■ 三度目の発売となる「レオン」のDVD
今回取り上げるDVDは、25日に発売された「レオン」。レオンの日本での劇場公開は'95年3月だが、約1年半後の'96年10月に22分のシーンを追加した完全版が公開されたため、'95年公開版がオリジナル版と呼ばれるようになって、現在に至っている。 つまり、劇場公開版が2種類あるわけだが、DVD版はさらに複雑になっている。順を追っていくと、まず最初のDVD化は、ビクターエンタテインメントが'97年12月19日に発売した「レオン 完全版」(品番:JDF-10、税抜き3,800円)。 日本で最初のDVDプレーヤー(世界初でもある)が発売されたのが'96年末だから、DVDの草創期に発売されたタイトルということになる。 実は、個人的にも最初に買ったDVDソフトが、この「レオン 完全版」なので感慨深いものがある。しかし、このDVDは133分の収録時間ながら、片面2層ではなく片面単層ディスク仕様。というのも、当時はDVDの片面2層ディスクの製造技術が安定していなかったためで、そのころ発売されたDVDソフトのほとんどは片面単層ディスクか両面単層ディスクだった。 また、映像特典がないどころか、メニューすらない。DVDの特徴を生かしているのは、英語音声と日本語音声の両方が収録されいて切り替えられることと、ドルビーデジタル5.1ch収録であることぐらい。今の映画DVDでは、考えられない仕様となっている。 とはいえ、当時はDVDが出たばっかりで、VHSやLDに時代からすれば、そんなものかと思ってしまい、それほど違和感がなかった。しかし、DVDがある程度普及してくると、ほとんどの映画DVDには、メニューが付くようになった。 そうすると、インターネット上でのDVD関連の掲示板では、「映画の途中で画面が一瞬とまるのですが不良品ですか? (回答:DVDの2層ディスクでは層切り替えのポイントで一瞬止まります)」と並んで、「レオンのDVDを購入したのですが、リモコンのメニューボタンを押してもメニューがでないのですが、不良品ですか?」(回答:そういう仕様のディスクです)というやり取りを、何回も見たように記憶している。 その後、約5年が経過した2002年12月20日に、日本ビクターから「2 in Pack」として、「レオン 完全版 + ニキータ」(JVBF-201)、「フィフス・エレメント + レオン オリジナル版」(JVBF-202)が、各4,980円(税抜き)で発売された。レオンのオリジナル版はこれが初DVD化となったわけだが、「レオン 完全版 + レオン オリジナル版」という構成ではない販売手法に、正直かなり疑問を感じた。 ニキータやフィフス・エレメントも嫌いな作品ではないし、2本で4,980円という価格もお買い得もあったが、DVDとしての仕様は見直されず単層のままだったので、結局購入を見送った。 また、2 in Packの発売の前、2002年6月1日にCIC・ビクタービデオ株式会社が、パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン株式会社に社名変更された。そして、レオンも含めDVD黎明期に日本ビクターから発売されていた数十作品のDVDの権利が、パラマウントに移行。それを受けて、2004年6月25日にパラマウント ホーム エンタテインメント ジャパンから、DTSや映像特典を追加した「レオン 完全版 アドバンスト・コレクターズ・エディション(以下ACE)」が発売されることになった。 DTS音声もさることながら、やっと2層になったことによる画質向上への期待と、映像特典に惹かれて、早々に購入を決意した。そうなると悩むのが、ACE単体(4,179円)と、ACEと「レオン オリジナル版」をパッケージした、2万セット限定の「レオン ダブル・パック」(5,985円)のどちらを購入するか。 結局、約1,800円の差でレオン オリジナル版も入手できるということで、レオン ダブル・パックの方を選択した。ちなみに、ACEはトールケース、レオン ダブル・パックはデジパック仕様で、オリジナルフォトブックを同梱しているという違いもある。
■ オリジナル版と完全版の違い
イタリア系の殺し屋レオン(ジャン・レノ)は、息を潜めてニューヨークのアパートで暮らしていた。ある日、同じ階の一家が麻薬絡みで殺害されるが、たった一人、末娘のマチルダ(ナタリー・ポートマン)だけが生き残る。成り行きで、レオンは逃げ込んできたマチルダを、かくまうことになってしまう。 レオンが殺し屋と知ったマチルダは、最愛の弟を殺した相手に復讐するため、殺し方を教えてほしいとレオンに弟子入りを志願。殺し屋としての手ほどきを受けるようになる。やがて、二人の間には、父娘とも恋人ともつかない、深い愛情が生まれていく……。 公開から8年が過ぎたヒット作のため、ストーリーを知っている人も多いと思うので、あまり詳しくストーリー解説はしないが、「ニキータ」で死体を処理する掃除人を演じた、ジャン・レノが「この役で別の作品を作ってくれ」とリュック・ベッソン監督に頼んだのが、映画化のきっかけといわれている。 ジャン・レノがクールでありながら、どこか寂しげな殺し屋を、ナタリー・ポートマンが少女と大人を揺れ動くはかなさと危うさを、ゲーリー・オールドマンが汚職に手を染めるDEA(麻薬取締局)の捜査官を見事に演じている。特に、2千人からオーディションで選ばれた、撮影当時12歳のナタリー・ポートマンは、この作品で一躍脚光を浴び、数多くの作品に出演することになった。しかし、この年齢のときにしか出せない、背伸びした子供を演じるナタリー・ポートマンは、やはりとても魅力的だ。 ゲーリー・オールドマンの壊れっぷりも見事ではあるのだが、普通の時でもあれだけ危険そうな捜査官が解雇されないのは、かなり不思議に思った。 また、リュック・ベッソン監督がアメリカ初進出を果たした作品でもあるのだが、その映像の作り方はラン・ブルーやジャンヌ・ダルクにも通じ、奥行きを感じさせ、独特の世界観を作り出している。 オリジナル版と完全版の違いは時間にして22分、主要な追加シーンは4つある。以前のDVDには、追加されたシーンが解説された紙片が入っていたが、どういうわけかダブル・パックには入っていなかった。映像特典に入っている、完全版の日本公開時劇場用予告編の冒頭で、リュック・ベッソン監督は、「観客の皆さんがより長い時間レオンとマチルダとすごせるように描かれています」というコメントを寄せている。 そこからもわかるように、追加されたシーンのほとんどは、レオンとマチルダの関係性と距離感がが描かれている。端的にいえば、オリジナル版のレオンとマチルダの関係は父娘愛に近いが、完全版ではより恋人の関係に近く描かれているという印象だ。ベッソン監督としては、最初から完全版の方で公開したかったのだろうが、マチルダの年齢設定を考えるとメジャー作品としてはさすがに難しかったのだろう。 まだ、見たことのない人は、オリジナル版を観てから、完全版を観たほうが、それぞれから受ける印象の違いがわかりやすいと思う。
■ 確かに画質も向上した、アドバンスト・コレクターズ・エディション
ちなみに、前述したように「レオン 完全版」を所有しているので、画質などを比較しようと考えていたのだが、誰かに貸したままになっていたことを思い出した。そこで、他のスタッフ所有の「2 in Pack」の「レオン 完全版」を借りて、比較してみた。2 in Packでも、メニュー画面がないので、おそらく、ディスク内容は初版と同じではないかと推測している。 実は、「レオン 完全版」の画質はあまりよくないように記憶していたのだが、ACEを再生してみると、なかなかに美しい。「こんな高画質ではなかったはず」と、2 in Packの方を観てみると、やはり美しくなく、現在のDVDの基準からすると、かなり画質が悪い部類にはいる。 DVD BitRate Viewer 1.4でビットレートを見てみると、平均ビットレートはACEが6.48Mbps、2 in Packは4.43Mbpsと2Mbps以上高くなっている。2層になったことで、この余裕が生まれたのだろう。それでも、高ビットレートとまではいえないが、現在のDVDの標準的な画質には追いついように思う。 しかし、改めて2 in Packの方を見直してみると、白とび、黒つぶれが発生しているし、ざらざらとした圧縮ノイズを感じる。今回のDVDについては特にリマスターしているとは謳われていないので、フィルムレベルでのリマスターはしていないだろう。しかし、2層化して容量を増やし、最新のMPEGエンコーダで処理し直したことで、格段に画質が向上している。 一方、ダブル・パックのオリジナル版は110分とはいえ、単層ディスクが使われている。そのため、平均ビットレートは5.18MbpsとACEより低くなっている。画質は、2 in Packの完全版よりは上だが、ACEよりは下だった。なお、ダブル・パックのオリジナル版には、映像特典は抄録されていないが、メニューは用意されている。
ACEの音声は、オリジナル(英語)がDTSとドルビーデジタル5.1ch、日本語吹き替えがドルビーサラウンド(ドルビーデジタル2.0ch)の3種類を収録。ビットレートは、それぞれ768kbps、448kbps、334kbpsとなっている。 DTSとドルビーデジタル5.1chを比べると、DTSの方がLFEがよく使われているほか、包囲感も増している。特に爆破シーンではその差がはっきりし、ドルビーデジタルとDTSの差はかなりあった。ちなみに、ダブル・パックのオリジナル版もDTSがない以外は、音声仕様はビットレートも含めて同じだったが、2 in Packの完全版の日本語吹き替え音声のドルビーサラウンドは、448kbpsだった。 また面白いのが、吹き替えのキャストがオリジナル版と完全場では違うこと。レオンは大塚明夫、マチルダが久川綾なのは同じだが、スタンスフィールドは完全版では佐古正人、オリジナル版は田中正彦、トニーは完全版は池田勝、オリジナル版は坂口芳貞が配されている。 もう一つ、興味深く思ったのが各ディスクのチャプタ数。2 in Packの完全版のチャプタ数は、わずかに9つ。それより22分短い、ダブル・パックのオリジナル版が23。さらに、ACEでは28と非常に細かく分かれている。このあたりにも、時代の流れとDVDへの要求の高まりを感じてしまう。
■ 映像特典では、素(?)のナタリー・ポートマンが見られる
ACEの目玉の一つが、映像特典が追加されたことだ。内容は、エンドロールでも使われているスティングの「シェイプ・オブ・マイ・ハート」と映画のシーンを組み合わせたミュージッククリップ「CLIP」(4分10秒)、「ABOUT LEON」(約3分30秒)、オリジナル版日本公開時劇場用予告編(約2分)、オリジナル版フランス公開時劇場用予告編(約2分)、オリジナル版アメリカ公開時劇場用予告編(約2分30秒)。完全版日本公開時劇場用予告編(約2分)、キャスト&スタッフ紹介だけで、ボリュームは少なめ。コメンタリーやメイキングをぜひとも収録してほしかったところだ。 映像特典としては、ABOUT LEONがメインコンテンツになるだろう。メイキングというわけではなく、ナタリー・ポートマンのちょっとしたコメントと、撮影現場の映像をつないでいる。3分30秒と短いが、「監督は今まで会った人の中で最低の人よ」などと、映画の中では見せない、年相応の子供っぽいナタリー・ポートマンを見ることができるのは貴重かもしれない。 封入特典のオリジナルフォトブックは、カラー19ページで、そのなかの2枚が切り離してポストカードとして使用できるようになっている。ただ、このフォトブック自体がデジパックに貼り付けられていて、取り外せないようになっているのが残念なところ。 ■ 「レオン」ファンなら、買い替え必須?
ACEでは画質が向上し、DTSで音質もよくなり、映像特典も追加されたとあっては、作品のファンであれば、買い替えが必須になることは間違いない。また、デジパックが嫌いでなければ、約1,800円の差でオリジナル版もセットになっているダブル・パックを選択したい。 この作品により日本でのジャン・レノの知名度が大幅にアップしたことで、ジャン・レノは現在でも日本のCMやテレビ番組にも数多く出演している。そのため現在のジャン・レノのイメージは、「浴衣も似合うフレンドリーなおっちゃん」となってしまっているかもしれない。 実際に今回DVDを鑑賞していると、しばらくレオンが殺し屋に見えず、気のいいおっちゃんに見えてしかたがなかった。もちろん、しばらくすると、作品に入り込むことができたのだが……。レオンに思い入れがない人でも、CMに出ているジャン・レノしか知らない人や、ジャン・レノが役者であることを忘れかけている人には、ぜひともこのDVDを観て、俳優ジャン・レノを思い出してほしい。
□パラマウント ホームエンタテインメント ジャパンのホームページ
(2004年6月29日) [AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]
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