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第165回:Windows Media Player 10を検証
~ エンコードエンジンもバージョンアップ ~



 先週、WPC EXPO 2004の開幕にあわせる形で、「Windows Media Player 10」がリリースされた。Windows XPユーザーであれば誰でも自由にダウンロードして利用可能だ。Microsoftの音楽配信サービス「MSNミュージック」なども同時スタートし、一般紙でも取り上げられたこのWindows Media Player 10。従来のWindows Media Player 9と比較して何がどう変わったのだろうか?


■ WMP10で何が変わったのか?

 米国では9月1日に発表されていたWindows Media Player 10(以下WMP 10)が、50日遅れで日本語版が登場した。英語版をこれまで使っていなかったので、日本語版で初めてインストールしたのだが、それまで各種情報を読んでいて、どうもWMP10の位置づけがよくわからなかった。

 Windows Media Player 9(以下WMP 9)がリリースされたときは、かなり大々的な発表を行ない、「Windows Media 9シリーズ」と銘打って、WMP 9、Windows Media Audio 9、Windows Media Technology 9……とラインナップを揃えていた。ところが今回は、Windows Media 10シリーズという名前は登場しないし、WMP 10になってどんなメリットがあるのかがよくわからない。

 報道を見ていても、音楽配信が統合して利用できるようになったということが書いてあるくらいで、他にはあまり情報がない。また、WMP 9でも「Excite Music Store」や「Listen Music Store」などの音楽配信は利用できたのだから、どうもその違いがピンと来ないのだ。

 以前、音楽配信関連について調べていて、各社を取材していた時は「WMP 10が出るタイミングでDRM(著作権保護機能)が強化され、使い勝手が大幅に向上する」と聞いていたのだが、何がどう変わるのかがあまり語られていなかった。実際のプレスリリースや報道を見ても、「Windows Media Digital Rights Mangement 10」という言葉は登場するが、何がどう変わったのかなどがほとんど書かれていない。そこで、実際に試してみた。


■ エンコードエンジンもバージョンアップ

 ソフトをダウンロードしようとして気付いたのは、対応OSについて。従来のバージョンではWindows 2000やWindows Meもサポートしていたが、今回は完全にWindow XPのみになった。そろそろ旧バージョンのサポートを減らしていくという一環なのだろう。とりあえず、手元のマシンはWindows XPなので、問題なく使えるた。

 インストール自体はいたって簡単。ダウンロードしたファイルを起動すると、プライバシーオプション、インストールオプションなる設定が出てくるが、デフォルトのまま進めていけば、すぐに終了する。起動すると、確かにWMP 9とは少し違う印象は受けるが、メニューなどを見渡しても際立った違いは見受けられない。普通に使っている限り、デザインを別にするとWMP 9との違いはほとんど感じられない。

プライバシーオプション インストールオプション 普通に使っていても、前バージョンとの際立った違いは見受けられない

 新機能の目玉が「ミュージックストア機能」という音楽配信サイトへのアクセス機能。Excite Music Store、Listen Music Storeに加え、Moraを運営しているレーベルゲートが新たにスタートした「MusicDrop」、そしてMicrosoft自らが行なう「MSNミュージックストア」や、「WOWOW NEXT ENTERTAINMENT GENETICS」、「CinemaNow」などにアクセスできる。

右上のロゴマークをクリックすると、ミュージックストアへのリンクが現れる

 しかし、どうもこの機能が見当たらない。と思って探していると、画面右上をクリックしたところで発見。ここから各音楽配信サイトへ接続するのだ。デフォルトでは、当然MSNミュージックストアが設定されているのだが、この設定は単に音楽配信サイトからデータを購入するためだけではない。CDをリッピングした際や、手持ちのデータを演奏する際、ここで設定したサイトを通して各種情報が得られるようになっている。サイトによって持っている情報に偏りがあるため、デフォルトのMSNミュージックの設定では情報がなくても、ほかに設定すると表示されることもあるので試してみる価値はあるだろう。

 さて、次にCDのリッピングについて試してみた。使い方自体は変わっておらず、フォーマットはデフォルトでWMAになっている。が、ここでは、従来のものとエンジンが変わったのかどうかもよくわからない。少なくともWMA 10という表記はどこにも見当たらない。

 そこで、試しにリッピングしてWMA形式で保存した後、そのデータのプロパティを確認したところ、微妙なバージョンアップが行なわれていることがわかった。従来のWMA 9からWMA 9.1になっていた。

フォーマットはWMAがデフォルトで選択されている エンコードしたファイルを見ると、WMA 9.1にバージョンアップしている


■ WMP10で音質は低下した?

 今回は細かなチェックはできていないが、とりあえず、以前と同じ方法で、音楽データをこのエンジンでエンコードしてみた結果をグラフ化した。

オリジナルのCDデータ Windwos Media Audio 9
128kbps/CBR
Windwos Media Audio 9.1
128kbps/CBR

 オリジナルのCDデータと、WMA 9で128kbpsの固定ビットレート(CBR)でエンコードしたもの、そしてWMA 9.1で同じく128kbpsのCBRでエンコードしたものの順で掲載したが、これを見ると明らかに結果が違う。WMA 9.1は16kHz以上の高域が切れているのがわかる。

 実際に音を聴いてみると、その違いは明らか。やはり金属音系の音などはつぶれて濁ってしまっている。もしかすると低域の音質は向上しているのかもしれないが、音楽全体として聴いた感じでは、128kbpsでは音質劣化しているようなのだ。

 一方、面白いのはWMAのCBRとVBR、ロスレスに加え、MP3がデフォルトで追加されたこと。従来はオプション扱いとなっていたものが標準で搭載されたわけだ。またこのMP3のエンコードのビットレートは128kbps~320kbpsまでを選ぶことができるハイビットレート対応。Fraunhofer-IISのエンジンを搭載しているものと思われるが、参考までに先ほどのWMAと同様に128kbpsでの結果を掲載しておこう。

オリジナルのCDデータ WMP10 MP3 128kbps

著作権保護にチェックを入れてリッピングすると、プロパティにライセンス情報が表示されるようになる

 次に変わったというDRMについても見てみることにした。WMP 10上から設定できるのは、CDからリッピングする際に著作権保護にチェックを入れることくらい。エンコードして、プロパティのライセンス情報を見てみると、チェックなしでは何も表示されなかったのが、チェックを入れると詳細なライセンス情報が表示されている。

 この点は従来と大きな違いはなさそうで、ほかのPCでは再生できないが、普通に使う分にはとくに制限はないというもの。また、ポータブルプレイヤーへもWMPを使えば転送が行なえる。問題はこれがWindows Media DRM 10のものだとしたら、DRM 10対応機種以外に転送ができなくなる可能性がある。Microsoftのサイトでは約40種類のポータブルプレーヤーが対応していると書かれているが、必ずしも新しいものばかりではない。

 そこで手元にCreative MuVo2FM 5GBとCreative NOMAD MuVoの2つがあったので、転送できるかを試してみた。ちなみに、どちらもファームウェアのアップデートなどは行なっていない状態であり、とくにCreative NOMAD MuVoは1年以上経過した製品だから、Windows Media DRM 10などが登場する遥か以前の製品だ。実際に試したところ、どちらの機種も何の問題もなく転送できた。

 では、WMP 10のリリースにあわせて新しく始まったサイトも含め、有料配信された音楽データはどうなのだろうか? 現実的に考えると、せっかくこれまで何万曲ものライブラリを揃えてきたのに、DRMのバージョンがあがったからといって、すべてをコンバートするとなると、かなりの手間がかかって大変になる。

 さっそく、MusicDropで1曲ダウンロードしてみた。ここはATRAC3で運営しているMoraのWMA版ともいえるサイト。運営しているレーベルゲートに聞いてみると、まだ作業の問題で全曲Moraと同じラインナップにはなっていないが「基本的にはほぼ同じ曲数、構成にしていく」とのこと。

MusicDropには、既にSMEの楽曲も登録されている

 現状ではMoraが8万曲揃っているのに対し、MusicDropは3万曲程度だそうだ。これまでWMAの配信をしているサイトは東芝EMIやワーナーが中心となっていたが、SMEが中心であるレーベルゲートだからSMEやAVEXの曲も今後どんどんMusicDropに入っていくとのこと。すでにSMEの曲もいろいろと入っている。

 クレジットカード情報などを入れて1曲240円で購入。ダウンロードした楽曲データのプロパティを見ると、エンコードに使われたエンジンはWMA 9.1ではなく、やはりWMA 9のようだった。またライセンス情報を見てみると、転送回数が3回に限られている。そこで、これを先ほどのMUVO2に転送してみると、当然のように残り回数は2になる。が、ATRAC3 + OpenMGのようなチェックイン/アウトの概念などは見当たらず、書き戻すことはできない。結果的には、従来のWMA配信サイトと何も変わっていないようなのだ。

MusicDropで購入した楽曲ファイルもWMA 9だった 転送回数は3回 「WMP 9」時のプロパティ。表現は変更されているが、内容自体はほとんど変わっていない

 そこで、Excite Music Storeに聞いてみたところ、同サイトで購入できるファイルもエンコードエンジンはWMA 9だという。では、MSNミュージックならその辺いろいろやっているはずだと、こちらのデータも購入してみた。だが、やはりエンコードエンジンはWMA 9で、ライセンス情報は曲が再生できる時期の制限だけついていたが、ほかは大きく変わらないし、転送しても状況は変わらなかった。

MSNミュージックでも購入してみた MSNのファイルには再生期限が設けられていた

 以上、一通り使ってみたが、現状においては、WMP 10にしたからといってMP3対応になったこと、音楽配信サイトから情報が得られること以外は大きなメリットはなさそうだ。もちろん、セキュリティーホールが潰されているだろうから、バージョンアップしたほうが安全ではあるが、ソフトウェアとしての劇的な変化はあまり期待しないほうがいいだろう。


□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□WMP10のダウンロードページ
http://www.microsoft.com/japan/windows/windowsmedia/mp10/default.aspx
□関連記事
【10月20日】【WPC EXPO 2004 会場レポート1】
-WMP10やMCE 2005を発表。古川氏「参入メーカ多く、光栄」
Rioの新携帯プレーヤーやDLNAホームネットワークデモなど
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041020/wpc02.htm
【9月2日】米Microsoft、Windows Media Player 10の正式版を発表
-MP3のリッピングに対応。音楽配信サービス「MSN Music」もスタート
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040902/ms.htm
【6月14日】【DAL】日本の音楽配信サービスの著作権管理を検証
~ 各DRMの実際の使い勝手とは? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040614/dal149.htm

(2004年10月25日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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