■ フルスペックHDテレビが37型クラスに 薄型テレビの大型志向は加速しており、液晶テレビにおいては32型~37型がボリュームゾーンとなっている。2年ほど前までは「一般家庭には26型が最適」と語るメーカーもあったものだが、現在では人気の中心は30型以上に移っている。 と同時に価格下落も進んでおり、特に夏商戦以降は32型の価格下落が激しく、国内大手メーカー製品で20万円台前半/インチ7,000円も珍しくない。さらに、冬商戦には37型の価格低下も加速しており、37型においても30万円以下でメーカーが選べる時代となった。 そんな37型の中でも冬商戦で比較的高めの売価を維持している製品がある。シャープの「LC-37GE2」と、東芝の「37Z1000」の2台で、40万円以上の価格設定となっている。両モデルに共通する特徴といえば、パネル解像度が1,920×1,080ドットのフルHDパネルということ。 フルHDパネル搭載のデジタルチューナ搭載液晶テレビとしては、今のところ37型が最小サイズとなる。37型のフルHDテレビは三洋や三菱も発売しているが、三洋はHDMI入力を備えておらず、三菱については2004年発売とやや型が古い。ボリュームゾーンで最高の液晶テレビを求めるのであれば、シャープ、東芝の2製品がこの冬の最重要機種と言えるだろう。 さらに東芝の「37Z1000」は、パネルスペックだけでなく、独自機能も満載。Z1000シリーズは同社のフラッグシップモデルとなるが、従来モデル「LZ150シリーズ」を踏襲し、LAN HDDへのデジタル放送録画機能を搭載。さらに、DLNAクライアント機能や、フレッツ系のFTTH回線を利用したVODサービス「4th Media」にも対応している。i.LINK端子(TS)も2系統備えており、Rec-Potなどのi.LINK接続のデジタルレコーダへの録画も可能だ。 画質面でも、SEDテレビに搭載予定の高画質化回路「メタブレイン・プロ」を新開発。メタブレイン・プロは、64bitホストCPUと高画質処理用CPU、音声処理CPUなどを内蔵した画像処理LSIなどから構成されるデジタルテレビ用プラットフォームで、ネットワーク機能も内蔵する。フラッグシップシリーズらしいこだわりの機能をフル搭載しているといっていいだろう。
■ シックな外観。D4入力1系統は寂しい 本体は深みのあるグレーを基調としたシックなデザインを採用。スピーカーはアンダースピーカー型で、オンキヨーと共同開発したスリット利用のバスレフ型「ジェットスリットスピーカー」を内蔵する。出力は10W×2ch。 チューナは地上/BS/110度CSデジタルと、地上アナログ。地デジがダブルチューナとなっている。地上デジタルを2系統備えたことで、地デジの1番組をLAN HDDやRecPotなどi.LINK接続のHDDレコーダに録画しながら、地デジの裏番組を視聴できるようになった。前モデルLZ150での主な不満点となっていただけに、この変更は嬉しい限りだ。 なお、ダブルチューナとなったもののデジタル放送の2番組同時録画はできない。このあたりは映像処理/録画回路などの制限によるものだろう。
映像入力はHDMI×1、D4×1、S映像×2、コンポジット×4、アナログ音声×4。出力端子はデジタル放送録画出力、光デジタル音声出力、アナログ音声、ヘッドフォンなど。3系統のEthernet(1系統は4th MEDIA専用)、2系統のi.LINKも搭載する。 端子の種類としては非常に充実しているが、一点残念なのが、コンポーネント信号用の入力が、D端子1系統だけということ。例えばXbox 360のフルスペックを体感するにはD4接続が必須だが、ここでD4(コンポーネント)を利用してしまうと、他のコンポーネント系の出力機器は接続できない。 ハイビジョンレコーダやHD DVDやBlu-ray製品などはHDMIで接続するにしても、DVDプレーヤーや、デジタルCATV用のSTBなど様々なD端子出力機器があるわけで、これらを活用するためにセレクタの導入などが必要になってしまう。
レコーダやネットワークなどの全ての機能をテレビ側に内蔵するという、Z1000シリーズの思想は理解できなくもないが、フラッグシップ機として上級ユーザーを狙うならばせめてもう1系統のD/コンポーネント入力が欲しかった。 リモコンは「LZ150シリーズ」のを踏襲したデザイン。BS/CSデジタル用のチャンネルボタンを上部に配し、BS/CSボタンで両放送を切り替え可能。その下に地上デジタル/アナログ用のチャンネルボタンを配し、地上デジタル/アナログの切り替え用ボタンも装備する。 中央下部に方向キーを中心として円形にボタンを配し、番組表や戻るボタン、録画番組視聴や写真再生、インターネット機能などを利用可能とする「face ネット」ボタンを備えている。
■ “液晶らしさ”を払拭したナチュラルな画質 主電源投入から映像が出画するまでの時間は約4秒。リモコンでの電源ON/OFF時には瞬時に出画される。チャンネル切替のレスポンスは、地上アナログ専用のCRTテレビに比べると若干のもたつきは感じるものの、ストレスを感じるようなレベルではない。
パネルスペック的な最大の特徴はフルHDの1,920×1,080ドット対応。500cd/m2、視野角は上下左右178度、応答速度は8msとなる。まずはテレビの本分とも言えるデジタル放送を視聴してみる。画質モードは、あざやか/標準/映画の3モードとメモリー、ユーザーモードの映像プロ1/映像プロ2だけというシンプルなもの。まずは、標準モードで視聴した。 初見からはっきりと分かるのは解像度の違い。現在37/32型の液晶で主流となっている1,366×768ドットパネル採用製品と比較して明らかに精細感が異なっており、ニュースのスタジオ映像の背景やアナウンサーの顔の輪郭、ドラマにおける俳優の肌目や衣装など、フルHDならではの精細な映像が堪能できる。30インチ台では「フルHDとWXGAはあまり変わらない」とより大画面でのフルHD対応を訴求するメーカーもあるが、37Z1000を見る限り、少なくとも37型においては明確な違いがあるといえる。 色再現やコントラストも良好で、黒浮きや応答遅延などの液晶ならではの欠点をほとんど感じさせず、ナチュラルな印象。SEDを意識して開発されたという、「メタブレイン・プロ」の効果も大きいだろう。 前モデル「LZ150シリーズ」やHDDレコーダ内蔵の「ちょっとタイム face LH100シリーズ」では、標準モードでも明るすぎると感じたが、37Z1000では輝度が一段下がってグッと自然な明るさになった。この輝度の自然な印象が、全体的な画作りにも引き継がれている。
蛍光灯下で500ルクス程度の照度や、電気を完全に落とした状態でも、輝度に関して大きな不満を感じることはない。画質面で最も印象に残るのは優秀な階調表現。暗部の階調はかなり暗い黒からなだらかに出ており、液晶らしからぬ奥行きが感じられる。部屋を真っ暗にすると、絶対的な黒の沈み込みが際だっているわけではなく、バックライトからの光漏れはそれなりにある。ただし、実際の映像を見ると黒もしっかり出ていながら、なだらかな階調が実現されている。 基本的にソースを選ばず、優秀な階調性能が体験できたが、最も顕著に感じられたのがゲーム。Xbox 360から720pで入力した「リッジレーサー6」で、深夜のコースををプレイすると、猛スピードで過ぎ去っていく夜の暗い町並みと、電灯やテールランプの明滅がしっかりと描き分けられ、コントラストもきっちりと感じられる。数100m先では、ほぼ純粋な黒に見えたコーナーの細部が徐々に見え始めて、近づくにつれ鮮明になるなど、従来とは異なるHD映像ならではのリアリティが体験できる。 また、同様にフィギュアスケートの「グランプリファイナル」のでは、スケートリンクの白と、氷に刻み込む轍(?)、高速に移動する白系の衣装のどれもが鮮明に描かれる。液晶テレビには非常に厳しそうなソースなのだが、ソースに依存すると思われるMPEG系ノイズがちらほら見られたものの、階調表現とコントラスト性能に余裕があるため、非常に自然かつ見通しのよい画質が楽しめた。
新開発の映像エンジン「メタブレイン・プロ」に搭載した高画質化アルゴリズム「魔方陣アルゴリズム・プロ」ではRGBの各色で12bit処理を行なっているとのことで、このあたりの処理能力の向上が豊かな階調表現につながっていると思われる。 応答速度については、カタログ値で8msとしている。実際にテレビ放送を見る限り、“残像”を意識することは無かった。前述のフィギュアスケートの凝ったスイッチ切替や高速な回転でもほとんど目立たない。時折、微かな引っかかりを感じたこともあるが、“残像“と明確に知覚できるようなレベルの遅延は無かった。前モデルLZ150と比較しても大幅な進歩が感じられた。 IPSパネル採用と言うこともあり、視野角変化も少なく、45度ほど横から見てもコントラスト低下がさほど顕著ではない。スイートスポットの広さという点でも充分といえそうだ。 標準モードのほか、あざやか/映画モードも用意される。あざやかは標準よりは若干明るいものの、階調表現の優秀さは標準モードを引き継いでおり、白飛びなどは皆無。彩度は若干高くなり、アニメやCG系のソースには適しているかもしれない。 映画モードは、輝度は大分下がり黒の沈み込みはかなり向上する。しかし、ピーク輝度が落ち込むことからコントラスト感は低下する。まったりとしたフィルムソースには相性がいいかもしれないが、個人的には標準モードの方が応用は利きそうと感じた。 また、映像プロと呼ばれるユーザーメモリモードも用意。2つの設定が記憶できる。設定項目はユニカラー(コントラスト/明るさ/色の濃さ)/明るさ/黒レベル/色の濃さ/色あい/画質など。さらに、詳細設定では色温度の設定も可能で、低/中/高の3パターンのほか、明るい部分の色温度を調整するGドライブ、Bドライブなども設定できる。コントラストや階調表現を調整できるダイナミックガンマも備えており、オフ/弱/中/強を選択可能。ダイナミックガンマの効き具合を比べるのも面白い。 トータルの画質は文句なく良く、解像感は液晶ならではなのだが、逆に液晶ならではの欠点が感じられないので、“液晶テレビを見ている”という感覚が非常に希薄。ナチュラルな映像再生が魅力といえるだろう。 一点だけ違和感を感じたのは、Xbox360の出力を720pに設定し、DVDビデオを再生した時には帯状のノイズが上下に出たこと。このあたりは機材固有の問題なのかもしれない。なお、720p出力設定でゲームをプレイした際や、XboxLiveを利用した時にはこの問題は発生しなかった。
■ 充実の録画機能
録画機能も充実しており、LZ150を引き継いでLAN HDDへの録画機能や、i.LINK接続による対応HDDレコーダへの録画機能を搭載。RDシリーズとの連係機能「テレビdeナビ」にも対応する。 録画の前に本体の初期設定の外部機器設定から機器登録を行なう必要がある。LAN HDDは最大8台まで登録可能だが、同時に録画/再生に利用できるのは1台だけとなる。i.LINKもデイジーチェーン接続により8台まで登録可能となっている。 今回はアイ・オー・データ機器のDLNA対応LAN HDD「HDL-AV250」と、i.LINK HDDレコーダ「Rec-Pot F」を接続してみた。LAN HDDは3ポートの内2ポートで接続可能となっており、1系統はLAN HDD専用。ただし、同時に録画できるLAN HDDは1台までとなっている。i.LINKとLAN HDDの同時録画も行なえない。
録画の設定は、録画予約は番組表を立ち上げ、希望の番組を選択し、決定を押すだけ。録画HDDをi.LINKとLAN HDDで切替える場合は、番組選択画面で対象のHDDを選択する必要がある。デジタル放送の場合はMPEG-2 TSの録画のみでSDコンバートして録画することはできない。機器の登録は初心者には若干敷居が高いかもしれないが、登録さえ済めば録画操作自体はわかりやすい。 また、録画した番組はface netから呼び出し可能。[録画番組]を選択すると、録画したHDDを問わず、全てこの画面に現れる。そのため、一度録画予約を行なってしまえば録画したHDDを意識することははい。再生操作はリモコンの決定/カーソルキーの上下左右にある矢印ボタンで行なえ、再生/停止や早送り/戻しが行なえる。また、リモコンの[機器操作]ボタンを押すと、専用のOSDが現れ、ここでも操作が行なえる。録画番組の選択、再生やスキップ/バックなどの操作レスポンスも良く、LAN HDDでもネットワークを意識することはほとんど無い。
なお、LZ150では放送中の番組を番組表から録画予約/実行できなかったが、Z1000ではi.LINK/LAN HDDともに録画可能となった。細かい機能強化が行なわれているあたり、1年の進歩を感じさせる。
face netのインターフェイスもシンプル。ユーザーによるカスタム設定項目などはほとんど無いのだが、デジタル放送のMPEG-2 TS信号をそのままHDDに録画するという意味では、非常に使いやすいUIと感じる。 注意したいのはi.LINKと、LAN HDDの扱いの違い。i.LINKは録画しながらの追っかけ再生ができるが、LAN HDDではできない。また、1ボタンで放送中の場合をバッファリングし、追いかけ再生できる「ちょっとタイム」機能も、i.LINK時のみに動作する。 なお、LAN HDD録画の場合ムーブに対応しない。LAN HDD内の録画フォルダにアクセスすると、暗号化されたファイルが現れるが、当然再生はできない。
■ 2画面表示やDLNAなど付加機能も充実
従来モデル同様にWebブラウザ機能や、メール機能も搭載。ユニークなのは2画面表示機能。地上デジタルダブルチューナの搭載により、地上デジタルの2番組同時表示が可能。BS/110度CSデジタルや地上アナログ、外部入力などを組み合わせて同時表示ができる。 さらに、リモコンの左右で操作画面選択、上下を押すだけで、画面サイズを段階的に切り替えられ、外部入力やWebブラウザなども表示できる。外部入力もHD映像の2画面表示が可能で、ゲームをしながら、字幕ニュースを小画面で追いかけるという使い方もできる。 リモコンによる画面サイズ切替も非常にスムーズで、画面切替なども画面上のガイドを見れば、戸惑うことなく操作が可能だ。残念なのは録画番組の再生中は2画面表示ができないこと。
DLNAクライアント機能も搭載。[機器選択]から、登録したサーバーにアクセスすると、DLNA対応サーバーであれば内蔵したファイルを自動的に識別して、ジャンル分け/リスト表示される。 ビデオ/ミュージック/フォトなどが用意されるが、37Z1000では音楽再生機能は利用できない。再生ビデオファイルはVRモード記録のMPEG-2とのこと。DLNAサーバー機能搭載の「RD-X6」などとの連携を想定しているのだろうが、DLNAサーバーのインストールベースで言えば圧倒的にパソコンが多いはず。パソコンでVRで録画することは少ないので、あまり使い道は無い? と考えていたが、DLNA対応の「HDL-AV250」に、PC用のテレビキャプチャカード「GV-MVP/GX」で録画したMPEG-2ファイルを転送したところ、あっさり37Z1000から認識され、再生できた。あくまでサポート対象がVRモードのMPEG-2のみということなのかもしれない。 MPEG-2を中心に幾つかのファイルを試してみた。ビットレート15MbpsのMPEG-2は再生できなかったが、9Mbpsは問題なく再生可能でき、4/2Mbpsのいずれも再生可能で、トリックプレイも行なえた。なお、WMVやDivXは認識されてビデオの階層に振り分けられるのだが、再生はできない。
再生操作やメニュー画面内での移動などレスポンスはLAN HDD利用時とさほど変わらないが、サーバーにアクセスしてファイル検索/選択する際には10秒近く待たされる。機器を選択して、[ビデオ]、[任意のファイル]を選択するのに結構な時間がかかる。このあたりはもう少し改善して欲しい点だ。 しかし、VRモードのMPEG-2だけでなく、PCでキャプチャしたMPEG-2も再生可能となればかなり使用シーンは広がる。PCのキャプチャユニットなどの録画先をLAN HDDに指定して、37Z1000から再生する、という応用も可能となる。再生映像は当然SD解像度ではあるが、3Mbps程度でも結構使える印象だ。 また、音楽ファイルについては、再生機能を持っていないほか、JPEG静止画表示についてもファイルサイズ4MBまでと言う制限がある。あまり使わないとは思うが、DLNA対応を謳うのであれば、もう少ししっかり対応して欲しいところだ。 さらに、今回テストできなかったが、ネットワークVODサービスの「4th Media」にも対応している。ただし、NTT東西のFTTHサービス「Bフレッツ」の加入のほか、IPv6サービス「フレッツ・ドットネット(NTT東)/フレッツ・光プレミアム(NTT西)」への登録が必要になるなど敷居が高い。使用感などについてはBroadband Watchの清水理史氏のレポートを参照して欲しい。 VOD用のSTBを内蔵したテレビという提案としては新しいし、魅力的ではあるものの、Yahoo!BBやTEPCO系、CATVなど、フレッツ以外の通信事業者との契約者にとっては意味が無い。 4th Media対応のために暗号化チップや専用ポートも搭載するなど、かなりのコストをかけているだけに、通信事業者縛りがあるのは残念なところ。できれば、ほかの事業者でも利用可能として欲しいところだが、4th MediaはNTT東西のネットワークを基盤としたサービスだけに難しいだろう。テレビに何を内蔵するか、というコンセプトの問題だとは思うが、もう少しオープンなVODサービスへの対応を期待したいところだ。
■ SEDにも繋がる期待 デジタル放送の1080i映像をそのまま表示できるフルHD対応を果たしながら、妥協のない画質を実現し、他社製品に類を見ない独自機能が盛りだくさん。発売は他社製品より遅かったものの、画質と機能と使い勝手のバランスを高い次元で実現した製品として、ひとつのベンチマークとなりそうな製品だ。 やはりD端子が1系統という点だけは気になってしまうが、それ以外の大きな不満点は無い。フラッグシップモデルだけでなく、同じ映像エンジンを使って付加機能を省いた低価格モデルにも期待がかかるし、2006年に登場予定のSEDへの期待も自ずと高まる。2004年から「映像の東芝」というキーワードで映像製品への注力をアピールしてきた同社の成果として非常に魅力的な製品に仕上がっている。 □東芝のホームページ (2005年12月22日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2005 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
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