■ 宇宙戦争をスピルバーグがリメイク
映画「宇宙戦争」は、H.G.ウェルズの原作をスティーブン・スピルバーグが映像化したSFパニック映画。 かつて映画化もされているが、スピルバーグというビックネームがリメイクを手がけるということもあって上映時にもかなり話題になった。当然キャストも豪華で、トム・クルーズやダコタ・ファニングなどの主演クラスを始めとし、大物が並ぶ。 また、映画上映時には日立のWoooシリーズと共同キャンペーンを行なうなど、かなりの力の入った宣伝展開も行なわれた。今回DVD化にあたって、MicrosoftのXbox 360のキャンペーンにも登場。Xboxラウンジをレッドウィードが“ジャック”するなど、多くのタイアップで、媒体露出を高めている。 なんとなく「ハウルの動く城」、「スターウォーズ エピソードIII シスの復讐」と続いた超大作の影に隠れた感はあるが、注目作であることは疑いないだろう。 DVDは、本編ディスクのみの「通常版(PPA-111158/3,129円)」と、特典ディスク付きの2枚組「スペシャル・コレクターズ・エディション(PPF-111612/4,179円)」を11月9日に発売。さらに災害時に役立つグッズとして、手回し稼動/発電が可能なFM/AMラジオ付きLEDライトや、キーホルダータイプのホイッスル、軍手などを「宇宙戦争」をイメージしたオブジェ型のBOXケースに収納して販売する「エマージェンシーBOX(PPSJ-1017/23,100円)」も12月22日より発売される。 本編ディスクは共通で、DTS音声も収録している。今回は「スペシャル・コレクターズ・エディション」を購入したが、通常版の方がジャケットデザイン的には格好いいようにも思えるし、普通のトールサイズケースなのであまり豪華なパッケージという感じではない。ちなみに、パッケージを開くとXbox 360用フェイスプレートが当たるキャンペーンの用紙などを封入しており、タイアップにも本腰が入っている。
■ トライポット襲撃。アメリカ中を逃げ回る
アメリカ東部の街に住む、クレーン作業員のレイ(トム・クルーズ)は、2人の子供をもうけながら妻と離婚。しかし、悠々自適の生活を送っていた。妻は再婚しているが、外出の折、息子のロビー(ジャスティン・チャットウィン)と娘レイチェル(ダコタ・ファニング)をレイに預けてゆく。 子供の扱いになれないレイ。特に高校生のロビーは、自分勝手な父に反発心を抱き、なかなかうち解けられない。そんな3人のつかのまの安息の一時に、世界各国で、磁気嵐が発生。電気設備や自動車が故障し、連絡が付かなくなっていることを伝えるテレビ放送が流れる。 程なく、レイの暮らす街にも激しい落雷が発生。それとともに、多くの電気設備が故障し、雷の落ちた地中から、三本足の巨大なマシーン「トライポット」が出現する。 圧倒的な破壊力で虐殺と破壊を繰り返すトライポット。レイは、かろうじて動く車を見つけ、ロビーとレイチェルを連れて必死に逃げ惑う。目指すはロビーらの祖母が住むボストン。しかし、その行く手にはトライポットだけでなく、数多くの障害が待ち受けていた。 基本的には3人が如何にトライポットから逃れることができるのかというストーリー展開だが、とにかくパニック映画のツボを外さない作り。トライポットの誕生と急襲、恐怖からパニック状態となる群衆への恐怖などが、余すことなく描かれており、息抜く間もなく楽しめる。 冒頭のトライポットが人間を襲う交差点のシーンの緊迫感と、圧倒的な破壊描写も素晴らしく、破壊される建造物や自動車、そして人間など、トライポットの恐怖を余すことなく伝えてくれる。また、「ヴォー」という低音が、徐々に近づいてくるトライポットの存在をジリジリと意識させ、作品にぐっと引き込ませてくれる。 レイ演じるトム・クルーズがあまり格好よくもないのもよい。最初から堂に入ったクレーン作業員ぶりで、いかにも自堕落そう。トライポット襲撃後の、髭も伸び放題で憔悴しきった表情は、40才を超えても黄色い声援が飛ぶハリウッド・スターの面影は微塵もなく、臆病だが、子供を想う心は捨てていない父親そのもの。それゆえ、複雑なロビーとの関係に悩む父親、若さに任せてトライポットに好戦的なロビーをいさめるレイの心情がぐっと迫ってくる。 ダコタ・ファニングは、キャー、キャーうるさくも感じることもあるが、怯える子供の表情を見せたら右に出るものはいない程、堂に入った演技ぶり。特に暗がりで怯えて目をカッと開くシーンは、スタッフも見せ所と感じているのかやたらと多い。銀残し調のコントラスト低めの映像と相まって、一段と青白くなったダコタの表情が絶望感を滲ませる。 さらに、自動車を持ったレイ達を襲う群衆心理なども取り混ぜて、集団パニック時の恐怖もしっかり描かれるほか、トライポットの恐怖の中に、家族の離反と結束というテーマをさりげなく入れており、作品に深みを与えている。 レジスタンス的な地下活動を一人で行なうオグルビー(ティム・ロビンス)の存在感も充分。絶対的な恐怖に向き合い、徐々に破壊されている人間の心がぐっと迫ってくる。 もっとも、盛り上げるだけ盛り上げて、ラストはあっさりとしすぎている感もある。このあたりは本作の評価の分かれ目となるだろう。ただし、パニック映画としては傑出した出来で、個人的にはかなり楽しめた。
■ 迫ってくるトライポットが怖い
DVD BitRate Viwerでみたビットレートは8.1Mbps。銀残し風のコントラストの低い色調で、適度な粒状感を感じさせる。一見、解像感が足りないようにも感じるが、情報量としてはしっかりと残っており、独特のヌケの悪く、古めかしい色調も意図的なものだろう。 地下に立てこもるシーンも多いが、暗部の階調もしっかり生きている。CGも多用しているのだが、不自然さを感じることはなく、レッドウィードに覆われた一面深紅の丘陵など、映像的にも見せ所が多く、さまざまな角度から楽しめる映像となっている。
また、特筆したいのは音響面。音声はドルビーデジタルが英語/日本語とも448bps、DTSが日本語のみで768kbps。「ヴォー」という鈍い低音によるトライポットの登場など、音で演出される恐怖が印象的。かなりマルチチャンネルを積極的に利用する音作りで、交差点での襲撃では左右に飛び交うレーザーのようなトライポットの攻撃が緊迫感を高める。また、地面が裂けるシーンなど縦方向の音の動きも感じさせる。 特典ディスクでも解説されるが、群衆が逃げまどうシーンにさりげなく女性の声などを混合するなど、聞き込む程に発見がある音響設計で非常に楽しめる。また、火に包まれた電車が突如通り過ぎるなど、突然爆音が鳴り響くシーンも多いので、深夜の視聴には注意したいが、さまざまな側面からマルチチャンネル音声が楽しめる。 特典ディスクは2時間45分の特典映像を収録。スピルバーグ監督が制作を決意した経緯を説明する「再び、宇宙人襲来」、原作のH.G.ウェルズについて孫とひ孫が語るコンテンツ、プリ・プロダクション、エイリアンデザインについてのコンテンツ、ジョン・ウィリアムスによる音楽作りの様子などを収めている。 「再び、宇宙人襲来」では、監督の演出意図などが説明され、「9.11事件の恐怖を反映するとともに、極限状態における人間の姿を描いている。共通の敵に向かって協力して生き残ろうとする姿だ」と、テーマを解説するとともに、「'53年の宇宙戦争は核戦争の恐怖が反映されているが、新作では今の時代の恐怖が反映されている」と分析している。 トム・クルーズは「労働者で父親の役をやりたい」と志願したことを明かすとともに、監督もレイを「父親失格のワーキングクラスの主人公」と明確に定義。未知との遭遇のように無害な宇宙人でなく、監督が育った郊外の風景でもなく、現代性を持ったテーマを選んだことが語られている。また、脚本のデビット・コープも「原作と同じ一人称でのストーリー展開にこだわった」と説明する。 「H・Gウェルズの遺産」は、ウェルズの孫やひ孫らが、ウェルズの生涯や作品を説明。また、「スピルバーグと最初の宇宙戦争」は、スピルバーグの'53年版(ジョージ・バル版)宇宙戦争への思いが語られる。'53年版の主役ジーン・バリーや、アン・ロビンソンらを起用するなど、さまざまなオマージュを本作に加えたことを明らかにするとともに、'53年版の撮影の模様などが解説される。これらを本作と比較してみるのも面白いだろう。 また、メイキング/製作日記は、東海岸-初期/東海岸-流浪/西海岸-破壊/西海岸-戦争の4期に分けて解説される。壮大なセットの模様や、VFXとの融合など、さまざまな切り口から製作の模様が確認できる。 「プレビジュアライゼーション」も収録。基本的には現場でセットや、演出を考えていくというスピルバーグ監督だが、本作ではジョージ・ルーカスの影響で、プレヴィズと呼ばれる手法を導入した。これは、絵コンテを3D映像として用意。それをCGや撮影、特殊効果、俳優など各過程で確認しながら撮影することで効率化を図れるというものだ。準備費の低減のほか。誰が何をするのかが明確にでき、各工程のプライオリティを説明できるので、イメージを共有しながら撮影が可能になるという。 監督は、「未知との遭遇の時もあればよかった。当時はまだUFOの形を考えてなかったのでUFOシーンの撮影で、俳優に“大きなパイの容器”としか説明できず、抽象的なイメージしか伝えられなかった」と振り返る。 そのほかトライポットやエイリアンに関するメイキングや、ジョン・ウィリアムスによる曲作り、スピルバーグからのメッセージなども収録されているなど、特典は充実している。通常版プラス1,000円という価格を考えれば、満足いく特典ディスクといえるだろう。
■ 秀逸なパニック映画
とにかく秀逸なパニック描写が魅力的な作品だ。それだけでも充分楽しめるが、家族の問題もからめて、深みのある映画になっている。音響面でも優れており、特にトライポットの登場シーンはクセになりそうな魅力を備えている。ラストシーンに賛否両論があるのは分かるが、個人的にはそれよりもその前段の魅力の方が上回っていると感じる。 特典ディスク付きのスペシャル・コレクターズ・エディションは4,179円だが、通常版(定価3,129円)であれば、大抵のDVDショップで2,000円台で購入できる。キャンペーン作品になるまで待たなくても十分満足できるだろう。 人間が粉々になるなど、やや残酷なシーンもあるので、家族でみるには刺激が強すぎるかもしれない。しかし、ジャンルを問わずに多くの人が楽しめる作品といえそうだ。CGのクオリティも高く、少しでも気になっていれば、購入に値する作品だ。
(2005年11月29日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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