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Windowsで生まれかわったgigabeat
iPod追撃の一番手はコレ?
東芝「gigabeat S30(MES30)」
標準価格:オープンプライス
直販価格:36,000円



■ iPod一人勝ち市場に挑む国産の老舗

 iPod一人勝ち状態のデジタルオーディオプレーヤー市場。ソニーが威信をかけて投入した「ウォークマンA」シリーズも、iPodの牙城を崩すには至らず、むしろオーディオプレーヤーの代名詞は完全にiPodに奪われた格好だ。

 カセットテープ/MDの時代は、国内メーカーの独壇場だったポータブルオーディオだが、現在勢いを感じさせる製品は少ない。もっとも、iPod以前から市場をリードしてきた韓国メーカーについても、元気が無くなっている。iPodの一人勝ちと、市場の成熟により、停滞感が出てきた印象もある。

 東芝は国産メーカーとしては先陣を切って2002年に投入した「GIGABEAT(MEG50JS)」以来、「gigabeat」シリーズを展開。2004年11月に発売したgigabeat F以降のHDDモデルでは大型カラー液晶を特徴にシリーズ展開。一定のシェアを獲得している。

 しかし、iPodなどと比較してしまうと、使い勝手や価格競争力の点でアピールしきりれていなかった印象もある。また、ジャケット表示設定が面倒など、せっかくの大型カラー液晶というセールスポイントを生かし切れていない部分もあった。

パッケージ

 そのgigabeatの最新モデルとなる「gigabeat S」は、大幅なプラットフォーム変更を実施。まず、OSにMicrosoftのWindows Mobile software for Portable Media Centerを採用し、Windows Media Center搭載パソコンと共通のインターフェイスデザインを採用。さらに動画の再生機能をgigabeatシリーズで初めて搭載するなど、仕様面だけみても意欲的な製品になっている。

 30GBモデル「gigabeat S30(MES30)」と60GBモデル「gigabeat S60V(MES60V)」の2モデルが用意され、4月28日より発売される。直販価格はS30が36,000円、S60が46,000円。ボディカラーは30GBがピアノブラック(K)/ピュアホワイト(W)/クリムゾンレッド(R)、60GBモデルはピアノブラック(K)のみ。

 今回、製品版のファームウェアを搭載した量産試作機にて、新gigabeatの実力を検証した。



■ 高級感ある本体

同梱品

 同梱品はUSB変換ケーブルや、ヘッドフォン、CD-ROMなど。外形寸法はS30が59.9×99.9×13.2mm(幅×奥行き×高さ)/127g。持った時の大きさや重さのイメージは第5世代iPod 30GB(61.8×103.5×11mm/136g)とほとんど同じ。並べて比較してみると、厚みは若干gigabeat Sが厚いが、手に持った感覚ではあまり変わらない。

 本体の仕上げや前面の処理など、高級感は充分。今回試用した「クリムゾンレッド」の深みのあるボディカラーも格好いい。オーディオプレーヤーでは今まで見かけなかったタイプの高級路線のデザインは、他社製品との差別化要素となりそうだ。一見重そうだが、持ち上げてみると拍子抜けするぐらい軽いのも面白い。

 本体前面に、2.4型/240×320ドットのカラー液晶を搭載。液晶下部にバックボタンとWindowsのアイコンがプリントされたスタートボタンを備え、その下に十字のプラスボタンと、決定動作用のOKボタンを装備。右側面には電源ボタン、ボリューム上/下、スキップ/バック、再生/一時停止ボタンとDC入力を備えている。

 本体上面にヘッドフォン端子とHOLDスイッチを装備。また、下面にはUSB 2.0端子と拡張コネクタを装備。USB端子はPCとの連携のほか、充電も可能となっている。なお、60GBモデルの「gigabeat S60V(MES60V)」では、ヘッドフォン出力端子がビデオ出力兼用となるほか、FMチューナも内蔵する。


本体前面に2.4型/240×320ドットのカラー液晶を搭載。下部にプラスボタンも備えている ボタン部 背面。ストラップホールを装備する
本体右面。電源ボタンやボリューム、バック、再生/停止、スキップ、DC入力などを備える 上面。ヘッドフォン出力やホールドスイッチを装備 下面にUSBや拡張端子を備える

gigabeat S30とiPod 30GBの比較



■ 転送はWindows Media Player 10を利用

 音楽やビデオファイルの転送には、Windows Media Player 10を利用する。対応OSはWindows XP。従来のgigabeatシリーズでは、転送ソフトとしてgigabeat roomが付属しているが、今回OSにWindows Mobile software for Portable Media Centerを採用したこともあり、WMP10のみとなったようだ。

 gigabeatの初回接続時に手動転送か、自動同期処理のいずれで利用するかを選択。手動でも更新可能だが、自動同期にしておけば、WMPに登録したビデオ/音楽ファイルを自動的に更新してくれる。2度目の接続以降も自動同期処理にやや時間がかかり、同期の仕組みがわかりにくいようにも感じるが、慣れ親しんでいるWindowsの標準ソフトで転送可能というのは、一つのアドバンテージといえるだろう。

 MP3を中心とした9.2GBのライブラリを転送したところ転送時間は約45分(使用したPCはモバイルPentium M 1.2GHz/メモリ768MBのLet'snote CF-W4)。

転送はWindows Media Player10を利用 初回起動時に自動同期と手動更新を選択。WMP10上で変更も可能

スタートメニューから再生メディアを選択

 新しいOSを採用したことで、本体の操作性も従来のgigabeatシリーズから大きく変更された。gigabeat F/Xシリーズでは、「プラスタッチ」と呼ばれる十字キーのタッチセンサーインターフェイスを備えていたが、gigabeat Sでもデザイン面ではこの十字キーを踏襲。ただし、タッチセンサー式ではなく、押し込んで決定動作とする「プラスボタン」になっている。

 また、液晶に表示させるグラフィックインターフェイスは大幅に変更されている。PC用のWindows XP Media Center Edition(MCE)とほぼ共通のトップメニューと検索画面を用意しており、起動してWindowsロゴの[スタートボタン]を押すと、[テレビ]、[ミュージック]、[ピクチャ]、[ビデオ]、[セット]の選択画面が現れる。

 利用したいメディアタイプを選択すると、各メディアの選択画面が現れる。なお、[テレビ]はWindows Media Center Edition(MCE)で録画したテレビ番組の転送用のメニューとなっている。日本ではあまり普及していないMCE用の[テレビ]が一番トップにあるというのは、勿体ない気もする。



■ MCEライクな操作感。使い勝手はいい

 音楽ファイルはWMA/MP3/WAVと、WMA 9 Losslessに対応。MP3/WMAの対応ビットレートは4~320kbps。WMA Lossless対応というのもWindowsとの親和性を高めたgigabeat Sならではだ。

 さらに音質面の特徴としては、九州工業大学ヒューマンライフIT開発センターと共同開発した音質改善技術「H2Cテクノロジー」を搭載。約16kHz以上の高音域を独自のアルゴリズムにより補完し、中高音域の自然な再現が可能とするという。

 スタートメニューから[ミュージック]を選択し、十字キー中央のボタンで決定すると、楽曲検索モードとなる。検索メニューは、アーティスト/アルバム/ジャンル/曲/再生リストの各モードから選択できる。

アーティスト検索画面 アルバム検索画面 再生リスト検索画面

楽曲を選択し、決定すると[再生]、[クイックリストに追加]の選択画面が現れる

 プラスボタンの左右で、各検索メニューを選択し、上下でメニュー内の任意の楽曲/アルバム/プレイリストを選択する。上の階層に戻る時は、バックボタンを利用する。アルバムや楽曲を検索し、中央の決定ボタンを押すと[再生]、[クイックリストに追加]の選択画面が現れる。ここで、再生を押すと楽曲再生を開始、クイックリストに追加の場合は、再生リストに追加され、gigabeat S本体だけでプレイリストを作成できる。

 選択操作自体はシンプルでわかりやすいが、注意したいのは決定動作。gigabeat Sの検索メニューはアーティスト/アルバム/ジャンルなどの各モードが独立しており、検索メニュー中で右/左を押すと、検索モードが切り替わってしまう。例えばアルバム検索をしていて、決定ボタンと間違えて右を押すと、アーティスト検索に切り替わってしまう。

 すぐに慣れるのだが、他社製のプレーヤーでは[アーティスト]-[アルバム]など階層を降りていって、一番下の階層で楽曲を選択して、右を押すと[決定]動作となる製品も多い。他のプレーヤーからの乗り換えユーザーは少し戸惑うかもしれない。

 メニュー操作などのタスク管理は独立しており、例えば音楽を再生したまま、スタートメニューを立ち上げて、マイビデオの検索をしていても、検索している間は音楽が流れ続ける。ビデオの決定を押すと、ビデオ再生に切り替わるが、それまで音楽を聞き続けられる。

 再生画面では、右脇のスキップ/バックボタンで、早送り/戻しが可能。嬉しいのはWMP10で取り込んだジャケット写真をそのまま転送し、表示できること。アルバム再生画面ではジャケット写真と曲名、アーティスト名、アルバム名、再生時間などを一括表示。さらにジャケットのみの表示も可能で、gigabeat Sの大型カラー液晶を最大限に生かしている。

 アルバム検索画面でも小さなジャケットが表示されて検索でき、ジャケットイメージだけで記憶しているアルバムも発見できて、なかなか楽しい。WMP10ではジャケット取得も簡単なので、積極的に活用して、全ての楽曲にジャケットを登録したくなる。

再生画面 ジャケットの拡大表示画面



■ 音質は良好。補完技術「H2C」の効果は?

付属のヘッドフォン

 音質面でも、九州工業大学と共同開発したH2Cを搭載するなど、機能は充実している。まずは、ノーマルの状態で使用してみたが、ナチュラルでクセのない印象。従来のgigabeatシリーズの印象とあまり変わらないが、充分な再生レンジと音場感で、ソースを選ばずに活用できそうだ。

 付属のイヤフォンはプラスチックの質感がチープで、外観からは音が良さそうには見えない。gigabeat Xと比べても“コストを削った感”がありありと出ているが、音質自体は結構使えるレベル。

 高域はもう一歩足りず、低音も下まで出るがやや締まりの無さを感じさせる。しかし、見た目の割に良くできており、充分音楽を楽しめる。もっともフィット感が今一つなので、できれば気に入ったイヤフォンなどに変更したいところだ。


Harmonicsの設定画面

 音質面でのウリとも言える「H2C」は、[設定]メニューの[Harmonics]でON/OFF切り替えする。なお、H2Cを適用するとバッテリ駆動時間も大幅に短くなると言う。実際に適用して、何曲か聞いてみた。しかし、違いがよく分からない……。

 ケンウッド「KH-C701」や、Sennheiser「PX200」、ローランド「RH-300」などのイヤフォン/ヘッドフォンを使いながら、比較視聴してみた。しかし、試作機だからかもしれないが、ほとんど音質差を感じ取ることができなかった。ハイハットの荒れが滑らかになっているようにも思えるが、ON/OFF切り替えて、自分がどちらで聞いてるのか言い当てることはできない。正直、ノーマルでも音質には満足したが、今まで試してきた音質補正効果で、ここまで効果が体感できなかったのは始めてだ。ちなみに、イコライザはジャズ/ポップ/ロック/アコースティックなど8種類のモードが用意されているが、こちらの方は違いが明確に体感できた。




■ ビデオ画質は良好。DivXはそのまま転送できない

マイビデオ画面

 メインメニューで[マイビデオ]を選択すると、ビデオプレーヤーとして利用できる。マイビデオでは、収録したビデオファイルを名前/日付/ソース順でソートして、管理できる。

 対応するビデオ形式はWMVで、ビットレート800kbps、4GB以下の容量のファイル。しかし、gigabeat Sが初出展されたInternational CESの取材では、「DivX DRMには対応していないが、DivXファイルの再生は可能」と説明された。

 そのため、DivXや、PSP用のMPEG-4やH.264ファイルの転送もテストしてみたが、WMPから転送を試みると、全てWMVに変換しながら転送してしまう。PSP用のH.264(.m4vファイル)はWMPから認識されず、転送もできなかった。

 また、WMVでも変換されるファイルがあった。そのまま転送できるWMVファイルは、フォーマットがWMV(Ver.9/8/7)、オーディオデータがWMA、解像度が240×320ドット、フレームレート30fps、ビットレートの800kbps以下(オーディオ+ビデオ)のWMVファイルという。

 エクスプローラからgigabeat上のビデオ用フォルダ[マイ コンピュータ\TOSHIBA gigabeat S\メディア\Video]にドラッグアンドドロップを試みても、WMVへの変換を促されるだけで、転送できない。なお、PSP用のMPEG-4ファイルはそのまま転送できるが、gigabeat S上からは認識されない。実質的にWMV専用プレーヤーといっていいだろう。


直接ドラッグ&ドロップしてもWMV変換を促すダイアログが表示されてしまい、Divxの転送はできない

再生画面

 画面方向は縦/横を設定メニュー内で選択可能。通常は横にしておいて、再生時に回転させて見るというのがいいだろう。なお、横画面のスタートメニューが無いため、横方向で常用はできない。

 ビデオの再生品質は良好。より大型の液晶を搭載した製品と比較しても遜色がないだけでなく、画素密度が高いこともあり、精細な映像が楽しめる。応答速度も充分だ。視野角はさほど広くないが、2人で並んでみる程度であれば、輝度やコントラストの低下を感じさせない。なお、アスペクト比の設定モードなどは備えていない。

 早送り/戻しなどの操作は、本体右脇(横画面時の上部)で行なう。スキップなどのレスポンスはいいが、時折プラスボタンを間違って押してしまうこともあった。

 また、静止画再生機能も搭載。[マイピクチャ]を選択すると、任意のアルバムを選択可能となり、アルバム内のスライドショーも行なえる。4倍までのズーム機能も備えているほか、音楽付のスライドショー利用も可能。なお、マイピクチャの全ての機能を利用しながら音楽再生が可能だ。

マイピクチャ。スライドショーに対応する 音楽を再生しながら写真を見たり、スライドショーも行なえる

 バッテリは内蔵リチウムイオン充電池。バッテリ駆動時間は音楽再生時で約12時間、映像再生時で約2.5時間(500kbps/WMV再生時)。動画再生時の駆動時間はやや心許ないが、USB充電に対応しているので、パソコンを持ち歩いていればUSB経由での充電も可能だ。



■ 「gigabeat」は国産プレーヤーの代名詞になるか?

 ハードウェアの質感も高く、操作性もかなりわかりやすくなった。また、WMV動画に対応したことに加え、ジャケット表示にかかる手間も大幅に減らすなど、gigabeat F登場時以来の特徴である“大型カラー液晶”の性能をフルに発揮できるようになった。

 動画対応が目を引きがちだが、個人的には、オーディオプレーヤーとしての使い勝手が向上したことのほうが興味深い。Windows系OSの採用により、今後他社から同様の製品が出てきた場合の差別化は難しいかもしれないが、現時点でもかなり高い完成度の製品になった。

 直接の競合となるのはiPodだが、新gigabeatは、機能的にも仕様的にも“戦える”プレーヤーになったと感じる。価格面ではiPod 30GBが31,800円、gigabeat S 30GBは36,000円と若干高価ではあるものの、量販店のポイントサービス(アップル製品は還元率が低い)などを加味すると、その差はもう少し小さくなるだろう。

 また、iTunes Music Storeがリードしている配信サイトの分野でも、Windows Media DRMを使用し、月々の会費を払うことで好きなだけ楽曲がダウンロードできる「サブスクリプション型」のスタートも見込まれている。gigabeat Sではこれらの新サービスにも対応可能となっている。サービスが始まってみないとわからないこともあるが、サービス面でも強力なパートナーを得れば、iPod/iTMS中心のオーディオプレーヤー市場に一石を投じる製品となるだろう。

 ソニーを始め、さまざまな国内メーカーが参入している割に、大きな成果を残せていないデジタルオーディオプレーヤー。その中でいつのまにか老舗ブランドとなっている「gigabeat」が、本格的な飛躍を果たしそうな予感を秘めた製品になっている。

□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2006_04/pr_j1001.htm
□製品情報
http://www.gigabeat.net/mobileav/audio/lineup/s-series.htm
□関連記事
【4月10日】東芝、WMV再生対応のHDDプレーヤー「gigabeat S」
-WMA Lossless、高音質化技術「H2C」対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060410/toshiba1.htm
【1月9日】【CES】東芝、WMV/DivX再生対応の「gigabeat S」を発表
-30GBモデルが299ドル。Xbox 360と連携可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060106/ces11.htm
【1月8日】【CES】新PMC/携帯ビデオプレーヤー編】
-ゲーム機能や衛星放送受信など多機能化が進む
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060108/ces15.htm

(2006年4月21日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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AV Watch編集部

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