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第214回:真空管アンプ・シミュレータ搭載の「UA-4FX」
~ オーディオ的な外装。幅広い応用が可能に~



 EDIROLのUSBオーディオインターフェイス、UA-3FXの後継としてUA-4FXが12月中旬に発売される。実売価格が19,000円前後となる手ごろなオーディオインターフェイスではあるが、UA-3FXを含め、既存のオーディオインターフェイスとはちょっと異なる面白い使い方ができる。

UA-3FX UA-4FX

 最大の特徴は真空管アンプ・シミュレータを搭載したことにより、PCでCDを再生したり、MP3などを再生させる音を、あたたかい感じの音に変換できること。そのUA-4FXの最終試作機を入手したので、実際どんな製品なのかをチェックした。



■ EDIROLのUSBオーディオインターフェイス内でのUA-4FXの位置づけ

 Rolandが展開するEDIROLブランドからは、これまで数多くのUSBオーディオインターフェイスがリリースされてきた。最初のモデルは'98年7月に発売された「UA-100」だから、もう7年以上の歴史を持っている。現行モデルでは、エントリーモデルの「UA-1EX」から、最上位モデルの「UA-1000」まで、計8種類のUSBオーディオインターフェイスが存在する。

UA-100 最上位モデルのUA-1000

 なぜこんなに多くの機種があるのかとも思うが、Roland担当者に話を聞くと、どれもよく売れているのだそうだ。特に低価格帯のモデルは当初の同社予測よりも、かなり売れていて、生産が追いつかずに品薄になることもあったという。

 ご存知のとおりRolandは楽器メーカーであり、PCと接続するデジタル機材も基本的には楽器を扱う音楽系のユーザーがターゲットであったが、このオーディオインターフェイスに限っていえば、もっと裾野が広がっている。単純にPCで音楽を再生するのにいい音で聴きたいという人もいれば、昔のレコードやテープをいい音でデジタル化して保存したいという人などが、高音質で、価格も手ごろなEDIROLのオーディオインターフェイスに飛びついたようなのだ。

 そんな中で、UA-3FXの後継として新たに登場したUA-4FXは、オーディオを入出力させるための単なるインターフェイスではなく、DSPを搭載し、音を加工することを可能とした機材だ。UA-3FXも併売されるので、正確には後継製品とうわけでもないのだが、基本的なスペックやDSPで音を加工するというコンセプトはそのまま受け継がれている。

 オーディオインターフェイスとしては、16bit/44.1kHzから最高24bit/96kHzまでのフォーマットが扱えるようになっており、アナログとデジタルの両方が扱える。USB 1.1接続なので、44.1kHzまたは48kHzの場合は、入出力が同時に利用できるが、24bit/96kHzの場合は再生のみ、または録音のみの一方になるのは、従来機器と同様だ。もし、24bit/96kHzでの入出力や、マルチチャンネルでの入出力が必要であれば、USB 2.0に対応したUA-101やUA-1000が必要ということになる。



■ オーディオ機器のイメージを前面に出し、デザインを一新

 UA-4FXは、これまでのUAシリーズと比較して、デザイン的に変更された点がある。特にUA-3FXと比較するとわかるのが、ボリューム類が従来のフェーダータイプからノブタイプに変わっていること。

 機能的には同じだが、このようにしたのはUA-3FXでは、音楽制作用途のユーザーを主なターゲットとしていたのに対し、UA-4FXはオーディオ・リスニング用途のユーザーをかなり意識したためだそうだ。

真空管アンプ・シミュレータのインジケータ

 確かにそういわれてみると、オーディオ機器風ともいえ、実際ノブを回してみるとやや重めで気持ちいい。よくあるデジタル機器でのつまみと違い、カタカタカタと回るロータリーエンコーダタイプではなく、普通のボリュームという感触である。

 レベルメーターはUA-3FXより明らかに見やすい、縦型のステレオ表示のLEDになった。これはオーディオ機器としてみても、レコーディング機器としても見やすい点だろう。そして面白いのは、真空管アンプ・シミュレータのインジケータ。真空管アンプ・シミュレータをオンにすると、3つあるLEDが“ボワァ”という感じでゆっくり点灯するのだ。


日本語で書かれたパネルも

 ここはあくまでも遊びで、このゆっくり点灯することには特に意味はないし、3つLEDがあるのも単なるデザイン上のことだけ。1つだけ点灯するとか2つ点灯するというモードがあるわけでもない。とはいえ、オレンジ色にこうして光ってくれると、それだけでなんとなく雰囲気が出てくる。

 なお、UA-4FXの表記は英語となっているが、日本語で書かれたプラスティックのパネルも用意されており、これを取り付ければ、すべてのパラメータを日本語で読むことが可能となる。やはり見栄え上、英語表記がいいという人もいれば、分かりやすい日本語がいいという人もいると思うが、どちらの要望にも対応できるようになっているわけだ。



■ COSMテクノロジーで実現させた真空管アンプ・シミュレータ

 この製品の目玉である、真空管アンプ・シミュレータについて、もう少し具体的に紹介しよう。RolandのCOSMテクノロジーによって実現した機能で、CSOMとはComposite Object Sound Modelingの略。いわゆるサウンド・モデリングの技術の総称となっている。原振動が、人間の耳に達するまでの過程にかかわる物体の構造、素材、電気系、電子系、磁気系などのオブジェクトを、DSPを使って再構築するという技術だ。これまでも、Roland、EDIROL、BOSSなどのブランド製品に、数多く搭載されており、マイク・モデリングやアンプ・モデリングなどが利用できるようになっていた。

 そのモデリングの一つとしてあった真空管アンプをこのUA-4FXに搭載したというわけである。用途は大きく2通りが考えられるが、まず1つはリスニング用途。使い方は至って簡単で、PCからCDなりMP3なりを再生させる際に、PLAYBACKボタンとTUBE SIMULATORスイッチをオンにして、真空管アンプ・シミュレータのモードにするだけだ。音を太くする「FAT&WARM」、音の明るさを調整する「BRIGHT」、コンプレッサのスレッショルドである「COMP-THR」とレベルの「COMP-LEVEL」の計4つのパラメータがあるので、これらを調整すればいい。

 特にFAT&WARM、BRIGHTを動かすと、デジタルサウンドのシャキシャキしたものでも、角がとれた、丸い感じの音になる。聞き疲れのしない、優しい、あたたかい音になるといった感じだ。

 もうひとつは、再生時ではなく、録音時に利用するというもの。使い方はCAPTUREボタンを押して、PLAYBACKモードから切り替え、先ほどと同様にTUBE SIMULATORスイッチをオンにした上で、マイクやギターから音を入力する。機能的には、先ほどの再生に用いたのと同じモデリングを行なっているのだが、若干意味合いが違ってくる。マイク用に使えば、真空管のマイク・プリアンプとして利用できる上、ギターやベースで利用すれば、真空管のギターアンプとして活用できる。

 ディストーションやオーバードライブなどとは違う、アンプの歪音をうまく再現できるというのはなかなかいい。また、モニタをオンにしておけば、とくにPC側でレコーディングしなくても、入力した音に真空アンプ・シミュレータをかけた音ををラインアウトやヘッドフォンへそのまま出力できるのも便利なところ。「真空管のギターアンプが欲しいけど、高いし、デカイ」と思っている人には結構お勧めだ。


■ 3系統・12種類のエフェクトを装備

 UA-4FXに搭載されているDSPで実現できるのは真空管アンプ・シミュレータだけではない。UA-3FXでも搭載されていたエフェクトがさらにブラッシュアップされた形で搭載されている。

 DSPのパワーがそれほど大きくないためなのか、真空管アンプ・シミュレータと同時に使うことはできないが、このエフェクトもなかなか便利。

MASTERING、LISTENING、PERFORMの3モード

「MASTERING」、「LISTENING」、「PERFORM」の3つのモードがあり、そのいずれかを使う形になるが、それぞれのモードは4つのエフェクトの組み合わせとなっている。

 まずMASTERINGというのはその名のとおり、マスタリング用のエフェクトで、カセットテープやレコードなどのアナログ素材をデジタル化する場合に便利に使えるものだ。ノイズリダクションのほかにエンハンサー、ハイとローの2バンド・マルチ・コンプレッサが用意されている。

 またLISTENINGはオーディオ再生用およびカラオケ用として利用できる。CENTERCANCELというものが用意されていて、センターに定位している音を取り除くことができるため、CDなどを再生させる際、ボーカルをうまく消すことができる。またハイとローの2バンドEQ、そしてリバーブも利用できる。

 そしてPERFORMは、ギターやマイクのレコーディング用のエフェクト。FX VOICEを利用すると、低い声にしたり高い声にするなど、いわゆるロボットボイスを作り出すことができる。またAMP/DRIVEは歪系のエフェクトで、かなり強力なディストーションとして利用できる。さらにコラースとディレイも付いているから、ギター用には最適なエフェクトキットとなっている。



■ オールマイティーな入出力端子

ギター/マイクの切り替えスイッチを搭載

 このように、DSPを利用することで、いろいろな使い方ができるUA-4FXだが、入出力端子をみると、かなりしっかりした仕様になっていることに改めて気が付く。

 まず、リスニング用として重要なヘッドフォン端子は標準ジャック型を採用。またその隣には、プラグインパワー対応のミニジャックのマイク端子、さらに、ギターやマイクをつなぐための標準ジャックが用意されている。もちろん、ギターを使うか、マイクを使うかでインピーダンスが異なるため、切り替えスイッチが搭載されている。

 また、リアにはRCAピンのステレオのライン入出力が搭載されているのとともに、S/PDIFのオプティカルの入出力も装備、さらにMIDIの入出力端子も用意されている。MIDIの入出力はUA-3FXにはなかった機能だ。そして、サイドにはXLRのマイク入力端子も搭載。これも新たな端子だが、これを見るとオーディオ機器というよりもレコーディング機器という匂いを感じるが、実際+48Vのファンタム電源にも対応しているなど、結構充実した入出力が備わっている。

MIDI入出力端子を装備 XLRのマイク入力端子は側面に

 使い方としては、PCで鳴らした音をヘッドフォンやアナログ/デジタルのいずれから出力して外部スピーカーで鳴らすといったほか、ギターやマイクから入力させた音を、真空管アンプ・シミュレータやエフェクトを通した後、同様に外部スピーカーで鳴らすといったことができる。

 最後に恒例のアナログ性能チェックを行なってみようと思ったのだが、実は手元にあるのが試作機だったこともあり、アナログ性能が最終製品版とは異なるとのことで今回は見送った。バランス入出力を搭載しているモデルではないので、きわめて高音質ということにはならないだろうが、おそらく性能的にはUA-3FX相当と見ていいだろう。

 アナログ性能をチェックできなかったのは残念だが、UA-4FXの機能を見る限り非常に面白く使い手はある。とくに手軽に使うオーディオアンプとしての位置づけは、なかなかいい狙いだと思う。


□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□製品情報
http://www.roland.co.jp/products/dtm/UA-4FX.html
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(2005年11月28日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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