■ 新製品が相次ぐノイズキャンセルヘッドフォン 外部の音を関知して、その逆位相成分をヘッドフォン内で生成。音声とともに出力することで外部ノイズを打ち消すいわゆる「ノイズキャンセルヘッドフォン(NCヘッドフォン)」は、もともと飛行機での利用を想定し開発されたもの。 代表例としては、BOSEの「QuietComfort2」などが挙げられるが、もともと特定用途向けの製品のため、新製品のリリースは年に数モデルに限られている。要するにニッチ製品なのだが、なぜかこの半年ほどはソニーの新モデルやクリエイティブなどの新製品が数多く登場。日本ではまだ販売開始していないようだが、SENNHEISERも新モデルPXC 300をアナウンスするなど、微妙な盛り上がりを見せている様子。 そうした状況下で、4月1日にハーマンインターナショナルがAKGのノイズキャンセルヘッドフォン「K28NC」を発表し、4月下旬より発売開始する。AKGといえば、日本ではオープンエアー型の高級ヘッドフォンやモニターのイメージが非常に強いが、業務用のマイクなどでも有名。という意味ではノイズキャンセルヘッドフォンにも期待できそう。実売価格は24,000円前後と、SENNHEISER PXC250(2万円弱)よりはやや高く、QuietComfort2(41,790円)よりはやや安いという価格帯で、この2製品が直接の競合になると思われる。
■ メタルフレームが特徴的なデザイン
パッケージはブリスターパック。ヘッドフォン本体のほか、ステレオ標準変換プラグ、航空機用のデュアルプラグ、キャリングケースが付属する。 本体はヘッドフォン部と小型のノイズリダクションユニットから構成される。ノイズキャンセリング機能は、ヘッドフォンに搭載しているノイズ検出マイクを利用して外音を検知・分析し、ノイズユニットのNC回路により外部の音の位相を反転、音楽信号に重ねてヘッドフォンから再生するというもの。要するにNCの機構としてはごく標準的なものだ。 ハウジングは密閉型。ヘッドバンドはメタル製で、バンド部の収縮のほか、ハウジングが回転し、簡単に折りたためる「3D-Axiss機構」を採用している。イヤーパッドはレザー製で、ソフトな肌触りだ。 特徴的なのはやはりフレームのメタルを生かした独特のデザインだろう。メタルフレームといえばKOSSのPORTAPROなどもあるが、PORTAPROの金属の剛性感を強く押し出した無骨でハードな印象に対し、K28NCは落ち着いたボディカラーや金属の質感を生かしつつもシックな印象で、大人のイメージ。個人的には好みのデザインだ。 キャリングポーチには、折りたたんだヘッドフォン部と、ノイズリダクションユニットをあわせて収納できる。伸縮性に富んだ素材のため収納は自体はさほど難しくないのだが、コード超が1.8mとやや長いほか、ポーチが小さめのためあまり格好良く畳めないのが残念。また、3D-AXissの稼動部が華奢な印象で、折り畳んだ時に壊しそうで若干不安になる。 スペック的なところを抑えておくと、再生周波数特性は12Hz~28kHz、感度は110dB SPL/mWで、インピーダンスは32Ω。電源は単4電池1本で、電池寿命は約40時間。価格帯的に一番の競合となると思われる、SENNHEISER PXC 250は単4電池2本利用で、やや大きめのNCユニットを採用していたことを考えると、ユニットの小ささではアドバンテージがあるといえる。
■ NC ON/OFFでの音質変化は少ない ・装着にはコツが必要。
メタルフレームは伸縮式なのだが、フレームの任意の位置で固定できないため、装着する際には、両手でメタルフレームを伸ばしながら自分の頭にあわせてフィットさせるというイメージ。片手で装着するのはかなり難しい。 装着してみると、耳を完全に覆うことはできないものの、ソフトなタッチのレザー製イヤーパッドの感触が気持ちいい。ハウジング部が回転する「3D-Axiss」により、フィット感も高まっており、装着時の満足感という意味では期待を裏切ることはないだろう。 まずはiPodを接続。入力インピーダンスは32Ωと通常のヘッドフォンよりは高めだが、使ってみるとさほど問題は感じない。NC部の電源ON時はもちろん、電源OFFで通常のヘッドフォンとしても利用できるので、まずは普通のヘッドフォンとして利用してみた。 アタックの強さはないものの、しっかりと量感を出してくる低域が印象的で、ジャズ系のソースでは、ベースラインのニュアンスがつかみやすい。高域の分解能はさほど高くないが、アコーステイックギターの響きなどは独特の艶っぽさがあって気持ちいい。 中高域のヌケが今ひとつなのと、音場がさほど広くないのでクラシック系のソースとはあまり相性が良くないかもしれないが、このあたりは好みの範疇だろう。2万円超の室内用高級ヘッドフォンと考えると、音場感などは物足りない点もあるが、ポータブル用途としてはかなり満足できるレベルだ。 ・NC ONでの音質変化は少ない それではいよいよノイズキャンセルをONに。ユニットのスライドスイッチによりNC ON/OFF切り替えが可能となっている。ハードウェアスイッチのため自動パワーOFFなどはないので、切り忘れには注意が必要だ。 まずはオフィスで利用してみたが、パソコンや空調のファンノイズなどの持続的な音はほぼ完全にカットされる。キーボードの打鍵音や話声、電話の呼び出し音は少し遠くなるものの、それなりに聞き取ることができる。逆相成分のミックスによるノイズキャンセル特有のホワイトノイズは少なく、音楽などを聞き始めればほとんど知覚できない程度だ。 音楽を聴いてみると、やや低域が持ち上がるものの、音質変化はノイズキャンセルヘッドフォンとしてはかなり小さい部類。高域が若干落ちているが、輪郭がくっきりしてくるので、聞きやすさという点ではノイズの大きな環境でなくてもNC ONのほうが上回っているかもしれない。 さらに、音場感がNC ON/OFF時でさほど変わらないも嬉しいところ。多くのNCヘッドフォンでは、サウンドステージの広がりの違いでNCのON/OFFがすぐわかってしまうことが多いが、K28NCはユニットのLEDを見ないと判別できないこともあった。 電車の中で利用してみると、NCの効果は顕著。密閉型ではあるものの、耳を完全に覆うタイプではないので、ヘッドフォン自体の遮音性はさほど高くないが、NCをONにするとモータ音や定期的なロードノイズは大部分カットされる。 ノイズキャンセル効果も高く、特に地下鉄ではロードノイズに加え、トンネルの共鳴音が大幅にカットされるので、顕著な効果を発揮する。気になる持続的なノイズをカットしながらも、ドアの開閉やアナウンスなどはそれなりに知覚できるので、通勤用途としても十分利用できると感じた。 ・利用時の注意点
通勤用として利用する際に考慮する必要があるのはヘッドフォンの取り回しについて。ケーブル長が1.8mと長めで、しかもケーブルが両方のハウジングから出ているため、鞄の中などで絡みやすい。モールなどで留めて好みの長さなどに調節しておくといいだろう。ユニット自体はSENNHEISER PXC 250よりはだいぶ小さいのでシャツの胸ポケットにも十分収納できるため、通勤電車などでも利用しやすい。 ただし、前述の通り、両手で広げながらかぶるように装着しないとうまく付けられないので、短い距離の移動時などに積極的に取り出そうという気分にはならない。もっとも、ノイズキャンセルヘッドフォンの開発思想自体が、基本的には飛行機などの長距離移動なので、問題視するような点でも無いのだが……。 電池の持続時間は約40時間。単4アルカリ電池1本と考えればかなり長時間の再生が可能で、20時間以上は利用したが、ノイズキャンセル効果の変化などは感じられない。
■ 完成度の高さと特徴的なデザインが魅力 通勤などの日常利用を考えると、装着がやや難しかしい点を除くと、欠点はほとんど感じない。適度なノイズキャンセル効果と、音質変化の小ささは魅力的。音質とノイズキャンセルの両立という点で、さまざまなシチュエーションに対応できるのは大きな強みだ。 価格的にはSENNHEISER PXC250が直接の競合となるだろうが、音質的には優劣というよりは好みで違いにより判断してもいいだろう。むしろ、購入判断の最大のポイントはデザインかもしれない。スマートなメタルフレームのデザインには、他社製品とは比べられない魅力がある。 ちなみに「K28NC」のベースモデルとなる「K26P(実売7,000円弱)」も、ユニークなデザインなどが人気となり、AppleStoreを中心に売れ行き好調という。iPodをはじめとするデジタルオーディオプレーヤーの普及は、オーディオアクセサリの市場などにも、大きな波及効果となって現れているようだ。 ポータブルCDやMDで、イヤフォンを交換して音楽を楽しむという人はさほど多くなかったが、デジタルプレーヤー時代に入ってヘッドフォンへのこだわりなどもマニア層から一般層に広がりを見せており、周辺市場もかなりの盛り上がりを見せている。NCヘッドフォンが多数登場するようになったのも、こうした機運を受けてのことだろう。何はともあれ、音楽の聴き方、楽しみ方が多様化し、選択肢が増えていくことは歓迎したい。 □ハーマンインターナショナルのホームページ (2005年4月22日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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