【バックナンバーインデックス】




第139回:イーストウッド作品の新境地?
画質調整が難しい「ミスティック・リバー 特別編」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ アカデミー賞でも話題に
ミスティック・リバー 特別版

価格:3,129円
発売日:2004年7月9日
品番:DL-27721
仕様:片面2層2枚
画面:シネマスコープ(スクイーズ)
音声:英語(ドルビーデジタル5.1ch)
   日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
発売元:ワーナーホームビデオ

 「ラストサムライ」の渡辺謙と第76回アカデミー助演男優賞を争ったのが、「ミスティック・リバー」のティム・ロビンスだ。結果、オスカーはティム・ロビンスが手にすることになり、さらにはショーン・ペンがこの作品で主演男優賞を受賞。監督のクリント・イーストウッドの顔を立てるためか、ショーン・ペンが初めて授賞式に顔を出したことも話題になった。

 7月9日に発売されたDVDはかなり好調な売れ行きのようで、実際に購入した大手レンタルショップのセルタイトルコーナーでも「売れ筋1位」として紹介されていた。授賞式の印象はもちろん、公開当初の映画評が押しなべて高評価だったこともあり、DVD化を待ち望んでいた人が多かったのだろう。

 DVDは本編1枚、特典1枚の2枚組み。価格はワーナーホームビデオらしく、3,129円(税別2,900円)と比較的廉価な設定がうれしい。

 ジャケットデザインは、水面に逆さまに映った男3人の影が印象的だ。某販売店の棚で上下逆に挿されていたパッケージを見かけたが、手に取ったお客が上下を間違えて棚に戻したものだろうか。



■ ショーン・ペンとティム・ロビンスの演技が怖い

 ボストンのダウンタウンに近い、イーストバッキンガム地区。3人の少年、ジミー(ショーン・ペン)、デイブ(ティム・ロビンス)、ショーン(ケビン・ベーコン)が路上で遊んでいると、警官と思われる男が近づき、デイブだけを車に乗せて走り去った。誘拐・監禁され、4日後に戻ってきたデイブ。その日を境に疎遠になった彼らだが、25年後、ある殺人事件を機に再び交流をはじめる。娘を殺されたジミー、犯人を追う刑事のショーン、そして殺人の嫌疑を掛けられるデイブ。捜査が進むにつれ、3人に付きまとう犯罪の影があらわになる。

 とにかく最後まで報われない話で、サスペンスというより悲劇の印象が強い作品。米国労働階級につきまとう身近な暴力と、その影響を描いた内容だが、ここまで重々しくやりきれないストーリーは久しぶり。原作はデニス・ルヘインの小説で、「L.A.コンフィデンシャル」、「ポストマン」のブライアン・ヘルゲランドが脚本化している。

 監督は「マディソン郡の橋」、「スペース・カウボーイ」、「ブラッド・ワーク」などのクリント・イーストウッド。いまや名監督として若者にもファンの多い彼だが、今回は彼の作品群の中でも「許されざる者」の系譜にあたる作品だろう。

 見所はなんといっても、主役級3人の存在感。ショーン・ペン、ティム・ロビンス、ケビン・ベーコンといった一流の性格俳優を集めただけあって、演技の説得力は強い。原作とキャストの良さを活かしきった作品といえ、見ごたえは十分だった。

 たとえば、ショーン・ペンの場合、ちょっとこわもてながら、最初は家族を愛する偏屈おやじといった印象。ただ、一般市民としては多少怪しい挙動を見せるのが気になる。しかし、徐々に犯罪から逃れられない男の悲しさと、それを開き直って受け入れる、地域社会の問題性を体現する役回りへと変化する。キャラクターに親近感は沸かないが、その存在感はものすごい。

 一方、「ジェイコブズ・ラダー」や「ショーシャンクの空に」のティム・ロビンスは、一般人を装って生きてはいるものの、染みついた恨みつらみが見え隠れしてとても怖い。挙動不審な演技も見事で、思わず画面に釘付けになってしまうほど。両者ともさすがアカデミーを受賞しただけのことはある。

 また、3人のそれぞれの妻との関係も興味深く、各夫婦のストーリーには単なる逸話を超えた重要性を感じる。全編を通して暗い内容だが、俳優陣の見事な演技が緊張感を誘い、一瞬もダレることなく見通すことができた。



■ 強烈な明暗差。コントラスト調整は必須かも

 本編の画質は、現像時の銀残しを思わせる極端に硬調なもの。また、セットであっても光を回り込ませたシーンはほとんどなく、たいてい濃い影がつきまとう。撮影時のライトが少ないのだろう。フィルムの粒子もそれなりに感じられ、それによって精細感もスポイルされている。

 そのため、いわゆる「高画質なディスク」とはいいがたく、AV機器できれいに再生するのは難しい。とりわけコントラスト調整は欠かせない。というのも、白とび気味・黒つぶれ気味ながら、暗部・明部とも階調は残っており、たとえば外光に包まれたレースのカーテンにも、コントラストを落とすと模様が現れることが多い。闇夜の河べりのシーケンスでも、黒レベルを適正にすれば、川岸の様子もそれなりに浮き出てくる。

 このシーケンスは目と鼻以外が真っ黒になりがちで、最初にLP-Z2で観賞したときは、経時変化でプロジェクタのランプ輝度が落ちたのかと思ったほど。TH-AE500で視聴したほかのスタッフも同じように感じたそうなので、「最近の液晶プロジェクタは黒がそれなりに出ているんだなあ」と変なところで感心した。

 ともかく、ディスプレイの表現力によってはかなり厳しい画調だが、こういう作品だと考えれば仕方がないだろう。もっとも、最近のリリース作では「ミシェル・ヴァイヨン」などに比べると、まだ節度のある方だ。

 今回はDVD-A11をLP-Z2に接続し100インチ投写したが、DVIよりもコンポーネントの方が、若干マイルドで淡いディテールが表現できた。単に解像感の問題かもしれない。また、プラズマテレビのW32-PD2100だと、元々のダイナミックレンジが狭いためか、LP-Z2ほどとび気味に感じなかったのも面白い。

 MPEGエンコードに起因するノイズも各所で散見される。特に暗いシーンでのチラチラしたノイズや、河の空撮などでのブロックノイズが気になる。MPEGには厳しい素材だったのだろう。ただし、プレーヤーのノイズリダクションで軽減できるレベルなので、一昔前のDVD作品のような、エンコード技術の低さからくるどうしようもないレベルではない。DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレートは6.84Mbpsと比較的高かった。

DVD Bit Rate Viewer 1.4でみた平均ビットレート

 音声はオリジナル(英語)、日本語ともドルビーデジタル5.1chで収録している。ビットレートは英語が448kbps、日本語が348kbps。

 群像ドラマなので派手な音響効果はほとんどないが、室内の反響や雑踏の雰囲気など、場面に応じた臨場感は得られている。セリフも比較的聞き取りやすいこともあって、音声についての不満はない。



■ 秀逸なコメンタリーとインタビュー番組

 本編ディスクには、ティム・ロビンスとケビン・ベーコンによる音声解説も収めている。別収録ではなく、同じ収録現場で録ったもののようだ。名優2人による掛け合いということで期待したが、あまり頻繁に会話を交わすわけではなく、間が多かったのが残念。特に、多くの人が期待していると思う自分たちの演技についてはほとんど語らない。その代わり、イーストウッドの撮影スタイルを細かく分析しており、イーストウッド作品のファンにはたまらない内容となっている。

 まず、2~3テイクでショットを終える仕事の早さに感心しきり。テイク数が少ないので、「リハーサルの繰り返しの中で役作りする役者がいるが、イーストウッド作品では無理。現場に着く前に役作りを終えてないと」、「テイク数もカバレッジも少なかったので、一座という雰囲気があった」などの感想をもらす。ほとんど一発勝負の撮影になるため、俳優やクルーの緊張感はすごいものだろう。現場の様子を2人は「これこそプロの集団」と評し、2人とも「自分の監督作品に取り入れたいが、うまくいかない」とぼやくのが面白い。

 また、「役者はよりよい演技のために時間を気にしない。長時間撮影をノーといえるのは監督の自制にかかっている」、「昔は12時間で長い方だった。今では16時間以上も。外国で撮影することが多くなり、組合が口を出せなくなったのでは」といった議論を展開。

 一方、特典ディスクには「ミスティック・リバーの裏側」(約23分)、「小説から映画へ」(約12分)といった2本の映像特典を収録している。どちらも監督、主演、原作者などへのインタビューを中心に作品を紹介したもの。原作からキャスティング、映像化に着手するまでをつづったもので、出演者それぞれの視点が面白い。ただ、両者で重複するインタビュー映像が多く、まとめて見ると興ざめだった。

 珍しいところでは、「チャーリー・ローズ・ショウ」というインタビュー番組の映像も収録。インタビュアー、チャーリー・ローズがクリント・イーストウッド(約42分)、ティム・ロビンス(約50分)、ケビン・ベーコン(約19分)に対し、作品の見所や出演への意気込みなどを訊く内容だ。

 要するにテレビのインタビュー番組だが、映画の話にとどまらず、彼らの人生観についても訊き出すチャーリーの手腕にうならされた。特に、反戦運動を重ねるティム・ロビンスとは、イラク戦争や国家の責任についても議論を戦わせる。まったく作品に関係ないわけではなく、暴力に対するティムの考えがうかがえる。思わぬところで彼の論客ぶりが観れて良かった。


■ イーストウッド作品のファンなら抑えておくべき

 評判通りの見ごたえのある傑作で、イーストウッド作品のファン、特に「許されざる者」のやるせなさが好きならチェックしておくべき作品かもしれない。また、AVファン向けのディスクとしては、「リファレンス的な高画質ディスク」とはいえないものの、大画面で挑戦しがいのある作品でもある。

 ボストンの地域性や、連鎖する暴力の構図など、(日本人なので)実感としてよくわからない部分も多かったが、連日のニュースを見ると、身近な話になるのもそんなに遠い話でもないのかもしれない。

●このDVDについて
 購入済み
 買いたくなった
 買う気はない

前回の「東京オリンピック」のアンケート結果
総投票数290票
購入済み
10票
3%
買いたくなった
185票
64%
買う気はない
95票
33%

□ワーナーホームビデオのホームページ
http://www.whv.jp/
□製品情報
http://www.whv.jp/database/database.cgi?cmd=dp&num=2102

(2004年7月13日)

[AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]



00
00  AV Watchホームページ  00
00

Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved.