E3特別編第2回は、いまやHD DVD陣営の大黒柱となった米Microsoft。次世代ゲーム機として、市場で先行するXbox 360と、パソコン・携帯電話の「エンターテインメント市場」について、Microsoftでエンターテインメント部門のマーケティングを統括するピーター・ムーア氏に聞いた。 ■ HD DVDの映像は本体でデコード。出力はアナログのみに
「確かに、日本では苦しい。だが、今年のクリスマスシーズンに向け、日本向けのRPGなどのタイトルも出そろう。我々は絶対にあきらめない」 Xbox 360は、昨年末の発売以来、日本では苦境が続いている。欧米では、5月末までに500万台以上を販売、なかなか好調なのだが、日本での販売台数はいまだ20万台を切ると見られており、先行きはまだ不透明だ。 そんな状況を打破するために、同社は様々な施策を準備中。最大の施策は、もちろん「日本向けタイトルの充実」だが、外堀を埋めるような策も用意されている。そして、その多くが「AV」に関するものだ。 元々Xbox 360は、ゲーム以外の機能をいくつも盛り込んでいる。Windows XP Media Center Editionや、外部のデジカメ/ポータブル音楽プレイヤーと連動、ハイビジョンテレビで音楽や映像を再生する機能が豊富なのだ(詳しくは笠原一輝氏の記事や過去記事で紹介している)。 ムーア氏は以前、私の質問に答え、360のAV機能をこのように語った。 「ゲームがメインではあるが、これらの機能は360にプレミア感を持たせるために重要。アンプが音をリッチにするように、360はハイビジョンテレビにとって、様々なコンテンツをリッチに楽しむための“ハイデフ・アンプリファイアー”のような存在だ」
そんな「ハイデフ・アンプ」施策の最新作が、「Xbox 360 HD DVDプレーヤー」だ。1月の2006 International CESで突如発表され、多くの人が度肝を抜かれた。今回E3前のプレス・カンファレンスで、デザインモックアップと「ホリデーシーズン(11月後半~12月)に発売」という情報が公開されたものの、発表に割かれた時間は意外なほど短いものだった。 ムーア氏に、あらためてHD DVDプレーヤーの詳細を聞くと、以下のような答えが返ってきた。 「あくまで“ドライブ”だ。Xbox 360とはUSBで接続し、映像はXbox側でデコードされ、テレビに出力される。現在のところ、ムービー専用であり、ゲームに利用する予定はない。ゲームメーカーからも、現行のDVDで問題がある、とのコメントはもらっておらず、十分と考えている」 Xbox 360のHD DVDプレーヤーについては、様々な憶測があった。360ではHDMIでのデジタル出力がサポートされていない。また、デコードからアドバンストコンテンツの再生まで、すべての処理を360で行なうには負荷が高い。そのため、デコードチップとHDMI出力をドライブ側につけ、360はUIとコントローラーに特化するのでは……との予想もあった。 だがフタをあけてみれば、処理方法はかなりベーシックなものだった。PC同様、USBで「データドライブ」として接続し、360のOS上にプレーヤーソフトを組み込んでやる、という形だ。映像再生はともかく、映像をソフトウエアデコードしながらアドバンストコンテンツを処理するには能力的にギリギリなのでは、という気もするが、大丈夫、という判断なのだろう。 出力はアナログとなるが、前日の記事で触れたとおり、当面はアナログ出力でも大きな問題は発生しない。日本と違い、アメリカ市場ではかなり安価なテレビにもHDMIを搭載する動きが広がっており、HDMIの搭載が望ましいのは事実だが、「ハイデフゲーム機」としてのXbox 360が、アナログ出力のみでも十分受け入れられていることを考えると、やはり「特に問題なし」だ。
価格については「まだ明かせない」(ムーア氏)ということだが、ライバル・PS3との比較の中で、このような言い方もした。 「Xbox 360(299ドル)にHD DVDをつければ、PS3(20GBモデルが499ドル)を超える価格になる、と言う人もいる。そうかも知れない。しかし、全員に強制的にプレーヤー機能を与える必要があるだろうか? PS3はあまりに高すぎる。家の中に360を何台も購入した時に、全部にHD DVDが必要というわけではないだろう。“必要な人に必要なバリューを”、これが我々の選択だ」 ということは、Xbox 360ドライブで500ドルを超える、ということだろうか? すなわち、ドライブ単体では200ドルから250ドル程度、という予想が成り立つ。とはいえ、「東芝の499ドルのプレーヤーは、とてもいい価格帯だ」(ムーア氏)とのコメントもあり、幅があって恐縮だが、セットで500ドルから550ドル程度に収めるのでは、と予想しておくにとどめたい。 ■ 「Xbox Live」をゲーム用から「MSの娯楽プラットフォーム」へ拡大 今回のE3での発表の中心は、同社のXbox向けオンラインサービス「Xbox Live」の強化だ。 強化といっても、ゲームのラインナップ拡充ではない。むしろ「プラットフォーム」の拡充だ。
Xbox Liveはその名の通り、Xbox向けのオンラインサービスだ。ゲームの対戦はもちろん、登録者同士をインスタントメッセンジャー(IM)で結ぶことや、ゲーム向けのオンラインコンテンツのダウンロード販売まで、その適用範囲は広い。 だが今回同社は、Xbox Liveをパソコン及び携帯電話にまで拡充する「Live Anyware」というコンセプトを打ち出した。考え方は単純だ。Xbox LiveのコミュニケーションサービスをXbox以外にも公開し、パソコンや携帯電話からも利用可能にした。Xboxとパソコンの利用者が、同じゲームで対戦できるのはもちろん、IMの機能を使い、「相手がいまなにをやってるか」を、パソコンや携帯電話から確認し、ゲームに誘うことができる。次期Windowsである「Vista」には、最初からXbox Liveを利用するための機能が盛り込まれることが決定しており、デモンストレーションも行なわれている。 「でも、それってゲームの話でしょ? AVになんの関係があるの?」と思われたかも知れない。 実は、おおありなのだ。 Xbox Liveには「Xbox Live Marketplace」という機能がある。これは、ゲーム内のコンテンツやグッズをダウンロード販売する、少額決済のためのプラットフォーム。ここで、映像や音楽の配信が行なわれているのだ。2カ月前から、Epic Recordsと提携し、ハイビジョンによるミュージッククリップの提供が開始されており、日本でも、アニメ作品の予告編が提供されている。 今後、Marketplaceによる配信はさらに強化される、とムーア氏は言う。 「Xbox Liveにプレミア感を与えるために利用する。だが、今後は映像の中にCMを入れたり、ダウンロード時に課金したりすることで、収益源として大きなものにする可能性もある」(ムーア氏)
会見では、Marketplaceでの映像配信に関し、Epicの他、ワーナー、20世紀フォックス、パラマウント、ディズニー、ライオンズゲート、タッチストーンピクチャーズといった、大手との提携も発表されている。 また、ワーナーとは、Xbox 360用として今後提供が予定されている、オンライン・パズルゲーム「Lumines Live」に、マドンナの「Sorry」の楽曲とビデオクリップを提供する、という契約も交わした。Luminesは、元々PSP向けのパズルゲームで、ミュージッククリップとの一体感を重視した作品として人気が高い。Xbox 360版は、ゲームそのものとミュージッククリップをすべてダウンロードで提供、新曲をどんどん追加していける、とことが大きな特徴となっている。 PS3でも、「映像や音楽の配信、それらのダウンロードを使ったゲームとのコラボレーションがキーになる」と書いた。実はこれらの要素はPS3独自のものではなく、ライバルであるXbox 360でも実現されていることである。Microsoftがこのジャンルを強化する裏には、PS3の持つ強みを取り込み、むしろ「自分たちが先に確立したビジネスである」ことをアピールする狙いがあるのだ。 ことはゲーム機だけにとどまらない。Live Anywareではパソコンや携帯電話もサービスに組み込まれる、というのは、なにも「ゲーム」だけの話ではない。映像の視聴権を、Marketplaceを通じて取得すれば、同一のアカウントでパソコンや携帯電話からも、それらの映像を観ることが可能になる。機器毎に別々にコンテンツを買うのではなく、まとめて扱えるなら、利用者側にも大きなメリットとなる。 Microsoftは、現在、オンラインによる「Live」サービスに注力している。Windows向けのには「Windows Live」、Xbox向けには「Xbox Live」がある。これらの関係を、ムーア氏は以下のように語る。 「今後、両者が統合されることはないだろう。Windows Liveは生産性向上のためのサービス、Xbox Liveはエンターテインメントのためのサービス。一緒にするのがいいこととは思えない。もっとも、IMについては個人的なコミュニケーションサービスなので、将来的に両者を統合する可能性もあるが……」 Live Anywareにより、Xbox Liveは「Microsoft全体での、エンターテインメントサービス」へと進化した。実際に携帯電話やパソコンで利用可能になるのは、2007年以降となるが、Microsoftにとっては、非常に大切な計画であるのは間違いない。
9日に開かれたプレス・カンファレンスには、ビル・ゲイツ氏も登場、Live Anywareの解説を行なった。ゲーム系のニュースなどでは、「Xboxのアピールのために来場」とされていることが多いが、実際には「Live Anywareが我々にとって、どれだけ大切かをアピールするために来た」(ムーア氏)というのが実情のようだ。 ただし、Microsoftの意気込みがきちんと伝わったかどうかは、かなり疑わしい。やはりE3はあくまで、「ゲームのためのイベント」であるからだ。また、Windows Media PlayerやWindows Media Center内にあるオンラインコンテンツ販売との連携やバッティングの解消については、一切コメントされていない。現時点では、「そこまで手が回らないから、とりあえず複数箇所にベット(賭けて)しておこう」というのが本音ではないだろうか。 □Microsoftのホームページ(英文) (2006年5月12日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
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