大河原克行の
【第2回:三洋】基幹部品の強みを生かすデジタル家電事業
■ デジタル家電は日本の企業が強みを 発揮
三洋電機の強みは、同社が持つ数々の要素技術にあるといっていいだろう。そして、それはデジタル家電時代に突入したことで、さらに威力を発揮することになりそうだ。三洋電機の桑野幸徳社長は、最近こんな言葉をよく口にする。 「デジタル情報家電の時代は、日本の電機メーカーが競争力を発揮できる時代だ」 先ごろ開催された国際デジタル会議の講演のなかでも、桑野社長はこの言葉を持ち出した。 「パソコンは米国主導、携帯電話は欧州主導ですすんでいる。だが、デジカメ、薄型テレビ、DVD、カーナビといったデジタル情報家電分野では、日本の優位性が発揮できる。日本発の技術によって日本が巻き返しを図る大きなチャンスが訪れた」 また、こうも語る。 「日本の電子産業の規模は約20兆円。デジタル家電時代になったことで、これを2010年には30兆円にまで拡大することができるだろう」 桑野社長がこう語る背景には、デジタル家電を支える基幹部品の多くを日本が有していることが見逃せない。液晶やプラズマといった技術に加え、デジタル家電の心臓部となるシステムLSI、そのほかにも、電池やCCDといった分野で優位性を発揮する。これらをブラックボックスとして、日本のメーカーならではの技術として囲い込むことや、日本が得意とするすり合わせ(製品や技術の融合)によって創出される新分野の製品によって市場の主導権を握れるというわけだ。 「デジタル情報家電時代において、その基幹技術、基幹部品を有する強みは海外にはないもの。部品の事業は、麦のように何度踏まれても、自ら立ち上がって成長するという耐えるビジネス。そして、多くの時間がたってから花が開くもの。すぐに追いつけるようなものではない」と桑野社長は胸を張る。 そして、「これはメイド・イン・ジャパンからメイド・バイ・ジャパンへの転換だともいえる」というわけだ。
■ 部品に強みを見せる三洋電機 三洋電機も、ここにデジタル家電分野における優位性を見出そうとしている。
実際、三洋電機には、強い部品がいくつもある。二次電池では、ニッカド、ニッケル水素、リチウムイオンなどで全世界30%~60%のシェアを獲得。これらの技術はデジタルカメラや携帯電話などのモバイル環境で利用する機器で数多く採用されている。'99年以降はポリマー電池の事業にも本格的に乗り出し、電池事業をさらに拡大させている。 また、光ディスクプレイヤーに採用されている光ピックアップでは世界40%のシェアを得ている。最近では、HD DVDなどに採用される青紫色レーザーも開発。「次世代光メディアで勝負をかけたい」と意欲を見せる。 そのほかにも、導電性高分子コンデンサー(POSCAP)では世界40%のシェア、デジタルカメラ向けの低温ポリシリコン液晶では世界45%のシェアを獲得しているという。ディスプレイの分野では、今後は有機ELにも積極的に乗り出す考えである。
「基幹部品、キラー部品と呼ばれるものを有することで、世界の市場をリードできるようになる」と、桑野社長はデジタル家電時代での事業拡大に強い意欲を見せている。
■ セット分野でも差異化商品を投入 三洋電機の売上高を見ると、2003年度実績で、AV・情報通信が46.5%であるのを筆頭に、電子デバイスで19.2%、電池で13.6%というように、約80%が同社がいうところのデジタル家電関連になっている。白物家電の電化機器は9.6%、産業機器は7.5%に過ぎない。 デジタル情報家電関連の売上高は'99年には70%の構成比だったのに比べると、4年で10ポイントも上昇しているのがわかる。それだけ三洋電機の強みをデジタル情報家電分野で発揮しようとしていることが伺える。 この数字からもわかるように、三洋電機の強みは、部品分野だけではない。セット商品と呼ばれる最終商品でも実績を上げている。 「デジタル情報家電のセット商品は約10年前から参入したが、ようやく6,000億円程度の実績があがってきた」と話す。
それを支えているのが「デジタルカメラ」、「液晶プロジェクタ」、「携帯電話」の3分野だ。携帯電話は、CDMAに特化した世界戦略を前提とし、2003年度実績で3,477億円の売上高を計上した同社デジタル家電事業のリーダー的存在。FMラジオチューナ機能を搭載したり、世界初の骨伝導スピーカーを搭載したりといった独自技術のいち早い搭載による差別化に加え、UMTS/GSMデュアルモード対応の第3世代グローバル携帯電話の早期投入によって、他社との差別化を図る考えだ。
「携帯電話では、1セグメント受信モジュールを搭載した地上波デジタルテレビ対応電話を開発した。ここには、受信モジュールだけではなく、CCDツインカメラ、2.2インチアクティブ型有機ELディスプレイといった当社ならではの技術を盛り込んだ」と桑野社長は語る。 一方、デジタルカメラは、2003年度実績で2,230億円の実績を誇り、今後、ムービーの分野に積極的に展開することになる。もともと三洋電機のデジタルカメラ事業は、ムービー事業からの撤退という暗い過去からの出発であった。当時を振り返り桑野社長は次のように語る。
「かつて8mmビデオムービーの事業をやっていたが、当社の独自技術の強みを発揮できないことから、差別化ができず、競争力がなかった。だが、そこで培った技術をなんとか応用したいということで、デジタルカメラ事業に転換した。ここ数年は急速な勢いで事業が伸びてはいるが、過去10年間を振り返ると、なんとか持ちこたえたという言い方もできる。だが、いよいよムービーとして展開できる時代になってきた。いつかはムービーに戻りたいと思っていたが、それがようやく実現できる」
もともと同社のデジタルカメラには、動画機能が搭載されていたが、それがXactiシリーズの投入によって、一気に定着。最新版の「Xacti C4」ではVGA以上のムービー記録画素を持つ手ぶれ補正搭載デジタルビデオカメラとしては世界最小となるデジタルムービーカメラを実現した。まさに同社が掲げる「Still & Motion」を高い次元で融合した製品だといえる。 「今後は、シリコンムービーにこれまで以上に積極的に挑戦したいと思っている」と意欲を見せている。 ちなみに、デジタルカメラの商標は三洋電機が持っているのは知る人ぞ知る事実。現在、デジタルカメラでは全世界で23%のシェア、OEMを含めて約3割のシェアを持つが、ムービーデジカメの展開によって、このシェアをさらに引き上げたい考えだ。
■ ホームネットワークはiReadyで展開
デジタル家電時代に見逃すことができないのが、ホームネットワークの環境だ。これに対する三洋電機のひとつの回答が「iReady」による取り組みとなる。 iReadyは、シャープ、東芝、三菱電機と共同ですすめている白物家電を中心とした接続規格だが、「家電とセキュリティを統一的に実現する環境は日本だからこそできるもの」と、同規格の普及に力を注いでいる。 このように三洋電機のデジタル家電戦略を見てみると、その事業のベースとなっているのは同社独自の部品、技術だといえる。そして、世界展開を前提とした戦略を明確に打ち出している点が特徴だ。 基幹部品の強みをいかに維持することができるかが、そのまま三洋電機のデジタル家電事業を左右することになるのは間違いない。
□三洋電機のホームページ (2004年9月14日) [Reported by 大河原克行]
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