■ パソコンレスは夢なのか? iPodが牽引役となり市場拡大の進むポータブルプレーヤー。しかし、MDやCDなど従来製品からの移行に最大の障害になっているのが、“パソコン”だ。 すでにPCベースの楽曲管理になれてしまった人には、MDのようなディスク管理の時代は戻れないほとの利便性を感じていると思う。しかし、「パソコンが苦手」、あるいは、「仕事以外でパソコンに触れたくない」、「家にPCを持っていない」と言う人も相当数いる。 この冬商戦では、大手国内メーカーもそうした層に着目し、従来のオーディオコンポを拡張したアプローチとして、ソニーの40GB HDD搭載ミニコンポ「NAS-M7HD」や、松下のSDスロット/HDD搭載ミニコンポ「SC-SX800」などが発売されている。これらはHDDにリッピングしたオーディオデータをウォークマンなり、D-snap Audioなりのプレーヤーに転送して楽しもうというソリューションだ。 しかし、まだまだ価格も高めで、誰もが使いやすい製品というわけではない。ポータブルプレーヤーでも、単体でのPCレス録音を謳う機器はあるが、大抵はMP3のダイレクトレコーディング機能により、「曲がライン録音できます」というレベル。楽曲データを付与したりはできないので、[REC0001]とかいった味気ないファイル名を液晶画面で確認しながら選曲するのはなんともむなしいモノが……。 そうした中、長瀬産業(TRANSTECHNOLOGY)が発表したのが、本体に350万曲分のデータベースを収録したというポータブルオーディオプレーヤー「TRANSGEAR HMP-100」。
多くの“PCレス”オーディオプレーヤーと同じく、MP3によるダイレクトレコーディング機能を搭載しているが、特徴はGracenoteのCDDBやMusicIDなどの技術を導入し、CDDBのデータベースを本体のHDDに搭載したこと。アナログ波形から楽曲情報を照合して、タグ情報を付与できる。そのため、PCレスで録音から楽曲管理を本体内だけで完結してしまうわけだ。 HDD容量は6GBだが、この楽曲データベースのため、HDD内にMusicIDの楽曲データベースを内蔵している。また、HDDのDBに登録されていない楽曲については、携帯電話でGracenoteのデータベースにアクセスし、情報を取得可能な「MagicSync」による楽曲情報取得も可能となっている。 PCレス時代の新提案ともいえる、この「HMP-100」。同社の直販サイト「DVDirect」で販売され、直販価格は24,900円。“PCレスを全面的にアピールしているのに、販売は直販サイト「DVDirect」のみというのは、製品コンセプト的におかしいと思うが……。 ■ シックなデザインながら、1インチHDD搭載機ではやや大きめ
本体のほか、USBケーブルやACアダプタ、ライン入力ケーブル、キャリングポーチ、CD-ROM、USBやDC入力を備えた接続コネクタ、イヤフォンやリモコンが付属。最近のプレーヤーでリモコンが標準添付されるのは珍しい。リモコンの付属に伴い、イヤフォンもケーブル長も短めになっている。 ボディカラーはブラックとホワイトを用意。外形寸法は98×60×14.5mm(縦×横×厚さ)と1インチHDD搭載モデルとしてはかなり大きめ。第5世代iPod 30GB(103.5×61.8×11mm)と、縦横はほぼ同じで、厚みで言うとiPod 60GBモデル(14mm)より厚いというのはちょっと大きすぎる気も……。重量は98g。 シックで落ち着きあるデザインを採用し、本体前面に1.8インチのモノクロ液晶を装備。液晶下部に方向ボタンとMENUやSET、再生/停止、録音などの各種ボタンをまとめており、このボタンで基本操作を行なえる。本体上部にはヘッドフォン出力とHOLDボタン、ライン入力を装備。右側面にはマイク、下部には専用接続アダプタ用の専用端子を装備する。
PCとの連携やACアダプタの接続には専用のポートアダプタを利用。DC入力のほか、PC接続用のUSBミニ端子と、携帯電話接続用のUSB端子(Aタイプ)を装備。携帯電話接続の「MagicSync」のために専用アダプタ構成としているのだろうが、PC連携や充電時に直結できないのは面倒だ。 さらに、このアダプタが抜けやすいので、パソコンからのデータ転送時などには注意が必要だ。付属のリモコンでは、再生や停止などの基本操作が可能。イヤフォンは標準的なデザインだ。
■ MusicIDの精度は良いが、運用面での工夫が必要? 本体の起動時間は約20秒でやや待たされる印象。起動するとメインメニューが現れ、ライブラリー/再生中の曲/録音/設定/システム情報の各モードを選択できる。ライブラリは転送した音楽ファイルの検索機能。HMP-100の対応オーディオ形式はMP3/WMA/WAVで、WMAのDRMもサポートする。 まずは、ウリともいえる「PCレス」で、楽曲を本体で録音登録してみる。[録音]モードに切り替えて、ライン入力を選択。ビットレートは16/24/32/40/48/56/64/80/96/112/128/160/192kbpsから選択できる。
iPodとライン接続して、録音を開始してみた。ライン入力を選択すると、録音待機画面が現れ、ここで右下のRECボタンを押すと録音開始する。特に設定画面は無いのだが、自動曲分割機能を備えており、ライブ盤以外ではきちんと曲分割を行なってくれる。プレイリストやアルバムの再生が終了すると、自動的に録音終了となるので、録音開始以外の操作を行なう必要はない。 待機中にレベルメータが出ないため、録音前に入力レベルを確認できないが、音声のモニターは可能なので、簡単なレベル調整は可能となっている。取り込んだ楽曲は[AUD0001.MP3]といったファイル名で管理される。 検索メニューで取り込んだ楽曲を選択し、MENUボタンを長押しするとMusicIDの検索画面が立ち上がる。HDD内のDBを利用する場合は、ここで[データベースで曲を検索]を選択。新着の曲など本体DBに無い楽曲を検索する場合は[携帯電話経由で曲を検索]でMagicSyncによる検索が行なえる。
まずは、データベースで曲検索を選択して、MusicIDを適用してみる。本体のMusicID照合は楽曲検索が遅く、1曲にHDD内のDBを照合し、曲情報を付与するまで、50~65秒程度でかかる。そのため一曲ずつ照合をかけていくのはあまり現実的ではない。アルバムを一括で録音し、そこからアルバム検索でUnknownと表示されている楽曲を、一気に照合する、といった使い方が適していると感じた。 今回試した限りでは最新の楽曲でなければ90%以上の確立でMusicID情報を取得でき、曲分割もほとんど問題なかった。しかし、TRANSTECHNOLOGYによれば、現行のファームウェアでは、現在自動曲分割の精度が今一つで、曲の出だしが欠けてしまうことがあるという。MusicIDでは曲の最初15秒分の波形データから抽出した「FingerPrints」をデータ照合に利用しているため、曲頭が欠けていると曲情報を取得できないことがある。そのため、同社ではファームウェアのアップデートを近日予定しているという。
MusicIDでは大抵の曲情報のマッチが行なえるのだが、時折間違えることもある。たとえば、iPodから、iTunes Music Storeで購入したJackson5の「I Want You Back」(アルバムはMotown:Very Vest of the 60's)を、HMP-100でアナログ録音してMusicID照合したところ、曲名は「I Want You Back」で正解。しかし、アーティスト名は[Bruce Willis]、アルバムは[Motown - The One & Only]と認識された。 ブルース・ウイルスが歌手活動していたのかどうかは知らないが、Bruce Willisと表示される楽曲から幼いマイケル・ジャクソンの声が聞こえてくるのはかなりの違和感が……。ほかのMusicID採用のPCソフトの場合は、大抵複数の選択肢が表示されて、第1候補が間違えていても、他の候補を選択すれば大抵は問題なく曲情報を取得できる。しかし、本体でMusicID検索した場合は、自動的に一番近いと推測された楽曲情報を付与してしまうようで、こうして記録された情報は、PCと連携して編集するか、あるいは、よりうまくFingerPrintsを認識できるように再度録音し直す必要がある。便利ではあるが万能ではないとはいえるだろう。
また、本体のDBに楽曲情報が無い場合は、携帯電話を利用してMusicID情報を照合/ダウンロードすることもできる。この「MagicSync」はTRANSTECHNOLOGYが独自に開発したもので、携帯電話のパケット通信を用いて、FingerPrintsを照合し、最新の楽曲情報でも取得可能とした。 携帯電話との連携は、付属の専用アダプタを利用してUSBで接続する必要がある。対応携帯電話はドコモのFOMAシリーズ、auのWINシリーズ、ボーダフォンの3G対応製品。本体で対応携帯電話を選択し、あとは通信ケーブルでHMP-100と接続するだけで、サーバーにアクセスできるはず。しかし今回用意したドコモ「P701iD(同社ホームページでは動作未確認)」、au「W31SA」などではうまく通信できなかった。 個人的にはPCを使ってしまうので、まずMagicSyncを利用する機会は無いと思うが、試みとしては面白いと思う。ただし、本体DBを使ったMusicID照合の操作なども、シンプルではあるが、録音から照合までの工数が多く、HMP-100がターゲットとしているPCを持たないユーザー層にどこまで訴求できるかは、疑問が残るところだ。 ■ 転送ソフトもMusicIDに対応。タグ書換に注意
もちろん、PCからの転送も可能で、PC用の楽曲転送/管理ソフトとして「Trans Music Manager」を同梱。CDDBによる楽曲取得機能のほか、MusicID機能も搭載し、アナログ入力した曲の情報も取得できる。さらに、CDDBのアクセス情報などを元にして、プレイリストを自動作成する「InteliMix」なども備える。 GracenoteのSDKをベースにカスタマイズしたソフトウェアで、対応OSはWindows 98 SE/Me/2000/XP。 まずは、約8GBのMP3ライブラリを一気に読み込んでみる。すると、約20分弱で楽曲登録は一通り終了したように見える。しかし、その後もHDDアクセスと高めのCPU負荷が続いている。ちょうどソニーのCONNECT Playerと同じような挙動なのだ。 CONNECT Playerも独自の「アーティストリンク」の実現のため、MusicID機能を利用していた。そのため、楽曲登録後にMusicIDの情報を取得しているという点で、同じような動作をしているのだろう。
ただし、設定画面で、MusicIDの自動認識機能をON/OFFできるなど、CONNECT Playerと違って、“今、TMMが何をしているのか”は把握できる。実際にMusicIDの認識作業もプレーヤ上で進捗が示されるので、作業が進んでいるという安心感はある。なお、8GBのライブラリの読み込みとMusicIDの楽曲認識が終わるまで、4時間弱かかった。大容量のオーディオライブラリを応用する場合は、初回利用時のDB構築時間がかかることは覚悟しておいた方がいいだろう。 なお、CDのリッピングの場合は楽曲リッピング時に自動的にMusicIDのデータベースからデータを取得しているので、こうした認識作業にかかる時間は無くなる。 もし、CDリッピングでなく、手持ちのライブラリからTMMでDB構築をする際には、もう一点注意したい点がある。それは既に構築済みのライブラリのタグ情報を書き換えてしまうことがあること。取り込んでMusicIDとの照合が終わると、自動的に独自のDB情報を楽曲に付与すると同時に、ファイルに元々あったタグの情報を書き換えてしまうようなのだ。そのたため、CDDBの元情報に不備があったので、手動でタグを書き換えたライブラリの楽曲情報まで上書きされてしまうことがあった。
この問題は、TMMの[Preference]から[MusicID]で、デフォルト状態の[編集したトラックを除きライブラリを更新する]にしていると、ファイルのタグ情報まで書き換えてしまう。そのため、ここで[ライブラリデータをGracenoteメタデータで管理する]にしておけば、ファイル名やID3タグなどの影響は無さそうだ。既存のライブラリ活用や他のプレーヤーとの併用を考えているのであれば、こちらの設定がいいだろう。 もちろんiriver Plus2でMusicIDを利用した場合などでもタグ書換は発生するのだが、デフォルト設定で、ライブラリ登録しただけで自動的にタグ書換されるのは抵抗がある。もう少しわかりやすくインストール時などに選択できるようにしてほしいと感じた。。 また、アーティスト名で管理している楽曲では、アーティスト名「山田」で、アーティスト名を山田に統一していても、MusicIDのDBで、その楽曲はゲストをフィーチャーした「山田featuring田村」と認識した場合、その情報に上書きされてしまう。その場合、本体の楽曲検索でアルバム検索を行なった場合は問題ないが、アーティスト検索からアルバム選択した場合に、アルバムの楽曲でその曲だけが抜けてしまうのだ。MusicIDでの楽曲管理においてはこうした細かい問題もあるのも確かだ。 しかし、確かにMusicIDによる効果は絶大で、タグ書換の応用例としてはコンピーレーションアルバムでアーティスト名が[Various Artist(VA)]などとなってしまう場合で、個々のアーティスト情報を入れる場合は、MusicIDのデータからアーティスト情報を一括取得して簡単に修正できる。こうしたメリット面が大きいのでMusicIDの運用ルールさえ考えれば非常に活用しがいのあるソフトウェアになっている。
さらに、自動プレイリスト機能の「InteliMix」も搭載。これはMusicIDで取得した情報を元に自動プレイリストを作成する機能で、「New Tracks」、「Global Favorites」、「60's Pop Oldies」、「Rock On,Dude」、「Most Listend To」など、MusicIDのDBを生かしてさまさまなプレイリストを自動作成。さらに、選択したファイルやアルバムから自動ミックスする機能を備えるなど、メタデータをベースにしたさまざまなプレイリスト作成が可能なのだ。 やや作りにクセはあるが、非常に楽しめるソフトだ。オーディオリッピングについてもデフォルトがOGG Vorbisなどやけにマニアック。そもそもHMP-100ではOGGは使えないのだが、非常に興味深いソフトだ。少なくともPCレスをウリにするプレーヤーの添付ソフトとは思えないマニアックさが魅力とも言える。 ■ 標準的な使用感。音はイマイチ プレーヤーとしての機能は非常にオーソドックス。メインメニューからライブラリを選択して、アルバム、アーティスト、ジャンル、年などの検索メニューから楽曲情報を検索できる。なお、プレイリスト再生機能は備えていない。TMMの自動プレイリスト機能が優れているだけに、この点はやや残念ではある。 なお、楽曲管理についてはMusicIDで作成したメタデータを利用している模様で、MP3ファイルにID3Tagを入力していてもUnknown Artistsと表示されてしまう。そのため、TMMもしくは本体でMusicIDを働かせて、楽曲情報を付与する必要がある。つまり、基本的に全ての楽曲管理において、MusicIDするのが基本的なコンセプトということだ。
メニュー操作/楽曲検索時は上下で階層内の移動、左右が階層の上下移動となっており、非常にオーソドックス。レスポンスも良好だ。楽曲を選択して、再生ボタンを押すと再生モードとなり再生が始まる。再生モードでMENUボタンを押すと楽曲検索モードに切り替わる。 基本的な操作に問題はないのだが、困ってしまうのが、転送したアルバムがアルバム順で再生できないこと。数字-アルファベット順で再生されてしまうのだ。非常に使いづらいので是非とも改善してほしいポイントだ。
音質は今一つで、中域が薄く迫力不足と感じる。再生レンジ的には高域は伸び、艶やかさもあるのだが、音場感に乏しい。中低域の勢いがなく芯のない音という印象で、楽曲のもつダイナミズムが伝わらない。初代Podが出た頃のMP3プレーヤー黎明期はこうした芯の無い音のプレーヤーが多かったが、近年各社が音質に注力している中、やや見劣りすると感じた。 イコライザ機能も備えているが、抜本的な音質の改善は望めない。バッテリ駆動時間は約15時間。着脱可能なリチウムイオンバッテリで、オプションで交換用バッテリも用意される。 ■ MusicIDをベースにどこまで進化できるか ライブラリ管理の中心にMusicID技術を据え、そこからすべてのデータ処理を考えるという楽曲管理方法はなかなかユニーク。同社では年間5~10万台の販売に加え、プラットフォーム提供などもも予定しているとのことで、関連製品の展開にも期待がかかる。 ただし、アルバム順の再生ができないのはいただけない。また、音質が今一つ物足りないなど、肝心のオーディオプレーヤーとしての完成度が今一つと感じる。PCレスのコンセプトは面白いが、データ照合までの手間はなかなか面倒。Web直販のみという販売も含めて、トータルでPCレスの提案と言う意味ではやや物足りなさは残る。MusicIDを中心とした楽曲管理はユニークなだけに、今後さらなる熟成を重ねて欲しいプラットフォームと感じる。 □長瀬産業(TRANSTECHNOLOGY)のホームページ (2005年12月9日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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