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第176回:戦車が戦国時代を駆け抜ける
HDテレシネ/DTS音声で蘇る
「戦国自衛隊 DTSコレクターズ・エディション」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 角川映画の思い出

戦国自衛隊
DTSコレクターズ・エディション

価格:6,090円
発売日:2005年6月3日
品番:DABA-0175
仕様:片面2層×2枚組み
収録時間:約138分(本編)
画面サイズ:16:9ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:1.日本語(ドルビーデジタル ステレオ)
     2.日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
     3.日本語(DTS)
発売元:角川映画
販売元:角川エンタテインメント

 角川映画といえば、'80年代の「セーラー服と機関銃」、「ねらわれた学園」、「時をかける少女」、「ぼくらの七日間戦争」などの、ヒット作が思い起こされるが、個人的に一番インパクトがあった作品は、'79年公開の「戦国自衛隊」。

 リアルタイムに劇場で見た訳では無いのだが、テレビ放送やビデオなどで何度も鑑賞した、小中学生時代のかなり思い出深い一作だ。なにしろ、自衛隊の一個小隊がいきなり戦国時代にタイムスリップしてしまうという設定が素晴らしい。子供ながらに、そのタイムスリップシーンの唐突さに衝撃を受けたのを覚えている。

 さらに、自衛隊と戦国武将が戦うという、想像だにできなかった戦闘シーンと、そのスケールに度肝を抜かれ、天守閣の周りを周回するヘリなど、メチャクチャな戦闘描写もやけに脳裏に残っている。とにかくインパクトがあった。実は、すでに2000年8月にDVD化(KABD-79/4,935円)されているのだが、今回の再DVD化にあたり、映像にHDテレシネしたデジタル・ニューマスターを使用。さらに、録音技師の橋本文雄氏監修のもと、音声の5.1ch化も行なわれた。

 もちろんこうした大々的な修正が施されたのには訳がある。それは、6月11日より全国東宝系で劇場公開される「戦国自衛隊1549」のプレプロモーションということ。実際に同日には、戦国自衛隊1549の攻略ガイドDVD「戦国自衛隊1549 OPERATION ROMEO」も発売されている。

 発売日翌日の4日に新宿の量販店を回ってみると、ほとんどの店で在庫切れ。同時発売のガイドDVDはどの店にも並んでいるのだが……。5、6店回ったところで、ようやく一点在庫を確認し、捕獲。初期出荷が少ないだけかもしれないが、本作に思い入れがある人が相当数いると言うことだろうか?

 価格は6,090円とかなり高額な部類に入る。本編ディスクと特典ディスクの2枚組で、特典ディスクには千葉真一と夏八木勲のインタビューなど、出演スタッフ関連情報のほか、海外版の予告編、さらに、戦国自衛隊1549の予告編などを収録している。パッケージは紙製のアウターケースで、おそらく「タイムスリップシーン」をモチーフにしたもの。個人的には本作のスケールの大きさと、いい意味でのバカバカしさがジャケットに出ていないように感じて少し残念ではある。


■ 驚愕の舞台設定とダイナミックな合戦シーン

 「戦国自衛隊」は、半村良の原作を総制作費11億5,000万円をかけて映像化した‘79年公開のアクション映画。監督は斉藤光正、脚本は鎌田敏夫。

 伊庭三尉(千葉真一)率いる自衛隊の一個小隊21人は、演習に参加するために日本海沿岸を移動していた。しかし、なぜか一行の時計は5時18分を指して停止。演習の集合場所にたどり着くと、突然巨大な光の渦が発生し、61式戦車、M3A1装甲車、哨戒艇、ヘリコプターなどの兵器とともに400年前の戦国時代へタイムスリップしてしまう。

 戸惑う彼らに、騎馬や弓矢で突如襲いかかってくる当地の武士や忍者達。隊員達は、突然の変化にうろたえ、ある時は仲間を失い、襲撃の恐怖や二度と昭和の時代に戻れないのではとの不安に怯える。しかし、部隊の持つ兵器と彼らの戦闘能力は、戦国の世にあって絶対的な力を持つものだった。突然の変化と、手にした大きな力から、部隊には不穏な空気が流れ、自衛隊員同士の凄惨な戦いに発展する。

 そんな中、彼らのもつ戦車、装甲車、ヘリコプターなどの最新兵器に並々ならぬ興味を示したのは後の上杉謙信、長尾影虎(夏八木勲)だった。いつしか影虎に心酔し、そして戦国時代の生活に慣れていく伊庭三尉。彼は現代の兵器を用い、影虎とともに天下を取ることを誓う。

 最初の見所はタイムスリップシーン。金星の位置が一日で激しく動いていることで、時間軸のずれが大きくなったことを認識する隊員。演習場所に集合すると、現在時間が制止し、400年後の時代にタイムスリップしてしまうという設定は、正直に言えばあり得ないのだが、この奇妙な“捻れ”にハマれるか、排除してしまうかが、本作を楽しむ上で重要なポイントだ。

 改めて今回見返してみると、タイムスリップシーンはさておいて、かなり緻密な脚本だったことに驚く。伊庭に反旗を翻す、矢野(渡瀬恒彦)らとの部隊内の確執や、その緊張が頂点に達するまでの描写。また、菊池(にしきのあきら)と和子(岡田奈々)の時間に引き裂かれた恋愛など、見続けているうちに「自衛隊が戦国時代に突如飛ばされてしまった」というある意味荒唐無稽なシチュエーションにもリアリティを感じるようになってくる。

 当時の日本映画としては破格のアクションシーンも魅力。反乱部隊との戦闘シーンや、滝をバックにしたラブシーン、天守閣での戦闘とヘリとの連携など、今見ても新鮮かつ大胆なカメラワークとは、当時の映画界で驚きを持って迎えられたことは想像に難くない。極めつけはなんと言っても武田信玄と伊庭率いる部隊の合戦シーン。

 動員された武田兵の数にも驚きだが、その上をヘリが飛び、戦車が蹂躙するという構図だけ見ても全く衰えることのないインパクト。いろいろな意味で前代未聞な映画だ。CGアクション全盛の今、改めてみてみるとアクションのダイナミックさという点でも驚かされることが多く、合戦シーンに登場する忍者の動きや、有名な武田勝頼(真田広之)のヘリコプターからのダイブシーンなど、アクションの一つ一つがダイナミック。何というか、手練れのスタントマンが仕事をこなすという感覚ではなく、今、新しい表現を生み出している、というようなみずみずしいアクションなのだ。

 リマスターにより向上した画質も、よりダイナミックな合戦の迫力を伝えてくれるが、新たに5.1ch化された音声もよく、しっかりとした包囲感が合戦の迫力を伝えてくれる。



■ 嬉しい5.1ch化。HDテレシネの効果も大きい

 DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見た平均ビットレートは7.26Mbps。実写映画としてはかなり高い部類だろう。今回のDTSコレクターズエディション化にあわせてHDテレシネが行なわれているとのことだが、目を見張るような解像度の高さやヌケの良さは無いものの、フィルムの良さを残したしっかりとした階調表現が印象的。暗部や海上のアクションシーンなどでもノイズの抑えはしっかり効いており、見ていて画質的に気になるような点はほとんど無い。

 ただし、タイムスリップの起きる海岸シーンの画質が非常に悪い。不安定なハンドカメラの多用など、時間軸の歪みの表現というか、おそらく演出上の意図的なものと思われるが、特典などでも解説されていないのが残念なところ。

 音声は日本語オリジナル(ドルビーデジタル2ch)/192kbpsと、ドルビーデジタル5.1ch(448kbps)、DTS(768kbps)の3種類を収録。この5.1ch音声がかなりよくできており、元からマルチチャンネル前提で収録していたと言われても違和感が無いだろう。

 さすがに最新の作品のような前後左右の強烈な移動感や、跳弾の細かな描写などは無いのだが、ヘリコプターの周囲の音場の変化や、合戦シーンの丘陵地の窪みなどの高低差もしっかり感じられたのは意外だった。ディスクにはオリジナルのステレオ音源も収録されているので、聞き比べても面白い。

 特典は、本編ディスクにキャスト/スタッフ紹介とトレーラ。特典ディスクには、千葉真一と夏八木勲のインタビューを収めた「激突! 伊庭三尉VS長尾景虎」、自衛隊員役の鈴木ヒロミツ、かまやつひろし、江藤潤、倉石功へのインタビュー「自衛隊員のつぶやき」などを収録。また、海外版の予告編やローリング・タイトル、オープニングタイトルなどを収めているほか、「戦国自衛隊1549」のメイキング映像も収録する。

 千葉真一のインタビューで、印象的なのは伊庭三尉を織田信長と位置づけ、戦国自衛隊の世界を解釈。武将としての信長を意識し、「剛胆さと繊細さを持ちながら、狂気に傾いていくその様を演技したかった」と語る。

 また、アクションについてもヘリからの15mダイブや、乗馬しながら馬の陰に隠れる忍者などを解説。「こうした高度なアクションができる俳優を、“育てる”ということが何より難しい。戦国自衛隊では馬を買って1カ月トレーニングできた。日本映画ではあり得なかったこと。これが角川映画」と語る。個人的には中学時分に大ウケしていた「手榴弾を海の忍者に投げつけると、爆発から時間差を置いて死体が海中から吹き上がる」というシーンについて、「水の中でダイナマイトの威力は何倍にもなる。それでこのシーンを是非入れたいと思いついた」とこだわりを語ってくれるのが嬉しかった。

 また、本作の意義については、「この作品があったから、米国に行きたいと思った。さらにハリウッドを目指すという男の野望。まさに織田信長ですよ」と話す。

 鈴木ヒロミツ、かまやつひろしの対談では二人の温度差がおもしろい。かまやつ氏は、自衛隊の体験入隊で挫けて「出演を取りやめさせてくれ」と頼んだが、とにかく「来い」と監督に言われて参加したというが、鈴木氏は「実際の撮影は体験入隊より何倍も厳しかった」と語る。それを聞いて「そうだったらしいね」と完全に他人事なかやまつ氏のコメントがおもしろいのだが、実際のかまやつ氏の登場シーンを見ていると確かにあまり大変そうではない……。

 面白かったのが「あの戦車は今……」という、戦国自衛隊で利用された撮影用戦車のその後を追ったコンテンツ。別にドラマチックな展開があるわけでもない3分程度の内容なのだが、戦車を買い取った鈴木さんのインタビューが味わい深い。もともと軍用車などに興味があり、コレクションをしていた鈴木さんの元に買い取りのオファーがあったから購入したそうだが、「なぜ買った?」と聞かれた鈴木さんは、「どういう訳だか買っちゃった。変わった車好きだから」とさらりと流すので爆笑してしまった。また、購入後しばらくは近所の人が毎週押し寄せ、戦車置き場に面した通りが「戦車通り」と名付けられたというエピソードも微笑ましい。


■ ファンなら買っとけ!

 HDテレシネと5.1ch化により、DVDビデオタイトルとしての魅力はいっそう高まっている。映画館で見た人も旧バージョンのDVDのユーザーも、本作の世界観にはまった人にとっては押さえておく価値のある作品だろう。

 6,090円という価格は1タイトルのDVDビデオとしては高額なのが残念。おそらく、「戦国自衛隊1549」のDVD化時には、「戦国自衛隊」と「戦国自衛隊1549」をパックにしたダブルパック的な製品も企画されるだろうが、その際にはもう少し手の届きやすい価格も期待したいところだ。もっとも、メイキングを見る限り「戦国自衛隊1549」は、本作とは微妙に趣が異なっているようだが……。


●このDVDについて
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□角川エンタテインメントのホームページ
http://www.kadokawa-ent.co.jp/
□製品情報
http://www.kadokawa-ent.co.jp/detail/DABA-0175.html
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-デジタルリマスターで高画質化。DTS音声も収録
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050325/kadoent.htm

(2005年6月7日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp
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