~ 59,800円でマスタリンググレード。「EMU-1820m」を検証(1) ~ |
EMU-1820m |
E-MU Systemsから、ユニークかつコストパフォーマンスの高いWindows XP/2000用オーディオインターフェイスが登場した。FireWire接続のオーディオインターフェイスに注目が集まる中、今回登場した「EMU-1820m」、「EMU-1820」、「EMU-1212m」の3製品は、PCI接続。
しかし、これまで見たどのオーディオインターフェイスよりも自由度が高く、しかもDSP搭載でミキシング、エフェクト処理などさまざまなことが可能。スペックはEMU-1820mおよびEMU-1820で18in/20out、EMU-1212mで12in/12outを備え、いずれも24bit/192kHzの入出力に対応する。
それだけのスペックを持ちながらも、29,800~59,800円と今までの同種の製品としては破格値だ。実際に触ってみると、1回で紹介しきれない内容となったため、今回と次回の2回に渡ってレビューする。
■ E-MU Systemsとは?
数カ月前、イギリスの楽器・レコーディング関連雑誌を見ていたとき、E-MU Sytemsのこの3製品の広告を見かけ、何だろうと思っていた。そのときはしっかりチェックしていなかったので、以前あったAPS(Audio Production System)の後継が4年ぶりくらいに登場したのか、と感じた程度だった。が、先日、日本の販売元であるエンソニック・ジャパンに、実際に発売されたばかりの「EMU-1820m」を見せてもらい評価は一変した。それはAPSとはまったく異なるものだったのだ。
といわれても、E-MU Systemsなんて知らないし、APSなども聞いたことがないという読者も多いかもしれない。実際の製品の紹介をする前に、簡単にそのバックグラウンドについて触れておこう。
■ ようやく登場した後継機
まず、このE-MU Systemsは'71年に設立された米国の電子楽器メーカー。古くはEmulatorという数百万円もするサンプラーを開発し、YMOなどが愛用していたのでご記憶の方もいるだろう。またMIDI音源としてProteusシリーズは、プロミュージシャンをはじめ多くの人に愛用されたものだった。そのE-MU Systemsは、'93年3月にSound BlasterのCreative Technologyに買収されてその傘下に入った。その後も積極的にProteusなどの楽器開発を行なう一方、CreativeとともにDSPの開発にも力を入れてきた。その成果が、Sound Blaster Live! やAudigyなどに搭載されている。
ISAバス時代にはEMU8000シリーズというチップを開発し、Sound Blaster 16シリーズに搭載され、その後開発したEMU10K1は、Sound Blaster Live! に搭載され普及した。そのEMU10K1を、プロオーディオ用に使った製品が'99年に発売されたAPSだ。
当時10万円もしたこの製品、確かにLive! に比べるとアナログ入出力などかなりこだわりを持っていたり、入出力数を増やすなどしていたが、コアが同じEMU10K1であったこともあり、抜本的な違いが少なかったのも事実。そのため、APS用のドライバをLive! で使って、同等の性能を得るといった裏ワザなどもあったくらいだ。
そのAPSから4年半経って、ようやく登場したのが「EMU-1820m」、「EMU-1820」、「EMU-1212m」のシリーズ3製品なのである。冒頭でも紹介したとおり、型番の数字が入出力を表しており、18in/20outと12in/12outという構成で、いずれも24bit/192kHzの入出力に対応している。
また、mというのはマスタリンググレードを意味しており、WordClockの入出力、SMPTE(LTC)の入出力を備えている。さらに、24bit/192kHzのA/Dコンバータには、DigidesignのProTools HD 192 I/Oに搭載されているものと同じチップであり、マイク/LINE/Hi-Zプリアンプにはtfproのものを搭載という気合いの入れようだ。
とはいえ、24bit/192kHz対応のオーディオインターフェイス自体は、すでにいくつも製品が出てきているので、そう珍しいものではない。確かに入力もできる製品はまだ少ないかもしれないが、出力についてはSound Blaster Audigy2をはじめとするサウンドカード系製品でも登場しているくらいだ。しかし、このEMU製品の面白いのはここからだ。
■ EMUシリーズとAudigy2の関係
詳細に入る前に、AudigyやAudigy2との関係性についても触れておこう。APSはLive! と同じEMU10K1というチップを使った兄弟製品であったが、今回のEMUシリーズとAudigy2も大いに関係がある。
EMU E-DSP |
DSPとして、Audigy2にはAudigy2チップが、EMUシリーズにはEMU E-DSPが搭載されているため、別のものではある。しかし、実はそれぞれのコアにはEMU10K2という、EMU10K1の次世代のDSPが使用されている。
EMU10K2という名前は、以前Creative Technologyの幹部からも聞いたことがあったが、実際にはSound BlasterシリーズにはAudigyチップ、Audigy2チップというものが搭載されたため、この名前は世に出ないままに消えたものだと思っていた。しかし、確かにコードネームといえるもののようだが、EMU10K2というコア自体は存在していたのだ。
ここで気になるのは、Audigy/Audigy2とこのEMUシリーズがどう違うのか、ということだろう。結論からいえばまったく違う製品となっており、Live! とAPSほど近い関係ではない。Audigy2のほうはSound Blasterシリーズということでエンターテイメント性を追求した製品で、EAXという7.1chサラウンドへの対応をはじめ、ドルビーデジタルEXやDTS-ESのデコーダも搭載している。
またそれらサラウンドを引き立てるためのエフェクト類を搭載するとともに、DVDオーディオの再生サポートにも対応するなど、まさにホームユースでの高性能性を追求している。Audigy2チップを中心に、それらを実現するための機能をEMU10K2に追加したわけだ。
それに対し、EMUシリーズはEMU10K2をレコーディングなど音楽制作という部分に特化させたEMU E-DSPを中心に作り上げた製品となっている。EMU-1212mが29,800円で、Sound Blaster Audigy 2 ZS Platium Proが34,800円と価格レンジは一部重なっているが、あくまでも方向性の異なる製品となっており、どちらが上でどちらが下というものではないようだ。
とはいえ、Audigy2でもASIOドライバをサポートするほか、SteinbergのCubasisVSTやImage Line FL Studio 4.0をバンドルして音楽制作機能を持っているではないか、という人もいるだろう。が、使ってみるとわかるとおり、Audigy2のASIOの場合、48kHzまたは96kHzに固定でしか使えないなど、制約も多い。確かにバンドルソフトにはDTM的な指向はあるが、このラインナップを見る限りはその分野ではエントリーユーザー向けである。
こうしたAudigy、Audigy2を見てきただけに、最初に気になったのは、「ASIOドライバがAudigy2のものと同等だとしたらあまり使えないな」ということだった。実際に見てみるとEMUシリーズのドライバはAudigyシリーズのものとは大きく異なるものだった。44.1/48/96/192kHzで動作し、そのクロックはインターナルでも外部からの同期でも動作する。
レイテンシーの設定画面はAudigy2のものとソックリではあるが、その設定の自由度は大きく違う。ちなみに、EMU-1820mおよびEMU-1212mにおける外部同期のソースは、WordClock、S/PDIF、ADATの3種類から設定できる。
レイテンシーの設定画面はAudigy2とソックリ | 外部同期のソースは、WordClock、S/PDIF、ADATの3種類から設定できる |
■ EMU-1820mを検証
では、もう少し具体的な機能、性能などについて見ていこう。今回は、EMU-1820mをお借りしたので、ここからはこの製品をもとに話を進めていく。この製品には、本体であるPCIバス接続のE-MU 1010 PCIカード、WordClockやSMPTE、MTCなど同期関連の入出力端子がまとまったSyncドータカード、そしてブレイクアウトボックスであるハーフラックサイズのAudioDockの3点から構成される。
AudioDockとは付属のケーブルで接続するのだが、これがEthernetケーブルと同じものとなっており、ノイズのことを無視すればLANケーブルでも動作するとのことだ。またAudioDockへの電源供給はPCの筐体内で電源をとり、このLANと同じケーブルを通じて行くため、別途ACアダプタなどは必要ない。
E-MU 1010 PCIカード | Syncドーターカード |
ハーフラックサイズのAudioDock |
端子類についても簡単に紹介しておくと、E-MU 1010 PCIカードにはコアキシャルのS/PDIFとADATのオプティカル入出力があり、オプティカルは設定によりS/PDIFにも変更可能。またAudigy2と同様にFireWire端子もここに用意されている。さらに、AudioDockはフロントにXLR/TRSフォーン兼用でファンタム電源対応のプリアンプ内蔵端子が2つ装備され、リアにはTRSフォーンの6つのバランスド入力と8つのバランスド出力、フォノイコライザ搭載のRCA端子の入力が2つとミニステレオジャックによる4つ=8chのスピーカー出力、加えてMIDI入出力をフロントとリアにそれぞれ持っている。
ドライバのインストールは付属のCreative Professional Software CD-ROMから行なうが、ここにはバンドルアプリケーションとしてSteinbergのCubaseVST 5.1とWaveLab Lite、そして、E-mu PatchMix DSPというアプリケーションなどが用意されている。CubaseSX 2.0の時代にVST5.1という2世代前のものなのがやや残念ではあるが、それでも機能限定などない完全なフルバージョン。EMUのハードウェアがドングルキーとなって動作するようである。今後、SXやSLなどへのアップグレードパスができると最高だが、そのあたりはまだ未確定のようだ。
CubaseVST 5.1 | WaveLab Lite |
このインストール画面を見てちょっと気になるのが、「Creative Professional」というロゴ。インストール画面だけでなくパッケージやカタログなどさまざまなところに入っている。エンソニック・ジャパンによると今後、Creativeとも協調路線でビジネス展開していくとのことだったが、クリエイティブ・メディアにこのロゴのことを聞いてみると、まだ詳細が固まっていないためなのかハッキリした答えはなかった。
またインストールを進めていって感じたのは、その画面や効果音、操作手順などユーザーインターフェイスがSound Blasterシリーズとソックリなこと。やはり開発は同じところで行なわれているのかもしれない。マニュアルの注意書きを見ると、Audigyシリーズがインストールされたマシンにセッティングする際には、インストール時にいくつかの注意点がある。それさえクリアすれば、2つ同時に完全な状態で動作するとなっていたのだが、実際に行なってみたところ、やや動作が不安定になってしまった。ほかにもいろいろなハードが入っていたためなのかもしれないが、とりあえずAudigy2を抜いて再度インストールし直したら、うまく動作した。
インストール画面には「CREATIVE」のロゴが。インターフェイスもSound Blasterシリーズと共通 |
インストールが終了し、再起動。さっそくWindowsMediaPlayerで音楽を再生してみると、デフォルトの状態でヘッドフォン端子から音が出ていることが確認できた。また、S/PDIFの出力やアナログのスピーカー出力からも同じ音が出る。実はこれデフォルトの設定がそうなっているだけのことであり、なんともさまざまな設定ができる。
そのキーを握るのが、E-mu PatchMix DSPという常駐のアプリケーション。見た目はミキサーコンソールといった感じのものだが、その機能や設定の自由度は一般のミキサーコンソールをはるかに超えるものとなっている。
このE-mu PatchMix DSPでは左側のミキサー1ch分をStripと呼んでいるのだが、そのStripを増やしたり減らしたりすることが自由にできる。そして、各Stripでは入力ポートをどこにし、出力ポートをどこにするかも自由に選択可能。
E-mu PatchMix DSP | 各Stripの出力ポートをどこにするかも自由に選択可能 |
各入力ポートには、EMU-1820mに用意されているさまざまな入力端子を割り当てられるところまでは、すぐに理解できる。こうした物理的ポート = Physical Portのほかに、PC内部的なHost Portが割り当てられるという辺りが、一般のミキサーコンソールとの違いの1つだ。つまり、マイク入力やギター入力、S/PDIFやADAT入力の中から好きなものを選択できるのはもちろん、Stripへの入力元をASIOやWDM、DirectSoundなどの出力ポートを設定できるのだ。
たとえば、Stripの入力元としてASIOを2ch分設定していれば、CubaseVSTなどのアプリケーション側からはEMU-1820mは2ch分だけの出力を持つオーディオインターフェイスに見えるし、10ch分用意すればそれだけの出力を持ったオーディオインターフェイスに見えるというわけだ。
このミキサーブロックダイアグラムを示したのがこの図だが、これを見ると各Stripに入ってきた入力はすべてメインバスへとミックスされている。最後でモニターバスと分岐させているが、それぞれをどこのポートへ出力するかの設定も自由にできるようになっている。
任意の数の出力を持ったオーディオインターフェイスとして使用できる | ミキサーブロックのダイアグラム | 入力信号のポート割り当ても自由に設定できる |
一方、このダイアグラムにはインサートチェインというものがそこかしこにある。これは基本的にはエフェクトを設定するところであり、複数のエフェクトをDSPパワーのある限り並べていくことが可能だ。その設定する場所によってかけ録りができたり、マスタリング用に使えたりもする。エフェクトの詳細については次回に紹介するが、このインサートチェインは単に内部のエフェクトのためだけにあるわけではないのが面白いところ。そう、外部バスへ一度出力し、それを戻すという方法もできる。つまり内部エフェクトと同じ感覚で外部エフェクトを利用できる。
新規のパッチはテンプレートを利用すると簡単 |
また、先ほども見たとおり、基本的にはすべてがメインバスへとミックスされるわけだが、別々のポートへパラで出力したいという場合もあるだろう。そんな場合もこのインサートチェインにおいて各ポートへの出力を設定する。
頭が混乱しそうだが、その代わり自由度が高く何でもできてしまうのが大きな特徴。ただ、こんなにいろいろできると、どうやって設定すればいいのかわからなくて心配という人もいるだろう。
でも大丈夫。ごく一般的な設定がテンプレートとなっていて、新規のパッチを作る際、そのテンプレートを利用し、その後拡張していけばいい。もちろん、自分なりの設定ができたら、それを保存しておけばいつでも再現できるわけである。
まだまだ説明しきれていないが、とりあえず今回はここまで。次回はエフェクト周りやプラグイン関連、アナログ性能評価などについて紹介する。
□E-MU Systemsのホームページ(英文)
http://www.emu.com/
□エンソニック・ジャパンのホームページ
http://www.emu-ensoniq.co.jp/
□製品情報
http://www.emu-ensoniq.co.jp/products/digaudio/1820m/1820m.html
(2004年4月5日)
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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