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■ ポータブルプレーヤーにおけるイヤフォンケーブルの呪縛 iPodを初めとするデジタルオーディオプレーヤーの人気により、大容量かつ、小型/軽量のポータブルプレーヤーで、どこでも音楽を楽しめるようになった。
しかし、特に通勤電車などでの利用時に気になるのが、「イヤフォンケーブル」。鞄から取り出そうとして、ケーブルがぐちゃぐちゃに絡まっているということは決して少なくないし、そのために音楽を聴く前の儀式として、ケーブルをほぐすというのはお世辞にも格好いいこととはいえない。また、混雑した電車などでは、ケーブルが隣の人に引っかけられてしまうというトラブルも起こりうる。 デジタルオーディオプレーヤーの最近のトレンドとしては、HDDモデルの大容量化が一段落し、カラー液晶とフォト対応によるジャケット表示や、高音質化。さらには、ビデオ対応などのマルチメディアプレーヤー化などが挙げられるが、イヤフォンケーブルをワイヤレス化した製品はほとんどない。
NHJが発売する「VHD-5500」は、Bluetoothを利用してワイヤレスヘッドフォンを実現したポータブルオーディオプレーヤー。1インチ/5GBのHDDを搭載したオーディオプレーヤーにBluetoothの音声送信機能を内蔵。受信機能を内蔵したワイヤレスヘッドフォンをセットにすることで、ワイヤレス化を実現している。 実売価格は40,000円と1インチHDDプレーヤーとしては、かなり高額な部類。果たしてBluetoothヘッドフォンは実用的なのか、そして通常の1インチHDDプレーヤーの2倍近い価格だけのメリットはあるのか? 早速検証した。
【6月30日追記】
■ プレーヤー部はポケベル似
Bluetoothヘッドフォン部とプレーヤー本体部のほか、ヘッドフォン用と、プレーヤー用のキャリングポーチ、USBケーブル、ネックストラップなどが同梱される。 プレーヤー部の外形寸法は、48×75×27.1mm(縦×横×厚さ)。本体はブラックを基調としたシンプルなデザインで、細長い液晶や3cm近い厚み、さらにキャリングポーチも含めて”ポケベル”を思い起こさせる。 本体前面に再生/一時停止、停止、スキップ、バックの4つのボタンを装備。このボタン部はスライド式のスイッチとなっており、キーを押し下げた状態(液晶が見える状態)で電源ON、スイッチを押し上げた状態(液晶が見えない)で電源OFFとなる。また、楽曲再生中にスイッチを押し上げると、HOLDとなる。質感はややチープなのだが、スライドスイッチのカチッとした動作感はなかなか良い。 右側面にはジョグダイアルを装備し、前面ボタンと組み合わせて操作が行なえる。またUSB 2.0端子やネックストラップリングも備えている。左側面にはヘッドフォン出力を装備し、付属のBluetoothヘッドフォンのほか、通常のヘッドフォンも接続できる。
Bluetoothヘッドフォンは折りたたみ可能なネックストラップ型。右ハウジングにDC入力と電源ボタン、ボリュームアップ/ダウンキーを備えている。 プレーヤー部、ヘッドフォン部ともにリチウムイオンバッテリを内蔵している。充電はACアダプタ経由で行ない、付属の分岐ケーブルを用いて、プレーヤーのUSB端子とヘッドフォンのDC入力に接続して充電を行なう。本体だけであればUSBだけでも充電可能だ。
■ 起動は遅いが、操作レスポンスは良好
楽曲データ転送は非常にシンプル。USBストレージクラスに対応しているので、MP3/WMAファイルを[MUSIC]フォルダ以下に転送するだけでいい。1GB、約200曲のMP3ファイル転送時転送速度は16分5秒。 起動すると、まずインデックス作成画面を表示。約1GBのデータを転送したところ5分40秒でインデックス作成が終了した。1GBの転送に約16分、インデックス作成に6分弱とトータル20分程度の転送時間は、かなりストレスがたまる。インデックス作成後の起動時間も12秒程度と、最近のプレーヤーとしては起動はかなり遅い部類といえるだろう。
インデックスの作成が終わるとメインメニューが立ち上がる。メニューはアーティスト/アルバム/トラック/ジャンル/プレイリストなどの検索メニューと、リスト管理、音声、設定などが用意される。 アルバムなどの楽曲検索メニューを立ち上げて、右面のジョグダイアルの上下で任意のアルバムやアーティストを選択し、ジョグダイアルの押し込み、もしくは曲スキップ/早送ボタンを押すことで一段下の階層に移動する。任意の楽曲を選択して、曲スキップ/早送りかジョグダイアルの押し込みで楽曲再生を開始する。 上階層に戻るには曲バック/巻き戻しボタンを押す。再生画面から楽曲検索メニューに戻るにはジョグダイアルを押し込む。液晶表示が3行なので、さほど情報量は多くないが、操作体系自体はシンプル。起動以外のレスポンスも良好だ。直感的に操作できるインターフェイスでは無いが、すぐに慣れて簡単に操作できた。 やや厚みのあるデザインも、両手で持って操作する分には扱いやすく感じる。ただし、重量が95gとそれなりにあるので、ネックストラップを使った首掛けにはあまり適していない。 通常の楽曲再生のほか、プレイリストの再生にも対応。ランダム再生や一曲、全曲リピートなどの特殊再生機能も一通り備えている。
[リスト管理]は本体のみでプレイリストを作成する機能。[リスト追加]を選択、楽曲を選んで再生/一時停止を押すことで、楽曲を登録してプレイリストを作成できる。リストの修正も行なえる。作成したリストはメインメニューの[プレイリスト]から呼び出し可能で、「PLY***(***は任意の数字)」といったリストとして管理される。 再生画面では曲名や再生時間、ビットレートのほか、イコライザ設定やバッテリ残量が確認できる。ヘッドフォンのアイコンが出画されている場合はBluetoothヘッドフォン接続となる。 オーディオプレーヤーとしての基本的な再生機能は備えており、楽曲検索も比較的シンプルで、レスポンスも良い。また、メインメニューの音声からはボイスレコード機能も呼び出せる。内蔵マイクは液晶左脇に装備している。
■ 音質劣化は少なく、しっかりした再生性能
それでは、音楽を聴いてみよう。Bluetoothヘッドフォンとプレーヤーの認証は特に特別な操作は必要なく、それぞれの電源を投入するとブルーのLEDが点滅し、プレーヤー/ヘッドフォンを認識してくれる。 ヘッドフォンはネックバンド型で、重量は約58.6g。プラスチックの素材感を残しており、あまり高級感はない。装着してみると側圧はそれほどないが、それなりのホールド性は期待あり、少し頭を動かしたぐらいでは簡単に外れない。 ただし、ネックバンドをホールドする耳上のあたりの締め付けが強く、プラスチック部がそのまま耳にあたるので慣れるまではかなり痛い。また、遮蔽性はあまり高くなく、外部音がかなり聞こえる。正直、外見と装着感からはあまり高音質は期待できなさそう……。 しかし、実際に音を聞いてみると、分解能はさほど高くないが、クセの少ない素直なサウンド。なかなか好印象だ。外観のチープさからさほど期待していなかった割には、バランスの良い音で驚いた。ヘッドフォンの密閉性の低さ、あるいはユニットの特性もあり、低域はあまり出ないのだが、そのほかの帯域では適度な情報量としっかりしたバランスで聞かせてくれる。
ヘッドフォンを交換できないので、ヘッドフォンの性能とBluetoothによる音質の変化を切り分けるのは難しいが、素直でバランスの良い特性からは想像すると、Bluetoothによるワイヤレス化による音質の変化はさほどなさそうだ。 ただし、付属のBluetoothヘッドフォンは、前述の通り遮蔽性能が低いため、地下鉄内での音楽鑑賞にはあまり向いていない。Bluetoothヘッドフォン利用時は、本体のボリュームがOFFになり、ボリュームはヘッドフォン側でコントロールする。地下鉄内ではボリュームを上げたいところだが、音漏れには注意したい。 Bluetooth化で気になるのは、伝送距離。カタログスペックでは約10mとしているが、実際に試してみたところ、大きな遮蔽物が少ないオフィスでは10m以上の伝送が可能で、編集部のあるフロアのほぼ全域で利用できた。ただし、プレーヤーから10mほど離れた鉄の扉を通過した途端に音がとぎれた。同一の部屋の中であればかなり大きなリビングでも問題なく利用できそうだ。 もっともBluetoothの利点は、近接距離でのワイヤレス化だろう。通勤電車でバックの中にプレーヤーを入れて使ってみたところ、トータルで2時間強利用しても、音がとぎれることは一度も無かった。非常に安定したワイヤレス環境が実現できた。 ただし、当たり前だがヘッドフォン端子では選曲操作できないので、アクティブに選曲しながら通勤/通学を楽しみたい、という人にはワイヤレス化によるメリットはあまり無いかもしれない。 また、VDH-5500本体にはヘッドフォン出力も装備。普通のオーディオプレーヤーとしても利用できる。Sennheiser PX200やShure E2cなどのヘッドフォンを接続して試聴したところ、非常に素直な特性で、ソースを選ばず利用できそうだ。 取り立てて強烈な個性があるわけではないのだが、すっきりとした中域と、あえて特徴をあげればやや広めの音場で、気持ちよく音楽を楽しめる。Bluetoothヘッドフォンで物足りなさを感じた低域も、しっかりと聞かせる。色づけのないニュートラルで落ち着いた再生性能で、他社製のプレーヤーで言えば、CreativeのZen Microシリーズなどにも通ずる印象を受けた。 イコライザはBass/Rock/Jazz/Classic/Popの5つのプリセットモードと、5バンドのカスタマイズEQのGraph。各モードとも良くできているが、Jazzの低域はやや強すぎるような印象も。
バッテリは、ヘッドフォン部が内蔵リチウムポリマー充電池(4.2V/500mAh)で、最大約8時間の連続使用が可能。プレーヤーにもリチウムポリマー充電池(4.2V/1,150mAh)を内蔵し、最大約14時間の再生が行なえる。実際に連続再生したところヘッドフォンは約7時間で再生停止した。個人的には、再生時間の短さよりは、ヘッドフォンのバッテリ残量が確認できないため、“あとどれくらい持つのか”確認できないことが気になった。
■ ポータブルオーディオでのBluetooth普及は近い? プレーヤーとしての基本機能は揃っており、インターフェイスの出来も悪くはない。プレーヤー部の大きさが1インチHDDモデルとしてはやや大きめだし、重量も重いが、スライドスイッチ機構などユニークな機能は面白い。 一番気になるのはBluetoothヘッドフォン。やはり、チープな質感はほかの1インチプレーヤーの2倍近い価格差を考えると、いくらBluetooth対応とはいえ残念なところ。音質は良好なだけに、装着感や高級感も意識したデザインを取り入れて欲しかった。 しかし、VHD-5500で確認できたのは、「Bluetoothはかなり使える」ということ。音質面であまり不満を感じないうえ、電車の中での安定した受信など、ヘッドフォン用のワイヤレス規格としては非常に有望と感じる。 ただし、製品企画の上ではまだまだ課題は残るだろう。VHD-5500の40,000円という価格は、1インチ5GBプレーヤーだけでなく、20~40GBクラスのHDDプレーヤー、さらにはMPEG-4対応のiAUDIO X5などのさまざまな付加機能を持った製品との競合になる(それらよりVHD-5500の方が高い)。Bluetoothによるワイヤレス化にどこまで価値を見いだせるかが購入を左右するポイントとなるだろう。あるいは、お気に入りのプレーヤーに、「iCombi Wireless Stereo Headset(実売15,800円)」などの外付けのBluetoothユニットをつけるという選択肢も考えられる。 また、ワイヤレス化の前にiriver「N10」などの小型の首掛け型フラッシュメモリプレーヤーや、ビクターの「XA-AL55」のような耳掛け型プレーヤーを利用すれば、プレーヤーとイヤフォン間でのケーブルに悩まされることは無い。コストのほかにも、ヘッドフォンのバッテリや充電方法など、さまざまな問題がしばらく残るかもしれない。 しかし、音質や伝送距離などの機能面では十分な性能を発揮してくれるので、後はBluetoothを生かした、より便利で楽しめるワイヤレスの世界を、どれくらい広げていけるかにかかっている。 □NHJのホームページ (2005年6月17日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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