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第152回:最強の戦士アキレスは優男だった!?
肉体美てんこ盛り「トロイ 特別版」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ ブラピ、アキレスを演じる
トロイ 特別版

価格:3,129円
発売日:2004年10月29日
品番:DL-28411
仕様:片面2層(本編)/片面1層(特典)
収録時間:本編約163分
画面:シネマスコープサイズ(スクイーズ)
音声:ドルビーデジタル5.1ch(英語)
    ドルビーデジタル5.1ch(日本語)
発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ

 「ロード・オブ・ザ・リング」の大ヒット以降、「キング・アーサー」や「アラモ」など、太古の歴史的戦いや伝説などを壮大なスケールで映像化する作品が、急激に増えたように感じる。10月29日にDVDが発売された「トロイ」も、そんな流れの中で生まれた1本だ。

 タイトル通り、題材になっているのは今から3,000年以上前、古代ギリシアの詩人・ホメロスの叙事詩「イリアス」と「オデュッセア」で伝えられているトロイ戦争(トロイア戦争)である。時代や神話の背景などを詳しく知らない人もいるだろうが、「トロイの木馬」やギリシャ最強の戦士「アキレス」の名前を聞いたことがない人はいないだろう。彼の唯一の弱点といわれた部分は、現在も「アキレス腱」の名で知られている。

 詳しいストーリーは後述するとして、映画の「トロイ」は総製作費200億円以上という超大作になっており、公開は2004年5月。監督は「ネバーエンディング・ストーリー」や「エアフォース・ワン」、「パーフェクト ストーム」のウォルフガング・ペーターゼンが務めている。

 出演は、ロード・オブ・ザ・リングで一躍脚光を浴びたオーランド・ブルーム、「ブラックホーク・ダウン」で屈強な兵士を演じたエリック・バナなど。そして、公開前から最も話題となったのは、ギリシャの英雄・アキレスをブラッド・ピットが演じたこと。ブラッド・ピットというと、甘いマスクのプレイボーイや個性的な脇役といったイメージが強く、とてもギリシャの戦士・アキレスとはイメージが繋がらない。アキレスと言ったらアーノルド・シュワルツェネッガーのような筋肉ムキムキの大男で、巨大な剣を振り回していそうだ。

 しかし、ブラッド・ピットはこの役を演じるために、1年以上肉体改造を行ない、筋骨隆々になったという。予告編を観ると、確かに腕や首が筋肉で1回り、いや2回りほど太くなり“強靭な男”に生まれ変わったようだ。彼は今年で40歳になったはずだが、今までにないキャラクターにチャレンジし続ける気力には頭が下がる。どのようなアキレスを見せてくれるのか、期待しながらDVDを購入した。



■ 伝説の戦いは意外とのんき

 ギリシャの国々を次々を支配下に置き、絶大な権力を持ったミュケナイ王・アガメムノン。彼の弟で、スパルタの王メネラオスは、宿敵であるトロイとの間に無血同盟を結ぶことになった。スパルタで開かれた同盟締結式には、トロイの王子ヘクトル(エリック・バナ)とパリス(オーランド・ブルーム)の兄弟が招かれ、スパルタとトロイには平和な日々が訪れるはずだった。

 しかし、王子パリスはメネラオスの妻である王妃ヘレンに一目惚れ。2人は禁断の恋に落ち、パリスはヘレンをトロイへと連れ帰ってしまう。弟の暴挙に兄ヘクトルが気付いた時には既に遅く、妻を寝取られたメネラオスは激怒。兄のアガメムノンに協力を仰ぎ、大軍を率いてトロイへと攻め込んで来た。高い城壁に守られ、難攻不落と言われたトロイだが、敵はギリシャ中の軍隊を集めた大部隊。かくして1人の女性を巡る国と国との壮絶な戦争が始まろうとしていた。

 ギリシャ最強の戦士アキレスはアガメムノンの部下ではあるのだが、映画では誰にも縛られない孤高の戦士として描かれている。彼が心を許すのは、共に幾多の戦いを乗り越えてきた少数の部下のみ。気に食わないことがあれば、アガメムノンすら殺しかねない危険な男だ。その戦闘能力は天下無敵に近く、どんな大男も一撃で倒し、雨のような弓矢も、強烈な槍の一撃も彼には通用しない。誇り高く、名誉を求め、情には厚い。現代で言うならば特殊部隊のカリスマ隊長と言ったところか。当然兵士達からは絶大な人気を集めている。アガメムノンが「できるなら殺してやりたいほど憎い男だが、彼がいなくては戦に勝てない」と奥歯を噛むような存在だ。

 壮大な物語にしては登場人物は少なめで、人物紹介的なシーンも序盤にしっかりと挿入されているので物語に入り込みやすい。ギリシャの歴史的背景や当時の宗教などがわかっていればより一層楽しめるだろうが、そのあたりに詳しくない人でも戸惑うことはないだろう。また、戦争の直接的な原因が長年の怨恨や宗教的な問題ではなく、1人の女性を巡ってのトラブルというのも、理解のし易さに一役買っている。

 映画の内容は、難攻不落のトロイをアガメムノンの軍隊が打ち破れるか? がすべてだ。163分という若干長めの尺の大半は、この1つの戦いに割かれている。トロイ戦争の肝である「トロイの木馬」作戦も忠実に描かれており、期待は裏切らない。戦闘シーンばかりと聞くと単調な映画を想像するかもしれないが、当時の戦争は現在のそれとは随分雰囲気が違う。まず、大軍と大軍が対峙しても、そのまま戦闘に入るとは限らない。双方から代表の戦士が前に進み出て、対戦。その勝敗で決着がつくというパターンもある。

 また、乱戦状態でもリーダー格が倒されると、「よし、今日はこのくらいにしておこう」、「そうだな、続きはまた明日だ」と言って両軍が大人しく陣地に戻ったりする。激しい戦いに身を乗り出していた観客としては「おいおい、なんで終わりなんだよ、というか途中でやめられるなら最初から戦うなよ」とツッコミを入れたくなるが、名誉を重んじる時代だと、戦争の方法もこうも違ってくるのだろうか。

 戦争の合間に人間ドラマが挿入されることで、物語にメリハリが生まれ、最後までテンションが落ちることなく観賞できた。また、アキレスという男は数え切れない人間を殺してきたことで、戦をやめられない人間の性や、戦いしかない自分の存在に疑問を抱く存在として描かれている。彼が物語をかき回すことで、壮大なだけのスペクタクル映画から抜け出て、戦争の本質をとらえようというメッセージも感じられた。

 さて、このアキレスだが、確かにブラッド・ピッドの鍛え上げられた肉体は素晴らしい。褒め言葉になるのか疑問だが、鎧を纏い、剣を振り下ろす彼の姿はとてもブラッド・ピットには見えない。ただ、筋肉ムキムキというよりも、しなやかな筋肉を持ち、巧みなテクニックで敵を翻弄し、倒すという戦闘スタイルがメインとなる。新しいアキレス像として面白い試みだと感じたし、まずは見事にアキレスを演じた役者根性に拍手を送りたいところだ。

 しかし、兜を縫いで彼の顔が現れると、やはりどうしてもアキレスのイメージとは違う。「奴は飼い主(王)さえ殺しかねない危険な男だ」と登場人物が何度も噂するのだが、とてもそんな顔には見えない。誠実な王子ヘクトルを演じたエリック・バナのほうが、よっぽど危険な香りがする。なお、終盤、ヘクトルとアキレスは最強の座をかけて1対1の対決をする。最高に盛り上がるシーンなのだが「配役的に逆の方が良かったんじゃないかなぁ……」という思いが最後まで消えなかった。

 また、ベッドシーンも含めて、ブラピの肉体美がこれでもかと披露されるのも気になった。女性のブラピファンは喜ぶかもしれないが、男の私には「これだけ鍛えたんだから見てくれよ!!」という声がスクリーンからかすかに聞こえてしまった。



■ ブラピがアキレス腱を痛めた

 DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは5.68Mbps。163分という収録時間を考えても、低めと言っていいだろう。音声は英語と日本語のドルビーデジタル5.1chのみで、特典を別ディスクにしているので、もう少し高めのビットレートで収録して欲しかったところだ。

 なぜなら、作品の内容上、蟻のように小さく見える無数の兵士が大軍を作り、戦う様を引きで撮影するシーンが多いからだ。また豪華絢爛な衣服をまとった王族が画面に多数登場したり、大観衆が紙ふぶきで英雄を出迎えるような場面もあり、どれもMPEG-2には厳しい条件ばかりだ。

 ブロックノイズは少ないが、モスキートノイズはかなり盛大に出ている。また、夕方や室内のシーンでは疑似輪郭も見受けられた。戦闘シーンの中では、かなり厳しい場面もあり、物語に入り込んでいても、画質にうるさい人は気になってしまうかもしれない。ただ、人物のアップでは良く抑え込んでいるため、特定のシーンさえ我慢すれば問題ないだろう。

 音響は前述の通り、日本語、英語ともにドルビーデジタル5.1chで収めている。前後のチャンネル間で飛び交う弓矢、部屋全体を包み込むような群集の歓声など、迫力のあるサウンドデザインが特徴的だ。BGMは控えめだが、いずれも広大な大地を連想させる楽曲に仕上がっており、作品のイメージとは合っている。

 音響面で特に印象に残ったのは、塀の中で篭城するトロイの街に響く、アガメムノン軍の足音だ。サラウンド効果が活かされているシーンで、無数の足音がドザッ、ドザッ、ドザッと低い音で規則的に近付いて来る。トロイの人々の不安がよく表現されていた。

 ただ、戦闘シーンでは低音の厚みがもう少し欲しい。馬の走る地響きでも、思ったよりLFEは響かず、サブウーファのボリュームを若干上げてしまった。ワーナー作品なので難しいところだが、DTS音声も聞いてみたかった。

DVD Bit Ratge Viewerでみたの平均ビットレート

 特典ディスクの収録時間は56分。戦闘シーンのメイキング(17分)、舞台セットの製作秘話(14分)、CGの解説(11分)、ギリシャ神話の紹介(13分)などで構成されている。大作映画にはやたらと長い特典映像がつきものだが、この作品はそつなくまとまっている印象を受けた。

 撮影のメインはメキシコで行われたそうで、エキストラの人数が膨大、当時のものを忠実に再現した衣装は重く、太陽は容赦なく照りつける……と、かなりハードな撮影だったようだ。最大のアクシデントは、美術スタッフがこだわりぬいて作ったトロイの街の巨大なセットが、ハリケーンで壊れてしまったこと。作り直すのに数週間かかったとのことだが、「この柱はレリーフにこだわったんだ」などと楽しげに話していたスタッフが、メチャメチャに崩れたセットを前に呆然と立ち尽くす姿は気の毒だった。

 また、アキレスの格闘スタイルについての設定も興味深い。時折宙を舞い、流れるような、無駄のない動きが印象的だったが、この動きを生み出すために、タイの格闘技やスピードスケート、走り幅跳びなどの動きを取り入れたとう。また、嘘のような話だが、ブラッド・ピットが、アクションシーンの撮影中にアキレス腱をいためてしまったアクシデントもあったという。



■ 神話の世界に想いを馳せて

 価格は3,129円と、ワーナーの洋画としては標準的。作品としてのスケールや収録時間、特典ディスクなども加味すると、コストパフォーマンスは高いと感じた。作品の内容も恋愛あり、戦争の悲劇ありで見ごたえがあり、満足度も高いはずだ。ただ、画質や音質のクオリティには少々難がある。

 トロイ戦争は日本人には馴染みの薄い題材かもしれないが、特典ディスクの「ギリシャ神話ギャラリー」では、女神アテナやポセイドンなど、ギリシャの神々についての解説を聞くことができる。壮大な叙事詩とともに、神話の世界に触れてみるのも一興だろう。

●このDVDについて
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□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ
http://www.whv.jp/
□製品情報
http://www.whv.jp/database/database.cgi?cmd=dp&num=2393
□映画の公式サイト
http://www2.troy.jp/
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【9月3日】ワーナー、DVD「トロイ 特別版」を10月29日に発売
-収録時間約56分の特典ディスクが付属
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040903/whv1.htm

(2004年11月2日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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