■ ちょっと変わった「海洋アクション」
今回紹介するのは「マスター・アンド・コマンダー」。パトリッジ・オブライアン原作の小説を映画化し、第76回アカデミー賞で2部門を受賞したという。2月の公開時には、爆発的ヒットとはならなかったものの、かなりのプロモーションが行なわれ、テレビで結構紹介されていた記憶がある。 その際は、“ラッセル・クロウ主演の海洋アクション!”みたいな紹介だったかと思うが、監督は「トゥルーマン・ショー」、「いまを生きる」などのピーター・ウィアー。あまりアクション畑の人という印象も無いので、ちょっと変わった作品になっていそう? とりあえず、買ってみることに。 それなりのビッグタイトルと思っていたので、店頭では平積みと予想していたのだが、筆者が買いに行った量販店では棚挿し扱いで探すのに苦労した。もしかしてあまり注目されていない……。 パッケージはデジパック仕様で、本編ディスクのほか、メイキングや未公開シーンを集めた特典ディスクをあわせた2枚組。さらに、あらすじや簡単なメイキング解説などを記載した小冊子も同梱している。価格は4,179円と特典ディスク付きの作品としては標準的といえるだろう。 ■ 英雄ラッキー・ジャックが最大の敵に立ち向かう
1850年。ヨーロッパ征服を狙うナポレオンに対抗するため、英国は海軍司令官ジャック・オーブリーに指令を出す。「フランス軍の武装船アケロン号の太平洋進出を阻止せよ」。 「ラッキー・ジャック」の異名を誇る恐れ知らずのベテラン艦長、ジャック・オーブリー(ラッセル・クロウ)は、若き士官候補生たちと、親友で軍医のスティーブン(ポール・ベタニー)ら辣腕の船員を従えて、アケロン号を追跡する。しかし、サプライズ号の追跡を察知したアケロン号の急襲に遭い、サプライズ号は壊滅的なダメージを負う。 大打撃を負ったサプライズ号。ジャックは、人員、船の性能/戦闘力ともにアケロン号から、劣っていることを実感、敗北を認める。しかし、ジャックは撤退せず、サプライズ号を修理した後、アケロン号を追跡する。 見所はなんといっても、最初の襲撃シーンをはじめとする戦闘シーンの迫力。大波などの大自然の驚異と、圧倒的な敵の兵力を描く戦闘の描写がリアルで、その中で何ができるのか、戸惑い、諦めながらも行動する船員たちの心境が克明に表現されている。中盤の猛烈な風雨に翻弄されるシーンでも、こけおどしのような大音量に頼らない、心理的な切迫感が丹念に描かれているのが興味深い。特にリアチャンネルを効果的に利用した音響のすばらしさは特筆に値する。 戦闘シーンだけでなく、長い航海の間に、船員たちの心や関係性が変化していくさまも丁寧に描かれる。英雄的なジャックと、彼を信頼しながらも揺れ動く船員たち。特に親友でもあるスティーブンとの関係が重視されており、2人の関係が大きくストーリーを揺り動かす。 サプライズ号はアケロン号を追跡し、ガラパゴス諸島までたどり着く。そこは博物学者として活躍するスティーブンの憧れの地でもある。アケロン号追跡という任務を重視するジャックと、島での調査を熱烈に希望するスティーブンとの対立。決定的な危機を迎えながらも、ある種の信頼感を抱き続ける2人の関係が、戦闘や船上の士気も大きく左右する。 また、船員たちの支持を集められなかった若き士官候補生、ホロムが船上での暮らしに耐えられず追い詰められていく様子など、それぞれの登場人物が軍人という任務と周囲の関係の間で葛藤していく様がストーリーに説得力を持たせていく。
■ 強烈な音響が印象的。特典も充実
DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレートは7.10Mbpsと高い。海上が中心ということもあるが、青を基調とした落ち着いた色調が、丹念に作りこまれたセットや衣服、小道具などと相まって19世紀の雰囲気をかもし出す。 明暗差の大きなシーンや水面など、MPEG圧縮に厳しいシーンが多い割にノイズはさほど気にならない。ノイズが皆無というわけでは無いが、総じて高画質といえる。暗部の快調が自然に再現されている点も好感が持てる。
音響もすばらしく、特に船上での戦闘や、暴風雨に巻き込まれるシーンなどの迫力が凄まじい。ビットレートはDTS-ESが768kbps、ドルビーデジタル EXが384kbps。 低音も強烈だが、サブウーファの低域に依存しないスピード感のある爆発音や破裂音、大砲の発射音などがすばらしい。また、吹き飛ばされた船体の破片が、後方で四散する感触などがリアルに表現され、海の上で逃げ場を失う恐怖感をいっそう高めるのに貢献している。 マストが折れて海中に沈み込む感覚や、船の寸前で海中に外れる砲弾の表現もリアリティがある。さらに、階下の医務室での治療中に、上の階であわただしく動き回る船員たちの足音までも再現されており、非常に丹念にサウンドデザインが施されていることが確認できる。リアチャンネルを大々的に活用しながらも、不用意な誇張している印象は無く、リアリティの向上に寄与しているのが印象深い。 特典ディスクには、69分の企画当初からのドキュメント作品「THE HUNDRED DAYS」や、VFXやサウンドデザインを解説した「製作の裏側」、原作小説へのアプローチ、トレーラ、未公開シーン、マルチカメラ撮影などを収録する。 THE HUNDRED DAYSは、ピーター・ウィーアー監督を中心に、スタッフが製作時の苦労を語るというもの。衣装やメイクについての苦労や、時代考証についても説明されている。サプライズ号も実際に再現し、撮影に利用している。サプライズ号は、もともとフランスの船だったが、英国が略奪。数年後には英国色が強くなったことなども考慮されている。また、海軍本部に設計図が補完されていたため、海軍委員会から設計図を入手し、甲板の高さや調理室なども忠実に再現したという。 また、ラッセル・クロウは、「脚本を最初に読んだらピンとこなかったので1度は出演を断った」という。しかし、「ピーター・ウィーアー監督のファンなので、我慢できずやはり出演することにした」とのこと。 面白いのは、製作の裏側というメイキング映像。25分のMAKING OF MASTER AND COMMANDERに加え、30分のVFX解説の「視覚効果の“ナナフシ”」、18分のサウンドデザイン解説と充実している。 「MAKING OF~」は簡単なVFXの解説から、ラッセル・クロウら出演者のインタビュー、ガラパゴスでの撮影の苦労などが語られる。他の特典のおいしいところをよくまとめたもので、特に監督へのスタッフからの信頼の高さが印象的だった。 「視覚効果の“ナナフシ”」は、嵐のシーンや戦闘シーンなど、映画のクライマックスシーンで利用されたVFXについて解説したもの。これらのシーンではCGと模型を使って実現しており、実際の航海の映像と掛け合わせて実現している。 だが、本編中でどれがCGか模型か実物か区別することは非常に困難。使用した模型はアケロン号が1/8、サプライズ号が1/6と巨大なもので、帆の質感まで忠実に再現したというもの。CGの進化にあわせて、模型技術の応用の幅が広がっているという話が非常に興味深かった。 また、戦闘シーンの再現について、「敵が吹っ飛ぶ姿よりも、破片が飛び散る様をきちんと描くことのほうが大事だ」というコメントも、本作の特徴を非常によくあらわしていると感じた。 サウンドデザインでは、砲弾の発射音、飛ぶ音、着弾音などのそれぞれのバリエーションについて語られるほか、本作で非常に印象的だった着弾後の破片の飛び散る音についても解説されている。実際に採用された音は0.5秒に200種類の音を入れたという。 さらに460メートル先のターゲットに向けて大砲を発射した際の砲弾や大砲の発射音などを7本のマイクで収録。それぞれのマイクごとに聞くことができる「サウンド・デモンストレーション」も楽しむことができる。
■ お勧めの良作。テストディスクにもよし
個人的には思った以上に楽しめたし、特典も充実している。4,179円という価格も、購入時にはやや高く感じたが、見終わった後では満足行くものだ。豪快な戦闘シーンもあるが、繊細な人間ドラマと、美しい自然の情景をかね合わせた非常に魅力的な作品になっていると思う。 販売方法やプロモーション的にはやや地味な感はあるが、アクションファンだけでなく、より多くの人が楽しめる作品になっている。もちろん、最新の音響効果を楽しむテストディスクとしてもかなり使えるディスクだ。
□ユニバーサル・ピクチャーズのホームページ (2004年8月3日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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