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第215回:ソニーのロスレス「ATRAC Advanced Lossless」
~ 特徴的な「ベース+差分」構成を検証 ~



 11月1日に公開された「SonicStage Ver.3.3」で初めて搭載された、ソニーのロスレスコーデック「ATRAC Advanced Lossless」。ウォークマンA登場の直前だったこともあり「せっかくならConnect Playerがリリースされたところで紹介しよう」と考えていた。

 しかし、ふたを開けてみると、「CONNECT Player」にはATRAC Advanced Losslessは搭載されず、第213回ではこのコーデックに触れることができなかった。そこで改めてSonicStage Ver.3.3を用いてATRAC Advanced Losslessがどんなものかを検証した。



■ 無償公開されたSonicStage Ver.3.3

SonicStage Ver.3.3

 新しいpCONNECT Player」というソフトが11月19日に登場するのに、どうしてその前身ソフトであるSonicStageのマイナーバージョンアップ版であるVer.3.3が、11月1日などという直前に発表されるのか不思議に思っていた。しかし、CONNECT Playerを見て理由がわかった。要するにCONNECT Playerはまだ完成状態ではないので、SonicStageは今後も現行ソフトとして存続するということなのだ。

 改めて調べてみると、このSonicStage Ver.3.3はフリーウェアとなっている。ソニー製品のユーザーでも非ユーザーでも無償でダウンロードし、使うことができるのだ。以前から「SonicStage for Mora」は誰でも無償でダウンロードできたが、ソニー本家版のSonicStageもこれと同じ状態になったというわけだ。

 本家版はこれまで、登録ユーザーでないとアップデータをダウンロードできず、古いバージョンのSonicStageやOpenMG Jukeboxなどをあらかじめインストールしておかなくてはならなかった。しかもアップデータを入れると、前のバージョンはただ消されるだけ。非常に時間がかかり、面倒でインストールする気にもなれなかった。それが、ようやく気楽に使えるソフトになったのは嬉しい。

 ちなみに、SonicStage for Moraのほうも同じタイミングで3.3にアップグレードされており、機能的にも同様のようだ。なお、「CONNECT Player for Mora」というものは登場していないし、今のところ予定もないようである。



■ ATRAC3/ATRAC3plusと差分で構成されるAAL

 最新バージョン最大の特徴は、ATRAC Advanced Lossless(以下AAL)に対応したこと。Windows Media Audio Lossless、Apple Lossless、Monkey's AudioにFLACと、いろいろな可逆圧縮フォーマットがあるのに、いまさら何を……なんて思う人もいるかもしれないが、やはり後発だけに非常に面白い工夫が凝らされている。実は、このAALは単なるロスレスではなく、ATRAC3やATRAC3plusをベースにしたものになっている。たとえばATRAC3plusの256kbpsのデータを元に考えると、以下の様なという構成になっている。

    AAL=ATRAC3plus+差分

AALの概念図

 ATRAC3plus部分を再エンコードすることなく、そのまま切り離せるため、一度AALにエンコードしておけば、ウォークマンなどに接続した際、ATRAC3plus部分を簡単に転送できる。

 従来のロスレスはどれも独自形式であったが、AALは従来形式と完全な互換性を持っている。個人的には、ロスレスは良いと思いつつも、これまでほとんど使うことがなかった。その理由は、WAVの半分程度のファイルサイズにしかならないし、エンコードには時間がかかる。ポータブルプレイヤーには転送できないものが多い(Apple LosslessやFLACなど対応しているものもあるが)。さらに互換性も低いからだ。

 ポータブルプレーヤーのHDD容量も増加しており、「ロスレス圧縮するくらいならWAVでいいや」と思っている人は少なくないだろう。しかし、AALの場合は、これまでのロスレスと違い、ATRAC3やATRAC3plusとして利用できるのが大きなメリットと言えるだろう。



■ AALのベースとなるATRAC3/ATRAC3plusは4種類

設定画面にATRAC Advanced Losslessの項目が追加された

 では、さっそくSonicStage Ver.3.3を起動し、CDからリッピングしてみよう。設定画面を見ると、これまでなかったATRAC Advanced Losslessという文字がある。一方で、ATRAC3やATRAC3plusという表記がなくなっているのに気が付く。これまで色々な種類があったATRACファミリーをまとめて「ATRAC」とし、ロゴも新しくすることで、わかりやすくしようとしている。

 具体的には、‘92年にMD用として登場したATRAC、‘99年に登場したATRAC3、2003年のATARC3plus、そして今回登場したAALを含の5種類のまとめて「ATRAC」と呼んでいるのだ。もっとも、総称が登場しただけで、実際の各CODECが統合されたというわけではない。そのため、このSonicStageでもATRAC3とATRAC3plusはまとめてATRACとしているが、AALは別になっている。

ベースとなるATRAC3/ATRAC3plusのビットレートを選択する

 では、AALの設定を見てみよう。ビットレートの選択項目があり、256kbps、132kbps(ATRAC3)、128kbps、64kbpsから選べる。実はこれが、前述のベースとなるコーデックの指定であり、132kbpsのみがATRAC3で、その他の3つはATRAC3plusになっている。

 早速、本当にロスレスのファイルが作成できるか実験した。実験に使う素材は、手持ちのCDで2分51秒の曲。ファイルサイズとしては28.7MB(30,176,278 バイト)の楽曲を、256kbps、132kbps(ATRAC3)、128kbps、64kbpsの4種類の設定でAALに圧縮してみた。ファイルサイズは以下の通り。Windows Media Audio Lossless、およびApple Losslessの結果も掲載している。

ビットレート
(ベースファイル)
ファイルサイズ 圧縮率
64kbps
(ATRAC3plus)
17.3MB
(18,160,728バイト)
60.2%
128kbps
(ATRAC3plus)
18.4MB
(19,344,360 バイト)
64.1%
132kbps
(ATRAC3)
18.1MB
(19,043,448 バイト)
63.1%
256kbps
(ATRAC3plus)
20.1MB
(21,080,064 バイト)
69.9%
WMA Lossless 16.1MB
(16,951,725 バイト)
56.2%
Apple Lossless 16.6 MB
(17,415,718 バイト)
57.7%
WAV(PCM) 28.7MB
(30,176,278バイト)
100%

 出力ファイルサイズが、ベースのビットレートによって、微妙に結果は異なっているのがわかる。では、本当にロスレスなのかを調べるため、AALで圧縮した4個のファイルをSonicStage Ver.3.3を使ってCDにライティング。そのCDからWAVでリッピングしたものをWaveCompareで比較してみたところ、当然のことながらドンピシャで一致してくれた。

作成したAALファイルを音楽CDとしてライティング WaveCompareで比較したところ、完全に一致した



■ 圧縮はかなり時間がかかる

 次に、それぞれの圧縮にかかる時間を見てみよう。ここでは5曲入りのアルバム(計16分25秒)を使い、どのくらいの圧縮所要時間を測定してみた。また、比較用に、ATRAC3およびATRAC3plusのみでの圧縮も行なった。さらに、WMA LosslessとApple Losslessの結果も掲載する。

 CDドライブは最大52倍速読み出し可能の「PlexWriter Premium」。PCはPentium 4 2.4GHzのマシンだ。

ビットレート
(ベースファイル)
所要時間
ATRAC Advanced Lossless
64kbps
(ATRAC3plus)
3分24秒
128kbps
(ATRAC3plus)
3分39秒
132kbps
(ATRAC3)
3分1秒
256kbps
(ATRAC3plus)
4分4秒
ATRAC3/ATRAC3plusのみ
ATRAC3plus 64kbps 1分23秒
ATRAC3plus 128kbps 1分40秒
ATRAC3 132kbps 1分14秒
ATRAC3plus 256kbps 1分42秒
その他のロスレス
WMA Lossless 2分26秒
Apple Lossless 1分21秒

 これを見る限り、ベースのコーデックで時間がかかるものほど、AALも時間がかかることがわかる。一番短いのがATRAC3の132kbpsで、一番時間がかかるのがATRAC3plusの256kbpsだ。ちなみに、SonicStageを用いて単純にWAVにリッピングするだけなら1分17秒という結果だった。

 WMA LosslessとApple Losslessは結構速い。特にApple Losslessはスピード的にもファイルサイズ的にも優秀。ただ、さすがに「Apple Lossless+AAC」の合計ファイルサイズと比べると、どのビットレートでもAALのほうがコンパクトなので、AALの存在意義はありそうだ。



■ 転送時間は、ATRAC3/ATRAC3plusよりもやや長い

 転送にかかる時間も測定してみた。転送先のデバイスは先日購入した「NW-A1000」。まずは、先ほどの5曲入りのアルバムを4種類のAALから転送してみた。それぞれに要した時間は以下のとおり。なお、ATRAC3/ATRAC3plusのみでの時間と、WAVからAALの各モードに再エンコードしながら転送した時間も掲載しておく。

ビットレート
(ベースファイル)
転送所要時間
ATRAC Advanced Lossless
64kbps
(ATRAC3plus)
21秒
128kbps
(ATRAC3plus)
23秒
132kbps
(ATRAC3)
16秒
256kbps
(ATRAC3plus)
26秒
ATRAC3/ATRAC3plusのみ
ATRAC3plus 64kbps 5秒
ATRAC3plus 128kbps 7秒
ATRAC3 132kbps 8秒
ATRAC3plus 256kbps 10秒
WAVからAALへ再エンコード転送
64kbps
(ATRAC3plus)
1分16秒
128kbps
(ATRAC3plus)
1分23秒
132kbps
(ATRAC3)
53秒
256kbps
(ATRAC3plus)
1分44秒

 AALの場合は、通常のATRAC3/ATRAC3plusから転送するよりはやや長い時間がかかっている。何かの判別をしているような感じだ。また、再エンコードには結構時間がっかかっているので、AALにはATRAC3/ATRAC3plusがしっかり含まれているようである。

OpenMGのDRMをかけない、素のATRACファイルも生成できる

 AALのロスレス、コンセプトとしては非常に良いのだが、圧縮率が低いのと、圧縮に時間がかかるのがちょっと気になるところ。まだ登場したばかりのコーデックなので、今後まだ改善の余地はあるはず。ぜひ、もう少し性能向上を図ってもらいたい。

 また、久しぶりにSonicStageをいろいろと触ったが、著作権管理が緩くなっているのはうれしいところ。これは3.3からではなく、もう少し前のバージョンでの改善点だが、エンコードする際「著作権保護処理を行なう」のチェックマークをはずしておけば、OpenMGのDRMがかからない状態で、素のATRACファイルが生成される。この状態なら、他のPCへのコピーも容易で、かなり扱いやすくなる。こうした点を見ても、SonicStageはだいぶ融通の利くソフトになってきている。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ダウンロードページ
http://www.sony.jp/support/p-audio/contents/download/ss33_dl_01.html
□ATRAC Advanced Losslessの解説
http://www.sony.co.jp/Products/ATRAC3/tech/aal.html
□関連記事
【11月21日】【DAL】ウォークマンA用ソフト「CONNECT Player」をテスト
~ Losslessには対応せず。改良版に期待? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050727/sony.htm
【11月1日】ソニー、“ATRACロスレス”対応のSonicStageを公開
-PSPにはATRAC3plus部のみ転送。WMAリッピングも可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050727/sony.htm

(2005年12月5日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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