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とうとう出たソニーのHDDオーディオプレーヤー
カラー液晶搭載。新UI「G-Sense」は使えるか?
ソニー 「VAIO pocket(VGF-AP1)」
発売日:6月5日発売
実売価格:53,000円前後


■ ソニーのHDDオーディオプレーヤーいよいよ登場

 HDDオーディオプレーヤー市場は相変わらず盛り上がりを見せている。昨期、AppleではiPodの売上台数がMacintoshを超えるなど、業界的にもいよいよ収穫期に入った。

 しかし、その市場で日本メーカーの影が非常に薄いのが気になる。日本メーカーで存在感を示しているのは、「gigabeat」の東芝ぐらいだろう。特にウォークマン、MDなどで常に先陣を切り、ポータブルオーディオ界の盟主であった、ソニーの影はそこにはまったく無かった。

 そのソニーがとうとうポータブルHDDプレーヤー「VAIO pocket」を投入してきた。もっとも、アイワブランドではHDDプレーヤーも発表しているし(発売はされていないが……)、このプレーヤーもパソコン部門のVAIOブランドの製品なので、複雑ではあるが……。

 しかし、VAIOブランドの製品ながら対応PCをVAIOに限定せず、Windows 98 SE/Me/2000/XPのパソコンと広く設定したことは非常にポイントが高い。ソニーはVAIOブランドをPCを超えた枠組みで展開しようとしているが、その第一弾として非常に注目される製品だろう。また、2.2インチの320×256ドット液晶を搭載し、HDD内の写真データの閲覧が行なえるなど、独自の機能も搭載している。

 対応オーディオ形式は、ATRAC3とATRAC3plus。転送に「SonicStage Ver.2.0」を利用するなど、ネットワークウォークマンやNet MDでおなじみの方式。MP3などをベースにするほかのオーディオプレーヤーと比較すると、データファイルのやりとりにはやや苦心しそうな仕様ではあるが、これは致し方ないところだろう。

 実売価格は53,000円と、同容量のiPodなどと比較するとやや高く感じるが、フォトビューワなどの独自の機能や、新インターフェイスなどの魅力は、価格差に見合うものなのか注目される。早速利用してみた。なお、今回利用した製品は量産前の試作機で、一部仕様が変更される可能性もある。


■ 特徴的な本体デザイン

同梱品

 付属品は、専用のUSB/充電クレードルと、液晶リモコン、ヘッドフォン、ACアダプタなど。

 本体は、横長の特徴的なデザインで、右端の電池部にかけて大きく湾曲している。左側には2.2型/320×256ドットカラー液晶を搭載する。本体操作確認のほか、写真データの閲覧などにも利用できる。液晶右脇には、25個の凹凸を配したタッチパッド型の新インターフェイス「G-Sense」を搭載している。

 本体上面には電源/HOLDボタンとイヤフォンジャック、下面にはクレードルとの接続用のコネクタを装備する。背面の片側がバッテリ部となっており、厚みが左右非対称なのだが、グリップのようなふくらみがホールド性の向上に貢献している。外形寸法は115.2×17.2~27.0×63.3mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約195g。

本体正面。2.2型液晶と25個のボタンからなる「G-Sense」を装備する 上面に電源、HOLDボタンとイヤフォンジャックを装備。バッテリ部が膨らんでおり、厚みが左右非対称になっている。 下面はクレードル接続端子を備えている

右端にVAIOロゴ 背面

 液晶リモコンは3行表示のモノクロ液晶を採用しており、再生/停止、ボリュームなどの基本操作が行なえる。クレードルにはUSB端子をミニUSB B TypeとA Typeの2系統を装備。充電機能やライン出力機能も備えている。


3行表示の液晶リモコンが付属 上面にボリュームボタンやHOLDボタン、BACKボタンを備える USBクレードル。充電機能やライン出力を備えている



■ USBクレードル経由でATRAC3転送。簡易変換/転送ソフトも付属

USBクレードルを利用してPCと連携する

 本体へのオーディオ転送は、USBクレードルを介して行ない、USB 2.0に対応している。

 VAIO pocketの対応オーディオ形式はATRAC3/ATRAC3plusのため、付属のSonicStage Ver.2.0でATARC3/plus形式でリッピングするか、WMA/MP3などの圧縮オーディオファイルを変換する必要がある。

 CDからのリッピングの場合、CDDB情報から曲情報を取得できる。また、MP3やWMAからATRAC3に変換する際も、タグ情報を引き継いで変換できる。ビットレートは、ATRAC3plusは256/64/48kbps、ATRAC3は132/105/66kbpsから選択可能。

 ThinkPad X31を利用して、247.5MBのATRAC3ファイルを転送すると3分56秒かかった。MP3やWMAから変換しながら転送するとその数倍の時間がかかる。もっとも、一度変換してSonicStageのライブラリに登録してしまえば、あとは自動的に更新されたファイルを同期してくれるので、時間がかかるのは最初だけともいえる。

SonicStage Ver.2.0 転送画面 MoraへSonicStageから直接アクセスできる

 また、SonicStageでは、レーベルゲートの運営するMoraへのアクセスする機能も装備しており、Moraで購入した楽曲を直接取り込むことができる。

 SonicStageのほかに、よりシンプルな転送ソフト「music move」もバンドル。こちらはATRAC以外のファイルの転送に特化しており、ドラッグアンドドロップするだけで、WMAやMP3を変換してVAIO pocketに転送できる。なお、Ogg Vorbisには対応しない。


music move。ドラッグアンドドロップ 転送画面。変換形式はATRAC3 132/105/66kbps、ATRAC3plus 256/64/48kbpsが選択できる


■ G-Senseの使い勝手は“微妙”。リモコンは実用的

25個のボタンを備えた「G-Sense」

 VAIO pocketで、もっとも気になるのは新インターフェイス「G-Sense」の操作性だろう。上面の電源スイッチをONにして電源を投入すると、「VAIO」ロゴが現れ、メインメニュー画面が現れる。起動時間は10秒弱。

 液晶の右側に縦5行、横5列の合計25個のボタンを備えている。このボタンと、液晶上に表示される「リスト/ボタン」の配置が対応しており、ディスプレイに表示されているカーソルを動かしたり、項目の選択/決定などが行なえる。

 ボタンに触れると、液晶の対応する部分にカーソルが現れる。ボタンに触れると、その動きにあわせてカーソルも移動し、カーソルを使いたい機能の位置にあわせて押し込んで決定する。


両手で支えるスタイルが安定して使いやすい

 基本は親指操作で、25のボタンを動かす。そのため両手でVAIO pocketを持って、液晶を見ながら操作するといった使い方が一番しっくり来る。そもそも、片手での操作や縦位置での操作などは非常に難しい。

 5行のボタンのうち、一番左側が[画面切り替えボタン]となっている。この行のボタンに触れると、[メインメニューに戻る]、[再生画面に戻る]などの階層移動や画面モードの切り替えが行なえる。

 中央の3行は画面のカーソル移動や曲目の選択/決定を行なう。また一番上部のボタンを長押しすることで上スクロール、その逆で下スクロールとなる。一番右行の5つのボタンは、早送り/戻しや曲スキップ、再生停止、ボリュームが割り当てられている。ここは右側にガイドとなるマークがプリントされているので機能を理解しやすい。

 メニュー画面では、アーティスト/アルバム/ジャンルごとに曲目の選択が行なえる。階層の移動の際には若干待たされる感じはあるが、それ以外の曲選択、再生操作や、曲送りなどの操作レスポンスは良好だ。

一番左行のボタンをなぞると[画面切り替えボタン]があらわれ、ボタン位置に対応するパッドをクリックすると決定動作となる。一番下のパッドを押さえると液晶上のカーソルも一番下のボタンを選択する 中央の3行で画面のカーソル移動や曲目の選択/決定を行なう 一番右行のボタンは再生や停止などの機能が割り当てられており、液晶画面にボタンが現れる

メインメニューでジャンルやアルバム別の検索機能を備える 再生画面

 問題は、このG-Senseの使い勝手がどうなのか? ということ。最初は間違いなく戸惑うだろうが、「慣れれば思いのほか使える」という印象。[画面切り替えボタン]のアイコンの意味がわかるようになれば、液晶を見ながらスムーズに操作できる。

 ただし、基本的に両手で持って、画面をしっかり確認しながら操作しなければいけないので、手軽さという点では今ひとつだろう。たとえば、単に再生を止めたい時は、多くのプレーヤーでは再生/停止ボタンの位置さえ覚えていれば、プレーヤーを見ることなく操作できるようになる。しかし、G-Senceの場合は液晶画面を見ずに25個もあるボタンから停止ボタンを押すということはまず不可能だ。

 ソニーでは、「液晶画面と指の動きが連動して直感的に操作できる」としているが、逆に言えば、「液晶画面を見なければ操作ができない」ということでもある。ポータブルプレーヤーでは「見なくても操作できる」という要素も重要だと思う。

3行表示に対応する液晶リモコン

 もっとも、VAIO pocketには3行表示の液晶リモコンが付属するので、手軽に操作したい人はこちらを使えばいい。リモコンは、再生/停止と曲送り/戻しが行える[基本操作ボタン]と、決定や上下スクロールを行なう「選択レバー」で操作する。

 リモコンでもメニューからアーティスト/アルバム/ジャンルごとの表示が可能で、基本的な再生機能は一通り備えている。選択レバーで、メニューから曲目選択して、レバー長押しで決定、再生となる。

 比較的シンプルながら、情報量も3行分あり、操作レスポンスも悪くない。1点だけ気になったのは、リモコンで電源を切れないこと。例えば、リモコンで停止して本体の電源を切らずにおいておくと、そのまま電源が落ちず、停止状態のままバッテリを消費してしまう。[時計設定]-[アラーム設定]の[スリープタイマー]で、自動的に電源を落とすよう設定しておいたほうがいいだろう。スリープタイマーは30分~150分まで、30分刻みで設定できる。

 また、本体の電源ON/OFFは、上部のスライド式スイッチで行なうのだが、左方向のスライドが電源OFF、右方向がHOLDに割り当てられている。そのため、HOLDを解除しようとして、勢いあまって電源をOFFにしてしまうことがあった。


■ 音質は良好。フォトストレージ機能は今ひとつ

付属のインナーイヤーフォン

 付属のインナーイヤーフォンは、一見チープに見えるが、音質はまずまず、若干低域が弱めに感じるが、素直な音作りだ。本体の音質設定機能もイコライザなどの最低限のものだが、派手なエフェクトを好む人でなければ、満足いくものだろう。また、クレードルにはライン出力端子も備えているので、外部のアンプなどに出力することもできる。


メインメニューからマイヒストリーやプログラム再生などが選択できる

 また、再生履歴からプレイリストを作成する「マイヒストリー」機能も搭載。マイヒストリーでは、日付順にプレイリストが作成されており、その時に再生した順番で再生できる。

 シャッフル再生やリピート再生などの特殊再生設定も可能。再生画面で、右から2行目のボタンに触れると設定メニューが現れ、各種の設定が行なえる。さらにプログラム再生機能も搭載。再生中の曲をプレイリストに登録する機能で、本体のみでのプレイリスト作成ができる。要するにiPodの「On-The-Go」と同じような機能。複数のプレイリストの登録はできない。


マイヒストリーは日付ごとの履歴を管理して、その時の再生順のプレイリスト再生が可能
再生画面で、右から2行目のボタンをタッチするとリピートなどの特殊再生の設定画面が現れる。一番下のボタンをクリックするとプログラム再生に登録される 同様の手順を繰り返し、本体のみでプレイリストを作成できる

 また、ジャケット検索機能も搭載している。アルバムのジャケットなどを登録できるのだが、この登録方法がややこしい。まず、VAIO pocketにJPEGファイルを転送し、登録したいアルバムの曲を再生しながら、ファイルビューワー機能から、転送済みのファイルを開く。そこで、登録メニューを開き、決定操作を行なう。非常に面倒だ。SonicStage上で、ジャケット設定して同期するとVAIO pocketに反映されるなど、もっと簡単な登録方法を用意して欲しかった。

ジャケット検索機能。再生画面にジャケットを表示できるが、登録作業が煩雑


クレードルにはミニUSBと通常のUSBの2系統のUSB端子を装備する

 また、デジタルカメラから直接静止画データを取り込む機能も装備。本体にUSB端子は無いので、クレードルとVAIO pocketを接続し、クレードルとデジタルカメラをUSB接続する。クレードルには、USBミニ端子とUSB TypeAの端子を備えている。

 ただし、デジタルカメラ接続時には、USB 1.1となる。対応機種はサイバーショットに限定されているようだが、オリンパス「E-1」を接続し、約6MBのファイルを転送した際は1分弱で転送が終わった。しかし試作機だからかもしれないが、ファイル容量が大きくなると、転送速度が遅くなる。

 転送した画像は、スライドショー機能なども使用できる。しかし、作成したフォルダを見ようとすると、メインメニューの[ファイルビューワー]から[ハードディスク]を選択し、大量のファイルの中から作成されたフォルダを探さなければいけないなど、フォトストレージとしての使い勝手は今ひとつ。静止画機能はあくまで、おまけという印象だ。


デジカメを接続し、デジカメストレージャーをクリックすると取り込み画面が現れる QVGA+解像度の液晶で、写真の確認が行なえる

 バッテリ駆動時間はカタログ値で約20時間。約11時間の連続再生で、インジケータが残り25%以下を示したが、ほぼカタログ値どおりの結果が得られそうだ。ただし、満充電までの時間は約6時間とやや長めだ。


■ 基本性能の高いプレーヤー。おまけの出来が今ひとつ

 ソニーブランド初のポータブルHDDオーディオプレーヤーとして投入された「VAIO pocket」。ハードウェア的には細かなところまで気が利いていて、工作精度もさすがに高く、大きな不満は見当たらない。

 ベースがATRAC3/ATRAC3plusで、専用の転送ソフトが必要となるという点で、USBストレージクラスでのオーディオ転送に対応している製品と比べれば、確かに利便性では劣っていると思う。しかし、一度SonicStage上でライブラリを作ってしまえば、あとはあまり不便も感じず、個人的には気にならないレベルだった。

 本体の作りや音質のクオリティは高く、リモコンの操作性も良好な高品質HDDプレーヤー。基本性能の高さは「さすがソニー」というところだ。ただし、価格も53,000円程度とやや高め。20GB HDDプレーヤーは4万円弱から4万円台後半が相場だと思うが、それよりも高めの価格設定となっている。それに見合う価値はあるのか? というのが、購入を検討する際の最大のポイントとなるだろう。

 フォトストレージ機能や大型カラー液晶の視認性の良さ、そしてG-Senseの採用が最大のセールスポイントとなるが、G-Senseは確かに未来的かつ先進的に見えるが、実際のインターフェイスの出来としてはもう少し洗練が必要だろう。また、フォトストレージとしても、液晶サイズや転送速度、使い勝手などには不満が残る。要するにHDDプレーヤーの基本機能はしっかりしているが、差別化ポイントの完成度が今ひとつという感じないのだ。

 現状でもHDDプレーヤーとしてはすでに十分な性能を有しているが、付加機能にどこまで魅力を感じるかが、ポイントだと思う。もちろんG-Senseの先進的なインターフェイスやソニーファンにとっては有無を言わさずアピールする、オンリーワンの魅力を持ってはいるのだが……。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.vaio.sony.co.jp/Info/2004/products_0510_VAIOpocket.html
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【5月10日】ソニー、2.2型LCD搭載20GB HDDオーディオ/フォトプレーヤー
-タッチパッド式UI搭載。3行液晶リモコンも付属
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040510/sony1.htm

(2004年5月21日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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