■ シンプルな構成で極限までコストを削減
今春からテレビ向け液晶パネルの供給過剰がとりざたされている。しかし、大手家電メーカー製の大型液晶テレビは依然として高価で、期待するほどの価格下落には陥っていない。ただし、ディスプレイメーカーの話によると、パネル単価は着実に下がっており、在庫を抱えたメーカーや流通にとって、厳しい状況になりつつあるという。 そんな中、パソコン用液晶ディスプレイなどを扱うイーヤマ販売が、格安の液晶テレビを発売した。第1弾は20V/27V/30V型の3モデルで、取扱店のOAシステムプラザでは、20V型が69,800円、27V型が158,000円、30V型が198,000円と設定されている。特に30V型の価格設定は、一部の専売品や肩落ち品を除けば、類を見ない安さとなっている。 安さの理由の1つは、「地上デジタルチューナ非搭載」という点だろう。現在、大手量販店などの売り場において、「地上デジタル内蔵」を謳わない薄型テレビは、販売上かなり不利な立場といえる。しかし、外付けの地上デジタルチューナを持っている人や、CATVのトランスモジュレーションでデジタル放送を見る人も少なからず存在し、必ずしも地上デジタルチューナがすべての人に必要というわけではない。 また、PCディスプレイメーカーにはパネルの調達力、PC用ディスプレイとの部品共用など、家電メーカーとはまた違った強みを期待できる。イーヤマ販売の新製品は、そうした新しい流れを感じさせる。 テレビチューナ付きPCディスプレイを数多く発売しているiiyamaだが、今回の製品では「e-yama」というブランドネームで「テレビ」を謳う。今回、最もコストパフォーマンスに優れる30V型の「30TE1-S」を検証した。
■ 割り切ったデザインと機能
デザインはシルバーを基調としたシンプルなもの。家電メーカーの液晶テレビは、素材感を大事にした高級なデザインに代わりつつあるが、本機の場合、とりたてて凝った見た目ではない。よく言えば飽きのこない、悪くいえば印象に残らないデザインといえる。
チューナ一体型のデザインを採用し、スタンドも出荷時に取り付けられている。ディスプレイ部は左右にスイベルが可能。中央にクリック点を設けており、容易に中央に戻すことができる。神経質な人にはうれしい配慮だ。ただし、チューナ一体型のため、スイベルを多用するなら、本体に接続した各種ケーブル類の長さに注意したい。
入力端子は、ディスプレイに正対した状態で、右にビデオ系、左にPC系をまとめている。ビデオ系は、D4、コンポーネント、S映像、コンポジットを各1系統装備。PC系はアナログRGBが1系統。モニター出力はない。 この画面の大きさになるとD4入力はたいてい2系統あるので、環境によっては少々物足りないかもしれない。また、HDCP対応DVI入力やHDMI入力といったデジタル入力も欲しかったところだが、コストとの兼ね合いもあり、難しかったのかもしれない。 音声入力は、ビデオ系がRCAを4系統、PC系がステレオミニを1系統を搭載。なお、音声出力としてアナログ2chとサブウーファプリアウトを1系統備えている。
リモコンは一見スタイリッシュで豪華に見えるデザイン。しかし、使わないボタンが2カ所あり、さらにスライド式カバーの中が空っぽだったりと、ほかの機器からの流用を想起させて少々興醒めだ。スライドカバーを廃したり、ボタンを取り除くことも可能だったと思うが、それすらも諦めるほど、流用によるコストダウンを徹底させたのだろう。 リモコンにはチャンネル用のテンキーが1から12まであり、音量、チャンネルも右側にまとめられて使いやすい。入力切替も「D4」、「YPbPr」(コンポーネント)、「テレビ」、「S-ビデオ」、「AV」(コンポジット)、「PC」と、全系統を独立ボタンで備えている。ただし誤操作を防ぐためか、電源やメニューボタンは、若干長押し気味でないと反応しないのが気になった。
電源ONから映像が出るまでは約2秒程度と高速。デジタルチューナを搭載していないためだろう。現在の薄型テレビの水準から考えると十分に早い。 GUIは全般的に、チューナ付きPCディスプレイのようにシンプルにまとめられている。デジタルチューナ周りのややこしい設定を行なう必要がないため、誰でもすぐに利用できる。ただし、デジタルチューナ非搭載ということは、デジタル放送を見る際、デジタルチューナのリモコンに持ち代える必要が生じるなど、内蔵モデルに比べて若干の面倒くささも覚悟したい。 また、AV機器のリモコンには、テレビを操作するため、テレビ用リモコンコードをプリセットしていることが多い。その場合、国内大手メーカーのコードは網羅されているが、本機のリモコンコードがプリセットされている確率は低そうだ。学習リモコンをシステムに追加するなど、ユーザーが使い勝手を工夫する余地も多い。
■ 満足できる画質。視野角も広い
画面輝度は500cd/m2。白を表示させるとまぶしいぐらいに明るく、輝度ムラもほとんどない。色温度は高目になっている。ビデオ入力時に色温度を変えられないのが残念だが(PC入力時は可能)、慣れればさほど気にならなかった。パネルメーカーは明らかにされていない。 画質関連の設定項目は、「コントラスト」、「明るさ」、「色」、「色合い」、「シャープネス」、「ノイズフィルター」の6つ。「色」はいわゆる「色の濃さ」で、シャープネスは5段階、ノイズフィルターはON/OFFを選択する。なお、「シネマ」、「ダイナミック」などのよくあるメーカープリセットはない。 DVDプレーヤー(DVD-A11、D2出力)の映像の場合、初期設定から明るさ、コントラスト、色の濃さをデフォルトから少し下げるだけで、肌色が好ましく表示されるようになった。ソースによって原色が若干パステル調に振られることと、色温度の高さを除けば、色再現で不自然さを感じることはなかった。 パネル解像度は1,280×768ドット。DVDビデオの精細感は高く、1mほど離れるとアラは見えない。斜め線もほとんどのシーンで滑らかに処理されており、ジャギーが気になることはあまりなかった。パネルの応答速度は16ms。残像は高速なパンなどで若干知覚できる程度で、はっきりわかったのは、ハイビジョン放送のサッカー中継だけだった。 視野角は公称で上下左右170度。正面から左右に回り込むと、100度くらいでコントラストが少し落ちるが、色変化は発生しない。真横の部屋から覗き込むようなケースでなければ、十分実用になるだろう。
明部の階調は多少大味に感じた。コントラストや明るさを下げても、グレースケールの100%と90%の差を描き分けられなかったからだ。そのため明るさを少し下げないと、映像によっては白とび気味になりやすい。一方、暗部側は明るさを数段上げることで、2%刻み程度での細かい階調表現が可能。ただし明るさを上げると、映像内容によっては黒浮き気味になるケースもあった。 松下電器製のSTB(TZ-DCH500)から出力したハイビジョン映像(1080i)も高精細で、ハイビジョンの美しさを十分堪能できる品質だった。DVDビデオよりも階調が豊かに感じられ、パネルの実力をいかんなく発揮している印象。今回は主にアテネ五輪の新体操やサッカー中継を視聴したが、細かい描写に見入ってしまった。こうした映像内容なら、色温度の高さも気にならず、むしろすっきりとした印象を受ける。 総じて、画質に関しては安心できるレベル。確かに、最近の大手家電メーカー製の液晶テレビに比べると、ダイナミックレンジ、とりわけ黒の沈み込みが弱いものの、20万円を切る価格を考えると満足できる範囲だ。
■ 30インチワイドのPCディスプレイにも
PCとはアナログRGB(D-Sub15ピン)で接続する。DVI入力はない。入力解像度のうち最も美しく表示されるのは当然、ドットバイドット表示になる1,280×768ドットだ。PC側からこの解像度を出力できない場合は、1,024×768ドットもリアル表示として代用できる。その場合は4:3で表示し、画面の左右に黒帯が付く。ビデオ入力やテレビ表示と同じく、4:3の画面をディスプレイ一杯に引き伸ばして表示することも可能だが、PC用途では使いどころが難しい。 テレビからPCモードへの切替は、リモコンの「PC」ボタンを押すだけ。約1秒ほどでPC画面に切り替わる。画質は、まぶしいくらいに明るく、コントラストも高い。テキストも、画面サイズの大きさを考えると比較的くっきりとして見やすい。画質的には、普通にPCディスプレイとして使えるレベルだ。 反面、画面サイズと筐体が大きいため、使い勝手は一般的なPCディスプレイとは多少異なる。というのも、画面全域を視認するには1mほど離れる必要があるからだ。また、横幅の広さから、机の上に置くのも難しい。常識的にはリビングに設置し、メインはテレビ、場合によっては家族共用のPCディスプレイ、という使い方がしっくりくるのではと思う。 PCディスプレイの特徴を色濃く残すのが、PinP(ピクチャーインピクチャー)機能だ。子画面の大きさは5段階に変更でき、表示位置は四隅+中央の5カ所を選択できる。これらの操作はすべてリモコンから可能で、リモコン上部にはPinPモードにする「サブ画面」、子画面内の信号を選択する「入力信号」、子画面のサイズを変える「サブ画面サイズ」、子画面の位置を変化させる「サブ画面位置」といったボタンを独立して配置している。なお、子画面にPC画面を設定することも可能だ。 このようにPinPは充実しているものの、ワイドテレビによくあるSide by Side(横2画面表示)や、マルチ画面(主画面+子画面4つなど)が用意されていないのが残念。個人的には、ワイドテレビでは横2画面の方が使いでがあると思うので、ぜひ対応してほしかった。また、貸出機だけの問題かもしれないが、PC入力時に「ブーン」という軽いハム音が鳴っていたのが気になった。
■ まとめ
私の所有する日立製の初代32V型プラズマテレビ「W32-PD2100」に比べると、明るさ、コントラスト、ダイナミックレンジ、色再現、輪郭処理など、画質におけるすべての面で本機の方が秀でている。それでて価格は半額以下なのだから、薄型テレビを取り巻く市場環境の早さに驚くばかりだ。 確かに、大手家電メーカー製品と同じ視点でみると、リモコンをはじめモノとしての「こだわりの低さ」が気になるかもしれない。画質面でも、ダイナミックレンジなどで大手メーカーの最新モデルに今一歩およばない印象。そのため、薄型テレビにステータス性を求める人にはあまりお勧めできない。 しかし、PC周辺機器的な機能・コストパフォーマンス重視の視点で見ると、かなり魅力のある製品となる。デジタルチューナは非搭載で、PinP機能を装備するなど、どちらかといえばPCユーザーを意識した製品ともいえ、実際にOAシステムプラザでは、ホワイトボックスPCとの組み合わせも用意している。テレビとしても利用できるが、PCをはじめ、さまざまな機器のモニターとして使い倒すのが面白そうだ。そういう意味でも、HDMIやDVI入力がないのは残念だ。 購入者にとって一番の問題は、視聴できる店舗が少ないことだろう。現在のところ、OAシステムプラザが唯一の取り扱い企業だが、9月10日ごろには九十九電機でも販売が始まる予定だ。常設展示になるかは未定だが、気になる人は実物を確認してほしい。
□e-yamaのホームページ (2004年9月2日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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