~ 低価格「生録」の本命。使い勝手/録音品質とも向上~ |
ローランド R-09 |
R-1の登場後、後を追うように、非圧縮のPCMで生録できる小型レコーダが各社から登場した。M-Audioからは「MicroTrack 24/96」(38,850円)、SONYからは「PCM-D1」(実売20万円前後)が発売される一方、Hi-MDもがんばってはいる。そんな中、R-1をベースに大きく改良したR-09が完成した。これまでも試作機を何度か触ってはいたが、製品版としてかなりしっかりしたものに仕上がった。さすが第2弾であり、他社製品もよくチェックしているだけに、細かな機能にまでよく気が配られており、完成度は高い。
まず、R-09の概要は、最高24bit/48kHzの非圧縮WAVファイルでの録音可能なデジタルレコーダ。ステレオのコンデンサマイクを内蔵し、単3電池2本で駆動。SDカードへと録音する。サイズは、62.6×102×29.1mm(幅×奥行き×高さ)で、重量145g(電池、SDカード込み)と手のひらに収まるコンパクトなボディ。オリンパスの「VOICETREK」などのボイスレコーダと比較すると一回り大きいが、目指している方向がまったく異なり、こちらは高音質に音楽を録音することを主眼としている。
使い方はいたって簡単。SDカードを入れて、録音ボタンを2回押すだけだ。1回押すと、録音スタンバイ状態になるので、ここで録音レベルを調整する。クッキリとした白い表示の有機ELディスプレイにdB表示付きのレベルメーターが表示されるので、このレベルメーターを見ながら録音レベルを調整するのだ。ヘッドフォンを接続しておけば、マイクからの音をそのままモニタすることもできるので便利だ。準備ができたら、再度録音ボタンを押すと、内蔵のコンデンサマイクを通じて音が録音される。
前作のR-1と比較すると、圧倒的に小さくなっているとともに、録音操作がしやすくなっている。特にレベルメーターの意義は大きい。このレベルメーターだけでも十分だが、赤く点灯するPeakインジケーターもあるので、非常に安心だ。やはりいい音で録音するには、レベルオーバーしない範囲でどこまで大きいレベルまで追い込むかが勝負。その意味でも使いやすい。
またR-1を使っていて気になっていたことも、みんな解決している。まずは持ったとき、触ったときに入るグリップノイズ対策。R-1ではこれが大きく響いたが、ラバーのような感触の樹脂で覆われている一方、グリップノイズ対策のためにマイクのハウジングを大きく変更しているという。
R-09の開発担当であるローランド株式会社DTMP開発部プロデューサー 水本浩一氏によると、「R-1では基板にバックエレクトレット・コンデンサー・マイクが直接半田付けされていたのに対し、R-09ではここから離し、ゴムのような素材で囲うようにハウジングしている。そのため、本体を触ったり、叩いたりしたときのノイズ混入を最小限に留めている」という。触れば当然ノイズは入るが、R-1のときのように大きく響くことはなくなった。
有機ELディスプレイ上にレベルメーターを表示 | DTMP開発部プロデューサー 水本浩一氏 |
また手で持たなくてもいいような工夫もされている。まず、オプションのカバー・スタンド・セット「OP-R09C」を使うことで、カメラの三脚に取り付けられる。また、このカバー・スタンド・セットには小さい三脚も付いているからそれで設置してもいいし、写真の水本氏のように、小さい三脚を持つことでも、ノイズを大きく低減できる。録音する際には、この写真のように録音するターゲットに向けて行なう。
さらにもうひとつのオプションであるマイクスタンド・アダプター「OP-R09M」を利用すると、R-09をマイクスタンドに取り付けることが可能になる。ピアノを録音する、アコースティックギターを録音するといった場合、普通のマイクをセッティングするのと同じようにR-09を扱うことができるのだ。さらに、アナログ回路IARC(Isolated Adaptive Recording Circuit)を搭載し、内蔵A/Dコンバーターに最適化して高音質を追求しているそうだ。
ちなみに、このコンデンサマイクの素子そのものはR-1と同じものが使われているが、より自然なステレオ感が得られるようにX-Y型のマイク配置になっている。R-1ではせっかくマイクが2つあったのに、モノラルっぽい感じになったが、R-09を実際に使って、録音してみると確かにしっかりしたステレオ感が得られる。
本体カバーと三脚のセットオプション「OP-09C」 | マイクスタンド・アダプター「OP-R09M」を使うことで、普通のマイクと同様に扱えるようになる |
このように見ていくと、R-09がR-1の後継ですべての機能が上回っているような気もするが、よく見てみるとR-1にしかない機能というのも多い。両者の違いを表す表を見てみると分かるとおり、最大の違いがエフェクト。R-1では11種類のエフェクトがあり、それを録音時、再生時のいずれでも利用できたが、R-09ではリバーブのみが搭載されていて、しかも再生時にしか使うことができない。
R-1のエフェクトでは特にCOSMテクノロジー譲りのマイクモデリング機能がユニークで、「SHURE SM57」や「AKG C451」、「Neumann U-87/48」で録ったような音にすることができた。しかし、R-09ではそうした機能は削除されている。また1/2 SPEED再生機能、メトロノーム機能、チューナー機能なども削除されている。これらの機能もなかなか便利ではあったが、用途によってどちらを選ぶか決めればいいだろう。
有機ELディスプレイとボタンを使っての各種設定に関しては、R-1と同様に非常に分かりやすい。基本的にはファイル形式や入力関連の設定、またディスプレイ関連の設定が用意されているが、マニュアルなどなくても戸惑うことなく操作できる。
こうしたメニュー操作とは別に、背面には4つのスイッチが用意されている。まずはAuto Gain Controlスイッチ。音量が激しく変化する場合や音量設定が困難な場合はAGCをオンにすることで安心して録音できる。またライブ会場など低音の響きが気になる場合は、LOW CUTも可能。外部マイクを使うときのための、ステレオ/モノラルの切り替えスイッチ、そしてマイクゲインレベルのハイとローという設定もできる。
実際にどんな音で録れたかは、19日にRolandが開催したR-09の発表会で設けた、録音実験の場で録音したファイルを掲載する。弦楽四重奏とジャズオーケストラによる演奏会が行なわれ、それを録音した。なるべくしっかり録音しようと、発表会の会場のど真ん中、前から2列目を陣取り、そこの机の上にR-09を設置して録音を試みた。演奏者との距離は約5mといったところだ。
発表会場では、弦楽四重奏とジャズオーケストラを演奏。実際にR-09での録音を試みることができた |
弦楽四重奏、ジャズオーケストラの順に演奏されたが、それぞれの本番前に、録音レベル調整のために、試し演奏をしてくれたので、そこでレベルメーターを見ながら調整。マイクゲインレベルのスイッチをハイに設定した上で、PEAKインジケータが点灯しないギリギリまで入力音量を上げていく。0~30の値でレベル調整ができるが、弦楽四重奏は音量が小さいので22に、ジャズオーケストラでは4に設定して録音した。もちろん、録音フォーマットは24bit/48kHzの非圧縮PCMに設定している。
ぜひ、この音を聴いていただきたいのだが、ファイルサイズが大きかったり再生環境の問題でうまく聴けない人のために、MP3化したものも同時に掲載しておこう。
サンプル 1 (弦楽四重奏、WAVE(PCM、24bit/48kHz) |
sample1.wav (2.1MB) |
サンプル 2 (弦楽四重奏、MP3) |
sample2.mp3 (397KB) |
サンプル 1 (ジャズオーケストラ、WAVE(PCM、24bit/48kHz) |
sample3.wav (2.1MB) |
サンプル 2 (ジャズオーケストラ、MP3) |
sample4.mp3 (397KB) |
編集部注:24bit/48kHzのWAVEファイルを試聴するためには、Intel HD Audio対応PCまたは、別途ハイビット/ハイサンプリング周波数に対応したサウンドカードやUSBオーディオデバイス、再生ソフトウェアが必要になります。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
聴いてみると分かるとおり、非常に精細な音でとらえており、ステレオ感もしっかりしている。ただ弦楽四重奏は小さい音のときはノイズが目立つ。これは入力感度を上げているために、会場の雑音を拾っているからだ。また、記者発表会であっただけに、会場にはカメラマンも多く、一眼レフカメラのシャッター音をハッキリととらえているのも聴こえるはずだ。この弦楽四重奏においては、もっと演奏者に近づいて録ることができれば、入力音量が大きくなり、こうしたノイズがなくなるはずだ。
一方、ジャズオーケストラのほうはどうだろう? これ、ホントにこのコンパクトなレコーダーで録音したの? と思えるほどの音質だ。この素材を元にマスタリングすれば、そのままCDにして出しても十分通じるクォリティーである。もちろん、前述のカバー・スタンド・セットとマイクスタンド・アダプターを使って、もっといい位置で録音すれば、さらに定位感も向上すると思うが、これがR-09の実力といったところだろう。
R-09は生録機材として、非常に強力な製品といえる。このような製品が登場したことは、音楽系のユーザーとしてはとてもうれしい。SONYのPCM-D1の音質と厳密な比較はしていないが、24bit/48kHzにおいては勝るとも劣らない性能を持っているように感じた。しかも価格が1/5程度と圧倒的に安いことを考えると、そのコストパフォーマンスはすごいの一言だ。
□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□EDIROLのホームページ
http://www.roland.co.jp/DTMP/index.html
□製品情報
http://www.roland.co.jp/products/dtm/R-09.html
□関連記事
【4月19日】ローランド、24/48 PCM録音対応SDレコーダ
-EDIROL「R-09」、重さ145g。実売38,000円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060419/roland.htm
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060213/dal223.htm
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【2004年10月18日】RolandのWAVE/MP3レコーダ「R-1」を試す
~ 24bit/44.1kHzのPCM録音が可能 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041018/dal164.htm
(2006年4月24日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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