~ 59,800円の「EMU-1820m」を検証する(2) ~ |
EMU-1820m |
前回も紹介したとおり、E-mu Systemsの「EMU-1820m」は59,800円という低価格にも関わらず、24bit/192kHzで18in20outも備えたオーディオインターフェイスだ。
アナログの8in/8outに加え、デジタルではS/PDIFのオプティカル、コアキシャルはもちろん、adatインターフェイスも装備する。さらにマスタリンググレードということで、高性能なAD、DAを搭載するとともにWordClockの入出力やSMPTEの入出力を備える。そのスペックを見る限り、完全にプロ仕様の機材となっている。
ただ、お気付きの方もいるかと思うが、96kHz、192kHzとなると、デジタル端子の振る舞いが多少変わってくるため、18in20outと言い切るのにはやや語弊がある。例えば、S/PDIFの場合、24bit/96kHzまで対応しているが192kHzはサポートしていない。またadatの方は44.1kHzもしくは48kHzの場合は8in/8outとして動作するが、それ以上になるとSonorus S/MUXという規格に従い複数チャンネルを重ねて信号を伝送するためチャンネル数が少なくなる。具体的には96kHzなら4in/4out、192kHzなら2in/2outとなる。また、それ以外にも高サンプリングレートでEMU-1820mを扱う場合の制限がある。それはDSPベースのエフェクトが利用できないこと、アナログチャンネルについてもチャンネル数に制限が出ることなどだ。結論だけをいえば、96kHzの場合は12in/18out、192kHzの場合は4in/10outとなる。
入出力周りでは、先週から気になっていたのがフロントパネルのオプティカル出力のコネクタが差し込みづらいということ。フロントパネルには透明なプラスチックが貼り付けられていて、それが厚いため、オプティカルのケーブルがカッチリと入らない。探すとうまく刺さるケーブルもあるのかもしれないが、手元にあった、5、6本はすべてダメだった。もちろん、適当に固定していても音は出るのだが……。
■ 豊富なエフェクト機能
それでは、EMUシリーズの目玉機能ともいえるエフェクトについて見てみよう。メインカードであるE-MU 1010PCIカードには「E-DSP」という高性能DSPが搭載されており、これでミキシングを行なうとともに、さまざまなエフェクトを実現できる。具体的にはEQ、コンプレッサ、ディストーション、オートワウ、コーラス、フランジャー、リバーブ……といろいろあるほか、ギター用やボーカル用のマルチエフェクトなどもあり、その数は非常に豊富だ。実際にはコアDSPエフェクトと呼ばれるもの20種類をベースに、それらを組み合わせてパラメータを設定したものがギターマルチ、ボーカルマルチなどとして並んでいる。
これらを利用するには、前回も登場した常駐ソフトであるミキサーの「E-mu PatchMix DSP」を使う。ここにあるFXボタンを押すと、エフェクトのウィンドウが登場するので、ここに数多く並ぶエフェクトの中から使いたいものを選択した上で、それを適用したいチャンネルのインサートチェインへドラッグ&ドロップで持ってくればいい。
もちろん、マスターに持っていってもいいし、センドエフェクトのインサートチェインに持っていってもよい。1つのインサートチェインに並べられるエフェクトの数に制限はないので、好きなだけ直列に繋ぐことが可能だが、DSPパワーに限りがあるので、全体で利用できるエフェクトの数には限りがある。
エフェクトはミキサー「E-mu PatchMix DSP」から利用する | エフェクトウインドウから任意のエフェクトをインサートチェインへドラッグ&ドロップ。DSPのパワー不足で使用できないものはグレーアウトする |
エフェクトによって使うパワーが異なるため、具体的に何個と言うことはできないが、設定する数を増やしていくと、エフェクトのウィンドウ上でこれ以上使えないエフェクトはグレーアウトしていく。そのため、何でもかんでもエフェクトを突っ込んでいくということはできないが、効率よく使えばかなりのエフェクトをDSPパワーだけで利用することが可能だ。
さて、エフェクトを設定した後、インサートチェインに設定されているエフェクトを選択するとE-mu PatchMix DSP右側のTVスクリーンには、そのエフェクトの設定パラメータが表示される。とくにデザインに凝ったパラメータというわけではないが、簡単にそしてリアルタイムにエフェクトの設定を変更できるのも面白さの1つだろう。
エフェクトのパラメータ設定画面。左から4バンドEQ、オートワウ、コーラス |
パラメータの設定は保存可能 |
これらのパラメータをいじった結果を保存することも可能。もちろん自分で名前をつけて保存できるし、複数のエフェクトを並べたマルチエフェクトの状態での保存もでき、保存すれば、エフェクト・ウィンドウ上に名前が表示されるようになる。
このエフェクトは、このようにDAWソフトとは完全に独立させて使うことができる一方、かなり連携させて使うことも可能だ。そのカギを握るのがE-Wireという機能。実は、EMU-1820mのドライバを組み込んだ時点で、E-WireというVSTエフェクトが追加されている。
これは、音を一端EMU-1820mに送り、エフェクトをかけ、その結果を戻してくるというバーチャルな配線の仕方を意味している。このセンドとリターンはASIOの空きチャンネルを使って設定することになるが、使い方自体はいたって簡単。その設定したチャンネルのStripに利用したいエフェクトを予め設定しておくだけでOK。あとはすべてソフト側が処理してくれる。もちろんマルチエフェクトをベースにしたものでもいいし、自分で組み合わせてつくったものでもOKだ。
VSTエフェクトとしてE-Wireが追加されている | 一旦EMU-1820mに送ってエフェクトをかけ、その結果を戻してくるという処理を行なっている |
■ 肝心な音質もチェック
前回からEMU-1820mの機能面について主に見てきたが、では、その音質はどんなものなのだろうか? いつも行なっている3つの実験を行なった。具体的にはアナログの1chと2chの入出力を直結した上で、いくつかのデータ再生し、それをそのまま24bit/48kHzで録音。その結果を比較検討するというものだ。
パラメータの設定は保存可能 |
ブレイクアウトボックスであるAudioDocのリアパネルにはアナログ端子が入出力ともに用意されている。これは入出力ともにバランス端子となっているので、バランス対応のTRSフォーンケーブルで直結させた。また、この入出力共に業務用途の+4dBか一般用途の-10dBのいずれかを選択できるため、ここでは+4dBに設定した。
まず、-6dBのサイン波を再生。入力レベルが-7dB程度とやや下がっているが、フェーダーを通さないところでルーティングしているため、とくに調整のしようもないので、そのまま録音。また何も再生しない状態でどの程度のレベルのノイズがあるかも録音してみた。そして、もう1つスウィープ信号についても同様に録音した。
この録音にはSound Forgeを使ったのだがノイズレベルの結果を見ると、以前のトラブルと同様に16bitの分解能でしか録音されていなかった。ほかのオーディオインターフェイスの場合、一端32bitの設定で録音するとうまくいくことがあったのだが、これも失敗。ちょうどインストールされていたWaveLab Liteを使っても同様の結果となってしまった。
入出力直結時のSN比 |
そこで、先日レビューしたDigiOn Sound 4 Professionalで試したら、今度は問題なく録ることができた。以前、デジオンの開発担当者にこの問題について聞いたところ、WAVファイルの規格、WDMの規格が煩雑であいまいな部分もあるため、こうした相性が出てくるのだろうとの回答を得たが、この件についてはまたいずれ紹介したいと思う。
このようにDigiOn Sound 4で録音はしたが、ほかのデバイスと比較するためもあり、画面表示はSound Forgeで行なった。ノイズレベルを見ると、極めて少ないことがわかる。24bitの分解能だとスケール的にいって、縦軸は最大の拡大をしていて、このレベルなのだから、これまでみてきたオーディオインターフェイスの中では、SN比は最高レベルといえそうだ。
一方、サイン波の結果はというと、こちらもかなりきれいなグラフ。若干高調波が見えるがごくわずかなものだ。もう1つのスウィープはというと、これらはまずまず。音域が上がるにしたがって微妙に減衰しているが、高域で急に落ちるようなことはない。
サイン波 | スウィープ信号 |
こうした結果をみる限り、EMU-1820mはかなりハイグレードな品質のオーディオインターフェイスといえるだろう。フロントのヘッドフォンジャックの出力を聞いていても、非常に素直な音でクセは少ない。
ところで、前回の記事を読んで何人かの読者から質問をいただいていたので、簡単に答えておこう。まず「複数のオーディオインターフェイスを同時に使えるのか」という件。メインカードであるE-MU 1010PCIカードを複数使うのは無理のようだが、ほかのオーディオインターフェイスと混在させること自体はなんら問題はない。
事実、このレビューで使った環境においても計3種類のオーディオインターフェイスが混在していた。ただし、前回も触れたとおり、Audigyシリーズと混在させるとトラブルが生じる可能性がありそうだ。
もう1つは、「S/PDIFの入力時にサンプリングレートコンバータなどを通るか」との質問。これについては何も通らないでダイレクトで信号が入ってくるため、信号を劣化させることなく取り込むことができる。
■コストパフォーマンスの高い製品。専用ソフトサンプラーもまもなく登場
以上、EMU-1820mについて見てきたが、いかがだっただろうか。「FireWireオーディオインターフェイス全盛の今なのに、PCI?」という疑問の声も聞こえそうではあるが、この価格でこれだけの機能、性能を実現していることを考えれば十分過ぎる価値があるのではないだろうか。実は、さらにこれらEMUシリーズには続きがあり、「EmulatorX」という専用の超強力なソフトサンプラーが間もなく登場するという。既存ユーザーにはオプションで単体発売されるが、「EMU-1212m」にバンドルした「EmulatorX」およびEMU-1820mにバンドルした「EmulatorX Studio」の2種類をラインナップする。価格的にはプラス1万円程度とのこと。これについても近いうちに紹介したい。
□E-MU Systemsのホームページ(英文)
http://www.emu.com/
□エンソニック・ジャパンのホームページ
http://www.emu-ensoniq.co.jp/
□製品情報
http://www.emu-ensoniq.co.jp/products/digaudio/1820m/1820m.html
□関連記事
【4月5日】【DAL】第140回:E-MUの高機能/低価格オーディオインターフェイス
~ 59,800円でマスタリンググレード。「EMU-1820m」を検証(1) ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040405/dal140.htm
(2004年4月12日)
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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