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第156回:燃えたり、落ちたり、回転したり。人間の限界に挑む!
CG/ワイヤー使いません「マッハ! プレミアム・エディション」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ リュック・ベッソンも認めたアクション映画
マッハ!
プレミアム・エディション

価格:3,990円
発売日:2004年11月25日
品番:KWDV-66
仕様:片面2層(本編)/片面1層(特典)
収録時間:本編約108分
画面:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:ドルビーデジタル EX(タイ語)
    DTS-ES(タイ語)
    ドルビーデジタルステレオ(日本語)
発売元:株式会社クロックワークス
販売元:ジェネオン エンタテインメント株式会社
(C)2003 SAHAMONGKOLFILM
INTERNATIONAL CO.,LTD.
ALL RIGHTS RESERVED.

 2004年夏。「1.CGを使いません」、「2.ワイヤーを使いません」、「3.スタントマンを使いません」、「4.早回しを使いません」、「5.最強の格闘技ムエタイを使います」と、インパクトが強いTV CMが頻繁に流されていた映画「マッハ!」。日本では7月に劇場公開され、話題になったことは記憶に新しい。

 そもそも今までタイ映画が日本で劇場公開されて、TV CMが流れたなどという記憶はない。さらにタイ映画に持っていたイメージとはまったく違うアクション映画。CMなどで映像を見る限り、全盛期のジャッキー・チェンの映画を思い起こさせる。そのことにも驚いた。

 2003年バンコク国際映画祭でプレミアム上映され、興行収入もハリウッド大作を押さえ記録を更新したという。リュック・ベッソンがヨーロッパ7カ国と南米での配給権を獲得したなど、周辺の話題にも事欠かなかった。

 そのマッハ!が、劇場公開から4カ月を経た11月25日に「マッハ! プレミアム・エディション」として、DVDが発売された。「プレミアム・エディション」という製品名だが、とくにバリエーションはなくこの1種類のみ。

 DVDは本編ディスクと特典ディスクの2枚組みで、3,990円とお手ごろの値付け。'80年代のジャッキー映画はすべて劇場で鑑賞したジャストミート世代としては、購入しないわけにはいかない。当時は、セルVHSを欲しいと思っても、1万円以上していたので、子供のお小遣いでは購入できるものではなかった。こんな値段で自分の手元において置けるなら安いものだ。

 音声もタイ語をドルビーデジタルEXとDTS-ESの2種類で収録するという充実仕様。初回生産分のみアウターケース付き。ちなみに、アマレー・ダブルのトールケース仕様だった。


■ 果てしなくシンプルなストーリー。見るべきはアクション!

 タイのとある敬虔な仏教徒の小さな村。ある日、その村で大切にしていた信仰の象徴でもある仏像「オンバク」が盗まれた。村民に失望感が広がる中、村一番のムエタイの使い手、ティン(トニー・ジャー)が立ち上がる。ティンは唯一の武器である究極の武術・ムエタイで、仏像を取り返すために、首都バンコクへ向かう……。

 いつもこのコーナーでは何段落か使って、あらすじを解説しているのだが、この映画のストーリーは「奪われた仏像を取り返す」。それだけである。それ以上のストーリはないに等しく、数多くあるアクションシーンを、わずかなストーリーがつないでいるに過ぎないとすら思える。ジャッキー映画と同じように、観ている時はとんでもなく面白いけど、後になるとどんなストーリーだったかまったく思い出せない。そういう映画だ。

 主役のトニー・ジャーは、10代の時には5時起床から午前10時まで、さらに夜も遅くまでトレーニングしたという。さらに、タイでは伝説となっているアクション俳優パンナーに師事したという筋金入りのアクション俳優。スタントなしでこの映画をやり遂げて、武術指導も担当している。ちなみに、最もあこがれていたのがジャッキー・チェンとのこと。

 驚くのが、この映画に出演するため準備に7年かけたということ。作品の構想に4年、武術やアクションの稽古には1日8時間を費やし、午前6時に起きて体をあためるために10kmほど走り、柔軟体操、ムエタイのすべての型のおさらい、スタントマンとのアクションの稽古したという。実際の撮影は8カ月で、108分の映画としては長いくらいだが、それが短く感じるくらい準備期間をかけている。この辺りについては、後述する映像特典で解説されている。

 ティンと一緒に「オンバク」を探す、同郷のジョージを演じるのはペットターイ・ウォンカムラオ。DVDのキャスト説明によると、「タイのビートたけしと評される。俳優・コメディアンで、マルチタレント。監督デビューもしていて、デビュー作が大ヒットした」と多才だ。この映画では、ウォンカムラオがコミカルな役回りを演じ、トニー・ジャーはアクションに専念している。

 トニー・ジャーがジャッキー・チェンに憧れていたと公言していることもあり、'80年代の「プロジェクトA」などのジャッキー・チェン映画を彷彿とさせる。緊迫したアクションシーンに、コミカルなシーンを挟み、緊張と緩和のリズムを作っている。エンドロール中にNG集が流れるというのも、ジャッキー流だ。

 実際にジャッキー映画と、よく似たシーンも頻繁に登場する。特に「市場での追跡」のシーケンスは、プロジェクトAの狭い路地を自転車に乗りながら敵の追走から逃れていくシーケンスを下敷きにしていることは間違いない。1つ1つのアクションも「こんなのあった!」というようなものが数多く含まれている。ただ真似をしているというよりも、「そういう映画」を作りたかったという思いが伝わってきた。

 また、トニー・ジャーの身体能力は高く、筋肉の質もやわらかい。器械体操的な身のこなしの切れの良さを持っているので、動きの美しさという意味では全盛期のジャッキー・チェンを凌いでいるだろう。ともかく、'80年代にジャッキー映画にはまった世代なら、懐かしさすら覚えることは間違いない。

 CGやワイヤーを使った派手なだけのハリウッド映画や、内面を掘り下げるような小難しい映画、ベタベタな恋愛映画ばかりの昨今。ジャッキーの映画もハリウッドに移ってから、ゴールデン・ハーベスト時代とは何か違うと思っている人たちであれば、あのドキドキ、ワクワクが今、タイにあること知るだろう。

 タイならではシーンとしてはカーチェイスならぬ、タイ名物の三輪車「トゥクトゥク」チェイスだろう。自動車と違って、人間を守るものはほとんどない。衣装がランニングのため下に防具もつけられず、走るトゥクトゥクから転がり落ちるシーンは、本当によく死なないものだと思う。



■ 画質、音質ともに良好。必見のメイキング映像

 DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは8.13Mbps。本編が108分と短めで、特典も別ディスクにしたこともあり、ビットレートは高めだ。画質も彩度は抑え目だが、ノイズは少なく、パッと見の派手さはないものの十分な高画質。

 音声のビットレートはタイ語のDTS-ESが1,536kbps、ドルビーデジタル EXが448kbps、日本語のドルビーデジタル 5.1chが448kbpsで収録されている。映画の内容的にも聴き所はたくさんある。爆破のシーンなどでは、LFEを効かせた大迫力。ただ、環境音はリアチャンネルも使ってはいるのだが、今ひとつまとまりのない感じがする。また、セリフのバランスがあまりよくないシーンもあった。

 やはり、音質はDTS-ESの方が低音が強めでクリア。できる限り、DTS-ESで聞きたいところだ。

DVD Bit Ratge Viewerでみたの平均ビットレート

 本編は「STORY CHAPTER」と「FIGHT CHAPTER」の2つのチャプタが設定されており、FIGHT CHAPTERでは「刃物」、「肩渡り」、「炎のキック」などアクションシーンにダイレクトでジャンプできる。面白いのはSTORY CHAPTERが18個なのに対し、FIGHT CHAPTERは24個あることで、この映画がアクションで構成されていることを証明している。

 また、本編ディスクには予告編・TVスポット集として日本版5本とタイ版1本(計約6分)と、スタッフ・キャスト(5人)のプロフィールも収録されている。

 映像特典ディスクの収録内容は、「メイキング・オブ・マッハ!」(約1時間25分)、「監督ブラッチャヤー・ビンゲーオインタビュー」(約4分30秒)、「武術指導バンナー・リットグライインタビュー」(約45秒)、「トニー・ジャー来日インタビュー」(約9分)、「ペットターイ・ウォンカムラオインタビュー」(約30秒)、「来日イベント映像」(約6分)、「古式ムエタイの技」(約2分)、「トニー・ジャー秘蔵PR映像」(約3分15秒)。

 もちろん、「メイキング・オブ・マッハ!」がメインなのだが、そもそも映画本編より長い。撮影や練習中の映像を、監督とアクション監督、トニ・ジャーの3人がコメンタリとして解説しているというスタイル。これがもう、本編より面白いのだ。

 最近のハリウッド映画だとCGを使っているので、メイキングを見てもブルーやグリーン一色のところで役者が演技をしていて、あとでCGを重ねる。最新技術の凄さには興味は惹かれるが、メイキングとしてはあまり面白くないことが多い。

 この映画の場合、映画本編で観たことが、実際に撮影されているのだ。本編を観て、「こんなことして、本当に大丈夫なのか!?」というシーンも、本当にそのまま撮影していて、驚かされる。映画の撮影を始める前に、何年も倉庫のようなところで練習を続けたという。メイキング映像の中にはその練習風景も収録されているのだが、それと撮影風景には数年間の隔たりがあり、4年前の髪の長いトニー・ジャーの映像などがあったりする。

 つまり、映画に出てくるアクションシーン1つ1つを撮影するために、何年前からその動きを研究し練習して、撮影に挑むという、気の遠くなるような時間を使っているのだ。現在のエンターティメント映画としては、贅沢な時間の使い方ともいえるだろう。

 とにかく、このメイキングは必見だ。普通は本編は痛そうに映っているが、メイキング映像では大丈夫なように撮っていることがわかるのだけれど、この映画の場合、メイキングの方が痛そう。最初の旗取りのシーンについて、「地面にダンボールを敷いてその上に土を置いたので地面が柔らかく、実際に落ちても誰もケガをしませんでした」とコメントしているのだが、木ですれて、スリ傷だらけになっている人々が写っている。スリ傷はケガの内に入らないのだろうが……。

 また、顔を蹴るシーンでは「顔には防具をつけられないので、柔らかい靴を履きました」……。柔らかい靴を履くことで、どれほどダメージが減るのだろう? 完全に、普通の人間の想像の範疇を超えている。

 TVのPR映像でもよく流された足に火をつけるシーンでは、「太陽の光で火が目立たないので、油の量を増やしたら予想以上に燃えた」とのことで、トニーの眉毛や髪の毛も焼けたそうだ。ちなみに、カットがかかった後、火を消すのに消火器ではなく濡れた布を使っているが、「消火器を使わない理由は重いし、過去に消化剤を吸ってしまったため、肺を患ってしまった人がいたからです」という凄い理由が語られている。

 メイキング・オブ・マッハ!には、「デリートシーン(約6分)」、「もう1つの結末」(約4分)も含まれている。もう1つの結末は、採用された結末より重厚な印象だが、そもそもこの映画では結末の重要度は高くないだろう。


■ メイキングだけでも見る価値あり

 トニー・ジャーはインタビューで、次回作「トム・ヤム・クン」について語っている。タイトルが既に意表をついているが、内容も「テーマの1つはタイらしい味です。私は象を2頭飼っていますが、監督は象と人との関係について描こうとしている。撮影はオーストラリアの予定」と説明されるのだが、この説明でどんな映画かを想像するのは不可能に近い。

 ただ今回の映画で「CG、ワイヤーなしについて、人間の持つ真の力を見せたかった」ということで、あれほどのアクションを見せ付けたのだから、どんな映画なのか期待は高まる。

 ちなみにトニー・ジャーは、「幼いころからアクションが大好きでした、タイでは仮面ライダーや、ウルトラマンが放映されていた、夢中で見ていました」とのことで、日本の特撮もののテイストも受け継いでいるのかもしれない。

 DVDの3,990円は、メイキングを見るだけでも価値がある。本編の方も画質もよく、オーディオもサラウンドの迫力もある。「FIGHT CHAPTER」で見所シーンも呼び出せるので接待用、ホームシアターのデモ用として最適だろう。

●このDVDについて
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前回の「APPLESEED COLLECTOR'S EDITION」のアンケート結果
総投票数1,036票
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391票
38%
買いたくなった
381票
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買う気はない
264票
25%

□クロックワークスのホームページ
http://www.klockworx.com/
□ジェネオン エンタテインメントのホームページ
http://www.geneon-ent.co.jp/
□製品情報
http://db.geneon-ent.co.jp/newtitle/list/show_detail.php?softid=327541
http://www.mach-movie.jp/ec.html
□映画の公式サイト
http://www.mach-movie.jp/
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-特典ディスクを加えた2枚組み。音声はDD EX/DTS-ES
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040921/klock.htm

(2004年12月7日)

[AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]


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