■ インパクト大の「快録LUPIN」あらわる
「快録LUPIN(かいろくルパン)」。惜しい。おそらく企画担当者はなんとかして「トウ」と読む録画関係用語を血眼になって探したはずだ。ああ、だけど見つからないよなぁ。普通はそこでこのネーミングを諦めるところだが、「録」の字を当ててまでもルパンにこだわる理由がどこかにあったのだろうか。どうせなら「快録る(かいとる)LUPIN」にしたほうが良かったんじゃないか。キモチ的にはそういうつもりなんじゃないのか。そういう悶えとも苦しみとも付かぬ思いがにじみ出てくるネーミングである。 まあそんなことはともかく、少なくともインパクトの強さで我々の脳裏に深く焼き付いたビクター「快録LUPIN」の上位モデル、「DR-MH50」(以下MH50)が7月下旬に発売された。 前モデル「DR-MH5」のときには、ビクターにお邪魔してインタビューさせて頂いている。そのお話しで印象的だったのは、後発ということを十分意識し、他社に追随商品を作ってもしかたがない、独自のコダワリでやっていく、という割り切りだった。 確かに他社とは違うコンセプトを感じさせたDR-MH5であったが、今回のMH50はその後継機となる。MH5の記事をお読みになっていない方はご一読頂くと、今回の製品もよりわかりやすいだろう。 では早速、「快録LUPIN」の実力を検証してみよう。 ■ シンプルと複雑が同居するボディ
まずいつものように外観からチェックだ。一見して感じるのは、うまく薄型に見えるデザインでまとめたなということ。前モデルではV字型を意識したボディデザインで、スマートさよりも無駄が目立っていた。しかし今回は、高さ70mmと数字的にはさほどでもないが、ボディの下部に段差を付けてしぼり込むことで本体が浮き上がったように見え、数値以上の薄さを演出している。
フロントパネルは、正面からみるとV字にしぼり込まれており、ビクター製品共通のイメージを踏襲した形だ。ただ本体部とフロントパネルの接合部の形状にすんごい無理があり(特にサイド下部)、なにもそこまでしてV字型にこだわることないと思うのだが。本体部がかなりすっきりしているのに、残念だ。 パネル構成はオーソドックスで、左側にステータスディスプレイ、センターにDVDドライブ、右側にボタン類と外部入力端子がある。ドライブはDVD-R 4倍速、DVD-RW 2倍速、DVD-RAM 3倍速。今回はDVD-RAMも、カートリッジタイプが使えるようになっている。
ドライブのベゼルにはLEDのイルミネーションが埋め込まれているが、これが結構派手派手で、ちょっと安っぽい。なおこのイルミネーションは、基本機能設定の「ディマー」で消灯も含め4段階に調整できるが、同時にステータスディスプレイも暗くなってしまうのが難点。 ボタン類は小ぶりで、走行系とHDD、DVD切替のみ。先週の東芝RD-XS53もそうだったが、チャンネル切替などの操作は、本体ではできなくなる傾向にあるようだ。HDD、DVDの切り替えボタンにもイルミネーションが仕込まれているが、これはディマー設定に関係なく一定。 ボタン下部の外部入力端子は、DV入力まで備えている。ただしこのフタが、指をひっかけて開ける部分だけがかなり薄くなっており、ツメの閒に入ってエラく痛い思いをすることがあった。フタの他の部分はそこそこ肉厚なのに、人が触る部分だけがこんなに薄いのは、デザイン的な詰めが甘いと思われても仕方ないだろう。
背面に回ってみよう。チューナはアナログ地上波のみの1チューナとシンプル。前モデルのMH5はダブルチューナ仕様で、HDDとDVDに別の番組が録画できたのだが、コストの問題か今回止めてしまったのは残念だ。それでもGRTを装備しているのは、画質へのコダワリであろう。 AV入力は前面と合わせて3系統、出力は2系統のほか、D2端子と光デジタル出力端子を備えている。このあたりは平均的スペック。ビデオコントロール端子は、ビクター製のデジタルチューナなどと連動させるための端子だ。AVコンピュリンクは、ビクター製のAVアンプやテレビと接続して、電源の入切や入力切り替えなどを自動化するのに使われる。 リモコンも見ていこう。銀色のパネルにグレー、淡いブルーのボタンが並ぶテイストは以前と同じイメージだが、十字キー周りがミョーに盛り上がっていた前モデルにくらべて、スマートになった。ボタン類はさほど多くなく、機能的にもシンプルな印象を与える。 フタを開けると、現在位置などを画面に表示する「画面表示」や「表示切り替え」などのボタンがある。市販DVD特有の音声切替や字幕、アングルといったボタン類もここにある。
■ わかりやすく生まれ変わった操作系
では中味のほうを見ていこう。筆者宅のようなCATV環境の場合、チャンネル設定で地域設定を行なっても、U局は自分でカスタマイズしないと、番組表と受信チャンネルが合わない。 本機はこのあたりの設定が、非常に楽だ。「番組表チャンネル設定」から放送局名を選ぶだけで、コードなどを打ち込むことなく設定できる。変更の可能性のある局は地域設定からしぼり込んで表示されるので、放送局の選択も煩雑さがない。
ただ挙動に問題があって、局名変更後に「設定」ボタンでダイレクトに設定画面を抜けてしまうと、設定が記憶されなかった。「戻る」ボタンで初期設定のメインメニューまで戻れば、記憶されるようだ。その他の設定では「設定」ボタンでダイレクトに設定を抜けても記憶されている。そういう仕様なのかバグなのか、微妙なところだ。ちなみにマニュアルには、「設定を押して終了する」とあるので、やはりバグっぽい。
本機の特徴は、常時さかのぼり再生が可能なところだ。これはHDDに一定のバッファ領域を確保することで、視聴中のチャンネルを常にループレコーディングし続ける機能だ。電話や来客などでテレビ視聴を中断するときも、特にボタンなどを押す必要もなく、用事を済ませた後、さかのぼり再生ができる。 デフォルトでは切になっているが、バッファサイズを30分、1時間、3時間から選ぶことができる。ただしこの機能を有効にすると、チャンネルの切替に6秒ほどかかるという弊害が出る。
画質に関しての設定、例えばNRや3次元Y/C分離の調整などは何もない。ただお好み設定みたいなのが選べるだけである。だがそもそも画質に関しては、ビクターは初期の製品からかなりこだわっており、本機もS/Nがよく、解像感は高い。新開発だという録画時の「モーションアクティブNR」、再生時の「モーションアクティブプログレッシブ」がかなり効いているようだ。 また前回同様、長時間モードでも画像面積を落とさない、粘り腰の設計に変わりない。従来のレコーダは、DVDビデオに高速ダビングできるよう、録画時からDVDビデオフォーマットに合うよう録画レートを設定している。そのため長時間のLPモードでは、すぐにHalf D1サイズに落ちてしまう。 だがビクターは録画レート設計をDVD VRフォーマットに合わせているため、3/4 D1や2/3 D1といった細かな段階の画面サイズを駆使して、長時間モードでも解像度が下がらないようになっている。
■ 個性的な録画予約まわり
本機ではGガイドによる番組表機能を搭載している。番組表はもはやレコーダではお馴染みの機能となり、差別化の要因ではなくなってきているが、各メーカーとも検索やジャンル分けといった部分に特色がある。 本機の場合、番組表示はオーソドックスだが、予約の重複があればその場でどちらの予約を優先するか選択することができるなど、イマドキの機能もしっかり入れてある。
スポーツ延長機能は、野球などで放送時間がずれる可能性がある番組は、最大で2時間自動的に延長して録画してくれる機能だ。9時からのドラマを見逃したくない人には便利だろう。ただ、お借りした機材では、XPで予約したにもかかわらず、延長機能対象番組がEPで録られてしまうということが一度だけあった。 変わっているのが、毎週予約の設定だ。前モデルから「上書き録画」機能があったが、今回は選択肢がなく、必ず毎週上書き録画するように仕様が変更された。まあ1週間以内に必ず見るなり、DVD-RAMなどに追記保存するなりの作業をする人には便利かもしれないが、ある程度HDDに貯めてからまとめてDVD-Rにしたいという人には、不便な仕様だ。
一応タイトル名一覧から「上書き保護」指定もできるのだが、これは次週の上書きを保護するだけで、ずーっと残しておくためには毎週毎週録画時間を過ぎるたびに、上書き保護設定をやり続けなければならない。マニュアルには、2回目以降の上書き保護ができないときは、毎週予約を止めるよう書かれているが、それはHDDレコーダとしてあんまりだろう。
番組の検索機能は、「予約ナビ」から使うことができる。ジャンル検索では、映画、ドラマなど6ジャンル、さらにサブジャンルなどがある。検索自体はあまり早くなく、件数の多いドラマ全般などを選ぶと、30秒以上はかかる。 キーワード検索は、単発の検索に使える機能だ。だが人名などのデータベースがあるわけでもなく、日常的に使う機能とは言えない。もっとも検索に関しては、本機特有の「お知らせ」機能があるので、あとでご紹介しよう。 番組記号検索は、今までになかった新しい切り口だ。番組表に含まれている略号を検索しようと言うわけである。今までの検索でも、新番組などを検索すれば結局はこの略号を頼りに探していたわけだが、その略号をそのものをダイレクトに検索対象にする考え方が面白い。
ではおまたせ「お知らせ」機能だ。これは言うなれば、ジャンル、キーワード、記号の複合検索なのだが、設定を8つまでプリセットできる。設定条件は3つまでで、AND/ORの切り替えもできる。ただし、「1と2の条件はANDで3はOR」のような複雑な設定はできない。 検索結果は「一覧」から見ることができるほか、電源を入れたときに新しい検索結果があれば、ポップアップして知らせてくれる。自動録画まではできないが、自動検索機能として便利に使えそうだ。
■ ダビング機能をさらに強化
HDDからDVDのダビングでは、前モデルでは無条件に再エンコードになっていたが、今回は高速ダビングにも対応し、合計3モードが選択できるようになった。「ぴったり」はDVDメディア1枚にピッタリ収まるよう再エンコードレートを自動調整する。「お好み」では、自分でレートを選択することができる。 高速ダビングに対応した点は新しいが、すべての条件で可能なわけではなく、特にDVDビデオフォーマットへ書き込むときには制限が多い。音声多重番組、録画モードがLPモードのもの、録画モードがFR155~240で録画したものは、DVDビデオフォーマットの規格に入らないので、再エンコードとなる。またプレイリストや分割、さかのぼり録画した番組は、編集点が存在するため再エンコードとなる。 ビクターのレコーダの特徴は、なんと言っても再エンコードを逆手に取った高画質ダビングである。今回はさらに機能を強化し、番組録画時を1pass目として、ダビング時の再エンコード時に2passを行なう「インテリジェント2パスエンコード」を搭載した。発想としてはソニースゴ録の「ダイナミックVBR」と同じだ。だが「インテリジェント2パスエンコード」では、IフレームとPフレームを固定することで劣化を抑えているという。 編集機能としては、番組の前後を分割して削除する程度しかできない。しかし自動CMスキップやプレイリスト作成機能があるため、ダビング用の編集には困ることはないだろう。
プレイリスト編集では必要部分を選択するわけだが、ここでも自動CMスキップ機能が利用できる。CM開けのポイントまでスキップボタンで飛ばせるのは、効率的だ。また微妙な編集ポイントを探るときに、いったんポーズにして早送りボタン連打でコマ送り、押し続けるとスローという操作法はなかなか便利だ。 編集ポイントのやり直しも、この画面内で行なうことができる。映像のレスポンスもなかなか良く、編集のやりやすさには好感が持てる。
■ 総論
発表当初、MH50は店頭予想価格116,000円前後と言われていたが、すでにネットでは8万円台にまで落ちてきている。下位モデルのMH30もあるのだが、こちらはEPGがないので、どうせならやはりMH50にすべきだろう。 本機の特性から考えると、HDDに録り貯める派よりも、DVDに残す派に便利なレコーダだと言える。毎週上書きはかなりしんどい仕様だが、それだけマメに保存する人向けへの決め打ちということなのだろう。また再エンコード結果はかなり満足いくもので、映画をDVD1枚にという用途なら、XPで録画後プレイリスト編集、ぴったりダビングで保存といった一連の流れでOKだ。 1.5倍再生機能も装備しており、音声の再生も悪くない。早口になるので聴き取りにくくはなるが、先週取り上げたRD-XS53の早見機能よりはいいと感じた。
操作性に関しては、メニューの切り替え時に若干待たされる感じがあるが、設定を含めて極力簡素化しようという方向でまとめられており、好感が持てる。さらに「お助けガイド」というヘルプも搭載し、使い方に困っていちいちマニュアルを引っ張り出すということもない。 前モデルのMH5のように、解像度が星マークでわかるようなマニアックさは減少したが、機材に詳しくない人が使っても、とりあえず画質に関して不満はないというのがこのマシンの位置づけだろう。これでビクターの腰の落ち付け所が見つかったというところだろうか。 ただ動作に関しては若干不安定な部分も残っており、筆者がテストしている間にも、番組表をスクロール中に本体のステータスLOADINGという表示になり、出力画面がブラックアウトするというエラーが見られた。また予約録画が終了しても録画中の表示が消えず、操作を受け付けなくなるという現象も見られた。おそらく近日中に、アップデータなどの発表があるのではないかと思われる。 むろん最初からバグなどないに越したことはないが、すでにレコーダとは、昔のVHSのようにキカイがガッチャンコガッチャンコ動くだけのものではない。初期段階で不具合が見つかることは、さほど珍しいことではなくなってきている。 だが不具合があることを公示して真摯に改善に取り組む企業姿勢も、我々消費者はウォッチし、購入時の判断材料としている事実を今一度確認しておきたい。競争が激化するレコーダ業界の中で、この個性的なシリーズをいかに育てていくか、これからがビクターの正念場だろう。 □ビクターのホームページ (2004年8月11日)
[Reported by 小寺信良]
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