■ 最新ポータブルオーディオの盲点? iPodを中心に多くの製品が発売され、人気を集めているデジタルオーディオプレーヤー。通勤電車などではMD/CDプレーヤーと比較しても遜色ない数を見かけ、利用層も高校生あたりから、それなりに年齢と思われるサラリーマン風の人まで幅広い。 それに伴い、リモコン対応やワイヤレスヘッドフォンなど使い勝手の向上や、カラー液晶、ひいては動画プレーヤー機能など、エンターテインメント関連機能を強化した製品、ペンダント型やスポーツタイプなど用途やライフスタイルに合わせた製品が数多く提案されている。デジタルオーディオを取り巻く環境は、さまざまな選択肢が用意されるようになったといえる。 しかし、RWCはそうした市場でも、かなりユニークなアプローチで差別化を図ってきた。それが、“音圧”にこだわったというヘッドフォン型MP3プレーヤー「itan EGOISTE(アイタン エゴイスト)」だ。
40mm径ドライバを搭載した密閉型ヘッドフォンに256MBのフラッシュメモリを内蔵し、MP3/WMAプレーヤー機能を搭載した製品で、とにかく音圧にこだわっているという。曰く「市場に出回るオーディオプレーヤーの音圧に満足できず、ポータブルプレーヤーであってもライブハウス/ホールにいるような、低音ががつんと響くような音を聞きたいという思いから生まれた」という。 考えてみれば各社のオーディオプレーヤーとも、それぞれに音質に特徴があり、ポップス向けやクラシック向けなど、好みによって使い分けもできるとはいえる。また、高音質という方向での差別化は各社が図っている。しかし、“音圧”にフォーカスするというのは、なかなか思いつかなかった。 実売価格は13,800円。256MBのオーディオプレーヤーとして考えれば、やや高価ではあるものの、ある程度のクラスの密閉型のヘッドフォンとオーディオプレーヤーをセットで買うと考えれば、まずまず納得いく金額ともいえる。音圧にこだわったというプレーヤーは他には無いので、「唯一無二の製品に果たしてどこまでの価値を認めるか」という点が購入を左右するポイントかもしれない。
■ ヘッドフォンにMP3プレーヤーを内蔵
同梱品は本体のほか、USBケーブルとマイク内蔵のオーディオ/マイクケーブルなど。マイク内蔵ケーブルを利用することで、ヘッドセットとしても利用可能になる。 本体重量は192gとヘッドフォンとしてはやや重め。とはいえ装着して重さが気になるほどでもない。折りたたみ式のアームを採用し、小さく折りたたんで収納できる。 40mm径の大型ドライバユニットを搭載し、最大出力は23mW×2ch。右ハウジングに再生/停止やスキップ/バック、イコライザなどの操作が可能な大型コントロールボタンを備えており、ハウジング脇にボリュームやイコライザのコントロールが可能なジョグダイヤルを装備する。
本体はややプラスチックの質感を残しているものの、重量感があり、手に取ってみるとそれほどチープさは感じない。もっとも13,800円のヘッドフォンと考えると、安っぽさを残しているとは言えるかもしれない。 電池ボックスは左ハウジングに装備。電源は単4アルカリ電池1本、もしくは2本で、連続再生時間は1本の場合12時間、2本の場合24時間となる。1本でも2本でも駆動できるというのはなかなかユニークだ。
■ 転送も操作も至ってシンプル
対応するオーディオコーデックは、MP3とWMA。USBストレージクラスに対応し、オーディオデータの転送などにも特に転送ソフトなどは必要ない。ただし、WMA DRM付きの楽曲については、Windows Media Playerからの転送が必要となる。 右ハウジングのUSB経由でPCと接続して、オーディオ転送を行なう。接続してみるとPCのデバイスマネージャで「SigmaTel MSCN」と認識されるので、おそらくSimgaTel製のプレーヤー用チップセットを利用していると思われる。
内蔵メモリは256MBと少なめ。そもそも液晶ディスプレイを搭載していないので、大量の楽曲を転送できても管理が難しい。ただし、フォルダ階層も認識され、ROOTフォルダの全曲の再生の後に、サブフォルダ内の曲も再生可能だ。そのため、アルバムごとにフォルダに分けて転送すれば、複数のアルバムの管理も一応可能だ。 転送したファイルは数字/アルファベットなどのファイル名順で認識される。そのため、01-[曲名]のように曲頭にアルバム曲順が付与されていれば、アルバム順での再生が行なえる。プレイリストは認識されないほか、特に任意の曲順で再生する機能なども備えていない。
装着してみると、ちょうど耳を覆う形になるので、遮音性はかなり高い。ややイヤーパッドが堅く、側圧も強いのは好みの分かれるところだろうが、個人的にはタイトなフィット感がなかなか心地よく感じる。独特の拘束感が残るのだが、それもこのヘッドフォンには似合っているようにも思える。 オーディオファイルが認識されれば、後の操作は至ってシンプルだ。右ハウジングの大型ボタンを使って、基本操作が行なえる。大型操作ボタンの配置は、上側の左右が曲戻し/送り、下段の左が停止、下段の右が再生/停止となっている。 電源の投入は再生/停止ボタンの長押しで、3秒ほど押し込むことで電源が投入される。ボタン上部のLEDが緑色に点灯すると電源ON。音楽再生中は緑色に点滅するほか、電池残量が少なくなると再生停止中でもLEDが緑色に点滅する。なお、停止/再生停止中に、1分間操作がないと、自動的に電源がOFFとなるので、電源の切り忘れによる電池消耗の心配は無い。なかなか親切な設計だ。 大型ボタンで、再生/停止や、曲送り/戻し(長押しで早送り/戻し)などが行なえるほか、ハウジング下部のボリューム用ジョグダイアルでボリュームの上下設定が可能。最初は若干とまどうが、4つしかボタンが無いのでだいたいの位置さえ覚えてしまえば容易に操作できる。
液晶ディスプレイが無いこともあり、複雑な操作は基本的に無理だが、それらを切り捨てることでシンプルな操作性を実現しているといえるだろう。ただ、ボタンを押し込むと、ハウジングの中まで音が“パコパコ”と響くあたり、チープさを感じてしまう。
■ 確かに強烈な音圧。モードはEGOISTEがベスト 本題とも言える音質については、160kbpsのMP3ファイル中心に転送して検証した。イコライザは、JAZZ/EGOISTE/LIVE/CLASSIC/R&Bの5モードを用意する。NORMALが無いあたりが、潔い。 各モードの違いを検証しようと思ったが、液晶も無く、LED表示でもイコライザ設定が確認できないため、現在どのモードで利用しているのかわからない。取扱説明書を見ると、「電池を抜くとJAZZからはじまり、ジョグボタンを押し込むことで、EGOISTE、LIVE、CLASSIC、R&Bと変更できる」とのことなので、とりあえず電池を抜いてから、ジョグボタンを押した回数でモードを確認してみた。 ニュースリリースでは「EGOISTEの波形にはこだわっている」と説明しているので、このEGOISTEモードを軸として、他のモードの違いを検証しよう。“音圧重視”とのことなので、厚みのある低音を予想していたのだが、中域から低域がタイトでハイスピード。中高域の情報量も十分だ。ロック系のソースでは、タイトなバスドラやスネアが楽しめるし、ギターのカッティングの切れの良さなどは特筆すべき点と言えるだろう。 ジャズ系のソースについては、ピアノは余韻よりはアタックを強調し、ウッドベースなどはやや腰高な印象も残る。クラシック系のソースでは、音場の広がりにかけるが、バランスが大きく偏っているわけではない。思いのほか普通の音作りだが、輪郭のしっかりした低域が印象的。 試しにスラッシュメタル系の音源を聞いてみたが、BPM 250ぐらいの超高速バスドラもハイスピードに再現する。周波数のスペックで低域が出ているというわけではなく、音の立ち上がりと、消え際の表現に特徴があり、ソースの情報量がぐっと凝縮されて再現されるという印象だ。また、強烈なディストーションギターの音圧感も十分。“音圧”という表現から、単にイコライザでブーストしたブーミーで鈍い低域を想像していたが、EGOISTEの場合は、重さよりもあくまで速さの伝わる切れのいい低域を追求しているようだ。 一応、他のイコライザモードも試してみよう。LIVEはEGOISTEとうってかわってブーミーな低域と派手な高域強調、広めの音場が特徴的なモード。小さめの音で聞いた時には、エレキベースが必要以上に誇張されたり、ボーカルの音割れなどとあまりいいところは無いが、強烈なドンシャリ系ということもあり、大音量で聞くと迫力は最大となる。超轟音系のソースでは迫力の音響が楽しめるが、くれぐれも音漏れには注意されたい。 CLASSICはボーカル帯域がガクッと引っ込んで、LIVEより一段と広めの音場のモードとなっている。クラシック系ソースとの相性は悪くないが、EGOISTEの独特のスピード感や楽音の情報量の高さと比較すると地味さは否めない。 R&BはEGOISTEの低域を太めにしながら、やや中域の勢いを落としたようなモード。重めのキックを聞かせたい時には悪くないモードだが、ボーカルが割れる傾向。JAZZはベースライン強調のようで、ボーカルの位相がおかしく、高域の伸びもイマイチだ。 液晶を搭載していなくても、一度傾向をつかんでしまえばどのモードを利用しているのかわかるぐらい、全モード癖が強い。LIVEモードで大音量のヘヴィなロックなどを聞いた後に、EGOISTEモードに戻すと非常にしょぼく感じるのだが、聞き慣れたソースで一番自分の記憶に近い再生ができるのがEGOISTEだ。要するにこれがNORMAL設定と考えてもいい。基本的にEGOISTEモードで利用することを推奨したい。 EGOISTEモード以外の出来はイマイチだが、低域再現のみならず、トータルな音質は非常に良好。音質に顕著な差が出る最終出力段について、ほとんどのオーディオプレーヤーでは、イヤフォン部にさほどコストをかけられないことを考えれば、結果的に40mmドライバ搭載のヘッドフォンの方が満足できるのは当然かもしれない。 ただ、多くのプレーヤーで利用できるイコライザのカスタム設定などは全く行なえないので、“好みの音を自ら作り出す”という点では、やや物足りなさも残る。 なお、ギャップレス再生には対応しておらず、ライブ盤などの再生では若干のギャップが感じられる。
■ 素のヘッドフォンとしても能力は高い ステレオミニケーブルを接続して、通常のヘッドフォンとしても利用できる。普通のヘッドフォンとして利用した場合は、イコライザ設定は適用されない。つまり素のヘッドフォンとしての性能が試されるわけだが、iPodと接続してみたところこれが十分普通のヘッドフォンとして十分満足できるクオリティ。 EGOISTEモードに感じた高域の解像度は薄らぐが、中低域の勢いや低域のスピード感は健在で、個人的にはトータルなバランスとしてこちらの方が好ましいと感じる。1万円超のヘッドフォンと考えれば、音場感などはやや物足りなさも残るが、独特のコシの強い中低域は魅力的だ。 また、本体で再生中に外部入力音声を聞くこともできる。つまり本体の音楽と外部入力をミックスして聞くことが可能。だからどうなのかといわれると困るが、外部入力と本体で同じ音楽をほぼ同時に再生すると、音質の違いなどがわかって面白い。 マイク内蔵のオーディオ/マイクケーブルが付属し、ヘッドセットとしても利用できるのもユニークなところだ。
■ 魅力的なニッチ製品。音圧フェチなら試す価値はある 音圧に注力し、ヘッドフォン性能を高めたMP3プレーヤーという点では企画意図に違わぬ強烈な製品になっている。もちろん、液晶ディスプレイによる検索性の向上や、スポーツ中にも利用できるようなライトな使用感覚など、近年のデジタルオーディオプレーヤーでは当たり前の機能がさっぱり排除されているのだけれど、それ故に非常にユニークな製品に仕上がっている。 側圧が結構強いので、頭を相当揺らしても落ちず、ちょっと動き回るぐらいではホールド状態を保つことができる。コードレスヘッドフォン的に利用できるので、部屋の中で踊りながら聞くというのもいいかもしれない。 とにかく、外出先でも強烈な音圧で音楽を楽しみたいという人には唯一無二の選択肢だ。難点を挙げると、音漏れがかなりあるので、電車内や公共の場所では配慮が必要なことだろうか。 ともあれ、「自分が欲しいモノを作る」という非常にシンプルな欲求を実現してみると、市場ではきわめてユニークな製品ができてしまったという好例だろう。もちろん、ニッチな製品ではあるのだけれど、ある程度市場が成熟しつつある昨今では、大手メーカーではなかなかできない製品企画であるのは間違いない。こうしたユニークなプレーヤーが出てくる限り、まだまだポータブルオーディオ市場も盛り上がっていきそうだ。 □RWCのホームページ (2005年4月15日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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