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第235回:画期的な連携機能 Native Instruments「KORE」
~ 各種ソフトシンセをUSBコントーラで制御 ~



Native Instruments「KORE」パッケージ

 ソフトシンセメーカーとして著名なNative Instrumentsから「KORE」という製品がリリースされた。ソフトシンセ、エフェクトのホストアプリケーションとUSB接続のフィジカルコントローラを組み合わせたもので、Native Instrumentsは「スタジオとステージの両方に対する画期的な新システム」、「ユニバーサル・サウンド・プラットフォーム」などと位置づけている。

 同社のソフトシンセの一連のシリーズを1つのパッケージにした「KOMPLETE3」と組み合わせて使ってみた。



■ 「画期的」で「革新的」な製品?

 ソフトシンセを使っている方には、いまさら説明するまでもないがNative Instrumentsはドイツ・ベルリンにあるソフトハウス。Reaktor、Pro-53、FM-7、B4、KONTAKT……といった大人気ソフトシンセを生み出すとともに、Traktorという非常にユニークなDJソフトを開発したメーカーだ。

 Pro-53は、アナログシンセの往年の名機Sequential Circuitsの「Prophet-5」をソックリそのままにソフトシンセとしてエミュレーションしたもので、同様にFM-7はYAMAHAのFM音源シンセ「DX7」をエミュレーション。プロからアマチュアにいたるまで幅広く使われている。

Native Instrumentsのソフトシンセ、「Pro-53」はSequential Circuitsのシンセ「Prophet-5」のエミュレーションソフト 同じくソフトシンセの「FM7」も、ヤマハのFM音源シンセ「DX7」をエミュレーションしたもの

 日本国内では、株式会社ミディアが代理店として展開しており、5月8日にKOREという製品が新たにリリースされた。実売価格74,000円弱というこの製品は、ハードとソフトから構成される製品で、「画期的」、「革命的」などと説明されているが、ちょっと見ただけでは、何をするためのものなのかよくわからない。



■ USB2.0接続のフィジカルコントローラ

 まずは分かりやすいハードウェアのほうから見てみよう。頑丈なアルミシャーシのハードウェアは、USB 2.0接続のフィジカルコントローラ兼オーディオインターフェイス兼MIDIインターフェイス。オーディオインターフェイスとしては24bit/96kHzにまで対応し、アナログの入出力をそれぞれ2chと、アナログ出力と同じ信号を出すS/PDIF同軸出力、そしてそれらとは独立したヘッドフォン出力を装備する2IN/4OUTという構成。

フィジカルコントローラ 背面端子類

 ドライバは、ASIOのほかにWDM、MME、DirectXに対応している。また、MIDI IN/OUTはそれぞれ1系統、そのほかにフットスイッチ用のコネクタを2つ、ペダル用コネクタを1つ装備している。一方、フロントパネルにはソフトシンセなどをコントロールするために8つのスイッチと8つのノブを装備するとともに、さまざまな操作を行なうためのボタンやコントロールホイール、LCDディスプレイなどから構成されている。

他社製ハードウェアの指定も可能

 このことからも想像できるように、このハードウェアはソフトウェアなしでも独立したオーディオインターフェイス、MIDIインターフェイスとしても利用できる。また反対にKOREのソフトウェア側もこのハードウェアを指定せずに、ほかのオーディオインターフェイス、MIDIインターフェイスを利用できるというのもうれしいところだ。ただし、フィジカルコントローラは専用のものなので、このハードウェアを接続していないとKOREのソフトウェアは起動できないようになっている。



■ KOREのインターフェイスで各種ソフトシンセが利用可能

 では肝心のソフトウェアの方は、いくつかの顔を持っているので一言では説明しにくいが、VST(Windowsの場合)または、AudioUnits(Macの場合)用のホストアプリケーションとなっている。とはいっても、DAW(Digital Audio Workstation)とはまったく違う。基本的にはリアルタイムで利用することを前提としたアプリケーションなのだ。つまり、KOREソフトウェアにプラグインの「インストゥルメント=ソフトシンセ」、「エフェクト」を読み込み、MIDIキーボードを使ってそのソフトシンセを演奏したり、エフェクトを利用したりするというものだ。

 それだけであれば、従来のDAWを使ってもいいのだが、DAWのような複雑な機能があるわけではなく、単に読み込んで使うだけなので、軽いというのがまず一つ目の特徴。さらに、どのソフトシンセも同じユーザーインターフェイスで利用でき、各パラメータのコントロールをKOREのフィジカルコントローラで動かせるというのが二つ目の特徴であり、KORE最大のポイントともいえる。

 各種ソフトシンセも、機能が強力になってきているが、当然各ソフトごとにユーザーインターフェイス、デザインが異なる。そのため、どのパラメータがどこにあるか分かりにくく、同時に複数を使うと混乱もしやすい。また、それぞれのパラメータを動かすのにマウス操作では面倒。ライブでの使用は非現実的となる。一方、最近はフィジカルコントローラがいろいろあるので、これを利用するという手もあるが、DAW経由でソフトシンセの各パラメータをフィジカルコントローラに割り当てることはできなかったり、できても非常に大変で、扱いづらい。そうした問題を一気に解決してしまうのが、このKOREなのだ。

 KOREに読み込んだVSTのエフェクトはすべて同じユーザーインターフェイスのラックに収まる。また画面の表示方法を変えると、ミキサー的にも扱うことができる。そして、このラックには8つのボタン、8つのノブが用意されており、各ソフトシンセ、エフェクトのパラメータを割り当てることができるのだ。8つで足りなければ、ページを切り替えて別の8つずつを割り当てることも可能。

VSTのエフェクトが同じインターフェイスのラックに収納される 表示方法を変えてミキサー的に扱うことも可能

 もちろん必要であれば、本来のソフトシンセの画面を開くことも可能。そして、KOREはNative Instrumentsのすべてのソフトシンセとエフェクトにある11,000以上のプリセットサウンドがあらかじめ登録されており、それぞれのパラメータが使いやすくフィジカルコントローラに割り当てられているので、すぐに使うことができる。

音源を意識せずに音色やエフェクトが選択できる

 また、これらプリセットにはメタデータが埋め込まれているため、「ベースサウンドで、アナログ風で、明るい感じで、ジャンルはハウス……」といったように、絞り込んでいくことができる。ちょうど、MacのGarageBandのような感覚で音色やエフェクトを選ぶことができるのだ。この際、ユーザーはAbsynthなのか、Pro-53なのか、KONTAKTなのかなど、音源が何であるか意識する必要はない。ただ、音の雰囲気から音色を選び、それをKOREのラックに収めればVSTのプラグインが読み込まれる。そして、フィジカルコントローラですぐにパラメータをいじることができるようになっている。


パラメータの情報はLCD上でも確認可能

 もっとも、それだけでは、どのパラメータがどのボタン、ノブに割り当てられているのか分からなくなりそうだが、KOREのハードウェア上のLCDには各パラメータが何であるか表示されるので、戸惑わずに使えそうだ。

 ここで気になるのは、Native Insturments以外のソフトシンセ、エフェクトについては扱えるのかということだが、これも大丈夫。確かに各音色プリセットやパラメータの割り当てがあらかじめされているわけではないが、これも簡単に割り当てることが可能だ。一度割り当てて登録してしまえば、あとはNative Instrumentsのソフトシンセなどと同様に、ラックに収まり、同じユーザーインターフェイスで扱えるからとても便利だ。また、その音色についてのメタデータも設定もできるから、やはりNative Instrumentsのソフトシンセの音色と同じように探しだすことが可能になる。

 またKOREはスタンドアロンで使う場合はPeformanceモードというものがあり、複数のソフトシンセを同時に読み込んで使うことができる。もちろんユニゾンで鳴らすことができるほか、キーによって使う音源を切り替えるマッピングも可能となっている。

各音色プリセットやパラメータ割り当ても簡単 メタデータの設定も行なえる キーマッピングの設定も可能


■ KORE自体をプラグイン利用可能

 ここまでが、スタンドアロンで使った場合の操作だが、KOREの3つ目の大きな特徴は、KORE自体をプラグインとして使うことができるということだ。たとえば、SONAR、CubaseSX、Logic、ProToolsといったソフトのプラグインとしてKOREを呼び出すことができる。

Pro-53上でプラグインとしてKOREを呼び出して使用できる

 Pro-53を直接SONARから呼び出して使うのに対して、KOREを経由してPro-53を呼び出すことの何がすごいのかというと、Pro-53のパラメータをフィジカルコントローラで操作できるのだ。これまで困難かつ面倒だったフィジカルコントローラへのパラメータの割り当てが、簡単にできてしまう。もちろん、これはスタンドアロンで動作させたときとまったく同じ。Native Instruments以外のソフトシンセなどの設定を保存した場合も、同じように扱うことが可能。

 さらに、4つ目の特徴としてあげられるのは、KOREがVST、AudioUnits以外にもRTAS、DXiのプラグインとして使えるこということ。つまり、VST、AudioUnitsをサポートしていないProToolsなどのDAWにおいて、KOREを経由させることでVSTやAudioUnitsのプラグインを利用することが可能になるのだ。

 DAW上などでソフトシンセを多用している人、またソフトシンセやエフェクトをフィジカルコントローラでコントロールしたいと思っている人にとっては、なかなか使えるツールだと思う。とくにNative Instrumentsのソフトシンセのユーザーであれば、とにかく便利に利用できるので、お勧めしたい。

□メディアのホームページ
http://www.midia.co.jp/
□製品情報
http://www.midia.co.jp/products/ni/kore/index.html

(2006年5月15日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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