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第155回:アクション、銃器、ロボ最高!!
人間ドラマはカクカクでした「アップルシード」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 2004年は士郎正宗の当たり年
APPLESEED
COLLECTOR'S EDITION

価格:10,290円
発売日:2004年11月25日
品番:GNBA-3014
仕様:片面2層(本編)/片面1層(特典)
収録時間:本編約103分
画面:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:DTS(日本語)
    ドルビーデジタル5.1ch(日本語)
    ドルビーデジタルステレオ(解説)
発・販売元:ジェネオン エンタテインメント株式会社
APPLESEED

価格:3,990円
発売日:2004年11月25日
品番:GNBA-3015
仕様:片面2層(本編)
収録時間:本編約103分
画面:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:DTS(日本語)
    ドルビーデジタル5.1ch(日本語)
    ドルビーデジタルステレオ(解説)
発・販売元:ジェネオン エンタテインメント株式会社

 2004年も様々な映画、ドラマ、アニメなどが世間を賑わし、続々とDVD化された。自室のDVDソフトラックを眺めながら今年の作品を思い返してみると、士郎正宗氏のコミックを原作とした作品が多い事に気がついた。劇場では押井守監督の新作として話題を集めた「イノセンス」、テレビアニメでは「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」、「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」のDVDとVHSの累計出荷数が100万枚を超えた。そして、新たにDVDラックに収まったのが11月25日に発売されたフル3DCG映画「アップルシード」だ。

 原作は、士郎正宗氏の商業誌デビュー作として'85年に発表された同名コミック。'88年にOVA化されているが、デキがイマイチだったせいもあり、知名度は今ひとつ。2004年4月に公開された今回の作品も、怒涛の広告展開が行なわれた「イノセンス」の影に若干隠れてしまったような印象を受ける。そのためか、爆発的なヒットには結びつかなかったようだ。

 私は士郎正宗氏のコミックも好きだし、映像化された作品のDVDなども、ほぼすべて所有している。2004年でいえば、「イノセンス」も劇場で観賞し、DVDも購入。嬉々としてレビューもした。テレビ版の攻殻機動隊も毎回ブラウン管にかじりついて見ているような状態だ。客観的に観れば「士郎正宗イヤー」に首までどっぷりつかっていると言えるだろう。しかし、今回とりあげる映画版「アップルシード」は劇場に観に行っていない。原作漫画は当然本棚に並んでいるのに……だ。

 理由は簡単。「つまらなそうだなぁ……」と思っていたから。もっとぶっちゃけてしまえば「ハズレな予感」をヒシヒシと感じていた。その発端は、公開前に繰り返し流された番組宣伝。「これまでにない映像表現」、「映画の未来を変える映像」などの刺激的な文句の後に、トゥーンシェーディングで表現された主人公の女兵士・デュナンが戦うCMだ。

 「なんだこりゃ」というのが率直な感想。3Dゲーム好きでもあるので、トゥーンシェーディングという言葉や、それがどんな映像なのかは知っていたが、それによって生み出されたデュナンの顔に、果てしない違和感を感じてしまった。最新のハリウッド映画では実写と区別がつかないほど自然にCGが使われ、ピクサーが手掛けるキャラクター達は、フル3DCDであっても非常に表情豊かで人間味があり、3Dキャラの演技で観客は涙を流している。

 そんなご時世にも関わらず、CMで流れたデュナンの顔は、3、4年前に作られた予算とポリゴン数の足りないゲームキャラのような……人間にも、アニメキャラにも見えない、悪く言うと薄気味悪い人形のように見えてしまったのだ。

 トゥーンシェーディングとは、3Dレンダリング技法の1つで、境界のはっきりした色使いや輪郭線など、セルアニメのような効果をつけてレンダリングする技法を指す。通常の3DCGは、より現実のそれに近く見せるために様々な技術を使用するが、そこであえてセル画風の、良い意味でのっぺりとした画像にレンダリングすることで、一見普通のセルアニメーションのように見える3DCG映像が作れるというわけだ。

 注意しなければならないのは、この手法が3DCG界では比較的新しいもので、ゲームやテレビアニメなどで採用された例はいくつかあるが、映画ではほとんど利用されたことがないということ。今までに前例がなく、見慣れないものは、最初は受け入れられにくいものだ。

 偏見を無くしてもう一度プロモーション映像を見てみると、背景や銃器、ロボットなどの3DCGクオリティが非常に高いことに気が付く。決して予算や技術が足りないのではない。違和感を与えることをあえて覚悟し、それでも人間のキャラクターにトゥーンシェーディングを採用したということは、3DCGで「アニメを作る」のでも、「実写を作る」のでもない、別の映像を目指すという決意があったのだろう。その心意気を買って、売り場でDVDの「COLLECTOR'S EDITION」を手にとった。



■ つまんなそうとか言ってごめんなさい

 時は2131年。非核大戦は終結したが、世界の都市は壊滅・荒廃していた。惰性のような戦闘を繰り返していた伝説の女兵士デュナン・ナッツは、謎の軍団により戦場で捕えられ、「オリュンポス」と呼ばれる平和な都市に連れて来られる。そこは彼女が這い回っていた廃墟とは正反対の、清潔で近代的なビルが立ち並び、高度にシステム化された世界だった。

 彼女を迎えたのは、サイボーグとなったかつての恋人・ブリアレオスと、クローン技術によって作られた人間「バイオロイド」のヒトミ。バイオロイドとは、争いをやめない人間の緩衝材としても生み出された生命体で、人間そのままの姿をしていながら、愛情や怒りなど強い感情を持たず、争ったり殺しあったりしない、平和的な存在。オリュンポスの人口の半分はバイオロイドで占められている。

 デュナンはその戦闘能力を見込まれ、行政院が直轄する特殊部隊「ES.W.A.T.」の隊員になる。だが、時を同じくしてオリュンポスでは、バイオロイドの存在を快く思わない人間の一部勢力が台頭。世界の未来を左右する、恐るべき計画が進行していた。

 ストーリーはOVAよりも原作に近く、かといって忠実な映像化というわけではない。最も違う点は、オリュンポスでの暮らしよりも、戦闘(アクション)シーンに重点が置かれていることだ。展開はスピーディーで、迫力のあるシーンが連続する。押井監督の影響か、士郎正宗原作の映画というと台詞の意味を考えながら頭をフル回転させなければならないイメージがあるが、この作品は観客を楽しませようというエンターテイメント性に溢れている。

 それに伴い、原作の膨大な情報量を適度に整理、簡略化されているので、誰にでも入り込みやすい物語になったと言えるだろう。良い意味で原作にとらわれず、かといって原作ファンが期待するツボも外さない。割り切ったシナリオを採用した勇断を高く評価したい。

 そして、最も驚いたのが戦闘シーンの迫力だ。モーションキャプチャーを駆使したキャラクターの動きは自然で、銃器の取り扱い方、射撃の姿勢、リコイルショック、特殊部隊突入時の各隊員の動きなど、アニメとは一味違うリアリティとスピード感に満ちており、実にカッコイイ。また、ここぞというシーンではアニメ的な誇張も取り入れられており、まさに新感覚の映像だ。

 冒頭、ありえないほど長い砲身を持ったガトリング戦車が薬莢をばら撒きながらデュナンを連射するあたりで、「つまらなそう」という予感はどこへやら。3Dで再現されたセブロ(劇中の架空銃器メーカー)の銃が活躍する頃には拍手をしてしまった。ランドメイド(搭乗可能な戦闘用ロボット)や、多脚砲台も重量感豊かに再現されており、メカやロボット、銃器、アクションが好きな人はお腹一杯楽しめるだろう。「これがやりたくてこの映画作ったんだろうなぁ」と思わせるシーンが幾つもあり、かなり楽しませてもらった。

 だが、アクション以外のシーンでは、正直言って最後までキャラクターの顔や体の違和感が消えなかった。トゥーンシェーディングを含めたCG技術のレベルは非常に高く、表情も若干ぎこちないが、それなりに再現されている。しかし、彼らが泣き笑い、人間ドラマを繰り広げると「手首の関節が曲がりずらそうだ……」とか、「ゼリーみたいな涙だなぁ」とか、「剣山みたいな髪の毛だなぁ」とか、些細なことばかりに目が行ってしまう。感情移入できないこともないが、「ポリゴンを見ている」という感覚が消えることはなかった。

 ただ、その点を補っても余りあるエンターテイメント性は評価したい。特に最後の戦闘シーンでは、ポリゴン数とレイヤー数だけを考えただけで目眩がしそうな凝りまくりの映像が続き、一見の価値ありだ。また、音楽のセンスも非常に良く、良質のミュージッククリップを観ているような高揚感を感じることだろう。

 それにしても、不自然さと言うなら、手で紙に描いた絵のほうがよほど不自然なはずだが、人間はアニメとして認識すれば、その不自然さを無視できる。トゥーンシェーディングを使った作品が量産され、人間が見慣れれば気にならなくなるのか、トゥーンシェーディングが進歩し、違和感のない新しい映像に到達するのか……。そもそもこの違和感はどこから来るのか? など、色々と考えながら観賞してしまった。



■ BOXの質感は高いが、若干割高感

 DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは8.38Mbps。本編が103分と短いだけあり、ビットレートは高めだ。映像は3DCGムービーであり、HD24Pマスターからダイレクトコンバートしただけあって、クリアの一言。視力が良くなったような鮮明な映像が楽しめる。「実写を意識せず、ツルツル、テカテカもあえて3D映像の味として活かそうと考えた」という荒牧伸志監督の言葉通り、発色豊かな映像は、作品の1つの特徴にもなっている。

 音声のビットレートは、DTSが1,536kbps、ドルビーデジタルが384kbpsで収録。DTSで主に視聴したが、映像の迫力に対し、サウンドデザインは若干おとなし目に感じた。だが、LEFが控えめということもあり、個々の音の質感の高さが良くわかる。付帯音が少なく、銃器の音も硬くて良い。映像に負けないクリアなサウンドという印象を持った。

 ちなみに、サウンドトラックにブンブンサテライツ、ポール・オークンフォールド、坂本龍一などの豪華なミュージシャンが参加したことも話題となった。映画の中でも音楽のセンスの良さ、世界観とのマッチングは見事なレベルである。

DVD Bit Ratge Viewerでみたの平均ビットレート

 DVDは通常版とCOLLECTOR'S EDITIONを用意しているが、本編ディスクは共通で、特典ディスクはCOLLECTOR'S EDITIONにのみ付属している。また、COLLECTOR'S EDITIONには荒牧監督の解説付きの絵コンテ&設定資料集、CGで作られた名場面のデジタルアートブックなどを同梱したBOX仕様になっている。ちなみに、価格は通常版が3,990円、COLLECTOR'S EDITIONが10,290円と、倍以上の差がある。

 特典ディスクのメインは「3Dライブアニメの誕生」と題したメイキングだ。監督の荒牧伸志氏や、プロデューサーの曽利文彦氏、CGプロデューサーの豊嶋勇作氏らが作品に対する想いや苦労話などを語ってくれる。新しい分野にチャレンジしたこともあり、話のネタは豊富で、興味深いコンテンツだ。

 曽利プロデューサーは、士郎正宗作品の中でアップルシードを選んだ理由について、「ロボット、世界観、兵器、登場キャラクター(ブレアレオスなど)が、士郎正宗さんの作品の中で、最も3D化に向いていたから」と語る。また、トゥーンシェーディングで作られたキャラクターが映画の主人公として観客を引きつけ、感情移入させることができるか? という問題は常に大きかったようで、「トゥーンシェーディングを採用した理由は、日本ならではの3DCGを作りたかったという気持ちのほかに、セル画タッチにすることで、より感情移入できるのではないかと考えたから」だという。

 また、CGプロデューサーの豊嶋氏の話も興味深い。2Dのセル画ならば、それぞれのアングルで一番良く見える絵を描けばいい。しかし、3Dのキャラは一度完成してしまうと、それが役者として映画全編に使われる。一枚一枚絵を描かなくて済んで楽じゃないかと思うかもしれないが、あらゆる角度から見てもおかしくなく、かつ特徴がわかる造型にしなくてはならない。「そこが最も難しく、最後の合成の直前まで“眉毛はこうだ、いや、こうじゃない”と試行錯誤を繰り返していた」という。

 キャラを作るのが大変なら、それを動かし、演技させるのはもっと大変だ。大まかな動きはお馴染みのモーションキャプチャーを利用すればOKだが、アップルシードでは唇や表情の動きもデジタルデータ化する「フェイシャル・キャプチャー」も採用された。

 位置を読み取るための小さな白いボールを声優さんの顔に何十個も付けたうえで、演技をしてもらう。声優の小林愛さんは、スタジオに入るなり「(ボールを付けるため)化粧を全部落としてください。乳液とかも全部ダメといわれて、驚きました。朝念入りにしてきた化粧だったんですが」と笑う。また、演技中は表情を動かすが、頭は動かしてはいけないため、演技もしずらかったという。なお、小林愛さんは舞台で活躍中の女優さんで、声優としてはあまり知られていないかもしれない。しかし、「COWBOY BEBOP 天国の扉」でヒロイン、エレクトラを演じた人と言えば、わかる人にはピンと来るだろう。

 ほかにも、特典ディスクには360度に回転するキャラクターを眺めるコンテンツ、デザイン画、ミュージックビデオなども収録している。また、CD-ROMも同梱しており、PCで利用できる壁紙や静止画データなどを収めている。

 本編ディスクには荒牧監督と曽利プロデューサーによる音声解説も収録。意外と饒舌な2人は、やはり戦闘シーンがお気に入りのようで、自らの作品ながら「カッコイイ」、「この薬莢が出るシーンがお気に入りなんだ」とご満悦。だが、終盤ではあまりに凝りすぎた映像の連続で「現場に無理ばっかり言って申し訳なかった」と逆にトーンダウンする製作者ならではの反応も楽しい。


■ 楽しめる実験作品に拍手

 COLLECTOR'S EDITIONのケースや冊子のクオリティは高く、満足度は高いが、通常版との6,000円以上の価格差を考えると微妙なところ。本編ディスクは共通なので、「とりあえずどんなものか見てみよう」という人には通常版をお勧めしたい。3,990円という価格も、邦画の劇場用作品としては良心的と言えるだろう。

 映画としては、宣伝文句通り、新しい映像表現にチャレンジした精神を高く評価したい。また、そのうえで、単なる自己満足的な実験作品で終わるのではなく、観客を楽しませる作品にまとめあげた手腕も見事と言うべきだろう。

 特典ディスクの中で曽利プロデューサーは、今回の映画の成果として「モーションキャプチャなどで動きを撮るだけでは、単なる3Dゲームになってしまう。アップルシードでは、芝居として、演じている空間を切り取り、デジタルデータ化し、映画に作り上げた。それができたことが大きなポイントだ」と語っている。アニメでも実写でもない新しい映像ジャンル。それが確立する可能性は未知数だが、鑑賞中ワクワクしていたのは確かだ。

●このDVDについて
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前回の「スターシップ・トゥルーパーズ2」のアンケート結果
総投票数688票
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249票
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□ジェネオンのホームページ
http://www.geneon-ent.co.jp/
□製品情報
http://db.geneon-ent.co.jp/search_new/show_detail.php?softid=325564
□映画の公式サイト
http://www.a-seed.jp/
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-2枚組みの特別版には、200ページの解説書などを付属
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-オリジナルカラーのフィギュアを同梱、2種類から選択可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040227/geneon.htm

(2004年11月30日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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