■ 「また、歴史スペクタル? 」とか言わないで……
「キングダム・オブ・ヘブン」は、12世紀のエルサレムを舞台に、十字軍とイスラム世界の戦いを描く歴史スペクタル。総制作費は1億3,000万ドル。監督はリドリー・スコット、出演はオーランド・ブルーム、エヴァ・グリーン、リーアム・ニーソンほか。 ハリウッドのみならず、最近はこの手の歴史大作が増えていて、やや食傷気味。古代ローマだったり、ギリシャだったり、ファンタジー世界だったりと、いろいろ差はあれども、既視感を感じまくりで、「歴史大作」のインフレ状態。「またキングなんとかかよ……」というのが、正直な気持ちだった。 ついでに、世界史にあまり馴染みの無い日本では、「ロード・オブ・ザ・リング」を除いて、ほとんど大ヒットには至らないと言う点も、さらに興味を遠のかせる。本作の主演がオーランド・ブルームというのも、どこかで見た感を加速させ、積極的にスルーしていた。実際に日本でイマイチヒットしなかったみたいだし…… しかし、DVD売場を見てみると、なぜか「グラディエーター」と並んで平積み。そこでようやく監督がリドリー・スコットと知る。特別版のパッケージに「FROM THE DIRECTOR OF GLADIATOR」と記載されていることからも、「グラディエーター」のファンを強烈に意識していることが分かる。 リドリー・スコットの代表作がグラディエーターと理解されていることに、若干の違和感を感じつつも、デモ再生していた映像の美しさから、DVD黎明期に“高画質ディスク”として知られたグラディエーターを思い出す。ということで、とりあえず購入してみた。 本編ディスクのみの「通常版(3,129円)」と、特典ディスクやオーランド・ブルームの来日の模様を収めたブックレットが付属する「特別編(4,179円)」が用意され、今回は特別編を購入した。
■ 大スケールの十字軍 VS イスラム世界
舞台は12世紀。キリスト教徒、イスラム教徒双方の聖地エルサレムを十字軍が奪って100年が経過していた。激しい殲滅戦を制し、エルサレムの攻城戦では、女も子供も皆殺しにした十字軍だが、彼の地に留まったキリスト教世界の代表者達は、イスラム世界との共生を図っていた。しかし、共生を主導したエルサレム王 ボードワン4世(エドワード・ノートン)の病を機に、国の内外から崩壊の機運が高まっていく。 バリアン(オーランド・ブルーム)は、フランスで鍛冶屋として働く若者。しかし、妻の自殺により生きる気力を無くしていた。そんな折、兵を伴って彼の前に現れたのが十字軍の騎士、ゴッドフリー・オブ・イベリン(リーアム・ニーソン)。そしてバリアンに「父親である」ことを告白し、エルサレムを訪れるよう呼びかける。戸惑うバリアンだが、キリスト教で禁じられている妻の自殺、そして彼自身の罪を償うため、エルサレムに向かう……。 エルサレムについたバリアン。しかし、その途上でゴッドフリーは凶刃に倒れる。父の意志を受け継ぎ、エルサレム王の助けとなることを誓うバリアン・オブ・イベリン。いつしか、悪名高い王位継承の最有力候補ギー(マートン・ソーカス)の妻、シビラ(エヴァ・グリーン)と恋に落ち、聡明な父の名声とボードワン4世の支持、そしてバリアンの姿勢が評価を高めていく。 しかし、時代の趨勢は着実にエムサレムの崩壊に向かう。ギー、そして、イスラムとの共生を嫌う好戦家のルノー(ブレンダン・グリーソン)は、イスラム世界の代表者、サラディン(ハッサン・マスード)との同盟を破り、襲撃。100年近く続いた平穏な時代は終わりを告げた。 見所は多いが、砂漠のロングショットや、攻城戦に向かう平原をバックにしたイスラムの軍隊などのスケールは、さすがにハリウッド大作。コンピュータグラフィック(CGI)も活用しているが、実写との境界を意識するようなことはほとんど無い。驚くべきクオリティの高さだ。また、モロッコやスペインで撮影されたという、風景、セット、そして騎士の衣装や街の風景などに至るまで、細かな配慮が行き届いている。俯瞰でもクロースアップでも、どのシーンもレベルが高く、時代の雰囲気を余すことなく伝えてくれる。 戦闘シーンも、セットのスケールやCGを駆使した凄まじいクオリティの高さ。特にクライマックスの攻城シーンの投石攻撃などは、近年の歴史大作で何度も見かけた城壁の攻防の中でも最高レベルの仕上がり。是非、大画面、大音量で楽しみたいところだ。 「キングなんとか」とか、最近のハリウッド大作ではやたらと目立つ、歴史モノの一つではあるのだが、クリスチャン世界とイスラム世界の対立が絡んでいるため、現代性というか、現在の世界情勢を連想せずにはいられない。そうした点では、それら「歴史モノ」を単に鑑賞するのとは違った、重みのある作品でもある。 「異教徒を殺すのは罪ではない。天国への道だ」と語る、狂信的な“騎士”達が、異教徒を蹂躙する姿を見るのは決して気持ちのいいものではない。それ故、和平に尽力するサラディンとボードワン4世の姿がより際だって見えるのだが…… とはいえ、基本的には娯楽大作。バリアンとシビラの数奇な運命、父との絆、国家と個人、困難を抱えながらも解決していくバリアンの成長は一つの見所。最初は、存在感十分なサラディンやボードワン4世と比べると、ひ弱に見えたオーランド・ブルームも、徐々に存在感を増していき、クライマックスには立派なエルサレムのリーダーになっていく。このあたりも見所といえるだろう。
■ 最近のディスクの中でも高画質なディスク
DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは6.40Mbps。片面2層ディスクで本編が145分ということを考えればまずまず高い数字。フィルム的な温かみのある色調で、モスキート/ブロックノイズなどが気になることは無い。 砂漠の移動シーンや戦闘シーンなど、各場面が非常に美しく、風景を見ているだけでも十分楽しめる。ビットレートこそ高くはないものの、レベルが上がっている最近のディスクの中でも高画質なディスクと言っていいだろう。 ただし、液晶プロジェクタ「TH-AE500」で視聴したところ、冒頭の作業シーンや室内の衣装などの黒が潰れてしまうことも。CRTで見るとしっかりと黒のグラデーションが表現されているので、黒レベルを調整すればどうにかなるが、古めの液晶プロジェクタなど、黒の階調表現に不安のある環境では注意が必要だ。また、層切替のポイントで、ギャップがやや長めなのが気になった。 音声は英語がDTSとドルビーデジタル5.1ch、日本語はドルビーデジタル5.1chを収録。ビットレートはDTSが768kbps、ドルビーデジタルが448kbps(英語)/384kbps(日本語)。 サラウンドチャンネルはかなり積極的に使われており、アクションシーンのみならず。室内の移動時などでも十分サラウンドの恩恵を受けられる。また、室内と砂漠など、シーンごとに音場の広がりの違いも確認できる。 もちろん最大の聴かせどころは戦闘シーン。特に最後の攻城シーンでは、砕け散る石片や。弧を描いて飛来する矢などを迫力たっぷりに聞かせ、リアチャンネルもガンガン鳴る。映像と相まって追いつめられる城内の様子が音でも伝わってくる。
特典は、オーランド・ブルーム来日時の模様を収めたフォトブックが同梱されるほか、特典ディスクが付属。本編ディスクには、字幕を使った本編解説「THE PILGRIM'S GUIDE TEXT COMMENTARY」が収録されている。 オーランド・ブルームのファンにとっては嬉しいのだろうが、フォトブックは別にいらないような……。オーリー君の傍らに写っているエヴァ・グリーンの顔がどれも怖い、ということが印象に残る特典だ。 本編ディスク中の「THE PILGRIM'S GUIDE TEXT COMMENTARY」は、本編に合わせて字幕で、時代背景や本作の設定などを解説してくれるコンテンツ。一覧性は低いのだけれど、たとえば、ギーやシビラは実在の人物だが、バリアンは史実をベースにしながら創作された人物など、非常に細かい設定上の脚色などが解説されるほか、歴史的な背景、そのシーンの地域における当時の情勢などを事細かに解説してくれる。非常にマニアックな特典だ。一覧性は低いものの、通常版にも収録されているので、より細かく当時の情勢や撮影の模様を知りたい人にはなかなか面白い特典といえる。 また、特典ディスクには、監督やキャスト、スタッフらによるメイキング「インタラクティブ・プロダクション・グリッド」、テレビ特別番組を収録した約40分の「A&E特番」、監督の情報や制作の模様を簡単に紹介する「インターネット特別映像」、十字軍の歴史などの視点から本作を検証する「歴史 VS ハリウッド」、「オーランド・ブルーム来日舞台挨拶」などを収録する。 最初に見ておきたいのは、「A&E特番」。第一回の十字軍遠征から、本作の中心となるエルサレム攻防などの一連の歴史をコンパクトに紹介する。時代背景を理解するにはちょうど良い特典だ。 結論が分かってしまうが、きちんと内容を理解したいのであれば、先にこれを見ておいてもいいだろう。また、映画館で一度鑑賞したけれど、もう一度、しっかり史実について理解しておきたいと言う人にもちょうどいい。個人的には、「十字軍、当時の軍隊には“調達”という概念が無い」とか、サラディンについての「イスラム世界では近年まで無名だった。リチャード一世による十字軍の遠征でライバルとして欧州でその存在が伝説化された。20世紀の欧州による植民地化によりその名を知られた。“欧州が育てた英雄”」といった指摘が興味深かった。 メイキングはスタッフらが、制作の苦労を語る。衣装やセットについての細かいこだわりが語られる。確かにセットをそのまま撮っただけの映像でも十分説得力のあるクオリティ。皆が度肝を抜いたことが語られる。面白かったのは、ヒロインのシビラを演じたエヴァ・グリーンが「この役は、有名な女優に行くと思っていた」こと。すいません、確かに今まで貴方のことを知りませんでした……。 ■ 迷ったら買いの傑作
グラディエーターのヒットを受けてか知らないが、さまざまな歴史大作が並ぶ昨今。しかし、多くの“歴史モノ”が並ぶ中でも本作が際だって現代性を帯びているのは、やはりエルサレムを巡る宗教対立が、根本的に今日でも解決されていないからだろう。 単なるエンターテインメント映画としても楽しめるが、喉に何かがつっかえたような、“心地悪さ”は拭えない。問題を投げかけたままの作品といえる。もっとも、現実に解決されていない問題が、映画の上で解決されていたら何の説得力も無いわけで、この“投げっぱなし”感が、作品の魅力を高めているようにも感じる。 歴史背景を理解したければ、特典ディスクも欲しいところだが、本編仕様としては通常版も同じ。映像のクオリティ、音質ともに申し分なく、通常版であれば3,129円と比較的安価。「最近、“なんとかキング”多過ぎ……」とか思っている人も、とりあえず、チェックしておくことをお勧めしたい。
□20世紀FOXのホームページ (2005年10月11日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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