■ 2枚組みで5,800円
原作は、'98年に連載が終了したが、累計650万部の大ヒットコミック「ドラゴンヘッド」。ウズベスキタンの広大な土地でロケしたという邦画らしからぬスケールもあって、話題性には事欠かないが、映画として大ヒットしたという記憶はない。 製作には、最近の邦画では当然のようになっているが、TBS/電通/東芝エンタテインメント/東宝/TOKYO FM/毎日新聞社/WOWOW/カルチュア・パブリッシャーズ/スポーツニッポン/ツインズジャパンと多数の企業が名を連ねており、リスクを分散している。 最近は製作時にすでにTVの放映権や、パッケージ化含めて予算が立てられており、映画の興行収入が作品全体の収入に占める割合が半分以下どころか、2割程度になっていることもあるという。そういう意味では、「劇場公開は最大の宣伝・広告媒体」としての役割しかないのかもしれない。 といことで、ドラゴンヘッドも公開から約半年でDVD化された。2枚組み5,800円という価格は、現在のDVD相場からすると、躊躇する価格ではある。 しかし、Panavision24pでデジタル撮影され、劇場公開版のスコープサイズに加え、ハイビジョンサイズでも見られるという試みがなされており、初回生産分のみ専用ケース付きのデジパック仕様で、カラーのブックレットや撮影日誌などを同梱し、ディスクもピクチャーレーベルとなっている。 価格については最終的に「邦画だし、しかたないか」と、あきらめにも似た思いで購入を決意した。
■ ウズベキスタンで2カ月間のロケ 「ドラゴンヘッド」は前述のとおり、原作は大ヒットした望月峯太郎の同名コミックで、「壮大な世界観で、かつてない世界の終わりを描いた」と評される。結局、原作では「終末」の原因は謎のままで終わっており、今回の映画化で123分という時間に、実写でどういった形にまとめたのかが注目される。 ――高校生テルとアコは、修学旅行からの帰りの新幹線で、原因不明の事故に事故に巻き込まれ、静岡市内のトンネルに閉じ込められる。いったい何が起こったのかわかない。生き残ったのはテルと、アコ、そして高橋ノブオの3人だけ。元イジメられっ子のノブオは、暗闇の恐怖からか正気を失い、狂気に取りつかれてしまう。テルとアコはノブオから逃れるように、配水管を這い上がり地上へと脱出する。 しかし、地上に出たテルとアコの2人が目にしたのは、白い灰が降る荒廃した大地だった。途中で出会う狂気に満ちた自衛官の仁村や、暴徒となった市民、突然の噴火。テルとアコは途中で離れ離れになってしまうが、互いの生存を信じて東京を目指す……。 映画化にあたっては、「絶望の先にある希望を描くことを目標にスタートした」としており、「壊滅した日本をウズベスキタンに創る」ことになったという。ウズベキスタンでは、約2カ月間のロケを行ない、新幹線や廃墟と化した渋谷の街並みを再現するなど、スケールの大きさやVFX技術も、この映画の見所の1つ。 監督は、深夜ドラマ「NIGHT HEAD」でその実力が評価された飯田譲治。さらに、「平成ガメラシリーズ」の樋口真嗣特技監督が視覚効果デザインを担当し、「黄泉がえり」を大ヒットさせた平野隆が製作プロデューサーと豪華な布陣。出演者も、テルとアコを妻夫木聡とSAYAKAが演じ、さらに藤木直人、山田孝之といった若手に加え、根津甚八や寺田農などのベテランも参加している。
■ スコープ/ハイビジョン2種類のサイズを収録 ディスクは本編ディスクと特典ディスクの2枚組み。新作DVDの仕様としては普通だが、珍しいのは特典ディスクにも本編が丸ごと入っていること。というのも、この映画はPanavision24pを使って、1080p/24pでデジタル撮影されているのだが、劇場公開用にはHDキネコ作業のときにシネマスコープフォーマット(1:2.35)で焼き付けられている。 つまり、撮影はハイビジョンサイズ(16:9)だが、劇場公開はシネマスコープサイズで行なわれている。そのためDVDでは、本編ディスクに劇場公開時のシネマスコープ版、特典ディスクはハイビジョン版という2種類のサイズが楽しめるようになっている。 ハイビジョンサイズ版の方も、チャプタ構成や音声仕様がシネマスコープ版と全く同じなので、オマケという扱いではない。基本的に、ハイビジョン版の方が写っている範囲は広い(つまり、シネマスコープ版は上下がトリミングされている)が、撮影監督の林淳一郎がメイキングの中で語っているところによれば、「DVDなどに使用することも考えて、ビスタで上下甘くなる場合、許せるならそのままで、許せないやつは、両方のサイズで撮ったりした」とのことなので、どちらがオリジナルサイズということもないのかもしれない。 本編が2本も収録されていることもあり、映像特典は本編ディスクと、特典ディスクに同じくらいづつ割り振られている。そのため本編の平均ビットレートは、シネマスコープ版が5.8Mbps、ハイビジョン版が6.21Mbpsと若干低めになっている。 画質で特に気になったのがトンネル内のシーン。演出意図かもしれないが、超高感度フィルムで撮影したように粒子が粗くノイズが乗り、そういった映像が苦手なMPEGフォーマットとあいまって、かなり見づらい。また、ビットレートからも推測されるように、ハイビジョン版の方が全体的に画質は良好だった。ただ、これはビットレートだけではなく、シネマスコープ版が一度フィルムを経由しているからかもしれない。 DVDの場合、映画館の様なシネマスコープ対応スクリーンで鑑賞できるような環境を持っている人は少ないだろうから、ハイビジョン版で見たほうがいいだろう。
映像特典は、本編ディスクに「劇場予告編 5本」(計3分15秒)、「TVスポット 9本」(計2分45秒)、「劇場公開時プロモーション」、「シューティングダイアリー in ウズベキスタン」(計約33分30秒)、「キャスト・プロフィール」、「スタッフ・プロフィール」、「アートギャラリー」を収録。 なお、劇場公開時プロモーションは、妻夫木、SAYAKA、藤木直人、山田孝之、飯田譲治監督が参加した「完成披露試写会舞台挨拶」(約5分30秒)と、「妻夫木聡 渋谷ジャック」(約6分)の2本に分かれている。 本編ディスクの映像特典メインは、「シューティングダイアリー in ウズベキスタン」だろう。2002年10月1日~11月27日の約2カ月に渡るウズベキスタンロケの様子が、各日20~90秒程度の映像がほぼ毎日収録されている。また、10月28日には山田孝之のインタビュー(約20秒)、11月5日に妻夫木聡インタビュー(約1分45秒)も収めれられている。 特典ディスクには、「メイキング・オブ・ドラゴンヘッド」として、「ROAD OF THE END 終末を創り者たち」と、「VFX in DRAGONHEAD これがドラゴンヘッドのVFXだ!!」の2つを収録。 ROAD OF THE END(約41分)には、スタッフとメインキャストが、ウズベキスタンロケの模様を語る。今回の映画化にあたっては、「原作のエッセンスは残しつつ、原作とは違うもの」を目指したという。しかし、ウズベキスタンでは、「東京で机上で考えているようにはいかない」。 妻夫木聡は、今回の映画について「原作を読んでいたので、この役がきたのは喜びより驚き。ウズベキスタンは、ご飯もおいしくなかったけど、それもドラゴンヘッドの世界観かなと、ポジティブに考えた」と話し、「修行でした。武者修行。また好きになりましたこの仕事が」と語っている。 また、SAYAKAは「右も左もわからない。台本を握って寝ていた。原作を読んでいたので、すごいプレッシャーで、引きこもりになった。ウズベキスタンロケは、母親も心配した。この2カ月間が、今のSAYAKAを作った」と、今回の撮影が有意義だったことを強調する。監督も、SAYAKAが「私は役者で食べて生きたいといっていた」と証言している。 そのほかにも、ヘリが降りてくるシーンでは、実写でも撮ったが吊って動かしているのが不自然で、結局フルCGにしたことが明かされ、驚かされる。 ROAD OF THE ENDには、メイキング映像以外にも、監督の意図をくみ上げ、視覚効果デザイナー樋口が描いた「ドラゴンヘッド」の全カット「検討用イメージボード」107枚や、「CGイメージボード」9枚も含まれている。 VFX in DRAGONHEAD(約17分20秒)は、主に4つのシーンの合成過程の映像を見せながらのVFXプロデューサ浅野秀二と、VFXディレクター立石勝が音声解説している。この映画では、総計約500カット、本編の1/3がデジタル処理されているという(ちなみに、マトリックスは400カットといわれている)。 実際、かなりの部分がブルーバック合成されているのだが、本編だけ見ても気づくことは無理だろう。現地で撮影してきた映像が、VFXチームに渡されたときには、「おびただしいブルーの世界に、何を入れるかとまどった」という。 全編に渡って登場する、煙はほとんどCGであり、「煙の動きをCGでコントロールし、芝居をつけたかった」と、その理由が語られる。撮影したシーンがイメージと違って、後から引きの画にしたくなった場合、撮り直さなくても、CG合成で実現できる時代に入っていることに驚いた。 また、噴火のシーンはCGだけで味気ないため、牛乳とリンスが飛び散る様子を高速度カメラで撮影して合成されている。こういったところでは、非常にアナログでホッとする。 圧巻は、クライマックスの渋谷の崩壊シーンで、製作に4ヶ月かけたフルCG。破壊の動きをつけるため、ビルの中に入っているテナントまで調査に行って、材質を設定してシミュレートしたという。
■ 映画としては微妙だが、撮影日誌は必見 原作の方もよくわからない終わり方だったが、映画のほうも負けず劣らず。結末を観客に預ける事自体は作品の世界観からしていいと思うのだが、方向性すら示されないので、正直にいえば、このストーリーから何を感じ取ったらいいのか、考え込んでしまった。 映画として気になったのが、暗転による場面切り替えを多用しているところ。シーンの終わりで突然暗転し、そこから次のシーンに切り替わるまで結構時間がとられていて、DVDプレーヤーが壊れたのかと思ったところが何箇所かあった。 ストーリーについては、登場人物がすぐに死にすぎて、伏線も少なく、各エピソードがブツ切れになっているように感じる。個人的に気になったのが、テルとアコがずっーと制服姿で通すのだが、もちろんアコはいまどきの高校生の設定なのでかなりのミニスカート。あんな動きづらい格好、いくらなんでも途中で動きやすい格好に着替えると思うのだが……。 そのほかにも、人形丸出しの死体とか、突っ込みどころはたくさんある。映画自体の魅了が5,800円分あるかといわれると、妻夫木聡とSAYAKAのファンにはあるのかな、といったところだろうか。ただ、DVDとしては、シネマスコープ版とハイビジョン版を見比べることができるというのは、今 後の映画撮影の傾向として勉強になると思う。 また、封入特典として「オールカラー・フォト・BOOK」(32ページ)と、撮影日誌「シヨームカ」が入っている。オールカラー・フォト・BOOKの方は、こういった特典にありがちなミニ写真集で珍しくはないだろう。 一方、シヨームカは、1人のスタッフ(盛夏子)が書いた57日間のウズベキスタン撮影日誌なのだが、編集・製作ソニー・マガジンズということで、よくできてる。写真は小さいものが20枚程度使われているだけで、カラーでもないが40ページ弱もあり、知っている人がほとんどいないであろう、ウズベキスタンでの撮影事情がわかり、非常に楽しめた。
□アミューズソフトのホームページ
(2004年3月2日) [AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]
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