大河原克行の
【第1回:東芝】全社方針を「映像の東芝」への飛躍に
■ データネットワークから「映像ネットワーク」へ移行
東芝が、「映像の東芝」の復権に向けて立ち上がった。 そして、その復権の切り札となる技術や製品が、同社創立130周年を迎える2005年に、一気に市場投入されることになりそうだ。 東芝・岡村正社長は、先頃開催された2004年東京国際デジタル会議の講演のなかで次のように切り出した。 「アテネオリンピックでデジタル家電の需要は上向いたといわれるが、私はそうではないと考えている。むしろ、アテネオリンピックを契機に、21世紀の新たなデジタルネットワーク時代の幕開け、ユビキタス時代の入口に到達した段階だと考えている。そして、こうした新たな時代の到来は日本の優位性が発揮できる時代になってきたともいえる」。 すでにデジタルネットワーク時代は、到来している。だが、岡村社長は、20世紀のデータネットワークの世界から、映像ネットワークの世界への変化することが、21世紀のデジタルネットワーク時代の本質だと断言する。 「Windows 95以降、インターネットによって我々の生活や企業活動は大きく変化した。だが、それはデータのやりとりによるネットワーク。21世紀は、データだけでなく、映像をネットワークする世界になる。映像の技術蓄積を持つ当社の強みが発揮できる」と断言する。 東芝は、今年4月、2006年度を最終年度とする中期経営計画を発表したが、このなかで成長戦略と位置づけられるデジタルプロダクツ事業において、パソコンととも映像機器を新たな成長の柱とし、「映像の東芝」への飛躍を全社方針として打ち出した。 東芝が、映像事業に力を注ぐ背景には、同社が持つ各種技術が映像分野に大きな威力を発揮し、それが、次世代をリードする製品の活用される基幹技術となりうると判断しているからだ。 すでに、今年7月に発表したパソコンの「Qosmio」は、ノートパソコンにテレビ事業で培った映像技術を組み合わせ、パソコンを持ち運ぶことで、屋外にも優れた映像技術を持ち出すことが可能になった。 今後、携帯電話などにも東芝の映像技術が活用されることになり、あらゆる製品分野で「映像の東芝」というイメージが培われることになりそうだ。 「映像の東芝を実現するためにはなにが重要か。それは、事業部門間のシナジーだといえる」と岡村社長は話すが、それが実現することによって、テレビやDVDレコーダーといったAV製品のみならず、東芝ブランドのあらゆる製品において、「映像の東芝」が形づくられることになる。
■ 技術を生かすためマーケティング力の強化に期待
映像の東芝を実現するための技術は、今後目白押しだ。 ここにきて、急速に注目を集めているHD DVDは、いよいよ規格が固まりはじめるとともに、部品供給などの分野で三洋電機が参加を表明し、外に向けてのアピールが始まっている。 「既存のDVDとの互換性という点では、HD DVDが優位であり、ユーザーの利便性もある。その点を浸透させたい」と岡村社長は話す。 2005年には東芝からHD DVDプレーヤーが発売される予定で、Blu-Rayとの規格争いが本格化するだろう。 一方、究極のブラウン管テレビと呼ばれる「SED」(Surface-Conduction Electron-Emitter Display)による薄型テレビも2005年には製品が投入され、2006年には量産化がはじまる。東芝がキヤノンとの共同開発で進めているSEDは、液晶が弱点とする応答性、プラズマが弱点とする消費電力といった問題を解決するとともに液晶、プラズマよりも薄型が可能になるなどの特性があり、東芝は、37インチ以上の大型テレビは、SEDによって製品ラインアップを進める計画だ。 また、0.85インチのHDDは、2005年にも4GB版の投入が予定されており、現行の1.8インチHDDに比べて4分の1となる大きさ、10g以下となる軽量化であらゆるモバイル機器に搭載されることになりそうだ。モバイル機器の映像技術の進化にも大きな威力を発揮することになるだろう。
同時に、モバイル分野における映像の東芝を下支えするのが燃料電池だ。これも2005年の投入が予定されている技術で、世界最小という強みを生かして、モバイル環境での長時間の高画質再生などに貢献するのは間違いない。 燃料電池の普及阻害要因としては、航空機への持ち込み規制があるが、「航空機への持ち込み規制が緩和されるように努力をしたい」(岡村社長)と、阻害要因の排除にも余念がない。 そのほかにも、有機ELや、デジタルカメラに搭載する小型CMOSなどの新技術が2005年に投入される予定であるほか、その動向が業界内外から注目を集めているソニー、IBMと共同開発中のCELLも2005年にはいよいよベールを脱ぐことになる。 「ソニーはエンターテイメント分野に、IBMはサーバー分野にCELLを活用することになる。当社は、デジタル家電分野にCELLを活用していきたい」と岡村社長は話す。 このように、2005年には、「映像の東芝」を実現するための技術、製品が相次ぐことになりそうだ。 もともと技術力には高い評価を得ている東芝だが、やはり、気になるのは、それをナンバーワンに引き上げるためのマーケティング力不足。2005年以降の「映像の東芝」に向けた技術的な側面からの準備は整いつつあるといえる。だが、技術面だけの優位性を誇っているだけでは、勝ち組とはなり得ない。 技術力に追いつく、マーケティング戦略の創出が急務だ。 □東芝のホームページhttp://www.toshiba.co.jp/ □関連記事 【7月30日】東芝、第1四半期は収益性を改善、中間期を上方修正 -パソコンと携帯電話が貢献、RDシリーズはシェア15.3% http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040730/toshiba.htm (2004年9月7日) [Reported by 大河原克行]
|
|