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第127回:日本発の音楽レコメンデーション技術
~ 「ミュージックソムリエ」を試す ~


 音楽レコメンデーション技術「ミュージックソムリエ」というものをご存知だろうか? 現在、松下電器が発売している「SD-Jukebox」というジュークボックスソフトに搭載されているもので、似た雰囲気の曲を見つけることが可能という技術だ。

 ミュージックソムリエ自体は2003年3月に発表されていたが、SD-Jukeboxの一機能ではなく、カーステレオなどをはじめとする組み込み型の機材でも使えるようにするためのSDK(ソフトウェア開発キット)が12月にリリース。国産の音楽レコメンデーション技術が幅広く利用される可能性がでてきた。今回は「ミュージックソムリエ」について、先日リリースされたSD-Jukebox 4.0を使って検証した。



■ ミュージックソムリエのレコメンデーション技術とは

 最近、レコメンデーション技術という言葉をよく聞くようになった。これは主にネット上の通販などでお勧め品を示して購買意欲を高めるために用いられるもので、さまざまな技術があるようだ。最もわかりやすいのは、「この商品を買った人が別の機会に買ったことのある商品」の履歴をデータベース化し、そこから導き出していくというもの。

 また、面白いものでは、AgentArtsが作り出した技術がある。これは、音楽データやビデオデータなど、各個人が保有しているファイルにどのようなものがあるかを調べ上げて関連性を見つける技術。極論すればWinMXのようなP2Pのソフトの世界で、相手が持っているファイルにどんな関係があるかを元にして、レコメンデーションしようというものだ。国内ではレインボー・パートナーズが総代理店となっているが、今後ちょっと面白そうな技術ではある。

 一方、松下電器が開発した「ミュージックソムリエ」技術は、「人が曲を聞いたときの印象」と「オーディオ信号の特徴」に何らかの関係があるだろうという想定のもと、その対応関係を分析したというもの。松下によると、人が曲を聞いたときの印象を5つの形容詞で表すと以下のようなものになるという。

激しい←→ 穏やかな
躍動的←→ 落ち着いた
爽やかな←→ 不快な
素朴な←→ 飾り気な
ソフトな←→ ハードな


印象マップ

 この5つをSD(Semantic Differential)法に基づいて7段階の絶対評価を行ない、それを最終的に2次元のマップに落としたものが、ミュージックソムリエで用いられている印象マップだ。

 一方、オーディオ信号から抽出する音楽的特徴量は大きく2段階で捉えている。まず一段階目はサビ区間の検出。つまり、1曲を代表する区間はもっとも盛り上がっている部分であるサビにあると仮定し、それを見つけ出す。サビの始端から20秒の区間での音楽的特徴量を算出する。

 2段階目は、オーディオ信号の物理的な特徴を8つのパラメータで分析する。


【ミュージックソムリエの8つのパラメータ】
パラメータ名物理的内容関連する表現(例)
テンポ楽曲のテンポ激しさ、軽快さ
ビート白色性テンポの揺らぎ人間っぽさ、荒っぽさ
基本ビートリズムパターン素朴さ
ビート強度18分音符単位のアクセントの強さ躍動感
ビート強度216分音符単位のアクセントの強さ洗練さ
ビート強度比8分音符と16分音符の割合うるささ
平均音数発音数落ち着き感
スペクトル変化度音色変化きらびやかな


曲の印象

 その結果、「人が曲を聞いたときの印象」と「オーディオ信号の特徴量」を結びつけ、印象マップ上で表現し、レコメンドするというのがミュージックソムリエなのだ。

 具体的には、「ウキウキ系」、「切ない感じ」、「ノリノリ系」、「癒し系」といった言葉で曲を表現する。



■ ミュージックソムリエの実力は?

SD-Jukebox 4.0

 SD-Jukebox 4.0は、基本的にはごく一般的なジュークボックスソフトで、CDをドライブにセットするとCDDBに接続し、WMA、MP3、AACなどにエンコードできる。

 すでにデータ化されているものでも、インポート可能。この際、ミュージックソムリエに登録するかどうかの設定も行なえるが、これをオンにした場合でも1曲につき3秒程度でインポートできた。ミュージックソムリエの解析エンジン自体は、かなり高速のものに仕上がっているようだ。


WMA、MP3、AACへのエンコードに対応 オーディオデータのインポートも可能 データインポートは比較的高速

5つの異なるジャンルのアルバムをミュージックソムリエに登録

 実際、このようにしてミュージックソムリエに登録した結果どのようになるのか、手元にあった5つの異なるジャンルのアルバムを入れてみた。

 Beatlesのベストナンバーが入った「1」、オルゴール的なサウンドのクリスマスソングのアルバム、(癒し系?)の女子十二楽坊の「Beautiful Energy」、ポップス・ロック系ではDavid Bowieの「Reality」、クラシックはチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」や「組曲くるみ割り人形」などを収録したベスト盤を取り込んだ。

 それなりに違うジャンルのものと思って入れたのだが、このマップを見ると、やや偏った形で分類されていた。


 まず「癒し系」を選択すると、これを癒し系というのかどうかはともかくとして、チャイコフスキーの曲はいずれも近い位置にあるようだった。

 一方、「ゆったり系」を選ぶとやや意外な結果になった。「Let it be」と「Hey Jude」が近いのはいいとして、「Jingle Bell」も「Ave Maria」も同じジャンルかといわれると、ちょっと抵抗も感じるが、聞いてみると確かにいずれもテンポは近いし、「ゆったり系」であることは確かではあった。

「癒し系」の選択結果 「ゆったり系」の選択結果

 このデータベースが膨大になってくると、もっと面白い世界が構築できそうだ。


■ SDK外販による対応機器の拡大に期待

 この機能がSD-Jukeboxだけの機能とすると、それほどの普及は期待できないが、松下電器は開発キットを「ソムリエSDK」という名称で外販することになった。

 「ソムリエSDK」には、PCソフト用(V1.2-PC)と組込み用(V1.2-EB)の2種類が用意される。PC用はミュージックソムリエの基本機能に加え、ソムリエDB(印象値)登録管理機能、印象選曲機能(プリセット語数7種)、類似曲検索機能を備えている。対応OSは、Windows 98 SE/Me/2000/XP。モジュールサイズはインテルのIPPライブラリを含め約25MBになるという。

 一方の組み込み用はCPUが日立のSH4以上、OSはμITRON。またモジュールサイズはSH4の場合で約300KB。必要RAMサイズは約500KBとのことだ。いずれの場合でも入力形式はリニアPCMデータ(サンプリングレート22.05/32/44.1/48KHz、ステレオ/モノラル)に対応しており、MP3などの圧縮データは、リニアPCM形式にデコードして利用することが前提となる。

 これを松下電器が自ら販売するのは当然として、面白いのは前出のAgentArtsの国内総代理店であるレインボー・パートナーズが総代理店として入ったこと。同社は、もともとGracenoteの国内総代理店としてCDDBを多くのカーオーディオメーカーやAV機器メーカー、ソフトハウスに販売してきた実績があるだけに、これらの企業へ普及する可能性もあるだろう。

 とくにSH4とμITORNに対応しているということは、MP3対応のカーオーディオなどに搭載されることなどが想定される。今後面白い機材が生まれてきそうだ。また同社では、国内だけでなく米国を中心に海外メーカーにも積極的に働きかけていくとのことなので、日本のレコメンデーション技術が海外へ普及する可能性もある。

 実際に使ってみて、まだ発展の余地はありそうだったが、国内の音楽レコメンデーション技術、ミュージックソムリエが今後どのように普及していくか楽しみである。

□松下電器産業のホームページ
http://matsushita.jp/
□SD-Jukeboxの解説ページ
http://panasonic.jp/support/cn/sdj/pages/products.html
□レインボー・パートナーズのホームページ
http://www.rainbow.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.rainbow.co.jp/rp/release/031119.html
□関連記事
【2002年3月11日】松下、イメージやTPOをもとに選曲する「ミュージックソムリエ」
-今春以降に業務システムで展開、年末にはSD-Jukeboxへの搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020311/pana.htm

(2003年12月22日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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