■ あの「頭文字<イニシャル>D」が、驚きの実写化!
日本の漫画にも「実写化不可能」といわれる作品は多いが、しげの秀一が'95年から連載している、総売上部数4,000万部突破の自動車漫画の大ヒット作「頭文字<イニシャル>D」も、その1つに挙げられる。 しかし、しげの秀一作品の魅力でもある、「この世に存在しない擬音」を書き込んだ絵による迫力のあるバトルシーンを、動いている映像で観たいと思う人は多かった。 そのなこともあって'98年にTVアニメとして、フジテレビで深夜に全26話が放送された。カーバートルシーンがCGで描かれてるのが斬新だったのだが、キャラクターのセルアニメとはあまり馴染んでおらず、違和感がかなりあったことでも話題をよんだ。 実は個人的には、このアニメが始まるまで「頭文字<イニシャル>D」を知らなかった。深夜にたまたまフジテレビで放送しているのを見かけて、すっかりはまり込んでしまい、コミックもDVDを買い集めてしまった。余談だが、普段アニメのDVDを購入しないので、アニメDVD独特のVOLUME-2以降が96分しか入っていなくて6,000円以上するという価格に涙しながら購入していたら、単品が出揃った後にBOXが出るという、まさにアニメ商法のやらしい面をまざまざと見せつけれてしまった……。 このテレビアニメシリーズは好評だったようで、その後続編の「頭文字D Second Stage」(全13話)が放映され、さらに映画の「Third Stage INITIAL D THE MOVIE」も公開された。作品を重ねるに従い、徐々にCG技術も向上し、視聴者の方も見慣れたこともあり、かなり違和感がなくなってきた。 その後も、TVシリーズからThird Stageまでのバトルシーンを再編集し、全バトルCGもリニューアルしたOVA「頭文字D BATTLE STAGE」、番外編OVA「Extra Stage インパクトブルーの彼方に…」も発売。現在は、スカイパーフェクTVで最新作「頭文字D Fourth Stage」が放送されており、10年以上に渡ってアニメ版も続いていることになる。 アニメ版で好評を得た「頭文字<イニシャル>D」だが、実写で映像化するのはさすがに難しいだろうと思われていた。しかし突然、2004年7月に実写映画「頭文字<イニシャル>D THE MOVIE」が製作されることが発表された。それも、邦画ではなく、「インファナル・アフェア」シリーズのスタッフ陣を中心に、日本及び香港、台湾などアジア各国の若手俳優が起用して製作することが明らかにされた。 しげの秀一自身も愛車がAE86であったこともあり、土屋圭市、織戸学、谷口信輝、今村陽一など、いわゆる「走り屋」出身で、ハチロクに乗っていたプロレーシングドライバーを愛読者を抱える、リアルな迫力を誇る原作。それが、いったいどんな実写化されるのか? さらに、メインキャストに日本人が一人しかいないという、邦画ではないことに対する不安と期待があった。 最初はカーアクションはCGで表現すると思っていたのだが、制作発表記者会見でアラン・マック監督から「最初はCGをたくさん使うことも検討した。しかし、実際に日本で撮影してみると、日本のスタッフのみなさんが、非常にプロフェッショナルで、テクニックを持っていることがわかった、したがって、レースのシーンは実写で撮ることにした」と説明された。 あのバトルシーンを実写でやるということが可能なのか? と思ったが、本当にCGなしで映像化されてしまったことに、驚かされた。劇場公開は2005年6月に香港などで開始し、日本では2005年9月17日から公開された。
その「頭文字<イニシャル>D THE MOVIE」が、劇場公開から約5カ月が経過した2月15日に、エイベックス・マーケティング・コミュニケーションズ株式会社からDVDが発売された。
話題作ということもあって、本編ディスクのみの「スタンダード・エディション」(品番:AVBF-22497)、特典ディスク「プレミアムDISC~JAPANESE SIDE~」(収録時間238分)との2枚組み「スペシャル・エディション」(品番:AVBF-22498~9、初回完全限定生産)、さらに「プレミアムDISC~ASIAN SIDE~」(収録時間218分)も追加した3枚組みの「プレミアム・コレクターズ・ボックス」(品番:AVBF-22510~2、完全初回受注限定生産)の3バージョンをラインナップ。価格はそれぞれ3,990円、4,935円、9,975円。 価格差がスタンダードとスペシャルが945円なのに対し、スペシャルとプレミアムの価格差は5,045円と大きい。これは、各エディションはディスクの枚数の違いだけでなく、封入特典も異なっているからだ。 スタンダードは、初回のみ「オリジナル・マウスパッド」が付属し、ピクチャーレーベル仕様。スペシャルは、「オリジナル・メールガード」(携帯電話の覗き見防止フィルタ)を封入。プレミアムは、3方背特殊BOX仕様で、「オリジナル・ポストカード・ブック」と「拓海仕様・オリジナルTシャツ」、「チームエンブレム・ワッペンセット」が付属している。 ディスクの枚数により、価格が異なるバリエーションが用意されるのは、その作品に対する思い入れにより選択できて、購入する側にもありがたい。しかし、頭文字<イニシャル>D THE MOVIEのDVDは、ディスクだけではなく封入特典がまったく違っている。つまり、スペシャルとプレミアムの5,045円の価格差の理由は、プレミアムの封入特典が多いからだろう。 その上、プレミアムの封入特典には、スタンダードやスペシャルの封入特典が含まれていないので、熱狂的なファンが全部の封入特典を欲しいと思えば、3種類全部を購入することになる。まるで、アニメのDVDの様なマーケット戦略だ。
個人的には、封入特典を集めたいとあまり思わないので、ディスク3枚組みで封入特典のない5,990円のパッケージがあれば喜んで購入するのだが、残念ながらそんなパッケージは用意されていない。しかたなく、3種類のパッケージのうち、どれを購入するか悩んだ末に、1本の映画のDVDに9,975円を払うことに躊躇してしまい、結局、典型的な日本人らしく、真ん中のスペシャル・エディションを購入した。
■ CGを一切使用しないカーアクションに驚愕 藤原拓海(ジェイ・チョウ)は、「藤原とうふ店」を営む父親である文太(アンソニー・ウォン)との2人暮らし。友人の樹(チャップマン・トウ)とガソリンスタンドでアルバイトをしたり、幼なじみで高校のアイドル的存在であるなつき(鈴木杏)から海へデートに誘われ、喜びを隠し切れない普通の高校生活を送っていた。しかし、なつきはメルセデス・ベンツに乗った謎の男性と援助交際しているという、拓海には見せない別の顔を持っていた。 また拓海は文太から、毎日豆腐を文太のハチロク(トヨタ/AE86/トレノ)に積み込み、豆腐を壊さないように速く配達することを任されていた。文太は過去に、秋名最速と言われた伝説の走り屋。拓海は知らぬ間に父の英才教育を受け、ドライビングテクニックを身に着けさせられていた。 そんなある日、拓海と樹が働くスタンドに、「妙義山ナイトキッズ」のリーダーである中里毅(ショーン・ユー)がやってくる。樹は中里の挑戦を威勢良く受けたものの、拓海を助手席に乗せてバトルに惨敗する。しかし、その晩に、中里は峠で信じられないドライビングテクニックを見せるハチロクに遭遇。 一方、文太の前には過去の伝説を聞きつけた、チーム「赤城レッドサンズ」のリーダーである高橋涼介(エディソン・チャン)が現れ、バトルを申し込む。文太は、拓海になつきとのデートにハチロクを貸し出すことと引き換えに、バトルを受けさせる。拓海のハチロクは、涼介の代わりに勝負を買って出た中里のR32を相手に、堂々勝利する。その走りを見た涼介は、拓海の才能に惚れ込みバトルを申し込むが、拓海には走り屋に興味はなかった。 しかし拓海は、プロのレーサーである須藤京一(ジョーダン・チャン)とバトルすることになり、このバトルで初めての敗北感を味わう。ハチロクは文太の手により、秘かにチューンアップされ、拓海の高校生活最後の夏がクライマックスを迎える……。 監督は香港のアンドリュー・ラウとアラン・マックで、アンドリュー・ラウは製作も担当。アジア各国で絶大な人気を誇る歌手のジェイ・チョウが、長編映画に初主演したほか、鈴木杏以外のメインキャストとして、香港、台湾の俳優が共演している。 ストーリーは、原作の第1巻~第15巻を基にしているが、約109分に収めるため原作にある映画にして面白くなる要素は取り込んでいるものの、忠実というわけではない。例えば樹が、ガソリンスタンド店主の祐一の息子となっているほか、文太のキャラクタも原作と違って、酒飲みで、かなりちゃらんぽらんで、暴力的に描かれている。アニメ版がかなり原作に忠実なのに比べると、原作を読んでいるとかなり違和感を感じるのも確かだ。 不安に思っていた日本人以外が演じることに関しては、あまり違和感はなく、特にアンドリュー・ラウは、拓海の雰囲気にうまくハマっている。アジア各国で公開するため、唯一の日本人メインキャスト鈴木杏の声の日本語音声も本人がアフレコしているのだが、リップシンクがあまり合っていなくて、しっくりこなかった。ほかのキャストとちがって、鈴木杏の場合、日本人だと知って観てしまうからかもしれない。 一方で、CGを一切使わない、原作にも登場する榛名山などで撮影されたカーアクションは圧巻。溝落としや慣性ドリフトなど、原作に登場したテクニックが忠実に再現されている。撮影は弥彦山スカイラインや群馬県渋川市など、すべて日本で行なわれ、カーアクションは主にタカハシレーシングが担当しているという。 慣性ドリフトで急カーブを曲がっていく映像に、ドライバーの足の動きや表情などが巧みに編集され、漫画やアニメで表現されていたスピード感を再現することに成功している。 ハリウッド、こういった走り屋の映画を作ると、「ワイルド・スピード」のような、力でねじ伏せるような大味な感じになるが、ハチロクという非力なマシンを技を繰り出すという日本人好みな原作の味を再現している。 しげの自身も「日本ではなくて他のアジアの国が作ってくれたということに意義を感じます。嬉しいんです」。「レースのシーンは、原作者として本当に満足感があって、是非、原作の読者の皆さんにも見てもらいたい。『見せたい!』と思います。『TAXi』のリュック・ベッソンに見てもらいたいですよ」と絶賛している。
なお、コミックでは登場する車のナンバープレートの数字は、実在するナンバーとかぶらないように5桁になっているが、THE MOVIEではなぜかナンバーがモザイク処理で隠され、アップになった時の3桁は、アニメのナンバーを編集したものになっていた。
■ 画質は良好。音声もDTSで迫力あり DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは7.94Mbps。本編ディスクは、映画本編以外の特典はほんの少ししか収録していないので、約109分なので、実写としては高めのビットレートを保っている。映像はシネマスコープをスクイーズ収録。実際の画質もクリアで彩度も高くメリハリがあり、ブロック/モスキートノイズといった圧縮ノイズもほとんど感じない。走り屋なので、バトルシーンはもちろん夜だが、光が当たっているところと、暗く沈むところのコントラストのつけ方が上手いので、画質で不満を感じるところはなかった。 音声は日本語をドルビーデジタル5.1ch(448kbps)と、DTS(1,536kbps)の2種類、さらに広東語をドルビーデジタル5.1ch(448kbps)で収録している。DTSはフルレートでの収録なので、ドルビーデジタルくらべると全体的に抜けがよく、低音も効いている。是非、DTSで鑑賞したい。 広東語にすると、俳優のアクションも日本人より大きいので、全盛期のジャッキー・チェン映画のような雰囲気になって、また違った楽しみ方ができる。なお、テーマソングや挿入歌までも、日本語音声と広東語音声では異なっており、広東語版はテーマソング「Drifting/飄移」(ジェイ・チョウ)、挿入歌「All The Way North/一路向北」(ジェイ・チョウ)、日本語版はテーマソング「BLOOD on FIRE」(AAA)、挿入歌「beautiful」(mink)となっている。 映画の内容はカーバトルシーンがメインなので、サラウンド感も高い。エンジン音やスキール音なども、やりすぎてリアル感をことはなく、うまく表現している。ただ、LFEについては、車の音としてはあまり利用されず、BGM方がよく使われていた。
特典ディスクの「プレミアムDISC~JAPANESE SIDE~」には、「2004年7月 制作発表記者会見」(約57分25秒)、「ジェイ・チョウ来日映像(成田空港) 2005年8月28日」(約3分20秒)、「来日キャンペーン映像」(プレミアム・イベント@新宿歌舞伎町シネシティ 2005年8月29日:約19分秒7/プレミアム試写舞台挨拶 2005年8月29日:約24分24秒/来日記者会見 2005年8月30日:約27分38秒)、「キャスト&スタッフインタビュー」、「アンソニー・ウォン スペシャル・プログラム『酒と豆腐と男と女』」(約20分26秒)、「メイキング特番」(約20分)、「日本TVCM集」(30秒/15秒Aタイプ/15秒Bタイプ/5秒文太篇/5秒ハチロク篇)を収録。トータルで238分に及ぶ。 映像特典の中でメインとなるのは、やはり「メイキング特番」だろう。日本の地上波で放送するために製作されたものではないようで、日本語音声はなく日本語字幕となっている。 この中で、映画で使ったハチロクが、「チューニングに約400万円かけた。十数年前の車だから、足回りは全部変え、約2カ月かけた。4AGEは順応性の高いエンジンでターボをつけた。日本人はチューニングが好きだからね」と語られている。原作ファンとしては、藤原とうふ店のハチロクにターボをつけるなんて、という気もしないではないが……。 実際のカーアクションについては、「若手の役者はスタントマンを使いたがらない、自分でドリフトしたいんだ」とのことで、指導を受けた上で、役者自信が行なっているシーンも多いようだ。スタントマンにとっても、かなり厳しい撮影のようで、「少しを気を抜くとぶつかって、20万が消えてしまう」。須藤の車は3台目という。 撮影現場の映像も収録されているが、本当に、スピードを出してドリフトしていたことがわかり、あらためすごさがわかる。撮影は、「香港には撮影できる場所がなく、日本で道路を封鎖して撮影できてよかった」という。 面白いのが文太役のアンソニー・ウォンの出演交渉で、「脚本を見せると、本当の酒を飲ませろと条件を出した」とのことで、「現場には一升瓶を置いて、本当に酒を飲んでやっていた」というのに驚かされた。 内容は面白いのだが、約20分と短いの残念。もっとたくさん、カースタントの撮影シーンを見たかった。 キャスト&スタッフインタビューは出演者のジェイ・チョウ、鈴木杏、エディソン・チャン、ショーン・ユー、アンソニー・ウォンと、アンドリュー・ラウ(製作・監督)/アラン・マック(監督)の6人を収録。 アンドリュー・ラウ(製作・監督)/アラン・マックは、「一番大変だったのは準備期間が長かったこと。準備に3か月もかかったのに、撮影期間はたったの2カ月。本当に短かったよ。製作費がかかった」と苦労を語る。 興味深いのが、「今回初めて、アメリカから取り寄せた、際どい角度のシーンが撮れる『Rヘッド』搭載の機材を使った」と明かし、「重要なのは実際にスピードを出したことだ」とこだわりが駆られている。 ジェイ・チョウは「原作が好きな友人と相談して役作りをした」という。映画で使ったハチロクを手に入れたが、『藤原とうふ店』のステッカーが笑われる」と語っていた。 映像特典で斬新なのは「アンソニー・ウォン スペシャル・プログラム『酒と豆腐と男と女』」。タイトルを最初に見たとき、DVD用に製作した番外編かと思った。しかし、実際に再生してみると、アンソニー・ウォンが「八海山」を前に置いてチビチビやって、豆腐に醤油をつけてつまみにしなながら、自分の出演シーンを見ながらコメントするという、今まで見たことがない趣向。 内容は、もちろん「日本人に見えるようにしながらも、中国や香港の観客にも違和感がないように注意した」という真面目な演戯論が大半だが、「鈴木杏のミニスカート姿を見れなくて、残念」と見事なまでのオヤジップりも発揮していた。
■ 車好きになら購入して損なし 映画の内容は、ストーリー的には原作ファンには納得できない部分もあるとは思うが、カーバトルシーンを実写でここまで再現したことは、手放しに称賛できる。車好きなら、一見の価値がある。 DVDのどのバージョンを購入するかとなると、スタンダード・エディションは3,990円と購入しやすい価格だが、映像特典はほとんど入っていないので、個人的には1,000円程度の価格差なので、スペシャル・エディションをオススメしたい。 もちろん、プレミアム・コレクターズ・ボックスの「プレミアムDISC~ASIAN SIDE~」も見てみたいと思う。特に、「ビハインド・ザ・シーン」(ノーカット版)」には魅かれる。しかし1万円近い価格で、その価格のかなりの部分を特に欲しいと思わない、封入特典の価格が占めていると思うと、購入するのは難しい。もちろん、コアなファンを躊躇せずに購入するのあろうが……。
映像特典の中で、監督は 「続編は100%撮ると思う。いつ撮るかが問題なんだ。すでに続編のストーリーについて、いくつかの案が浮かんででいる。問題は、費用ではなく、斬新なレースシーンやドリフトの撮影方法。そのアイディアが浮かべば、続編をスタートさせる予定だ」と続編の製作にかなり乗り気だった。ぜひとも続編を期待したい。
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