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第151回:1GB容量の新MD「Hi-MD」の実力を探る
~ ATRAC3plus 256kbpsの高音質を確認 ~



 発表されて半年。7月10日にようやくソニーからHi-MDが発売される。今回は短期間ではあったがUSB接続対応のMDウォークマン、録再タイプの「MZ-NH1」を借りることができたので、従来のNet MDと何が違うのか、その使い勝手がどんなものなのか、さらにATRAC3plus 256kbpsのサウンドがどんなものなのかを検証した。



■ 最新のMD。Hi-MDとは?

MZ-NH1

 MDが'92年に登場してから12年。その間、MDもずいぶんと進化を続けてきた。圧縮コーデックであるATRACはどんどん進化するとともに高音質化してきた。また、さらに圧縮率を高めたATRAC3が開発されたことにより、MDLP2、MDLP4という2倍、4倍のデータが入れられるようになるとともに、PCとの連携が可能なNet MDも登場してきた。また、その途中にはPCのリムーバブルメディアとしても利用可能なMD-DATAも登場し、それに対応したMTR(マルチトラック・レコーダー)が各社から発売されたこともあったが、現状においては、実質上消えてしまったといってもいい状況だ。

 そんな中、新たに登場したHi-MDは、これら時代の変遷の中で生まれた機能のすべていいとこ取りをするとともに、さらに新しい機能をいろいろ追加した製品となっている。Hi-MDの概要については、1月にHi-MDが発表された際にも詳しく紹介されていたが、改めてその特徴を簡単に見てみよう。

充電クレードルが付属 Hi-MDメディア



■ 1GB容量のデータストレージとして利用できるHi-MD

USBストレージとしてパソコンから認識される

 まず最大のポイントはHi-MDという新しいMDメディアが登場して、1GB容量が扱えるようになったこと。従来のMDは74分メディアで約140MBの容量だったので、かなりの大容量化だ。もちろん、下位互換性は保たれているから、従来のMDもそのままHi-MD対応機器で録音、再生することが可能なのだが、非常にユニークなのは従来のMDディスクもHi-MDフォーマットすることにより、データ容量が約2倍に増えてくれることだ。さらに、Hi-MDフォーマットすると音楽用として利用するだけでなく、PCの外部デバイスとして機能してくれる。

 前述のMD-DATAの場合、普通の音楽用MDではなくMD-DATA専用のメディアを利用しなくてはならず、しかもほとんど売っていないし、高価なこともあって普及しなかった。しかし、Hi-MDの場合、今までのメディアも使え、しかも容量が倍になるというのはかなりうれしい。実際、Hi-MDフォーマット化した74分メディアの入ったMZ-NH1をPCに接続すると、USBマスストレージとして認識し、普通にデータの読み書きを行なうことができた。また1GBメディアを入れてみると、確かに約1GBの容量を持っていることがわかる。なお、このHi-MDメディアを抜いたり、普通のフォーマットのMDを入れると、ドライブとしても認識されなくなるのが面白いところでもある。


通常の74分MDを利用すると291MBのデータストレージとして認識 Hi-MDメディアは964MBのストレージとして見える

 Hi-MDの2つ目のポイントは、コーデックにATRAC、ATRAC3に加え、ATRAC3plusが扱えるようになったこと。ATRAC3plusについては、以前このDigital Audio Laboratoryにおいても検証したことがあった。ただ、ATRAC3plusは登場した当初は、64kbpsと48kbpsという低ビットレートであり、確かにそこそこの音質ではあるがMDLP2モードに相当する132kbpsのATRAC3と比較すると音質は劣るというものだった。

SonicStage Ver2.1

 Hi-MDでは64kbps、48kbpsに加え、256kbpsのATRAC3plusも利用可能だ。なお、Hi-MDでは、通称としてATRAC3plus 256kbpsを「Hi-SP」、ATRAC3plus 64kbpsを「Hi-LP」と呼んでいる。

 もっとも、このATRAC3plus 256kbpsは1年以上前に発売されたATRAC3対応のCDウォークマン用などで採用されており、今回Hi-MD用としてはじめて登場したのではない。しかし、MDとしては初対応である。この変換はプレーヤーに付属するアプリケーションソフト「SonicStage Ver2.1」を使って行なう。

 当然CDからのリッピングに対応しているので、手軽にATRAC3plusへの変換が可能。このリッピングする際に、ATRAC3なのか、ATRAC3plusなのか、またビットレートをいくつにするのかという設定項目があるので、ここで設定しておけば後はとっても簡単だ。またHDD内にある音楽データをATRAC3plusなどに変換する、フォーマット変換機能も用意されている。

CDからのATRAC3plusリッピングに対応 リッピング形式の選択画面 フォーマット変換機能も装備する



■ ATRAC3plus 256kbpsの高音質を確認

 せっかくなので、そのATRAC3plusの256kbpsの音がどんなものなのか、チェックしてみたいと思う。また、比較対象がないとわかりにくいので、非圧縮のWAVファイル、ATRAC3 132kbps、ATRAC3plus 256kbpsのそれぞれを並べてみよう。

 ここで比較する内容は、1kHzのサイン波、20~20kHzのスウィープ信号、そして楽曲の3つを圧縮するとどのように変化するのか、スペクトラムアナライザでチェックした。スペクトラムアナライザには、当連載でおなじみのWaveSpectraを用いるが、WaveSpectraではWAVファイルしか読み込むことができない。またSonicStageのフォーマット変換機能では、WAVからATRAC3およびATRAC3plusへの変換はできても、その逆はできない。

 そこで、以前に何度か使っているTotalRecoderという再生した音がオーディオデバイスへ行く直前のものをデジタル的にキャプチャするソフトを用いて、WAV変換した上で、スペクトラムアナライズした。この結果を見ると。ATRAC3plus 256kbpsはATRAC3の132kbpsよりも、かなりWAVに近づいていることがうかがえる。実際に音を聞いてもいても、かなり高域までしっかり音が出ているようで、高周波成分の多い金属系の音などがCDに近い音質ではっきりと聞き取れる。

1kHzのサイン波
非圧縮WAV ATRAC3 132kbps ATRAC3plus 256kbps
20Hz~20kHzのスウィープ信号
非圧縮WAV ATRAC3 132kbps ATRAC3plus 256kbps
楽曲
非圧縮WAV ATRAC3 132kbps ATRAC3plus 256kbps

Hi-MD発表会で公開された音質比較表

 ソニーのATRACのロードマップを見ると、ATRAC3plus 256kbpsはCDクオリティーと位置づけられ、ATRAC3 132kbpsよりも上の音質とされているが、確かにそのようだ。また、ここで実験はしていないが、このロードマップからすると、MDオリジナルのATRACよりも高音質ということのようである。

 このHi-MDフォーマットと、ATRAC3plusの双方を組み合わせることで、1枚のメディアに収録できる曲の時間も従来のMDと比較して大幅に増えている。かなりいろいろな組み合わせが考えられるが、それぞれの組み合わせで、どのくらいの時間が収録できるかを表したのが下表だ。従来の80分メディアでもATRAC3plus 48kbpsなら13時間30分も扱え、1GBメディアなら45時間も入るのだから、HDD型のプレーヤーにも一歩近づいた感じだ。


録音形式ビットレート録音時間
Hi-MD80分MD74分MD
リニアPCM1.4Mbps1時間34分28分26分
ATRAC3plus256kbps(Hi-SP)7時間55分2時間20分2時間10分
64kbps(Hi-LP)34時間10時間10分9時間25分
48kbps45時間13時間30分12時間30分
ATRAC3132kbps16時間30分4時間50分4時間30分
105kbps20時間50分6時間10分5時間40分
66kbps32時間50分9時間50分9時間

 また、この表を見て気づいた方もいると思うが、Hi-MDではATRAC、ATRAC3plus以外に非圧縮のPCMデータも扱えるのも1つの特徴となっている。

 なお、Hi-MDメディアとMDメディアに、それぞれATRAC、ATRAC3plus、PCMの各モードで3曲の楽曲データを連続で転送した所要時間も計測してみた。MDメディアはHi-MDフォーマットと、従来のNet MDフォーマットの2種類で計測している。

 Hi-MD形式でフォーマットしたMDメディアと、Hi-MDメディアの差はわずか数秒だが、データを書き込んだ後の最終処理にかかる時間を含めると、10秒程度のHi-MDメディアの方が高速だった。

【ATRAC3 132kbps】
  曲の長さ サイズ Hi-MDメディア
(Hi-MDフォーマット)
MDメディア
(Hi-MDフォーマット) (Net MDフォーマット)
1曲目 3分30秒 3.33MB 4秒11 8秒25 12秒26
2曲目 4分13秒 4MB 5秒63 4秒4 9秒3
3曲目 4分8秒 3.92MB 3秒97 7秒55 8秒19
完全終了 11分51秒 11.25MB 24秒34 33秒93 35秒48
(完全終了=書き込みの最終処理が終了し、操作可能になるまでの時間)

【ATRAC3plus 256kbps】
  曲の長さ サイズ Hi-MDメディア
(Hi-MDフォーマット)
MDメディア
(Hi-MDフォーマット) (Net MDフォーマット)
1曲目 3分30秒 6.44MB 8秒89 10秒29
2曲目 4分13秒 7.75MB 9秒78 12秒49
3曲目 4分8秒 7.59MB 10秒22 9秒92
完全終了 11分51秒 21.78MB 24秒34 33秒93
(完全終了=書き込みの最終処理が終了し、操作可能になるまでの時間)

【PCM 1,411kbps】
  曲の長さ サイズ Hi-MDメディア
(Hi-MDフォーマット)
MDメディア
(Hi-MDフォーマット) (Net MDフォーマット)
1曲目 3分30秒 35.47MB 42秒15 46秒03
2曲目 4分13秒 42.68MB 46秒64 48秒02
3曲目 4分8秒 41.76MB 48秒63 47秒32
完全終了 11分51秒 119.91MB 2分26秒35 2分35秒秒79
(完全終了=書き込みの最終処理が終了し、操作可能になるまでの時間)


■ PCからのデータ読み込みに対応

Hi-MDからのオーディオデータの取り込みに対応した

 そしてもう1つ、Net MDからHi-MDになっての進化が、USBケーブルを通じて、MD側のオーディオデータをPCへと吸い上げ可能になったことだ。従来これができなくて、非常に不便を感じていたが、ようやく可能になったわけだ。ただし、可能になったのは、非圧縮のPCMデータ、ATRAC3plus 256kbpsデータ、ATRAC3plus 64kbpsの3種類。方法はチェックインをするのと同様、外部デバイスからHDD側への矢印ボタンをクリックするだけであり、扱いは簡単。

 ただATRAC3データには対応していないし、当然プロテクトのかかったデータの転送はできない。また、従来のNet MDを接続した場合、SonicStage Ver2.1でPCからNet MDへのデータ転送はできても、その逆はできない。


 なお、Hi-MD対応のMDウォークマンであるMZ-NH1にはSonicStageとは別に、もう1つ「MD SIMPLE BUNER」というソフトがバンドルされている。こちらは、PCのHDDにデータを溜めることなく、CDから直接MDへデータ転送するというソフト。もちろん、転送の際のフォーマットなども設定も可能で、PCを完全にミニコンポのような存在として利用することが可能になる。とくにPCでデータの管理をする必要はないという人なら、こちらのほうがかえってわかりやすいかもしれない。

MD SIMPLE BUNER Hi-MDからのオーディオデータの取り込みに対応した

 以上、Hi-MDについて見てきたがいかがだろうか。このMDウォークマンは計3種類がリリースされる。個人的には買うならば録再可能なMZ-NH1にしたいが、実売45,000円程度というのはちょっと高いようにも感じる。今後ソニー以外のメーカーも参入するのか、またそうしたときに、価格はどの程度まで下がるのか期待したい。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200401/04-0108/
□「Hi-MD」のページ
http://www.sony.co.jp/Products/Hi-MD/
□関連記事
【1月8日】ソニー、1GB記録が可能なMD新規格「Hi-MD」
-従来のMDディスクは305MBに拡張。ATRAC3plusとPCMに対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040108/sony1.htm
【1月8日】ソニー、「Hi-MD」対応MDウォークマンとサウンドゲート
-PC用Hi-MDドライブとしても利用可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040108/sony2.htm


(2004年6月28日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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