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第194回:プラグインをより強化したソフトシンセ
~ DAWへと進化する? 「Project5 Version2」~



Project5 Version2

 Cakewalkから統合型のソフトシンセ・ワークステーション、Project5の新バージョン、Version2がリリースされた。ジャンル的にはPropellerheadのReasonやArturiaのSTORMなどと一緒に分類されているが、実際にはまったく異なるソフトといってもいい。

 今回のバージョンアップで何が変わったのかなどを検証した。



■ 約3GBのライブラリを持つソフトシンセを搭載

 Project5というソフトをご存知だろうか? 一昨年、Cakewalkがリリースしたソフトシンセ・ワークステーションで、5つの強力なソフトシンセの集合体ということで、このネーミングとなった。もちろん、単にソフトシンセが集まっただけでなく、そこにシーケンス機能、オーディオレコーディング機能、ミキシング機能、エフェクト機能……といったものが統合されたワークステーションだ。

 そのProject5がバージョンアップして、Version2になったのだ。以前のProject5をご存知の方なら、列挙した機能の中で、「あれ、オーディオレコーディング機能?」と思ったかもしれないが、この機能は新バージョンで追加されたもののひとつでもある。また、搭載されているシンセサイザも5つから7つに増えた。その意味ではProject7というネーミングになっても良さそうだが、Project5という製品名が定着したということなのか、Project5 Version2という名前になっている。

 実際にこの新バージョンを起動してみてすぐに感じるのが、ユーザーインターフェイスがかなり変更されているということ。前バージョンと比較して、かなりスッキリして、わかりやすくなった。もっともベースの考え方は共通で、各ソフトシンセはすべてDXiのプラグインという形で搭載されており、それらがProject5という箱の中で動作するという構造である。

 逆にいえば、DXiのプラグインを追加すれば、すべてProject5のソフトシンセとして利用することができ、反対にSONARなどDXi対応のホストアプリケーションを同時にインストールしていたら、それらに新たなプラグインのソフトシンセが追加されることになる。この新Project5には、以下の7つのDXiが入っている。

SONAR4と一緒に使ってみると、10種のソフトシンセが使えた

  • Dimension
  • PSYN II
  • Roland Groove Synth
  • DS-864
  • nPULSE
  • VELOCITY
  • Cyclone
 SONAR4といっしょにインストールして使ってみたところ、SONAR4に搭載されているほかのDXiも同様に扱えるため、計10のソフトシンセが使えるようになっていた。

計700音色以上のプリセットから選べる

 この7つのソフトシンセの中の目玉は新たに搭載されたDimension。これはウェーブ・サンプルをオシレータとするいわゆるサンプリング・シンセサイザ。そういう意味では、ごく普通のソフトシンセだが、面白いのは、そのサンプリングデータが約3GBにもおよぶ巨大なライブラリを搭載していること。ソフトのインストールにかなりの時間を要したのは、このためだったようだ。

 ピアノ系、ストリングス系、ベース系、ドラム系など、計700音色以上にもおよぶプリセットが用意されており、それらを簡単に選べるようになっている。また、DirectXプラグインとは別に、Dimensionそのものに搭載されているいろいろなエフェクトやピッチ、カットオフ、レゾナンスなど5種類のパラメータに対し、個々にエンベロープを描くことができるモジュレータを装備し、自由に音色をエディットすることが可能。

 また、その3GBのサンプリングデータだけではなく、自分の作ったWAVファイルなどを読み込んでエディットすることも可能であるなど、かなりフレキシビリティーは高い。さらに、加工した音色は最大4音色までのレイヤーに対応し、ベクターミキサーを使えばレイヤーしたエレメントごとのバランスを自由自在にミックスすることも可能となっている。

Dimension ベクターミキサーで、レイヤーしたエレメントごとのバランスをミックス可能


PSYN II

 そのほか、PSYN IIはアナログシンセサイザであるPSYNにDRIVE、DELAY、MOD FXなど新たなパラメータを追加、Roland Groove Synthはクラブミュージックの定番サウンドを搭載、DS-864はソフトサンプラー、nPULSEはアナログモジュラー・ドラム・シンセサイザ、VELOCITYはドラムサンプラー、Cycloneはグルーブ・サンプラーとなっている。

Roland Groove Synth DS-864 nPULSE

ALIAS FACTOR

 プラグインについては、これらDXiのほかにDirectXプラグイン、エフェクトもProject5にはいろいろと装備されている。Project5オリジナルのエフェクトは計10種類だが、そのうち今回新たに搭載されたALIAS FACTORは非常にユニークなエフェクトで、リアルタイムにリサンプリングして再生させるというもの。

 サンプリングレートやサンプリングビットを自由に変更できるので、軽いLo-Fiサウンドから、過激な音色変更までできる。もちろん、これらエフェクトはDirectXプラグイン対応のアプリケーションなら何でも使うことが可能だ。


■ オーディオレコーディングに対応

 今回のユーザーインターフェイスの変更で、最初に気づくのが画面左側にある、トラックインスペクターだ。これは、CubaseSXやSONARなどのDAWの多くが採用している考え方に基づくもので、そのトラックの全貌を見渡すことができるところ。DAWに慣れている人にとっては、わかりやすい機能である。

 また、ここに表示されるパラメータのうち、ソフトシンセ、オーディオエフェクト、MIDIエフェクト、アルペジエーターまでの設定を1つのセッティングとして保存可能となり、これをデバイス・チェインと呼んでいる。これはデバイス・ブラウザで音楽ジャンルや楽器など任意で設定したフォルダで一括管理できるため、曲作りのための効率があがる。

 また、その曲作りの中心となるシーケンサ部分も大幅に強化された。以前は、P-SEQというMIDIシーケンサを使って、データの入力やエディットをしていたが、今回はそうしたシーケンサがシームレスに統合され、MIDIエディタとしてより扱いやすくなり、とても自然な感じになった。ピアノロール風のフリーというエディタとステップ・シーケンサ風のステップというエディタが用意されているので、スタイルによって使い分けてもいいだろう。

デバイス・ブラウザ フリー ステップ


 一方、オーディオについては、前バージョンでもWAVファイルを読み込んで再生させることは可能だったが、今回はDAWなどと同様にオーディオトラックを作り、そこにファイルを読み込めるだけでなく、普通にオーディオレコーディングも可能となった。さらに、結構強力なオーディオ・エディタも搭載されているので、ある意味Project5自身がDAWへと進化しているともいえる。

 また、わざわざ自分で打ち込んだり、レコーディングなどしなくても、数多くのパターンが用意されており、ブラウザで選択するだけで簡単に利用できるというのもProject5の特徴だ。これらを読み込んで並べていくだけで、曲作りができてしまうのである。

オーディオ・エディタも搭載 数多くのパターンから、ブラウザで選択するだけで利用できる



■ 自由度の高いグルーブ・マトリックス

グルーブ・マトリックス

 今回追加された非常にユニークな機能がグルーブ・マトリックスだ。これは、AbletonのLiveのような機能なのだが、MIDIやオーディオのフレーズをセルにアサインし、任意のタイミングでいずれかのセルを再生できる。

 1トラックあたり最大64個のセルが用意されているので、自由度は非常に高く、どのセルを再生させたかも記録できるので、グルーブ・マトリックスを利用した曲作りというのも可能だ。基本的にはマウスで選択して、演奏させていくが、これを外部MIDIコントローラやキーボードからトリガーさせることも可能なので、ライブなどのパフォーマンス用にも最適なツールである。

 そのほか、ReWire2対応というのは、この種のソフトとしては当然装備している機能のひとつ。これにより、SONARやCubaseSXなどのDAWとの同期、連携が可能となるのだが、今回のバージョンアップにより、Project5はReWireクライアントとしてだけでなく、ReWireホストとしても利用可能になった。そのため、CakewalkのKINETICをはじめ、ReasonやSTORMなどとも連携させることが可能になったのも面白いところだろう。

 以上がProject5 Version2の概要だ。使ってみないとなかなかその面白さを実感できないソフトではあるが、4万円弱という価値は十分にあるソフトであることは確かだ。単純にDimensionやALIAS FACTORというプラグインを入手できるというだけでも意味がある。さらに、実際Project5として使ってみると、また新しい音楽制作ツールとしての発見があるはずだ。

 特にグルーブ・マトリックスを使った演奏は、とても楽しい。もちろん、単体として使うのもいいが、SONARなどとReWire接続することで、より高度な利用が可能になる。

□Rolandのホームページ
http://www.roland.co.jp/top.html
□Cakewalkのホームページ
http://www.cakewalk.jp/
□製品情報
http://www.cakewalk.jp/Products/Project5v2/

(2005年6月13日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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