~ 大幅に強化された機能をチェック ~ |
細部がカッコよくなったインターフェイス |
前バージョンをご存知の方なら、ソフトを起動すればすぐにユーザーインターフェイスの変更に気付くだろう。パッと見には斬新に変わったというほどではないが、細部がカッコよくなっている。
たとえばトランスポートパネルが大きくなり、ジョグホイールという丸いコントローラがついていたり、各ボタンのデザインや配置が微妙に変わっていたり、インスペクターのデザインが変わっていたり……。逆にいうと、これまでCubase SX/SL/SEといったソフトを使ってきた方なら、マニュアルなしでもすぐに使うことができるはずだ。
しかし、このユーザーインターフェイスの変更は単なるデザイン的なものでなく、さまざまなところに改善が見られる。たとえば、トラックウィンドウ上で右クリックすれば、すぐにオーディオトラックやMIDIトラックが追加できる、といった単純なところから、ミキサーコンソールが非常に使いやすくなっているなど、改善点は多岐に渡っている。
■ オーディオエンジンがVST2.3へ変更
ミキサー画面 |
また、ユーザーインターフェイスだけでなく、オーディオエンジンまでもが根本的な変更を受けた。「VST2.3」というエンジンになったのだが、ミキサーを見ると強化点が機能が見えてくる。
まず左側には従来にはなかった入力チャンネルが立ち上がっており、オーディオインターフェイスの入力チャンネルをここで確認できる。レベルのコントロールができるとともに、EQやエフェクトを掛けたりすることができるのだ。
そのため、これまでできなかったエフェクトの掛け録りが可能になったというのが非常に大きい。前のバージョンでも、TrueTapeというアナログ風な音にする特殊なエフェクトは掛け録りが可能ではあったが、今回からはどんなエフェクトでも使えるようになった。
また、各オーディオインターフェイスのドライバやユーティリティで行なっていた入力レベル調整が、ここですべてコントロールできるようなった。マルチチャンネルでのレコーディングをするユーザーにとっては嬉しいところだろう。
従来のバージョンとの違いに戸惑ったのは、「VSTコネクション」というウィンドウが加わったこと。従来はマルチポートの入出力を持ったオーディオインターフェイスを使っている場合、各トラックのインスペクターやミキサーの各チャンネルから直接どのポートから入力するか、出力するかを設定していた。しかし、Cubase SX 2.0では、一旦VSTコネクションというところで、どの入力ポート、出力ポートを使うかを指定し、それに名前を付けられるようになっている。これにより、使うポートだけをメニュー選択できるようになるため、結構便利になった。
また、個人的に嬉しかったのが、入力および出力のレイテンシーが数値で表示されるようになったこと。以前のCubase VST時代には出力に対してのみ表示がされていたが、あくまでも目安にすぎないという理由からSX 1.0では削られてしまっていた。復活したとともに、入力についても確認できるようになっている。
VSTコネクション | 入出力のレイテンシーが数値で表示されるようになった |
■ 全トラック間のプラグインディレイ自動補正を実現
実用面という点で大きいのが、全トラック間での完璧なプラグインディレイ自動補正を実現したことだ。ご存知の通り、VSTプラグインの中には結構大きいレイテンシーを持つものがある。とくにダイナミックス系などでそうした傾向のものがあり、これによってトラック間で音のタイミングにズレが生じることがあった。
そのため、人によっては、わざとディレイを入れたり、トラックのタイミングをズラして、1つずつ揃えたりしていたが、今回のバージョンでは、そんな面倒な作業が不要になり、プラグインのディレイ時間を自動的に認識し、トラック間でのズレを補正してくれるようになっている。
簡単にいえば、一番レイテンシーの大きいプラグインに合わせてすべてのトラックに自動的にディレイ補正が行なわれるようになった。使う側にとっては当たり前の機能ともいえるが、あらゆるプラグインについて自動的に認識してディレイをいれられるようになったのは画期的なことではないだろうか。
そのほかミキサー、オーディオエンジン周りでいうと、位相を反転するスイッチとインプットトリムがミキサーの各オーディオチャンネルに装備されたり、ミキサー画面を同時に3つまで表示できるようになったりと、いろいろと強化されている。
また、ちょっと便利になったのが、各トラックから直接オーディオデータのエクスポートが可能になったこと。これまではマスタートラックからしか書き出しができなかったため、各トラックのデータを書き出したい時は一旦ソロに設定してレベルを調整してから行なっていたが、そうした手間が不要になっている。
■ CPU負荷を軽減するためのインストゥルメント・フリーズ機能
再生時のCPU負荷を低減するインストゥルメント・フリーズ機能 |
また、VSTインストゥルメント関連で1つ便利な機能が追加されている。それは、インストゥルメント・フリーズ機能というもので、各VSTインストゥルメントラックに用意されたフリーズボタンというものを押すと、再生時にCPUパワーを喰わなくなるというもの。
実際にはそのVSTインストゥルメントを鳴らすMIDIトラックがオーディオデータに変換され、その後の再生時にはそのオーディオデータが演奏されるという仕組みだ。以前からミックスダウン機能を利用することで同様のことは可能だったが、ボタン1つで簡単にできるようになり、さらにオーディオ化されたことを意識せず、実際表示もされないので、とても手軽に使える。フリーズしている状態でMIDIのエディットはできないが、解除すれば普通にエディットでき、再度フリーズすればOKなのだ。
また、このこととは直接関係ないが、従来VSTインストゥルメントは32ラックまでという制限があったが、Cubase SX 2.0では倍の64ラックまでに強化されている。
Vstpluginsフォルダを複数認識できるようになった |
そして、もう1つ便利になったのはVstpluginsフォルダを複数認識可能になったという点。これまでは、基本的にCubaseSXフォルダ内にあるVstpluginsフォルダ内のプラグインしか利用できなかったが、ほかのフォルダも同時に利用できるようになったのだ。
いまやデファクトスタンダードになったSteinbergのVSTプラグインであるだけに、さまざまなソフトで利用でき、それぞれのソフトの中にプラグインが分散してしまっている。これまでは、それらをコピーするなり何らかの対策が必要だったが、どれでもそのまま利用できるようになったのは1つの進歩だ。もっとも、Steinbergのソフト以外はたいてい複数認識は可能だったわけだが……。
■ 新たなプラグインエフェクトも登場
このVSTインストゥルメントには新たなものは追加されていなかったが、VSTプラグインエフェクトのほうには、強力なものがいくつか追加されている。 具体的には以下の4つ。
まずMultiband Compressorは5バンドにコンプレッションカーブを設定できるマルチバンドコンプレッサーで、かなり強力なもの。また、QはHi/Loカットフィルター搭載した4バンドパラメトリックステレオイコライザーだが、各チャンネルに搭載の4バンドEQとはまた違った特性のもので、角のとれた丸い感じのサウンドになるのが特徴だ。
Multiband Compressor | Q |
またMagnetoはアナログテープサウンドシミュレーターで、これまで別売されていたものだが、それをさらに強化しサチュレーションする帯域を変化させるためのパラメータが追加されている。
もう1つのSurroundDitherは最大6チャンネルサラウンドが扱えるディザー。これまでも搭載されていたApogeeのuv22およびuv22hrとは別モノで、サラウンドが扱えるというわけだ。
Magneto | SurroundDither |
なお、今回はあまり触れないが、サラウンド機能もかなり強化されている。たとえばすべてのオーディオチャンネルで6チャンネルのオーディオ入出力パスに対応したり、サラウンドチャンネルに設定されたオーディオ/グループ/FXチャンネルのすべてで、5.1サラウンドプラグインエフェクトが使用可能になったり、サラウンドチャンネルバス内にチャイルドチャンネルが作成できるなどだ。
■ VST 5相当のMIDI機能が復活
オーディオ機能には、上記のほかにも面白い機能がいくつか追加されている。目立ったところでいえばタイムワープツール。従来のテンポ編集はテンポトラックを表示し、その画面上でテンポ情報を入力してテンポ設定を行なっていたが、ここにはオーディオ波形やMIDIデータが表示されないため、わかりにくい面があった。そこで、登場したタイムワープツールは、プロジェクトウィンドウ上、エディタ上で、オーディオ波形やMIDIデータを確認しながら、テンポ編集が行なえるというもの。
これによって、何ができるかというと、ドンカマ(リズムガイド)のない状態で叩いた生ドラムのリズムのノリをそのまま曲に反映させることができだ。もともと単調に入力されていたMIDIデータが、この手で叩いたドラムのリズムに合わせた形で再生することができるようになるわけだ。
一方、Cubase SX 1.0から2.0で強化されたもう1つの大きなポイントがMIDI機能。Cubase VST時代からCubase SX 1.0へ乗り換えた方ならご存知の通り、確かにオーディオ機能は大幅に進化していたのだが、MIDIシーケンス機能はだいぶ退化し、従来使えていたいくつかの機能が消えてしまっていた。たとえば、MIDIデータからグルーブデータ抽出しクオンタイズ設定画面でポジション/ベロシティ/長さをパーセントで設定可能にするマッチ・クォンタイズ機能や、各エディタウィンドウにもプロジェクトウィンドウのサイクル設定とは別にループ設定が行なえるようにするローカルループ機能などだ。
筆者自身、Cubaseの操作解説書をCubase VST 5時代とCubase SX 1.0時代に書いているが、その際、MIDI機能の削減に驚いたものだ。しかし、Cubase SX 2.0ではその削られた機能の多くが復活している。本来当たり前のことではあるが、SX 1.0はVST 5とは違い、まったくゼロから作り直したソフトであっただけに、こうした問題が起こっていたのだが、それがようやく改善されたわけだ。
■ アップグレードとドングルの関係
以上、ファーストインプレッションという形で紹介した。実勢価格は約9万円程度だ。またSX 1.0ユーザーであれば、19,000円でアップグレードできる。またSLやSEからのアップグレードパスも用意されている。いずれもオンラインでのアップグレードが可能だ。
ところで、このアップグレードにおいてちょっと気になるのがプロテクトのドングルについて。Cubaseシリーズはドングルをつけることで、プロテクト解除できるようになっており、SX 1.0からUSBドングルとなった。SLやSEでもUSBドングルが使われているが、もちろん互換性(?)はない。
では、SX 1.0から2.0へアップグレードする際、またSLやSEからアップグレードする際にはどうなるのか。実は、プロテクトキー自体、物理的にはそのままで、ここにSX 2.0のキーデータをコピーすることで利用可能となる。
Syncrosoft Licence Control Center |
あまり気づいていない人も多いと思うが、Cubaseシリーズをインストールすると、Syncrosoft Licence Control Centerというソフトが同時にインストールされており、これを利用することで、USBのドングルの中身を書き換えたりコピーしたりすることが可能になっている。つまり、これを利用してSX 2.0のキーを書き込むわけだ。また、もしドングルが2つに分散してしまっているユーザーなら、このソフトを使って1つのドングルに2つのキーを入れるといったことも可能になっているのだ。
まだ、筆者自身SX 2.0を使いこなしているわけではないが、100カ所以上を強化したといっているだけにかなり完成度の高いソフトに仕上がっている。また、動作も非常に安定しており、今回の使用ではハングアップするような心配もなかった。Windows 2000/XPとMac OS Xのハイブリッドであるということを考えても、購入に値するソフトといえるだろう。
(2004年1月5日)
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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