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第141回:「私は、最愛の妻を殺しました」。
あと1年だけ生きる決心をした理由とは? 「半落ち」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 約半年でDVD化された「半落ち」
半落ち

(C)「半落ち」製作委員会
価格:5,460円
発売日:2004年7月21日
品番:DTSD-02268
仕様:片面2層1枚
収録時間:本編122分
画面:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:ドルビーサラウンド
   ドルビーデジタル5.1ch
販売元:東映株式会社
発売元:東映ビデオ株式会社

 今回取り上げるDVDは「半落ち」。2004年1月に公開された邦画なので、約半年でDVD化されたことになる。劇場公開当時、ベストセラー小説の映画化と、キャストの豪華さとが話題となり、ヒットしたことを記憶している。

 しかし、見る前に「泣ける、泣ける」といわれると、なんだか醒めてしまって、映画館に行きそびれてしまったが、見てはおきたい映画だった。

 そんな記憶が覚めないうちにDVD化されたので、5,460円という、現代のDVDとは思えない価格設定だが、結局購入してしまった。やはり、歴史に残る名作でない限り、世間の記憶が薄まらないうちにDVD化するというは重要なことだなと改めて思う。

 DVDの仕様としては片面2層1枚で、特典も充実しているとはいえない。それが5,000円以上するというのを自分に納得させるのはなかなか難しく、「邦画のDVDは、高額なのは当たり前」となっていることが少々悲しい。それでも、アニメのDVDに比べれば、ましではあるのだけれども……。


■ 実力派キャストが勢揃い

 「私は、最愛の妻を殺しました」。警察学校の指導官、梶聡一郎は、「3日前、妻の啓子を自宅で首を絞めて、殺しました」と交番に自首した。アルツハイマーの妻に懇願され殺してから3日目の自供に、なぜすぐ出頭しなかったのかが警察内部で問題となる。

 しかし梶は、自首までの2日間の行動については口を閉ざし、いっさい語ろうとせず、「完落ち」することを拒む。警察幹部は警察の権威と信頼を守るため、「空白の2日間」を捏造して穴埋めしようと画策する。事件は検察に送られ、裁判が始まる。その裁判は、痴呆の進んだ元裁判官の父を妻とともに介護する藤林判事が、判決文を起案することになった。

 7年前に一人息子の俊哉を、急性骨髄性白血病でに亡くし、寄り添うように生きてきた夫婦に、何があったのか。最愛の妻を殺して、自らも死のうとしていた梶が、あと1年だけ生きようとしている。拘置所での、贖罪と希望への祈りを捧げる日々。どんな犠牲も払い、誹りを受けようとも、あと1年だけ生きようとしている梶の人生は、誰のために生きようとしているのか……。

 横山秀夫の同名小説を、「陽はまた昇る」の佐々部清監督が映画化。小説は、このミステリーがすごい! 2003年版で第1位を獲得し、55万部超えるベストエラーとなっている。原作では男だった新聞記者を、映画では鶴田真由が演じているなどの違いはあるが、総じて原作に忠実な作りになっている。ちなみに「半落ち」とは、容疑を一部自供するも、完全に自供してはいない状態をさす、警察用語。

 作品のテーマの重さもあるが、この映画はキャストがすごい。主役の梶聡一郎を寺尾聡、その妻を原田美枝子、妻の姉を樹木希林、藤林判事を吉岡秀隆。そのほかにも柴田恭兵、西田敏行、石橋蓮司、奈良岡朋子、田辺誠一、國村 隼、伊原剛志、斎藤洋介、鶴田真由、高島礼子、奥貫薫などなど、この映画には知らない俳優は出ていないというぐらいの配役。それも、派手さはなくても実力派といわれる、どちらかというと玄人好みの面々だ。

 ただ、有名な俳優を使えば、既にその人についた色が前面に出てしまいストーリーを伝える上では、デメリットにもなる。しかし、抑えた演出がいいのか、俳優の演技のうまさか、ほとんど気にならず、作品世界にに入ることができた。

 謎解きなどはほとんどないが一応ミステリーなので、ネタばらしになるのであまりは詳細は書けないが、122分という長くはない時間の中に、多くの登場人物たちの心の動きをうまく取り込んでいる。梶聡一郎を「可哀想で、しかたなく殺人した人」で、「許されるべき人」としてではなく、そこに痴呆の父と暮らす藤林判事の心の葛藤も描くことで、観客を考える入り口に導く。苦しく悲しい境遇にあるということで贖罪される。それは、梶自身も望むことではないだろう。判決が下るシーンを見て、そう思った。



■ 法廷シーンの包囲感は上々

 DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレートは6.39Mbps。チャプター数は19。最近の映画のDVD化なので、MPEGエンコードによる荒れも見られないし、画質自体は悪くはない。しかし、全体的に彩度はあるが、フィルムの粒状感を残した絵作り。そこが気になる人がいるかもしれない。

 音声はドルビーサラウンド(ドルビーデジタル2.0ch)と、ドルビーデジタル5.1ch。ビットレートは、それぞれ384kbps、448kbpsとなっている。もちろん映画の内容的に、爆破シーンなどの大音響のシーンがあるわけではないが、法廷シーンでの包囲感などはよくできている。そういった意味では、5.1chで見る価値のあるタイトルだ。

 字幕は未収録。邦画とはいえ、日本語の字幕を収録すれば、楽しめる人が増えると思うので、残念なところ。

DVD Bit Rate Viewer 1.4でみた平均ビットレート

 映像特典は、「劇場予告」(約2分)、「TVスポット」(約30秒)、、「初日舞台挨拶」(約8分、出席者:佐々部清監督、柴田恭兵、吉岡秀隆、鶴田真由、伊原剛志、國村隼、寺尾聰、横山秀夫)、「キャストインタビュー」(9人、約23分30秒)、「命をありがとう」、「ロケマップ紹介」(9箇所)、「キャストデータファイル」(12人)、「ポスターギャラリー」(3枚)。

 動画コンテンツとしては40分弱と、現在のDVDの仕様としては寂しい。映像特典のメインコンテンツは、やはりキャストインタビューだろう。寺尾聰(約1分50秒)、原田美枝子(約1分40秒)、吉岡秀隆(約1分40秒)、鶴田真由(約1分30秒)、國村隼(約1分35秒)、伊原剛志(約1分35秒)、西田敏行(約1分35秒)、 柴田恭兵(約1分40秒)、横山秀夫(約10分10秒)の9人がインタビューに応じている。

 寺尾聰は、「台詞が少ない役ではあるが、口ではしゃべっていないが、いちばん台詞の多かった役。自然に梶にとけて演じられたと自負している」と語っている。また、柴田恭兵が、「初めて走るシーンがなかった作品。いつ走れといわれるかどきどきした。走るシーンがないのが欲求不満」と話していたのが面白かった。

 原作者の横山秀夫は映画化について「映画化は本当にうれしかった。映画との差というのもありますが、シナリオ自体はよくできていた。思わず落涙するシーンもあった」と映画の完成度の高さを評価していた。ただ、それぞれのインタビュー時間が短く、満足感が少ないのが残念だ。

 なお、「命をありがとう」には「本編終了後に、ご覧になることをお薦めいたします」と付記されている。これは、映画に登場する新聞の切り抜きを見ることができる。確かに本編よりさきに見てしまうと、興ざめになってしまうかもしれない。



■ 問題は価格か……?

 邦画として丁寧に作られていて、出演者も真正面から取り組んでいて好感がもてる映画に仕上がっている。ただ、気になったのが、梶の家が広大な大きな庭のある豪邸だったこと。刑事の給料で、こんな家に住むのは無理だろう。もともと資産家なのかもしれないが、作品のなかで説明されていなかったので、違和感を感じてしまった。

 また、森山直太郎の「声」とともに流れる最後の回想シーンを余計に感じてしまった。映画も、森山直太郎の歌も単独ではいいと思うのだが、かなり唐突に感じ、この映画としても最後に回想する必要があったのだろうかと疑問に思った。

 とはいえ、全体を通しては良作で、特に若い人ではなく梶の年齢に近い人ほど、切実に胸に迫るだろう。しかし、良作であると思えば思うほど、DVDとしては価格が高くて、手に取る人がすくなることが残念でならない。

 収録している映像特典も多いとはいえず、5,460円という価格は、邦画のDVDは買うものではなくレンタルするもの、または一部の人達のものという意識を植え付けてしまい、DVD市場を発展させる意味でもよくないと思うのだが……。

●このDVDについて
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総投票数296票
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15%

□東映ビデオのホームページ
http://www.toei-video.co.jp/
□製品情報
http://www.toei-video.co.jp/data/hs/vcatalog_dvd/item/200407/dstd02268.html
□「半落ち」の公式サイト
http://www.hanochi.jp/
□関連記事
【4月13日】「DVD発売日一覧」 4月12日の更新情報
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040413/newdvd.htm

(2004年7月27日)

[AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]



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