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第185回:波形編集ソフトの定番がバージョンアップ
~ASIO/VSTに対応した「Sound Forge 8.0」~




 Sony Media Softwareによる波形編集ソフト「Sound Forge」「Sound Forge 8.0」にバージョンアップし、機能強化が行なわれた。またそれと同時にCDのマスタリングソフトとして著名な「CD Architect」がSound Forgeの一機能としてバンドルされる形となった。今回はその最新版Sound Forgeにスポットをあてて紹介する。


■ 歴史ある波形編集ソフト

Sound Forge8.0

 筆者個人的にSound Forgeには強い思い入れがある。というのも十数年前から、Windowsが3.1でSound Forgeがまだ3.0というバージョンのころからこのソフトを使ってきており、現在でも頻繁に使っているソフトだからだ。このDigital Audio Laboratoryでも、実験用ツールとして毎回のように登場しているソフトでもある。

 いまや波形編集ソフトなどフリーウェアでも存在する時代であり、事実国産フリーウェアのSound Engineなどは高い人気を誇っている。しかし、当初から非常に高機能でありながら、動作が軽く、安定した動きをしていたSound Forgeは、現在でも多くのユーザーが利用する波形編集ソフトの定番である。

 このSound ForgeはACIDVEGASなどと同様にSonic Foundryという会社が開発したソフトだが、ちょうど2年前、Sony Pictures Digitalに売却されており、現在はソニーブランドのソフトとなっている。この前までは、Sony Pictures Digital Networksのソフトということで展開していたが、現在はACIDなども含めSony Media Softwareというシリーズタイトルとなったようだ。

現在はソニーブランドに

 ただ、このSony Pictures Digital自体は日本のソニーからみれば孫会社であり、関係性が遠いこともあり、日本のソニーはノータッチとなっている。そのため、国内での販売元はSound Foundry時代から変わらずフックアップが担当しており、それは今回の8.0になっても同様だ。国内価格は48,300円。安いソフトではないが、あのマスタリングソフト、CD Architect 5.2同梱でこの価格というのはかなり高いコストパフォーマンスといってもいいだろう。

 広く普及しているソフトとはいえ、Sound Forgeについて知らない方も少なくないと思うので、まずはその概要を紹介しておこう。波形編集ソフトの代表ともいえるソフトで、音声データの編集を行なうものだ。ただし、DAWなどとは異なり、基本はあくまでもモノラルもしくはステレオの音声データ、1つを編集するだけであり、マルチトラックという概念は存在していない。カット、コピー、ペーストといった基本操作をベースにフェードイン、フェードアウト、ノーマライズといった編集作業、そして各種エフェクトの設定も可能となっている。また周波数分析や波形の合成といった機能なども装備されている。ちなみに、このエフェクトはもともとDirectX対応ものであり、まだVST規格などが登場する以前から採用していた本当に歴史あるソフトだ。

 そのため、オーディオの編集作業はこれ1本あれば、一通りのことはできる。もちろんリサンプリングやビット変換も可能だから、アナログ音源のデジタル化といったニーズにもピッタリのソフトである。また結構多くのオーディオフォーマットの入出力に対応しているので、単純なデータコンバータとしても利用できるというものだ。

 そのSound Forge、これだけ長い歴史があるので、もう機能向上させる点など無いようにも思えるが、実は基本的な部分でいろいろと余地があった。そして筆者個人的にも困っていた点、気になっていた点などが、今回のバージョンアップですべて解消されている。そこで、それらバージョンアップポイントを具体的に紹介していこう。


■ ASIOとVSTにようやく対応

 まず最大のポイントともいえるのがASIOドライバへの対応。一般的には「何を今更」ともいえるものだが、Sound ForgeはWindowsベースのMicrosoft規格のソフトという感じで進化してきたため、あえてWindows標準のドライバに固執していたようにも思えたが、ようやくASIO対応してくれた。やはりこれだけASIO全盛の世の中になると、ASIO対応していないのが不自然であり、不便でもあった。

 確かに2chのレコーディング、プレイバックしかしないので、MMEドライバでも大きな問題はないし、DAWと異なりソフトシンセをリアルタイム演奏するわけではないので、大きく困ることはなかったのだが、MMEドライバは24bit/96kHz、24bit/192kHzといったものの場合、ドライバを開発するメーカーによって相性問題が出てきて、うまく動作してくれないケースがよくあったのだ。それがASIO対応になることで、すべて回避できるというのは大きいメリットだ。

 このASIO対応にあわせて、当然やってきたのがVST対応だ。これまでDirectXのみの対応だったのが、ようやくVSTエフェクトにも対応してくれた。もっともCakewalkのVSTアダプタを持っていれば、これまでも使うことができたが、今回の8.0でVSTにネイティブ対応してくれたので、より使いやすくなっている。ちなみに、Sound ForgeをインストールするとProgram Filesのディレクトリ内にVSTPluginsというフォルダが生成されるので、この中にVSTのdllファイルを入れておけば認識してくれるようになっている。

ようやくASIOドライバに対応した DirectXのほかに、VSTエフェクトにも対応

 これまでSound Forgeを使っていた方ならすぐにわかるとおり、ユーザーインターフェイスが少し変わり、ちょっとカワイイ感じになっている。これは人によって好みの分かれるところだとは思うが、よりWindows XPライクになったというイメージだろうか。Windowsテーマにも対応したとのことである。


■ スクリプトで機能拡張もできる

 また見た目だけでなく、使い勝手として向上しているのが、スクラブ再生への対応。波形編集画面の下にスクラブ再生用のバーが追加されており、これを動かすことで、再生速度を自由に変えて再生させることができるのだ。

 一方、Sonic Foundry時代のSound Forgeにはあったけれど、ソニーブランドになって消えてしまって不評だったのが、バッチコンバーター機能。これは、よく行なう操作を手順に沿って仕込んでおくと、一括でバッチ処理できるというもの。たとえば、まずノーマライズをかけて、EQ処理を行ない、44.1kHzにリサンプリングしてから、16ビットに変換するといった手続きを自動的で行なえるようにする。Sound Forgeを業務用として使っている人の多くは、結構単純作業が多いと思うが、このバッチコンバーターを利用するとかなり仕事が効率よくなるはずだ。

波形編集画面の下にあるスクラブ再生用のバーで、再生速度を変えて再生できる よく行なう操作を一括でバッチ処理できるバッチコンバーター機能で、単純作業の効率も上がるように

 もうひとつ、面白いのが、スクリプトが組めるようになったこと。実際、サンプルとしていくつかのスクリプトがメニューに組み込まれているが、これによってSound Forgeの機能自体を拡張できるようになっている。かなり自由度の高いプログラミングができるようであるが、これについては、それなりのプログラミング知識を持っていないと使えるものではなさそうだ。きっと、今後こうしたスクリプトがフリーウェアなどで登場してくるのではないだろうか。

 一方、機能向上でもなんでもないが、日本のユーザーにとって大きいのがバグフィックス。実は、レコーディング画面で、前のSound Forge 7.0では、インジケータの下桁の文字が欠けてしまっていて非常に使いづらかった。とくにこのDigital Audio Laboratoryでの実験では、非常に微妙な単位までのレベル調整が必須であったため、このバグは致命的で、結果としてSonic Foudry時代のSound Forge 6.0を使うケースが多かった。それが、今回の8.0でようやく元に戻り、使えるものとなったのだ。

スクリプトによりSound Forgeの機能自体を拡張できる プログラミングの自由度はかなり高い インジケータの下桁の文字が欠けるバグを修正 バグ修正により、精密な実験が可能になった


■ CD Architectとの連携が可能に

 以上が、Sound Forge本体のバージョンアップ部分。地味な変化ではあるが、ようやくこれで完璧なソフトへと仕上がったように思う。しかし、今回のバージョンアップは、Sound Forge本体だけでなく、ほかのソフトがバンドルされ、機能統合されたのもかなり嬉しいポイントだ。冒頭で触れたとおり、CDマスタリングソフトのCD Architect 5.2がバンドルされるとともに、Sound Forgeと連携できるようになったのだ。

 CD Architect自体は、以前の市販であったものとほとんど何も変わっていないので、今回はあまり詳しく触れないが、これを使うことで、自由なオーディオCDの作成が可能となっている。一般のCDライティングソフトとの違いとして顕著なのは、ライブなどをCD化する際、曲間つまりトラックとトラックの間に拍手や歓声を入れるということが可能になっているのだ。またこれをうまく利用することで、隠しトラックなどを作ることもできる。

 CD Architectは別アプリケーションであり、別途インストールする必要があるが、今回のSound Forge 8.0にはFilesメニューの中にExport to CD Architect、Export all to CD Architectというメニューが追加されており、これを選択すると、CD Architectを起動するとともにSound Forgeで開いている波形を引き渡すことができるようになっている。

CD Architect 5.2がバンドルされ、Sound Forgeと連携可能に Sound Forgeで開いている波形をCD Architectに引き渡せる

OpenMG JukeboxやSonic StageがあればNetMDにエクスポートできるようだ

 なお、このメニューをよく見てみると、「Export to NetMD」とある。さすが、ソニー陣営に入ったソフトだけに、こうしたメニューが追加されたようだ。ただ、ちょうど手元にNetMD機器がなかったので、実際にエクスポートできるか実験できなかったが、OpenMG JukeboxやSonic Stageが入っていれば動作するようである。


Noise Reduction 2.0

 そして、もうひとつバンドルされたのがノイズリダクションソフトのNoise Reduction 2.0。かなり以前、このDigital Audio Laboratoryでも取り扱ったことがある非常に高性能なソフトだが、実はその後まったく進化していないようで、ロゴだけはソニーに付け替えられているけれど、インストール先のディレクトリ名にはSonic Foundryが残ったままの状態だった。機能的にはなんら問題ないので、すばらしいおまけがついてきたと考えればいいだろう。

 以上、今回は波形編集ソフトSound Forge 8.0を取り上げた。この製品、4月1日からフックアップから発売されているが、数ヶ月以内には日本語化されるそうだ。登録ユーザーは無償で日本語化できるとのことだ。波形編集ソフトで日本語化したところで、どうということもないかもしれないが、日本語メニューでないと嫌だという人はもう少し待ったほうがいいだろう。


□Sony Media Softwareのホームページ
http://mediasoftware.sonypictures.com/
□製品情報
http://www.hookup.co.jp/software/forge8/

(2005年4月4日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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