■ 鳥肌実初主演映画がデラックスDVD化
一部に熱狂的なファンを持つ軍装妄想芸人にして、自称廃人演説家(早朝演説家と名乗る場合もある)の鳥肌実をご存知だろうか?。 公式ホームページのプロフィール(キャラクター設定?)によれば、42歳(厄年)/獅子座/O型、出身地は樺太、アジアアフリカ語大学トラヴィダ語学科卒業。持病としてヘルペスを患っている。2005年現在の職業は、鳥の調教師(自称)、パン工場勤務(山崎パン契約社員)。好きな諺は「焼け石に水」。 愛読書は「ファーブル昆虫記」。家族構成は、妻(夏江・37歳、逃げられた)、長男(健太・10歳)、ブッチー(伝書鳩)、ペス(盲犬)の3人+2匹。前科二犯(公然猥褻、銃刀法違反)。ちなみに、実際には関西の旧帝国系某国立大学の法学部を卒業しているらしいが……。 '95年に現在の演説スタイルを確立し、独特のポマードで固めた髪型と風貌に、「皇居に向かって敬礼」、「欲しがりません勝つまでは」などと書かれた通称「玉砕スーツ」を着用して活動している。 「演説会」と銘打った全国公演では、右翼・左翼といった世間のイメージを織り交ぜつつ、放送禁止用語やタブーとされていることを連発、笑いへと転化し、ブラックユーモアの演説芸で聴衆を翻弄。 演説内容が非常にマスメディアにのせづらい内容なので、テレビなどに露出することはほとんどないが、毎年全国各地で演説会を行なっている。一度見たら忘れることのできない強烈な印象が残るその演説芸は、一部にカルト的な人気を博している。 その人気のほどは、自社ブランドでリリースしているCD、DVDがどれも10万枚以上の売上げを記録していることからも伺える。また、演説会以外にも、会社員や学校教師などの一人芝居もこなし、「けものがれ俺らの猿と」(2000年)、「スペースポリス」(2004年)といった映画にも出演している。 そんな、表舞台にめったに出ることのない、地下芸人ともいえる鳥肌実が、5月14日に劇場公開された「タナカヒロシのすべて」で映画初出演を果たした。鳥肌実が演じするタナカヒロシは、“日本一不器用な男”で、「今までのイメージとは180度違うキャラクタ」とのふれこみだ。 個人的に、鳥肌実初主演映画ということで非常に気になっていたのだが、単館系での公開のため、公開館は少なく上映期間も短い。「DVDが出てから観ればいいか」と思っていたこともあって、結局劇場で観る機会がなかった。 ということでDVD化されるのを待っていたのだが想像より早く、公開後約半年経過した11月23日に発売された。発売されたDVDのラインナップは、「タナカヒロシのすべて デラックス版」のみで、“通常版”などのバリエーションはない。デラックス版とはいうものの、ディスクは1枚で、音声はドルビーデジタル2.0ch、映像特典も約38分程度。ブックレットといった封入特典も特になく、仕様的にはどこがデラックスなのかよくわらないが、価格だけは4,935円とデラックスだ。
それほど売れるタイトルではないだろうから、ある程度は高くなることを予想はしていたが、この仕様で4,935円というのは、今時のDVDとしては、かなり購入を躊躇する価格。ただジェネオンはほとんど低価格キャンペーンをしないし、たとえキャンペーンを実施しても、このDVDがキャンペーン対象になる可能性はかなり低そうなので高いとは思いつつも、あきらめて購入した。
■ “日本一不器用な男”タナカヒロシ。昭和のいる・こいるも出演
かつら工場で働くタナカヒロシ(鳥肌実)は32歳の独身で、“日本一不器用な男”。会社では同僚や上司との付き合いは、すこぶる悪く、変わり者と思われていた。プライベートでも無趣味で恋人もいない。たが、どこか憎めない性格で、意外とモテたりもする。 家に帰れば両親(加賀まりこ、上田耕一)から、結婚しろとせっつかれる。近頃では血尿が出たりと、体調面でも不安を抱える。しかも、行き付けの弁当屋でもらったおみくじクッキーで、大凶をひいてしまったりと、散々な日々を送っていた。 そんな彼の望みは、まさに“誰にも干渉されずに平凡に暮らすこと”。特に不満もなく淡々と毎日を送っていた。ところがある日、父親が急死。それを境に生活が激変。おみくじの大凶で暗示されたように、彼の人生は急転直下。次々と不幸が降りかかり、彼以上に奇妙な人々に翻弄される。最悪な状況の中で、生まれて初めて自らの意思である行動に出るのだが……。 監督はこの作品で初めてメガホンをとり、脚本も手がけた田中誠。鳥肌実の以外の出演者は加賀まりこ、ユンソナ、宮迫博之、高橋克実、小島聖、伊武雅刀、市川実和子、上田耕一、寺島進、矢沢心、島田珠代、市川実和子、南州太郎、、西田尚美、日吉ミミ、鈴木みのるなどなど、有名な俳優ばかり。昭和のいる・こいるまで、出演している。他で一度も見たことのない出演者は、この映画の中には出ていないのではないかと思うぐらいだ。 それも主要なキャスト以外は、ワンポイントで出演するだけという贅沢な使い方をしている。音楽もムーンライダーズの白井良明が担当し、「コーヒー・ルンバ」といった昭和歌謡からテクノまで網羅。エンディングテーマは、クレイジーケンバンドの「シャリマール」と、鳥肌実主演の単館映画とは思えないこだわりようだ。 ただ、映画の内容はというと、鳥肌実を起用した必要性が伝わってこなかった。鳥肌実は演説芸を封印して、「今までのイメージとは180度違うキャラクタ」ということなのだが、鳥肌実の存在感はあるものの、俳優として、この映画にあっているのかは疑問に感じた。 ごくごく普通の日常の中に、少し変な人がいる。その日常を、そのまま撮るこことで、シュールな映画。ということなのだろうとは思うのだが、なかなかその世界に入り込むことはできなかった。「テルミンと俳句の会」など、ポイントでポイントで面白そうなところはあるのだが、全体的に空回りしているように感じた。 ラストシーンも、何かを暗示していそうな気もするのだが、あまりに説明が足りていない。個人的には、もっとも破滅的なラストの方が、オチとしてはいいように思うのだが……。映像特典の中で、田中誠監督が鳥肌実について「現場で、台本をこんな解釈するのかと驚かされた」と、映画の世界観の構築を助けられたと語っている。 普通の日常で、観客を楽しませるには、派手なストーリーの映画より、脚本が練りこまれていないと伝わらない。その練りこみが足りていないように感じてしまうのだ。もう少し追い込めば、ものすごく面白くなりそうな気もするのだが、これからブラッシュアップしていく修作を見せられているような印象だった。
■ DVDとしての仕様は低め
DVD BitRate Viwerでみたビットレートは4.75Mbps。ちなみに、映像特典のメイキングが8.12Mbpsなので、本編が特典の半分程度しかない。ただ、実際の映像は、ビットレートが低いことに起因するようなノイズは感じられなかった。 粒状感も少なく、彩度は高いので一見した画質は良好。特に暗いシーンもないので、見づらく感じるシーンはなかった。ただ、全体的に解像感は乏しく、テレビ放送を見ているような印象を受けた。 音声は最近公開の映画で珍しく、日本語のドルビーデジタル2.0chのみで、ビットレートは384kbps。元々効果音が重要な映画でもなく、ステレオとしてのレンジは十分なので、不満を感じることはなかった。 チャプタ数は11。本編が103分の映画としては少なめで、字幕も収録されておらず、非常にシンプルな仕様になっている。
映像特典は「メイキング」(約31分)、「初日舞台挨拶」(約5分30秒)、「キャスト・プロフィール」(静止画)、「予告編集」(予告 約2分、CM 約15秒)を収録している。 メイキングでは各キャストがコメントや、タイトルコールしたりするほか、撮影風景が紹介されており、鳥肌実が演技に取り組む素の姿を見ることができるのが楽しい。また、各キャストに鳥肌実(タナカヒロシ)の印象を聞いているのだが、西田尚美が「最初は話しかけてはいけない人かと思ったら、ご挨拶した後は普通にお話できました。名刺をいただいた。うれしかったです」と喜んでいたのが印象的だった。 さらにメイキングの最後に、映画の中では封印している演説芸が少し披露されている。最後には、おなじみの「吹いて 吹かせて 吹かせて 吹いて 鳥肌でございます」が表示される趣向だ。 初日舞台挨拶は、鳥肌実、宮迫博之、加賀まりこ、田中誠監督が参加。DVDの映像特典の舞台挨拶映像というと、収録時間稼ぎでほとんど編集もされないまま収録されていることも多く出演者のファン以外は見ても面白くないことが多い。しかし、このDVDの舞台挨拶映像は、コンパクトに編集されていて面白く仕上がっている。 内容も鳥肌実らしく、「最大の失敗はポマードを塗らなかったことにあるではないかと」、「見所は私の刈り上げ以外にはないといってもいい」、「共演した女優さんには全員、婚姻届に実印をおして渡したんですけど、一方通行で」と芸の一端が垣間見ることができる。 宮迫博之も、「鳥肌実以外のキャストを見て出演を決めた」、「こないだ、バラエティでユンソナにあったけど、『本気で気持ち悪い』っていっていた」と掛け合いを見せている。田中誠監督の、「今後このような邦画は生まれない」というのは、その通りかもしれない。 キャスト・プロフィールは、映画の相関関係図になっているのだが、表示されるプロフィールは出演者のみで、役としてのプロフィールはないのは残念なところ。映画の中でも、各キャラクタの背景の説明がほとんどないので、特典で補間してほしかったように思う。
■ さすがに高すぎる?
正直、映画としは荒削りで、DVDとしての仕様も高くはない。鳥肌実ファンであれば、観ておいて損はないと思うのだが、4,935円だとさすがに、万人にオススメすることはできない。 半額にすれば2倍売れるというタイトルではないだろうが、本編のみの3,980円の通常版というのがあれば、まだ買いやすいのだが……。
(2005年12月6日) [AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]
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