■ ラジオを聴きましょう 屋外で音楽を聴くためのメディアは、カセット、CD、MDと進化を続け、最近ではフラッシュメモリやHDDに圧縮音楽ファイルを記録して持ち歩く製品が人気。しかし、「屋外で音楽を楽しむ機器」と言えばポータブルラジオが大先輩と言えるだろう。トイレや風呂だけでなく、学校の授業中に制服の袖口からポータブルラジオのイヤフォンを出して聴いていたほどのラジオファンの私にとっては、今でも外出時の音楽ソースと言えばラジオ。HDDオーディオの「Rio Karmra」を持ってはいるが、20GBのHDDの大半はラジオ番組を記録したMP3/WMAファイルで埋まっている有様だ。
音楽面から見たラジオの魅力は、自分が録音した曲しか聴けないプレーヤーと違い、新しい音楽との出会いがあること。また、出演者が多いテレビでは活躍しにくい、自己完結型の話芸を得意としている芸人がラジオで魅力を開花させている例も多い。 番組を流しながら他の作業をする、いわゆる「聴き流し」ができるのもラジオの特徴。特に朝方の番組や深夜放送は、人生のBGMとして生活の一部になっている人も多いだろう。また、休日の深夜帯はアニメやゲームなどの関連番組が独占している状況で、番組数も半端ではない。その方面のマニアにとってもラジオは必要不可欠なメディアとなっている。
そんな長い歴史と独自の魅力を持つラジオだが、成熟しきってしまったためか、技術的な進歩は停滞ぎみ。AMステレオの普及は進まず、FMの「見えるラジオ」や「アラジン」などの文字放送サービスも、少なくとも自分以外の利用者と出会ったことはない。最近では地上デジタルラジオの話も出てきたが、本放送開始時期はあやふやで、試験放送は行なわれているものの、民生用の対応チューナは発売されてもいない状況だ。
■ 録音方法あれこれ ラジオの停滞は録音面にも及んでいる。テレビなどの録画はデジタルレコーダの登場により、キーワード録画、EPG、インターネットや携帯電話を使った録画予約など、利便性は向上し続けている。だが、一部のコンポを除き、ラジオはタイマー録音すらままならない状況。このIT化社会において、「放送の開始と同時に録音ボタンを押す」という情けないことをまだやっている。現在、ラジオを録音したいと考えた場合、一番オーソドックスなメディアはカセットテープかMDだろう。保存性や操作性でMDを選んだ場合、3万円程度でポータブルMDの録再モデルを買えば、家で録音したラジオ番組を屋外で聴く環境は構築できる。番組をライブラリ化する場合には、MDLPを活用すればコスト面もかなり抑えられるだろう。
だが、「録音のしやすさ」は、カセットテープの時代とほとんど変わっていない。入力と同時に録音を開始するシンクロ機能などもあるが、セッティングの手間はかかる。また、ライブラリ面でもMDのタイトル入力はしずらく、面倒くさがると、どのディスクに何をいれたのかわからなくなってしまう。 PCで録音するという方法もある。チューナとサウンドカードを接続し、MP3やWMAでエンコードしながらダイレクトに録音してしまうのだ。ファイル名をつけたり、日付順にならべたりと利便性は抜群。CD-RやDVD-Rに記録すれば、MDやカセットより遥かに経済的だ。
しかし、PCでの録音は「PCを起動しなくてはいけない」という手間がある。キャプチャからエンコードまでを自動化したフリーソフトなどを使えば、セッティングの手間は極限まで省けるが、「ラジオを録音するためにPCを起動したままにする」というのも抵抗があるだろう。また、こうした環境を構築するにはある程度のスキルも必要になってくる。
そんな中、ポータブルシリコンオーディオプレーヤーの中に、FMラジオの録音機能を持った機種が登場してきた。そして、より機能を強化したモデルとして、サン電子が2003年に「トークマスター」を発売。内蔵メモリは32MBだが、SDメモリーカードスロットを装備し、何より予約録音が可能。理想的な製品としてラジオファンの間で話題となったが、録音がRVFという独自形式で、PCとの連携に専用ソフトが必要、ポータブルタイプなので受信感度が不安定だったりと、不満な点も多かった。 そんな不満を払拭してくれるのが、今回取り上げる「ボスマスター」だ。MP3形式で保存でき、予約件数もトークマスターの倍となる20件。据置き型でAM、FM用のアンテナ端子を装備。内蔵メモリは128MBでUSBマスストレージクラスに対応。しかもSDメモリーカードスロットも用意するという完璧な仕様。価格は44,800円。直販サイトから購入できる。 「これだ、これだよボス!! あんたを待ってたんだ!!」と大興奮したのだが、ラジオをあまり聴かない周囲の人々は「そんなにすごいかなぁ」と冷静な反応。だが、話を聞きつけて集まってきたラジオ人間たちの評価は上々で、掲載した記事のアクセス数をよかった。
そこで、「やはりラジオ録音の環境改善を願っていた人は多いのだ」と勝手に判断。サン電子さんにお願いして、さっそくボスマスターを借りてみた。
■ 夢の機械だが、音質はそれなり 外形寸法は305×170×198mm(幅×奥行き×高さ)で、小型のラジカセ程度。重量は約3kgで、見た目より軽く感じる。素材はプラスチックで、手にすると正直なところ「ちょっと安っぽいなぁ」と感じてしまう。丸みを帯びた愛嬌のあるデザインを見てお気付きの方も多いだろうが、同社のブロードバンドラジオ「BiBio」と同じ筐体を採用している。さっそく付属のFM用フィーダーアンテナと、AM用の大型ループアンテナを接続。FMアンテナ端子が小さくて手間取ったが、なんとか接続してスイッチを入れた。アンテナによって異なるが、チューナとしては標準的な受信感度だろう。AM用のループアンテナはコードが長く、最適な受信位置を探しやすくなっている。
スピーカーのユニットは60mm径。エンクロージャは筒型のバスレフ。机の上に設置するとリスナーの耳の角度に合うように、ユニットは斜め上を向いている。低域は控えめで、高域も若干抑えられた印象だ。
エンクロージャの形状によるものなのか、とにかく指向性が高く、顔の前に本体を置くとニアフィールド効果も相まって広がりのある音を聞くことができる。だが、そのスイートスポットを外れてしまうと高域が聞き取りにくく、プラスチックのエンクロージャの共振音の影響で音の解像度が低下してしまう。ラジオは、チューナと向き合って真剣に聴くことよりも「部屋のどこかで鳴っている」ケースが多いので、指向性はもう少し広げて欲しかった。 機能は大きく4つのモードにわかれており、ラジオの「AM/FM」モードと、録音したファイルが登録される「VOICE」、PCから転送したMP3/WMAファイルが再生できる「MUSIC」を用意する。録音操作は非常に簡単。AM/FMの任意の周波数に合わせ、録音ボタンを押すだけ。作成されたファイルはVOICEの中に蓄積され、モードを切り替えて再生できる。
主な操作は向かって左側のダイヤルで行なう。左右に回して項目を移動し、押し込むことで「決定」ボタンの役目をする。説明書などを読まなくても直感的に操作できるだろう。録音先は標準で内蔵メモリになっており、SDカードとの切り替えは「カード/内蔵」切り替えボタンで行なう。選択されているデバイスに応じて本体上部の緑ランプが点灯するのでわかりやすい。
録音のビットレートはメニューの中から選択する。AM、FM、ライン入力でそれぞれ個別の設定ができ、メモリの残量とビットレートから計算した録音可能時間が常に画面右上に表示さる。選択できる録音ビットレートは下表の通り。
それでは、いよいよ本題のタイマー録音機能を見てみよう。
■ 頼りになるボス
タイマー予約はメニューの中から行なう。全部で20個登録でき、登録方法も簡単だ。まず、「OFF」、「再生」、「録音」から動作を選択する。なお、一度登録した予約情報は「OFF」を選択しても消えないので、タスクの一旦停止/再開は簡単に行なえる。 次にAM/FMと周波数を選択。そして、録音先として内蔵メモリ、もしくはSDカードを選ぶ。SDカードを増設しても内蔵メモリが無駄にならないうれしい配慮だ。そして、曜日と時刻を選択するのだが、ここでラジオ録音機としてのこだわりを感じることができる。
普通に曜日の指定ができるのはもちろん、「月・火・金」、「月・火・水・木」、「月・火・水・木・金」など、変則的な曜日の指定ができるのだ。夜の番組では、月曜から木曜日に毎日放送があり、金曜日だけ別の番組といったスケジュールも存在する。限られた予約数を効率的に使える、まさにラジオ録音機ならではの設定と言えるだろう。
なお、電源をOFFにしていても、他の放送局を聴いていても、タイマー録音は最優先で実行される。放送開始の数秒前に周波数が切り替わり、番組スタートと同時に録音もスタート。こんな動作はビデオやハイブリッドレコーダで何度も見てきたはずなのだが、「録画」が「録音」になっただけで感動してしまう。深夜の自室でボスマスターを撫でてしまった。 録音した番組はUSB 2.0経由で取り出す。ストレージクラスに対応しているので、専用ソフトを使わずに転送が可能。転送/コピー速度は30MBのMP3ファイルで85~90秒。USB 2.0にしては若干遅いが、気になるほどではないだろう。
音質はビットレートによってまちまちだが、全体的な印象として解像度が甘めで、レンジもそれほど広くはない。ソフトで聴きやすい音質とも言えるだろう。FM放送は128kbps 44.1kHzで、放送とほぼ同じクオリティが確保できる。96kbps 44.1kHzでは音が若干痩せて、高域にシャラシャラというMP3特有の圧縮ノイズがのるが、必要十分な音質と言える。
AM放送の会話メインの番組では、16kbps 11kHzでも問題なく聴ける。同ビットレートでは2時間の番組が25~30MBで録音可能。このファイルサイズならば、単純計算でCD-Rに20個程度、DVD-Rならば150個以上記録することができる。週1回の番組なら、1カ月4回として37カ月、3年分を1枚のディスクに記録できる。MDやカセットテープと比べ、コストパフォーマンスは抜群だ。 なお、作成されるMP3のID3タグには何も記載されていない。ファイル名は一見すると意味のない数字の羅列に見えるが、日付と放送局、録画開始時間などのが織り込まれた名前になっている。これを理解していれば、どのファイルがどの番組かを見分けることができる。だが、視認性は良いとは言えないので、できれば予約番号別にフォルダが作られ、その中に各番組のファイルが溜まっていくなどの機能が欲しかった。
■ 生活必需品レベルの便利さだが、不満な点も 1週間ほど使ってみたが、スタンドアロンで自動的にラジオを録音してくれる機器がこれほど便利だとは思わなかった。「あれば便利だろうなぁ」とは思っていたが、この便利さは病み付きを通り越して、生活の一部になりつつある。だが、使い込んでいくと幾つか不満な点も出てきた。
まず、30MB程度の番組をいくつも録音していくと、128MBの内蔵メモリではすぐに足りなくなるということ。液晶画面に表示される残量時間を見ていると、「早く取り出さなくては」という強迫観念にかられることが多い。頻度としては1週間に1度はPCで吸い出さないといけなくなるだろう。 別途大容量のSDメモリーカードを追加すればだいぶ楽になるだろうが、いっそのこと20GB程度のHDDを搭載してくれれば、ラジオサーバーとして活用できそうなものだ。しかし、容量の少なさが、逆に自発的な整理を促すと言えなくもない。個人的にはCD-Rの容量である640MBや、DVD-Rの容量である4.7GB程度の記録容量を持たせ、「満杯になったら光メディアに記録しよう」というコンセプトが欲しかった。 また、USBでPCと接続している間は電源がONにならないという仕様も気になった。ストレージデバイスとして機能している間は、ラジオは聴けず、予約録音も機能しない。ついついPCと接続したままになってしまいがちなので注意が必要だ。なお、USBが接続されていても、PCが起動してない状態では正常に動作する。 また、筐体のサイズ的な不満もある。音質的には机の上に置くのが理想なのだが、奥行きがあるので設置場所に苦労する。MP3/WMAファイルを転送して通常のコンポのように使用することもできるが、残念ながらAV Watch読者がオーディオプレーヤーとして常用するほどの音質とは言えない。次期モデルでは「ラジオを自動的に録音する機械」により特化し、AMステレオへの対応や、スピーカーの小型化(無くても良い)、筐体そのものの小型化、ヘッドフォン端子の装備などを期待したい。
■ ラジオファンには文句無しにお勧めだが、価格がネック 以上のように、ラジオファンには非常に魅力的な製品に仕上がっている。ラジオ番組の放送スケジュールを意識した予約録音機能など、細かい部分にもこだわりが感じられて好印象だ。「予約録音」、「MP3ファイル形式での整理」、「CD-R/DVD-Rなどに保存」というキーワードに心が揺れた人には、文句無しにお勧めだ。新学期や新社会人など、生活のサイクルが変わってラジオから離れてしまった人も多いだろう。しかし、ボスマスターとポータブルMP3プレーヤーと組み合わせれば、時間に左右されない、快適なラジオ生活が送れるだろう。 最大の問題は44,800円という価格だ。ラジオがその人の中でどのくらいの割合を占めるかによるだろうが、個人的には購入を検討しても良い価格だと思っている。「4万円を超えるラジオ」と聞くと高価な印象だが、カセットテープやMDを大量に買い込むことを考えれば、ランニングコスト的に優れており、初期投資と考えれば安いもの。また、MP3形式で整理できる便利さはお金には代えられないものだ。 個人的に、もうボスマスターの無い生活には耐えられない。さらなる高機能モデルの登場に期待しつつ、日の当たらない「エアチェック」という分野を救う救世主として、今後の展開にも注目していきたい。
□サン電子のホームページ (2004年4月9日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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