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第131回:USB 2.0に対応したAudigy 2 NXを試す
~ 24bit/96kHzの2in8outインターフェイスとして有望か ~


 2003年9月にクリエイティブメディアが発売した「USB Sound Blaster Audigy 2 NX」。もともとドライバ開発の遅れから、USB 1.1のドライバのみの添付で見切り発車してしまった製品だ。

 その本命のUSB 2.0ドライバがようやくリリースされた。これにより7.1chを24bit/96kHzで出力できるようになったが、直販価格で15,800円程度の製品でどれだけの実力を持っているのか検証した。


■ USB 2.0ドライバがやっと登場

USB Sound Blaster Audigy 2 NX
 以前、EDIROLの「UA-1000」の開発者にインタビューしたが、その際、「USB 2.0対応のオーディオドライバは今後他社からいろいろと登場してくるだろうが、実際モノが出るのは2004年になってから、それも春以降じゃないだろうか」という話が出た。その予想通り、9月に発売された「USB Sound Blaster Audigy 2 NX」は、USB 2.0対応のハードウェアであったのに、ドライバは後日アップデートで対応するというものだった。しかし、「春以降になる」という予想は外れ、12月23日にUSB 2.0ドライバが公開。

 クリエイティブメディアでは、その約1カ月後の1月19日付でUSB 2.0ドライバに関するプレスリリースを出していたが、このタイムラグについては「実際の日本でのアップは年末冬季休暇前であったため、年明け新製品のリリースとあわせてリリースした」とのこと。

 プレスリリースには、USB 2.0ドライバについて以下のような記述がある。

  • USB 1.1の約40倍の帯域により、USBオーディオにありがちな音飛び問題を改善
  • DVDオーディオのマルチチャンネル出力に完全対応
  • Windows Media Audio 9のマルチチャンネル出力に完全対応
  • 24bit/96kHzの品質で全二重動作が可能

USB 2.0/1.1のマルチチャンネル出力
  USB 2.0 USB 1.1
DVDオーディオ 24bit/96kHz(5.1ch) 24bit/48kHz(5.1ch)
Windows Media Audio 9 24bit/96kHz(7.1ch) 16bit/48kHz(7.1ch)
24bit/48kHz(5.1ch)
24bit/96kHz(2.0ch)

 実際、製品に添付されていたドライバを使った際、スピーカーの設定を7.1chにすると、サンプリングレートは48kHz、量子化ビット数は16bitにしか設定できなかった。

アップデートにより、7.1chで24bit/96kHzを指定できるようになった
 そこで、今回公開された2.0ドライバをインストールしてみた。Audigyシリーズのドライバ・ユーティリティはいろいろなものを含み、ダウンロードファイルも合計で50MB弱とかなり大きい。ブロードバンド環境でなければ、ダウンロードするのは厳しいかもしれない。ちなみに、このアップデータにはファームウェアのアップデートまで含まれている。

 さて、実際にアップデートしてみたところ、ミキサーや各種設定画面などもほとんど変化はない。しかし、先ほどと同様に7.1chのスピーカー設定にした上で、サンプリングレート・量子化ビット数を確かに24bit/96kHzを選択できるようになっていた。


■ オーディオインターフェイスとしてはレイテンシーがきつい

 ただ、問題は7.1chの24bit/96kHz出力をどのように利用するかということ。5.1chまでではあるが、確かにDVDオーディオの出力に利用するというのは1つの手だ。付属のプレーヤーソフト、Creative MediaSourceはDVDオーディオをPCで再生させることができるソフトなので、その意味は大きい。

 ただ、従来のドライバでもダウンコンバートにより、96kHzや192kHzのサウンドを24bit/48kHzで再生させることはできたので、どこまでその差を実感できるかはちょっと疑問だ。またWindows Media Audio 9のマルチチャンネル出力にも対応とのことだが、7.1chの24bit/96kHzのデータなどそもそもあまり存在しない。実際、ほとんどのユーザーの利用方法としては、DVDビデオのマルチチャンネル出力が中心だろうと思うが、その場合24bit/96kHzの恩恵は受けられることは少ない。

 しかし、オーディオインターフェイスとしてのDTM用途を考えるとどうだろう。普通7.1chと表記されているものは、8ch出力として利用できるため、スペック的に考えれば24bit/96kHzで2in8outのオーディオインターフェイスということになる。これが、直販価格で15,800円で手に入るのなら、かなりのお買い得だ。

 さっそくCubaseSXを使って試してみようと思ったが、ここで挫折。PCIバスのAudigy 2はすべてASIO2に対応しているので、2in8outのインターフェイスとして利用可能なのだが、Audigy2 NXはASIOドライバには対応しておらず、USB 2.0になっても使うことができなかった。もちろん、MME/DirectSound経由での接続はできたが、この場合はあくまでの2in2outということになってしまう。

 また、Audigy 2のコンセプトとしてはマルチポート出力ではなく、サラウンドということが主眼であるため、MMEドライバとしては通常2ポートしか見えず、一般のアプリケーションにおいてはステレオ出力以外できない。Audigy2 NXがハード的に持っているサラウンドシステム、CMSSを利用すれば、擬似的な3Dサウンドを作り出すことはできるものの、これはマルチポート出力とは別の話だ。

WDMドライバなら8ch分のポートを設定可能

 やはり、ダメなのかとちょっと諦めたところに、思い当たったのがWDMドライバ。ASIOに非対応でもWDM対応であれば、SONARやSOLでマルチポート出力が可能になるはずだ。そこでSONAR3を使って試してみたところ、確かに8ch分のポートを確認することができた。実際に試してみたところ、0.1chにあたるサブウーファのチャンネルからも通常の音を出力することができ、8chに対してスペックどおりの24bit/96kHzでの再生が実現できた。そう考えると、なかなか使える製品といえそうである。

 ここでもう1つ試してみたのがレイテンシーの設定。現在、DTMで利用できるかの評価指標として、レイテンシーをどこまで縮められるかというものがある。これを小さくできれば、ソフトシンセをリアルタイム演奏する際にトラブルがなくなるし、エフェクトをかけた音をモニターしながらレコーディングするといった使い方が可能になる。

SONAR3

 SONAR3では、オーディオオプションの画面でバッファサイズを設定することによって、レイテンシーを変化させることができ、デフォルトでは100msecとなっている。この状態では、もちろん問題なく使うことができたので、バッファサイズを小さくして試していったところ、24bit/96kHzで音が途切れず再生可能だったのは50msec程度だった。

 それ以下に設定すると、ほとんど使い物にならない状態であった。現在主流のDTM用途のオーディオインターフェイスでは10msec以下、ものによっては1msec以下で問題なく動作することを考えると、この用途においてUSB Sound Blaster Audigy 2 NXは不合格という結果であった。


■ レートコンバータなしのデジタル入力を装備

ノイズレベル

 ここで、いつもの音質チェックを行なってみた。Audigy2 NXの場合、アナログは入出力ともステレオミニジャックを使う形状になっているので、フロントの出力とラインインを直結させた上で、測定を行なった。なお、デフォルトではCMSSという3Dエフェクトがオンになっているが、これが効いていると測定上は不具合が生じるため、ここではオフにしている。

 まずは無音状態でのノイズレベルの測定から。これを見ると、最大で-86dB程度となかなかいい結果。ミニジャック同士とはいえ、ノイズ対策面ではよくできている。次に、1kHzのサイン波の周波数分析。こちらは、若干高調波が出ているものの、それほど目立ったものではなくS/Nも81.3dBと結構いい数値が出ている。さらにスウィープの結果も非常にフラットであり、アナログ性能という面ではいい線ではないだろうか。

1kHzのサイン波 スウィープ信号

 ところで、USB Sound Blaster Audigy2 NXに関してもう1つチェックしたかったのが、デジタル入力の性能について。USB Sound Blaster Audigy2 NXにはオプティカルのS/PDIF端子が搭載されているので、これについてである。

 製品パッケージにもカタログにもプレスリリースにも書かれていないが、Audigy2 NXのデジタル入力においては、入力時にサンプリングレートコンバートが働かない、という話を聞いたことがある。もちろん、この情報はマニュアルやヘルプにもないし、Webにも情報がない。不正なデジタルコピーなどに使うとしたらちょっと問題はあるが、DTM用途においては大きなメリットでもある。

 そこで、実際にどうやって使えばいいのかを試してみた。まず、S/PDIFの入力端子に外部の機器から44.1kHzの信号を送ってみたところ、Device Controlの画面に44.1kHzの入力がきていることが確認できる。が、多くのオーディオインターフェイスに存在しているクロックの供給を外部から受けるか、内部のものを使うかを選択する類の設定がない。

 たとえば、前々回取り上げたFireWire Audiophileの様なsinc sourceについてInternal/Externalといった設定がないのだ。もし、内部クロックで動作しているとすると、そもそもきちんと外部からの信号を受け取ることができるのか心配でもある。

Device controlで44.1kHzでの入力を確認 FireWire Audiophileの設定パネル

 とりあえずは実験ということで、外部のCDプレーヤーのデジタル出力を入れて、波形編集ソフトのSoundForgeでレコーディングしてみた。が、いきなりの失敗。入力レベルが大きすぎてクリップしてしまう。いくらサンプリングレートコンバートをしないといっても、途中にアンプが入っているとしたら、まともに使えるわけはない。

入力レベルを50%にすると-6dBになった
 ここで、以前うまくいったSound Blaster Digital Musicでどういう操作をしたのかを思い返した。あの時は、ハードにAnalog-DigitalとDigital Onlyという切り替えスイッチがあり、これをDigital Onlyにした上で、入力ミキサーのレベルを100%にすることで、きれいに取り込むことができた。

 しかし、UAudigy 2 NXにはそうしたスイッチはないし、ミキサーレベルも同様なので、問題はないはず。やはりダメかと諦めかかっていたところ、1つ発見をした。-6dBの信号が入っているときの入力レベルが約0dBのクリップ寸前になっているのだ。

 そこで、入力レベルを落としていったところ、なんと50%の位置に設定したら、ピッタリ-6dBという値になった。ここで再度SoundForgeでレコーディングしたところ、とりあえず、きれいに録音することができた。

 本当に完全なデータで取り込まれているのか確認するため、以前も使ったことのあるWave Compareというツールで元データと比較してみたところ、完全に一致した。何度か試してみたものの、1ビットの取りこぼしもない完璧な一致だ。ということは、外部からデジタル入力がある場合には、自動的にそれに同期するように設計されているということなのだろうか。これならば問題はない。ミキサーで50%の位置に設定するというのがポイントだが、Audigy 2 NXのユーザーであれば、一度試してみることをお勧めする。

Wave Compareで一致。取り込みは完全に行なわれた


 以上、Audigy 2 NXをUSB 2.0ドライバで試してみたが、いかがだっただろうか? さすがにUA-1000とは比較できないが、このクラスとしては十分な性能を発揮してくれた。ASIOドライバに対応していなかったり、レイテンシーが大きいなどネックはあるものの、2in8outのオーディオインターフェイスとして利用でき、アナログ性能もまずまずで、しかもデジタル入力で完全な形での取り込みができるなど、直販価格15,800円の製品としてはかなりコストパフォーマンスの高い製品といってもいいのではないだろうか。

□クリエイティブのホームページ
http://japan.creative.com/
□関連記事
【1月19日】クリエイティブ、「Audigy 2 NX」用USB 2.0対応ドライバ公開
-DVDオーディオの5.1chとWMA9の7.1ch出力が可能に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040119/creat2.htm
【2003年9月12日】クリエイティブ、USB 2.0対応外付けAudigy 2 NX
-7.1ch出力、DVDオーディオ再生にも対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030912/creat2.htm

(2004年2月2日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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