■ 最強さらにダメ押し いくら世の中がデジタル放送で大騒ぎしたところで、パソコンの側から見ればまだまだデジタル放送は「お客さん」だ。ようやく録画ぐらいはできるまでにはなったものの、まだまだ自由にならない感じがある。 だがアナログ放送相手なら、自由自在に編集してDVDなりMPEG-4なりで保存というルートは、かなり充実した。MPEG編集でも画質劣化を最低限に抑えるスマートレンダリングの登場以来、数多くのMPEG編集ソフトやオーサリングソフトが出現したが、結局のところ使い勝手と出力ファイルの信頼性で見たら、TMPGEnc MPEG Editor(以下 TME)に敵うものはないように思う。 Ver.1.x時代も数回マイナーアップデートを繰り返し、もう現状あまり困っている部分はなくなってきているのだが、9月22日にはVer.2.0がリリースされた(ダウンロード版6,480円、パッケージ版9,240円)。ファイル圧縮には新たにインターコムのトランスコーディングエンジンを採用、HDV編集にも対応し、DVD-VRの出力も可能になったという。 もはやテレビ番組編集としては最強との誉れ高いTMEは、一体どこまでいくのだろうか。さっそく試してみよう。
■ 最安のHDVエディタ? コンコンシューマにおいて、もっとも重い処理がHDVの編集であろう。実は以前のVer.1.x時代からHDVファイルの編集はできたのだが、出力がMPEG-2プログラムストリームしかできなかったため、HDVに対しての書き戻しができなかった。今回のTME Ver.2.0は、HDVの編集に正式に対応している。 まず起動画面からわかるように、Ver.1.x時代に比べて「出力設定」が増えている。ここが今回のアップデートのキモになるようだ。
基本的なファイルの追加方法は、これまでと変わらない。DVD-RAMなどVRフォーマットのメディアから追加するなら「追加ウィザード」を使ったほうが簡単だが、すでにファイルがあるなら、ドラッグ&ドロップで追加できる。今回HDV編集の素材は、以前ソニーの「HDR-HC1」でテスト撮影したもので、同じくソニーVAIOに付属のDVgate Plus 2.0でキャプチャしたファイルである。 クリップの編集画面は、一見大幅に変わったように見えるが、実際は1.x時代に比べて各ボタンの名称がアイコンに変わったのと、若干配置が変わったぐらいである。
HDV素材を編集するときは、1カットずつの編集となる。基本的には、イン点・アウト点を設定する方式が便利だ。TMEは、範囲を指定してカットすると、その範囲が切り取られてしまうという、「不要部分選択方式」だが、カットボタンをクリックせずにOKボタンで閉じれば、選択範囲を残す「必要部分選択方式」にすることができる。 また編集画面には、音声波形表示機能が付いている。編集画面上で右クリックすると、音声波形の表示の有無を選択することができる。この表示は非常にマシンパワーを食うということで、デフォルトでは表示されていないが、音の切れ目を探したいときには有効だ。 【お詫びと訂正】記事初出時に、音声波形表示機能がVer.2.0から搭載されたとの記述がありましたが、音声波形表示機能は、従来から搭載しておりました。お詫びして訂正いたします。(10月14日、編集部) ただHDVファイルの再生だけでも、非常にマシンパワーを食う。これはTMEが重いというよりも、元々高圧縮で高解像度のMPEG-2ファイルであるため、DVのようには行かない。編集点を探すためには再生しなければならないが、現在テストで使用しているPentium 4 2.8GHzごときのマシンでは、しばらくすると再生が止まってしまう。
そう言う意味では音声の微妙なタイミングや、編集点の「間」を重視した編集は、やはり編集専用のコーデックを装備したビデオ編集ソフトにメリットがある。専用コーデックを使って変換すると、ファイルサイズは8~10倍近くになるが、低圧縮であるためファイルのレスポンスは格段に良くなるのである。 むしろTMEの場合はリアルタイム再生はあきらめて、画面下に表示されるフィルムロールを上手く使って、必要な部分の切り出しを行なった方が得だ。撮るときから使いどころがあらかじめわかっているようなものの編集なら可能、という程度に考えておいた方がいいだろう。 では今回の目玉である、「出力設定」を見てみよう。ここは大きく分けて「MPEG」と「DVD-VR」タブに分かれている。HDVを編集すると、自動的に「MPEG」タブで出力ターゲットが「HDV向けのMPEGファイル」になっている。 TMEでHDVを編集する最大のメリットは、やはりHDVをダイレクトに切り貼りするため、画質劣化が最小限に抑えられる、という点に尽きる。この状態で「再エンコード部分解析」を行なうと、編集点とストリームの最後の部分のみの再エンコードで済むことがわかる。
「出力」へ移動すると、出力ファイルの拡張子からMPEG-2 TSが出力されることがわかる。実際に出力したところ、編集点と思われる部分では手間取っているが、それ以外の部分はプログレスバーもするすると進む。ちなみに4カット、合計24秒のファイルを出力するのに、1分19秒であった。1カットが短く編集点が多くなるほど出力には時間がかかると思われるため、一概に実時間の何倍とは言えないようだ。
■ 比重を増すDVD-VRの読み書き 続いてDVD-VRに関してみてみよう。具体的にDVD-VRからの読み込みとなると、ほとんどの場合ソースはDVDレコーダで記録したDVD-RAMやDVD-RWメディアということになる。据え置き型レコーダで、ネットワーク経由でファイルが転送できるものもは次第に減っている。そうなると次に現実的な手段としては、リライタブルメディアを使って番組をやりとりするという方法になるわけで、これに期待をかけている人も少なくないことだろう。 以前からTMEはDVD-VRの読み込みには対応していた。だが今回はHDVと同じく、出力にも対応したことで、できることがいくらか増えている。そのあたりを見ていこう。 これまでDVD-VRのインポートでは、録画された番組別で1つのストリームとして読み込むことができたわけだが、Ver.2.0ではさらに、レコーダ側で行なわれた編集状態もかなり正確にインポートされるようになった。 編集済みの番組を同じDVD-RWから読み込ませてみると、Ver.1.xでは編集点で数フレームの漏れが生じているが、Ver.2.0では綺麗に読み込まれている。読み込んだだけで差が生じること自体が不思議なのだが、それほどDVD-VRへの対応は難しいということかもしれない。
レコーダ側で編集していない場合には、TME上で編集することになる。このときに便利な機能が、「クリップ分割」機能だ。長い1ファイルから複数の不要点を抜き出すときは、これまで1つずつ選択しては削除を繰り返していた。 だが「クリップ分割」を使えば、とりあえず不要点との境目で分割していくことができる。編集画面と閉じると、「入力設定画面」ではクリップが分割されているので、そこから不要部分を削除していくことが可能になる。これまでTMEは「同時に複数の編集点」をサポートしていなかったので、その第一歩としては妥当なところだろう。
テレビ番組を編集する場合に限らず通常の編集でも、大抵は必要な部分と不要部分とは交互に現われる。また分割されたサムネイル状態では、どちらがいるほうなのかが判然としないことも有り得る。できれば編集画面の中で、交互に区切られたエリアのうちどちらを削除するのか、またどれが削除するエリアなのかを指定できる機能があると、さらに良かっただろう。
削除までできたら、「出力設定」に移動する。今度は「DVD-VR」のタブのほうを見てみよう。ここではDVD-VRフォーマットに書き出すために特化した画面になっており、出力モードでは、「シングルプログラムで出力」するのか、「マルチプログラムで出力」するのかを選ぶことができる。 「レート調整モード」でCBRを選ぶと再圧縮は行なわれないが、VBRを選択すると映像品質をスライダーで設定することができる。だが正確に出力するサイズを管理したい場合は、トランスコードを選択する。トランスコードは設定として、8cmメディア向けと一層メディア向けのプリセットがある。 テレビ番組をDVDメディアで移動した場合は、もともと1枚に入っていたわけだから、編集したのちさらに圧縮するケースはあまりないかもしれないが、2番組を1枚にまとめるなどのときには便利かもしれない。
「MPEG」タブに移動すれば、トランスコードはもう少し細かい設定ができる。ファイルサイズでどれぐらいにするのか、またメディアに対して何パーセントのサイズにするのかを指定することができる。別途自分でDVD-Video形式にオーサリングするときは、こちらを使うことになるわけだ。 もともとDVD1枚に入っていた約1時間30分の映画を、8cmメディア実際にトランスコード出力してみた。ファイルサイズとしては約1/3に圧縮するわけだが、トランスコードにかかった時間はPentium 4 2.8GHzのマシンで、およそ20分。画質はさすがに1/3ではダメダメだが、少しファイルサイズを減らしたい程度であれば、そのスピードにメリットを感じるケースもあるかもしれない。 ここではいつものサンプルを、約1/2のファイルサイズにトランスコードしてみた。
DVD-VRの出力結果は「DVD_RTAV」というVR特有のフォルダとして書き出される。実際にメディアに書き込むためのツールは、後日アップデータで提供される予定だという。
■ 総論 TMPGEnc MPEG Editor 2.0は、処理の内容は高度なのだが、それをまったく感じさせないインターフェイスになっているところが魅力だ。すでに通常のMPEGファイルの編集は、Ver.1.xで完成の域にあったが、今回はHDVとDVD-VRへの対応で、さらに守備範囲を増やした。 HDVの編集は、これまでは撮るだけで精一杯で、なかなかそこまで手が回らなかった人も多いことだろう。それはそれでありがたいことなのだが、別途キャプチャと書き出しアプリケーションが必要なのが難点だ。現時点では、この機能を有するものは、すなわちHDV対応編集ソフトということになる。 それを使わずにTMEを使うというメリットとしては、HDVファイルをそのまま扱うことによる、画質とスピードが考えられる。ただ快適に使うためには、そこそこパフォーマンスの高いPCが必要であることもまた事実で、そのコストを考えると、バランスが微妙なところだ。 DVD-VRへの書き込み対応も一応の目玉ではあるが、テレビ保存用途では、読み込みだけできればいいという人も多いだろう。もう一つの用途としては、DVDカメラの編集がある。これまではDVDカメラに付属してきたソフトを使うぐらいしか選択肢がなかったわけだが、TMEで気軽に編集できるようになると、VRモードで撮るメリットもより活かせるだろう。 ちなみにVer.2.0では、ビクターのEverioのファイルにも対応している。今後編集対応ファイルを増やしていけば、いつの間にか次世代ビデオカメラ用ファイルエディタの地位を築いてしまうかもしれない。汎用ビデオ編集ソフトでは、ファイルの再圧縮とかどうなっているのか判然としないところがあって、画質のことを考えると今ひとつ気持ち悪いのだが、そう言う意味ではTMEはエディタらしく、中身の見通しがいい。 また今回は、音声フィルタも強化され、「ノイズ除去」と「音量均一化」という2つの機能が追加された。ただ「ノイズ除去」は標準で設定しても位相がズレる感じが顕著で、ノイズがあった方がマシか、位相のネジレを我慢するかの選択になる。技術的トライアルの意義は認めるが、満足いくノイズリダクションを作るのは、そう簡単ではないようだ。 「音量均一化」は、ボリュームのレベルを揃える機能だが、これまで原音に対してのパーセンテージでしか決められなかったものを、ある基準値で揃えられるようにしたというものだ。全体をスキャンしてレベルを調整するため、隙のないレベル調整が可能なのだが、アナログ風にVUメータでも付けた方がピンと来る人が多いかもしれない。 いずれにしても、今回のGUIも含めた機能強化は、「とりあえずカットでいいから、なんとかならねえかな」という人にとって、かゆいところに手が届くソフトとなっている。いわゆる編集ソフトではなく、軽快なエディタであるところが、TME最大の魅力であるのかもしれない。
□ペガシスのホームページ
(2005年10月12日)
[Reported by 小寺信良]
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