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第164回:RolandのWAVE/MP3レコーダ「R-1」を試す
~ 24bit/44.1kHzのPCM録音が可能 ~



 RolandのEDIROLブランドから、コンパクトフラッシュにレコーディングするWAVE/MP3 RECORDER「R-1」という製品が登場した。発売は10月末の予定だが、一足先に量産直前の最終製品を借りることができたので、このR-1はどんな機能、性能を持っているのか、またどんなシーンで利用でき、その使い勝手などはどうなのかを探った。


■ 面白いコンセプトのWAVE/MP3レコーダ

 Rolandとしては初となる、ちょっと面白いコンセプトのマシン「R-1」がEDIROLブランドから登場した。一言でいえばWAVE/MP3の2つのフォーマットに対応したデジタルレコーダなのだが、従来各社が出していたものとはちょっと指向が異なる製品だ。

 普通MP3レコーダというとボイスレコーダの一種というイメージだが、このR-1はMP3はどちらかというとオマケで、メインは非圧縮のWAVE録音機能にある。しかも、16bit/44.1kHzはもちろんのこと、24bit/44.1kHzにも対応する。

 楽器系のメーカーとしてはKORGが「PANDRA PXR-4」、TASCAMが「PocketStudio5」、ZOOMが「MRS-4」といった3万円程度のコンパクトなMTR(マルチトラックレコーダ)を出しているが、これらはマルチトラックでレコーディングできるということに主眼が置かれており、その用途としては十分な音質だが、オーディオとしての高音質を追求したタイプではない。それに対し、このR-1が狙っているのはDATやHi-MDの路線。せっかくなら48kHzのモードも持ってもらいたかった気がするが、とにかく24bit対応したのは大きなポイントだ。

 2chでの録音派のユーザーにとっては今でもDATは貴重な機材だが、最近はほとんど店頭で見かけることはなくなってしまった。それに変わる形でHi-MDが登場してきたものの、このHi-MDには制約も多い。その最大の制約といえるのがパソコンで使う際のプロテクトだ。たとえば、ピアノの演奏会で録音してきたとしよう。リニアPCM対応なので非圧縮の16bit/44.1kHzで録音できるし、それをPCへ転送することまでは可能なのだが、OpenMGデータであって、WAVEファイルでないため、波形編集ソフトで編集したり、CDに焼いたりといった肝心のことができないのだ。

汎用的なWAVEフォーマットで録音できるため、波形編集ソフトとの連携も容易

 それに対し、「R-1」なら、非圧縮の24bit/44.1kHzで録音したものをPCへWAVEファイルとして転送し、SoundForgeやWaveLab、DigiOnSoundといった波形編集ソフトで細かく編集した上で、CDに焼くことができる。これはかなり大きなメリットといっていいだろう。

 しかも、PCへの転送はSonicStageを使うHi-MDと比較するとあまりにも簡単で単純。メディアがコンパクトフラッシュなので、録音した時点ですでにWAVEファイルとして保存されている。

 また、本体にUSB 2.0の端子が付いているので、PCに接続すれば、USBマスストレージクラスとして、そのままドライブとしてアクセスできる。


■ 内蔵マイクの性能は抜群

やや大きめだが、操作は単純明快

 さて、実際にモノを手にしてみると、この種の製品としてはちょっと大きく感じる。厚さと横幅はVHSテープとほぼ同じで、縦が3分の2といった程度。重量は電池とコンパクトフラッシュ込みで260gだから、VHSよりやや重い感じだろうか。単3電池2本で駆動し、アルカリ電池使用時で連続2.5時間の録音、5.5時間の再生ができるとのこと。

 電源スイッチを入れると、すぐにタイトル表示がされ3秒弱で起動する。その後、RECボタンを押すと、録音準備状態に入り、再度RECボタンを押せば録音がスタートするという非常に単純明快な操作だ。ストップボタンで停止し、PLAYボタンで再生する。マニュアルはまったく不要といってもいいだろう。

 付属のコンパクトフラッシュは64MBだが、現在コンパクトフラッシュは最大8GBのものまで出ているので、最高音質の24bit/44.1kHzのステレオで、約500分の録音ができる計算だ。MP3形式での録音も可能で、ビットレートは64、96、128、160、192、256、320kbpsの7種類に対応している。なお、録音モードはメニューの「Record Mode」という項目で切り替えるようになっている。

 そのほかの各設定項目は、MENUボタンを1回押すと登場するメニュー画面で設定を行なう。LCDのコントラストやバックライトのON/OFFといった設定から、ファイルの削除やリネーム、フォーマットなどのファイル管理、そして現在の録音モードやリミッタのON/OFF、MONO/STEREO切り替えといったものが用意されている。階層構造が浅いので、触ればすぐにわかる。

 設定を確認後、ヘッドフォン端子にヘッドフォンをつけてモニタしながらRECボタンを押すと、内蔵のバックエレクトレット・コンデンサ・マイクを通じて外部の音がかなりリアルに聴こえてくる。このヘッドフォン端子はOptical Outとの兼用になっているので、外部のデジタル機器へ出力することも可能だ。

 また、端子の横にヘッドフォン用の音量調整があるほか、サイドには入力用のレベル調整もあるので、双方で音量を調整する。DISPLAYボタンで表示を切り替えると入力レベルメーターが表示され、これを見ながら行なえばさらに正確な調整ができる。入力レベルを最大にすると、若干のヒスノイズが聴こえるが、そこまであげなければ、非常にクリアな音である。内蔵マイクであるため、スイッチ類を触るとかなりのレベルの音が入ってしまうが、それは仕方のないところだろう。やはり使い方としては、持って歩くのではなく、どこかに置いて録音するというのが基本のようだ。

ヘッドフォン出力は光デジタル出力と兼用。音量調節機能も備えている 側面には入力レベル調整ダイヤルも備える

 なお、先ほども触れたとおり、リミッター機能が用意されているので、これをONにしておけば、R-1のボディーを叩くなどの衝撃的な大音量があっても、クリップノイズになることなく、うまくレベルを抑えてくれるのは非常に便利。

 あまりにも簡単に録れてしまうので、ちょっと不安に感じてしまうほどだが、録った音をR-1で直接聴いてもPC側に転送して再生させても、とてもクリアでいいサウンドだ。やはりボイスレコーダなどに搭載されっているマイクとは明らかに質が違うようで、これなら外部マイクなどは基本的に不要といっていいだろう。MDやテープと違い、モーター駆動部分がないので、内蔵マイクでもモーターの音を拾う心配がないのも大きなポイントだろう。もちろん、プラグインパワーに対応したステレオミニのマイク入力端子があるので、使い慣れた外部マイクを利用したいという人も大丈夫だ。


■ マイク・モデリング機能も装備

 ところで、このマイクに関しては、いかにもRolandという非常に便利な機能が用意されている。それは例のCOSMテクノロジーを利用したマイク・モデリング機能だ。デフォルトではOFFの設定になっているが、AUDIO EFFECTSのスイッチをONにした上で、この内蔵マイクのモデリングを1~5までのタイプから選択する。この機能を利用すると音は結構変化した。

 残念ながらマニュアルを見ても、どの番号がどんなマイクをモデリングしているのかよくわからなかったが、Roland製品の過去の例から考えると、一般的な生楽器やボーカル用のダイナミック・マイクとして「SHURE SM57」、高域の伸びが特徴的な楽器用スモール・コンデンサ・マイクとして「AKG C451」、フラットな特性のコンデンサー・マイクとして「ノイマン U-87/48」をモデリングしたものなどが入っていると思われる。なお、外部マイク用にもモデリングは用意されているが、やはり特性がわかっている内蔵マイクで使うのが効果的といえるだろう。

 もちろんCOSMテクノロジー搭載ということは、単にマイク・モデリングの機能だけではない。さまざまなエフェクトが搭載されている。詳細についてはマニュアルから抜粋したものを掲載するので参考にしてほしいが、このように計13のエフェクト(メトロノームはエフェクトとはいえないが……)が用意されていて、自由に選べるようになっているのだ。マイク・モデリングを含め、これらエフェクトは掛け録りすることもできるし、後から再生時に掛けることも可能。一回に使えるエフェクトは一種類であるため、マイク・モデリングをしながらリバーブをかけるということはできないが、録音する際にマイク・モデリングをONにして行い、再生時にリバーブをONにして行えば、双方を同時に使うことが可能となる。

エフェクト名 内容
Easy EQ ロック、ポップス、ダンスなど11種類の設定を用意。それぞれの音楽ジャンルに適した音質(周波数特性)に変更が可能。内部的にはプリセットの10バンドのグラフィック・イコライザが使われている
For Speech 会話やセリフなど、声が主体となる音声の録音に適したモード。声を明瞭にし、サ行の強い音や歯擦音を軽減。内部的にはディエッサーとエンハンサーを組み合わせている
Voice Perform 音のピッチを変えることで、まったく違うキャラクターの音声に変化。コミカルな高い声、モンスター風の低い声、弾むような余韻のつく声にする設定が用意されている。内部的にはピッチシフトとディレイの組み合わせ
Editable EQ ゲイン調整可能な10バンド・イコライザ。それぞれ-12dB ~ +12dB の範囲でゲインを設定し、元となる音声に対して音質を調整することができる
Noise Reducer 音楽や音声の無音時に聞こえるバックグランド・ノイズや、アナログ・レコードやカセット・テープのヒス・ノイズを軽減。内部的にはノイズ・ゲートとノッチ・フィルタの組み合わせ
Hum Noise Cut マイクを電力機器の近くに設置したときに発生するハム音を軽減する。内部的にはノッチ・フィルタです。
Reverb ホールや部屋などをシミュレーションした残響音を加えることで、自然な響きを再現するというリバーブモード
Int-Mic Rec. 内蔵マイクや、小型コンデンサ・マイクから入力された音の特性を変え、より大きなマイクから録音したかのような効果を与える
Ext-Mic Rec. マイク入力端子に接続した一般的な小型ダイナミック・マイクから入力された音の特性を変えて、より大きなマイクから録音したかのような効果を与える
Mastering 音の輪郭をはっきりさせて聞こえやすくしたり、音の大きさをそろえて音量バランスの良い音声に仕上げる機能。R-1に一度録音したものを再生時に際立たせて聴くときや、カセット・テープなどのメディアに録音されていた音を修正してR-1に取り込むときにも使用できる
Center Cancel ステレオ録音した曲の中央で鳴っている音を消します。歌の入った曲でボーカルを消して演奏だけを取り出してカラオケにすることができます。ただし、ステレオで音が広がるような特種効果の加工を施したものや、残響音の大きいものでは効果が弱くなります。
Tuner A=440Hz を基準として、C, D, E...といった音名に応じた固定周波数のサイン波を出力。楽器のチューンニングに利用できる
Metronome メトロノームでリズムを刻む。

 以上、このR-1についてざっと見てきたがいかがだろうか。実際、どんな音なのか気になる人のために、ほんの少しだけではあるが、サンプルを掲載しておこう。1つ目はまもなく、RolandサイトのほうでもUPされるサンプルの一部。サックスを24bit/44.1kHzで録音したものだ。もうひとつは、外の音がどんな感じで捉えられるか試したもので、電車の走る音をMP3の128kbpsで録音したものである。

【録音サンプル】
サンプル 1
(室内:サックス)
サンプル 2
(屋外:電車)
sample1.wav
(2.1MB)
sample2.mp3
(397KB)

 スタジオでR-1を使って録音すると、内蔵マイクでも驚くほど迫力あるサウンドでリアルに録ることができる。これだけの音が出せるのであれば、外付けマイクは不要といってもいいだろう。

 一方、屋外で録音したものも、かなり小さい音までハッキリと捉えていることがわかる。しかし、電車の音は線路から約20m離れたところで捉えたものだが、ステレオ感という面ではちょっと迫力に欠ける。まあ、これはR-1の物理的構造を見ても容易に想像できるのだが、無指向性マイクを近距離に同じ方向を向けて設置しているため、どうしてもステレオ感が出ないのだ。一応、電車が左から右へ走っているのはわかると思うが、その広がりは90度もないように感じる。マイクを左右に内蔵できれば改善できそうだが、生録派にはちょっと残念なところだろう。


■ 魅力的だが、デジタル入力も欲しい

 一方、このR-1をプロミュージシャンの友人と見ていてたところ、彼が「非常に魅力的でいいけれど、できればS/PDIFを出力だけでなく、入力も用意していてほしかった」と話していた。その理由は、普段は内蔵マイクでOKだけれど、業務用のもっとしっかりしたマイクを使いたい時、R-1にはキャノン端子がないので、S/PDIF入力さえ用意しておいてくれれば、外部の機器を経由して取り込めるから。S/PDIFの入力があると、著作権管理などの問題が出てくる可能性はあるが、確かにせっかくなら用意しておいて欲しかったところだ。

 実売価格が4万円前後というこのR-1。確かに使える製品だが、オーディオ機器メーカーでないRolandが手掛けたオーディオ機器として、今後の売れ行きや市場の評価が楽しみである。


□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□製品情報
http://www.roland.co.jp/products/dtm/R-1.html
□関連記事
【10月5日】【DAL】Roland/EDIROLが計6種類の新製品を発表
24bit/44.1kHz対応CFレコーダや、デジタルアコーディオンなど
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041005/dal162.htm

(2004年10月18日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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