~ Appleの「Soundtrack」は使えるツールか? ~ |
Soundtrack 1.2 |
そんな中で、気になっていたのがFinal Cut Proに同梱されていたAppleの「Soundtrack」というツール。昨年夏には単体で発売されるようになったほか、機能縮小版ともいえる「GarageBand」というツールも登場するなど、最近にわかに活気付いてきていた。私自身も、デモなどで何度か見かけており、ACIDソックリだなと思っていたが、スペック的に見て、やや物足りなさを感じていたこともあり、自分でインストールして使ったことはなかった。
ところが、今回バージョンアップしたことにより、機能的にも追いついてきたようだ。また、今回の最大のバージョンアップは、価格が34,800円から21,800円に1万円以上も値下げされたことだろう。
早速、Soundtrack 1.2を入手してインストールしようとしたが、最初からくじけてしまった。というのも、私が使っていたのはPowerMac G4 400MHzにOS X 10.2をインストールしたマシンだが、動かすことができなかった。古いマシンなので、買い換えようとずっと思っていたのだが………。確かに「対象マシンはG5またはG4 500MHz以上」とは書いてあったが、起動させる際にマシンチェックが行なわれて、まったく使えないとは思いもしなかった。これがキッカケで、週末にPowerMac G5マシンを購入してしまった。
■ ACIDと良く似た操作体系
購入したG5マシンに無事インストールを完了し、起動してみるとこれがなかなかよくできている。ACIDでは通常画面上側に曲を作成するトラックウィンドウ、画面下側にファイルを見つけ出すエクスプローラウィンドウという構成になっているが、Soundtrackのデフォルトの画面では、それがちょうど左右に並ぶ形の構成になっている。
使い方そのものは、ほぼACIDと同じ。使いたいループファイルを見つけたら、画面右側にドラッグ&ドロップで持っていくと、新しいトラックができ、そこにループファイルが配置される。またその配置されたデータをドラッグしていくと、ループが繰り返されていく。
Soundtrackの起動画面。トラックウィンドウとエクスプローラウィンドウが左右に並ぶ | 使い方はACIDに似ている |
Soundtrackには約4,000ものループデータが入ったDVD-ROMのライブラリが同梱されているので、そこから適当なものをいくつか選んで並べていけば、即オリジナル曲が完成する。とりあえず、ここまでの流れはACIDとまったく同じ。もちろん、テンポを自由に変更させることもできるし、トランスポーズ機能により音程を上げたり下げたりするのも自由自在。
ただ、実際もうちょっと使っていくといろいろと違いも見えてきた。たとえば、トラック内でコード変更させる場合の処理方法などだ。ACIDの場合は1トラックに1ループデータが割り当てられるようになっており、同じループデータのコードを変更させることも自由にできるのだが、Soundtrackでは1トラックに複数を入れることが可能となっている。またトランスポーズさせる際には、同じデータでももう一度ドラッグして持ってきて、それに対して処理する形になる。この辺のユーザーインターフェイスは個人的にはACIDのほうが優れているように思うが、慣れの問題もあるかもしれない。
音量とパンを時系列で動かせる |
一方、このトラックには基本的に音量とパンという2つのパラメータが用意されており、これらは時系列を追って自由に動かすことができる。
具体的にはエンベロープ波形を表示させ、それを描いていくのだが、フィジカルコントローラなどには対応していない。もっともACIDもフィジカルコントローラには対応していないので、それを利用したいのであればSONARなどのほかのソフトを選択しなくてはならない。
また、トラックでの設定でもう1つ重要なのがエフェクトだ。ACIDの場合はDirectXプラグイン、SONARならDirectXかVSTプラグインであるが、Mac OS Xで動作するSoundtrackはもちろんAudioUnitsのプラグイン。SoundtrackではAppleが元々用意しているAudioUnitsが使えるほか、Emagic製のプラグインも同時にいろいろとインストールされるので、これが利用できてしまうのが強いところ。実際ディレイ、リバーブ、コーラス、イコライザ、コンプレッサなど、Emagicのプラグインが19種類も入っており、かなり音を作りこむことが可能だ。
AudioUnitsプラグインが利用できる |
EQやコンプレッサなどEmagic製のプラグインもバンドルされる |
見た目はまさにLogicというこれらプラグインは、機能・性能的もかなりの実力を持っている。もちろん必要あれば1トラックに複数のエフェクトを設定することもできる。そして、これらのプラグインをトラックで使えるように設定すると、表示されるエンベロープにプラグインエフェクトのパラメータが追加表示されるので、ごく簡単にエフェクトを操作できるようになるのも魅力の1つだろう。
■ 新オーディオフォーマット「Apple Loops」とは?
ところで、ここで気になるのがトラックに読み込めるループデータのデータ形式。Soundtrackで4種類のデータ形式に対応しているが、標準となっているのが、独自のデータ形式の「Apple Loops」というもの。
アシッダイズデータの読み込みに対応 |
といってもこれはACID用のアシッタイズデータと考え方は同じ。つまり、AIFFデータであるが、そこにループ関連の情報を埋め込んだだけのものなので、他のソフトからは普通のAIFFデータとして利用可だ。このApple LoopsはGarageBandでも標準のデータ形式であり、Appleが今後推進していくデータ形式だ。1月20日には、「プロ仕様の次世代オーディオ技術」ということで、AppleではLogicの将来版に組み込まれる新技術を発表しているが、その中にApple Loopsのサポートも含まれていた。
残り3つはAIFFデータとWAVデータ、そしてACID用のアシッタイズデータだ。AIFFとWAVはそもそもループデータではないので、単に読み込めるというだけであるが、アシッタイズデータを読み込んでみたところ、Apple Loopsとまったく同じように扱うことができた。現在このアシッタイズデータはCD-ROMなどの形で膨大の量のライブラリが揃っているが、それらがそのまま利用できてしまうというメリットは大きい。
Apple Loopsでは多彩なタグ情報をサポートする |
では、Apple Loopsとアシッタイズデータを比較するとどちらが優れているかというと、それはやはり後発のApple Loopsとなる。アシッタイズデータと比較してAIFFに付加される情報量が多いのだ。
といっても、実際のシーケンスに関わる情報としては、ほぼ同等で、それ以外の情報が入っている。具体的には「単楽器なのか、アンサンブルなのか」、「ドライな曲なのか、ウェットな曲なのか」、「明るい雰囲気なのか、暗い雰囲気なのか」などなど。こうした情報が付加されているので、よりすばやく目的のファイルを見つけ出すことができるというのがポイントだ。Soundtrackには検索機能が用意されているので、それなりに便利に使うことができる。
トランジェント設定 |
こうした情報の編集は、それ専用のSoundtrack Loopユーティリティという同梱のアプリケーションを使うことで、自由に行なうことができる。また、このSoundtrack Loopユーティリティではテンポやビートに関する設定も行なえる。
ここまでについては、従来の1.1というバージョンとほぼ共通のものだが、1.2になって強化された最大のポイントが外部との同期機能。これまでは、あくまでも単独で動作するアプリケーションだったのだが、1.2からはMIDIのMTCおよびMIDIクロックを使っての同期に対応した。入出力に対応しているので、マスターにもスレーブにもなれるので非常に自由度は高い。スレーブになる場合は、トランスポートボタンの中の「入力同期にロック」ボタンをクリックしたら、同期信号に合わせてスタートする形になる。この機能の搭載により、使えるソフトの仲間入りを果たしたといっていいのではないだろうか。
MIDIクロックを使った同期に対応 | MIDI同期ではスレーブ動作に対応する |
peak 3 Express |
そのほかの新機能としては、エフェクトの現在の設定をカスタムプリセットとして保存できるようになったこと、30秒以上の長いオーディオファイルでも問題なく扱えるようになったこと、Soundtrackファイルを圧縮保存できるようになったことがある。着実に進化してきているようだ。
なお、パッケージやカタログにもほとんど触れられていないが、Soundtrack 1.2には約4,000のApple Loopsが収録されたDVD-ROMが入っているほか、biasのpeak 3 Expressという波形編集ソフトもバンドルされている。ACIDに対するSoundForgeのようにループデータ化するアシッタイズ作業はできないが、とりあえずレコーディングして、不要な部分をカットするといったことはできるので、まず、これでレコーディングから編集まで行ない、あとは、Soundtrack Loopユーティリティを用いてApple Loop化すれば効率よく新ライブラリを作り上げることができそうだ。
■ 十分使えるループシーケンサ。今後の発展に期待
今回一通り使ってみて、これならループシーケンサとして十分使えるソフトになっているという印象を持った。ただし、遥か昔から存在しているACIDと比較すると、まだだいぶ原始的な状態であることは否めない。ACIDの最新版(といってもリリースされたのは2年前だが)はACID Pro 4.0だが、感覚的にはACID 2.0とか下位バージョンのACID Express程度という感じだ。
例えば、ACIDの場合ビートマップ機能というのがあり、CDなど完成された曲データを解析させてテンポを割り出し、それにループデータを自由に追加させるというような機能がある。また、MIDIも単に同期させるだけでなく、MIDIシーケンス機能を装備するとともに、VSTインストゥルメントのプラグインソフトシンセを鳴らすことができたり、ReWireのホストアプリとして機能するため、ほかのシーケンスソフトなどとPCの内部的に同期させることができるなど、さまざまな機能が用意されている。これらすべてが誰にでも必要かといわれると、そうでもないが、まだまだ発展の余地はありそうだ。
□アップルコンピュータのホームページ
http://www.apple.co.jp/
□製品情報
http://www.apple.co.jp/soundtrack/index.html
□関連記事
【1月20日】アップル、音楽制作ソフト「Soundtrack」の新バージョンを発売
-前バージョンのユーザーにはアップデータを無償提供
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040120/apple.htm
【2004年1月7日】アップル、マルチメディアソフトの最新版「iLife '04」
-音楽製作ソフト「GarageBand」を新搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040107/apple3.htm
【2003年8月1日】アップル、「Final Cut Pro 4」バンドルの音楽ソフトを単体発売
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030801/apple.
(2004年1月26日)
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
00 | ||
00 | AV Watchホームページ | 00 |
00 |
|