えるものだ。日本の住宅事情にマッチしたグッズなので、導入時には検討して欲しい。TH-AE500は本体重量も軽いので一般的な本棚であれば組み合わせは可能だとは思うが、設置時は念のために専門店に相談した方がいいだろう。
さて、投写映像は5%ほどレンズの中心軸より下にも広がるため、常識的な高さにスクリーンを設置した場合、TH-AE500の台置き位置はかなり高くないとだめ。一般的な高さの食卓テーブルなどではほとんど台置きは無理だと考えた方がいい。もちろん、本体下部の前部に無段階式のフットアジャスタが実装されており、映像を打ち上げる形で投写することはできる。ただしその場合、映像は台形に歪むので、デジタル台形補正機能で補正する必要がある。対応補正角は最大で±30度まで。補正角が大きいほど画質は劣化する。 台形補正は垂直方向だけでなく水平方向も±30度までサポートしているので、スクリーン中央からずらして本機を設置する、いわゆる「斜め投影」にも対応するが、やはりこれも補正角が大きいほど画質は劣化する。なお、TH-AE500にはレンズシフト機能がない。 総合すると、画質重視の場合は常設設置が向いており、設置自由度はそれほど高くない。導入シミュレーションは入念に行なうべきだろう。 投写レンズは光学1.2倍のズームレンズを採用。フォーカス調整、ズーム調整はマニュアル式で、外側がフォーカスリング、内側がズームリングとなっている。 100インチ(16:9)の最短投写距離は約3.1mと非常に短く、前述のワイドコンバージョン・レンズと組み合わせると約2.5mにまで縮まる。8畳程度の部屋でも100インチ投影が十分可能ということだ。 公称ランプ寿命は2,000時間。ランプタイプは高圧水銀系で、光源ランプの交換はユーザーが自分で行なうことができる。交換ランプ「ET-LAE500」だけはTH-AE300と兼用ではなく、TH-AE500専用となる点に注意したい。 ファンノイズは、ランプモード「ノーマル」(=高輝度モード)で、プレイステーション 2(SCPH-30000モデル、以下PS2)と同程度。最近のこのクラスとしては標準的といったところ。視聴者の近くに設置した場合は若干気になるが、2m以上離れれば耳障りではない。光漏れは後面の排気スリットから若干ある程度で、投写映像への影響は皆無だ。
■ 接続性チェック~本当に必要な端子だけを網羅
一見するとTH-AE300と同一のように思えるが、若干の変更点がある。まず、TH-AE300に搭載されていたモノラルスピーカーが廃止されたため、音声入力端子がなくなっている。音声入力端子があった位置には、TH-AE500稼働時に12Vを出力するTRIGGER出力端子を装備している。また、SDメモリーカードスロットも省略された。 TH-AE500はある程度上級指向のユーザーに向けたホームシアター機であるため、モノラルスピーカーは不要だし、DVIでPCに接続した時点で価値が薄れるSDメモリーカードスロットも必要性は薄い。低価格プロジェクタになぜか付いているこうした機能を排除することは、価格を下げることにも結びつく。筆者としては今回の変更を評価したい。
■ 操作性チェック~電源投入後わずか15秒で投写開始
リモコンは、TH-AE300用のものと基本デザインは同じ。内蔵モノラルスピーカーの音量制御用ボタンと、SDメモリーカード制御ボタンを廃止している。 底面に人差し指を収めるためのくぼみがあり、ホールド感は良好。親指が[ENTER]ボタンに自然にくるデザインも秀逸だ。表示位置が画面中央固定で変更できないことを除けば、メニュー操作もきびきびしているし、ボタンの配置、十字キーの使いやすさも相まって、操作感は良好といえる。 リモコンボタンは、全ボタンが橙色に発光する自照式。発光させるための[LIGHT]ボタンは蓄光式という理にかなった設計。 入力切り替えは、映像タイプ別の順送り方式を採用する。具体的にはコンポジットビデオやSビデオは[VIDEO]ボタンで、コンポーネントビデオ、D4のコンポーネントビデオ系は[CMPNT]ボタンで、アナログRGB、DVI-DのPC系は[PC]ボタンで切り替えられる。 切り替え所要時間はSビデオ→コンポーネントビデオで3.4秒、コンポーネントビデオ→DVI-Dで1.5秒、DVI-D→コンポーネントビデオで3.2秒という結果だった(いずれも実測)。コンポーネントビデオへの切り替えが若干遅いが、それ以外の切り替えは標準的な速度といったところ。 アスペクト比の切り替えはリモコンの[ASPECT]ボタンで順送り式に切り替えられる。アスペクトモードは[4:3]、[16:9]、[ジャスト]、[ズーム]、[Vスクロール]の5種類。なお、[ジャスト]は、画面中心の歪みが少ないまま、4:3映像を横方向に引き伸ばすモード。[ズーム]は16:9映像のレターボックス部を比率を保って全画面に拡大表示する。アナログRGB入力時の専用の[Vズーム]は、縦解像度がパネル解像度を超えるときに、縮小処理をせずにパネル解像度で切り出して表示する特殊モードだ。 画調モードは[PICTURE]ボタンで切り替えられるが、なぜか順送り式には切り替えられず、[PICTURE]ボタンで画調モード切替メニューを出して、リモコンの左右キーで切り替える方式になっている。入力やアスペクト比の切り替えとは異なる操作感のため、操作系の統一という点では疑問が残る。なお、モードの切り替え所要時間はゼロ秒と高速。 ユーザーが調整できる画調パラメータは「ピクチャー(コントラストに相当)」、「黒レベル(ブライトネスに相当)」、「色の濃さ」、「色合い」、「シャープネス」、「色温度」、「AI(動的ランプ制御)」など。色温度については、通常メニューからはK(ケルビン)指定ではなくノーマル状態からのオフセット数値(±指定)になる。また、より細かい調整を行ないたいマニアのために、RGB3原色それぞれの出力特性(ガンマ、コントラスト)を設定できるアドバンスドメニューも用意されている。 調整した画調パラメータの状態は、入力接続端子ごとに記憶されるが、さらに3つのユーザーメモリにも保存が可能。保存後は、リモコンの[USER]ボタンを押すことで随時呼び出しができる。
ところで、ユーザーメモリは入力端子ごとでなく、ビデオ系、PC系の2つに分けて管理される点に注意したい。つまり、たとえば「コンポジットビデオとコンポーネントビデオのUSER1メモリは共有されてしまう」わけで、リモコンの入力切り替えボタン[VIDEO]、[CMPNT]、[PC]の3区分とはまた違うのでややこしい。ここはわかりやすく入力端子別にユーザーメモリを設けて欲しかった。
▼画質チェック~プロジェクターAIとスムーススクリーンで高画質を実現
パネルは0.7型1,280×720ドットの透過型液晶パネル。ビデオ解像度でいうところの720pをリアル表示できるポテンシャルを持っている。 透過型液晶パネルを使用したプロジェクタの場合、光の透過具合を液晶で制御するという構造上、どうしても黒浮きが避けられず、コントラスト性能がDLP方式プロジェクタに及ばない。これに対しTH-AE500では、新開発の「プロジェクターAI」という動的なランプ光量制御システムを搭載、見かけ上のコントラストを1,300:1にまで高めている。 これは簡単に言えば暗いシーンでは光量を落とし、明るいシーンでは光量を増やすといった仕組みになる。動画像に適応してこそ意味をなす仕組みであり、時間積分的にダイナミックレンジの高さを知覚させるものだ。 試しに、ある暗い静止画に明るいキャラクターを登場させる実験をしてみたが、同じ背景なのにもかかわらず明るいキャラクターが登場した途端に、この背景も明るくなる。背景を基準にして見ると明るいキャラクターはより明るく見えることになり、明るいキャラクターを基準にしてみれば暗い背景はより沈み込んで見える。つまり、見かけ上ダイナミックレンジが広がったように知覚されるのだ。いわば時間積分的ハイダイナミックレンジ(HDR)映像生成といった感じだろうか。 実際に、その映像を見てみたが、これまでの透過型液晶とは一線を画した黒の沈み込みと高輝度が同居している。単なる表示映像の階調ブーストではないのは、暗部階調も明部階調も、共に、その正確性が維持されていることからもわかる。 プロジェクターAIは、メニューより「オフ」、「AI1」、「AI2」が選択可能で、目障りだと感じた場合はこの機能をカットすることもできる。なお、AI1とAI2の違いは高輝度映像の強調具合にある。AI2の方がより大げさに高輝度を強調する。映画DVDなど一般的な映像ソースを楽しむ場合であればAI1がいいだろう。 もう1つ、透過型液晶パネルの映像は、画素周辺の駆動回路が格子状の影となって見えてしまうという弱点がある。この格子影は映像を大きく投写すればするほど、タイルの目地のように見えてきてしまう。DLP方式や反射型液晶のプロジェクタにはこの弱点がないため、透過型液晶特有の弱点として指摘されてきたわけだが、昨年発売されたTH-AE300ではこれを「スムーススクリーン」という技術で改善した。これは水晶の複屈折作用(光が境界面で2方向に分かれて進む現象)を応用し、画素単位に複屈折するような水晶屈折板を透過型液晶パネルに張り合わせ、画素格子の影が画素の光で埋まるような感じで投影させる微細光学技術だ。 100インチ程度に拡大した投写映像を見てもほとんど格子影は見えず、映像全体として見た場合にも粒状感はほとんど感じられない。透過型液晶特有のブツブツした感じはなく、映像が“面”として見えるのだ。 続いて、発色について。光源に高圧水銀ランプを使用しているため、緑の強い発色になっていないか心配する人も多いだろうが、この点は上手くチューニングされている。肌色の感触も工場出荷状態で自然に調整されている。原色の発色も鮮烈で、この価格帯のプロジェクタとしてはトップレベルの美しさだ。 色深度も非常に深く、混合色グラデーションの滑らかさも圧倒的だ。色の再現性もこのクラスのトップレベルに達していると思う。 階調性も良好。白から黒へのグラデーションもバンドがほとんど見えない無段階変化を見せている。こうした高い階調性や色再現性は、搭載されている「10bitフルデジタル処理」と「10bitデジタルガンマ補正機能」の恩恵だと思われるが、単なるセールストークでなく、映像の見た目にちゃんとその特長が現れているのには感動する。
ただ、気になる点もないわけではない。スムーススクリーン技術の副作用か、製造工程上の問題かどうかはわからないが、画面一面、単色を表示した場合など、微妙な色むらと周期的な縦筋状の汚れがうっすらと見える。実写映像ではそれほど気にならないが、アニメなどの単色領域が画面を多く覆うような映像では結構目立つ。
貸出機だけの問題かもしれないが、気になる人には気になる要素かも知れない。購入を考えているなら、事前に映像を確認したほうがよいだろう。
□松下電器のホームページ
(2003年11月13日) [Reported by トライゼット西川善司]
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