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第223回:豪華メンバーが“罪の街”で暗闘
モノクロ基調の一風変わった映像美「シン・シティ」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ アメコミ原作の話題作

シン・シティ
プレミアム・エディション

価格:3,980円
発売日:2006年6月23日
品番:GNBF-1120
収録時間:約124分(本編)
      約134分(特典)
画面サイズ:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:英語(ドルビーデジタル 5.1ch)
   英語(DTS)
   日本語(ドルビーデジタル 5.1ch)
発売元:ジェネオンエンタテインメント

 「スパイダー・マン」や、「バットマン」など、アメコミを原作にした映画は多い。今回取り上げる「シン・シティ」もそうしたアメコミを原作にした作品だ。といっても、この「シン・シティ」、日本ではあまり有名な作品ではなく、個人的にも原作の存在を知らなかった。

 しかし、米国ではカルトな人気を誇るシリーズのようで、出演者も豪華。ブルース・ウィリス、ミッキー・ローク、クライヴ・オーウェン、ジェシカ・アルバ、イライジャ・ウッドなどが参加しているほか、クエンティン・タランティーノ監督もゲスト参加している。

 CMなどを見る限りは、バットマンなどに共通するかなりダークなアクション作のように思えたが、DVDの発売にあわせたプロモーションなど、なにやら話題になっている模様。実際に見た人もなかなか面白かったとのことなので、遅ればせながら見てみることに。

 監督は原作者であるフランク・ミラーと、ロバート・ロドリゲス。スペシャル・ゲスト監督としてクエンティン・タランティーノが参加している。

 DVDは本編ディスクのみの「スタンダード・エディション(GNBF-1119/2,980円)」と、特典ディスクを加えた「プレミアム・エディション(GNBF-1120/3,980円)」の2タイプを用意。本編の収録時間は124分。本編の基本仕様は共通だが、プレミアムエディションのみ、監督やキャストによるオーディオコメンタリを収録している。特典ディスクにはメイキングや料理教室、コンサートの模様なども収録する。また、プレミアムエディションは初回限定でアウターケースや8ページのブックレットが付属する。



■ 原作のテイストを生かしたハードボイルド描写

 「シン・シティ」は、その名の通り「罪の街」で繰り広げられる、男達の復讐劇や、女性や自分自身を守る戦いを描いたクライム・アクション。物語はシン・シティで生き抜く3人の男を中心とした3部作だが、それぞれのストーリーが微妙に交差しながら、シン・シティの過酷な現実と、生存のために定められた独自のルールが明らかにされていく。

 狭心症を患いながらも、妻を気遣い自らの信じる正義を貫くハーティガン刑事(ブルース・ウィリス)。相棒や同僚の目を盗み、親の威光を傘にシン・シティで少女への暴行事件を重ねる凶悪犯に迫るハーティガン。しかし、相棒の裏切りや、政治の力により、無実の罪で投獄されてしまう。

 殺し屋として絶大なキャリアを重ね、シン・シティの中でも恐れられるマーヴ(ミッキー・ローク)。仮出所中に、美しいコール・ガールのゴールディと夢のような一夜を共にするが、彼女は何者かに殺されてしまう。一時の愛と安息をくれたゴールディのため、マーヴは復讐に立ち上がる。街のあらゆるごろつきをなぎ倒して、復讐に燃えるマーヴ。しかし、その敵は彼の想像を遙かに超える力を持っていた。

 過去から逃れ、シン・シティに流れ着いたドワイト(クライブ・オーウェン)。世間や諍いから距離を置き、身を潜めて暮らしていた。しかし、ふとした契機に娼婦街で警官が殺される事件に巻き込まれる。娼婦が仕切る「オールド・タウン」は、警察との協定により、独自の自治が保たれている。しかし、警官殺しにより、協定が揺らげば、かつての恋人や娼婦達に危険が迫る。ドワイトは彼女達を救うため、警官の死をもみ消しにすべく偽装工作に奔走する。

 これら3人のエピソードを中心としながら、シン・シティの暗く、残酷な日々が描かれる。その映像もコントラストの強いモノクロ映像を基調としながら、時折一部分のみ鮮烈な赤や黄色など原色系の色を交えて強調される、独自の映像美が通底されている。詳しくは特典ディスクで解説されるが、これらシン・シティの背景は基本的にCGで描かれている。コミックの原作を忠実に再現しようという意図によるものだが、実際のシン・シティ風景は実写と見まごうほどのクオリティ。俳優の動きの時折、アニメーション的になるなど、実写とアニメーションの中間といえそうな微妙なテイストが、シン・シティ独特のリアリティを生み出している。

 このモノクロ基調の映像とともに、本作のハード・ボイルドテイストを強調するのが、主人公のモノローグを中心としたストーリー展開。コミックを原作とした作品ならではで、自然に主人公視点でのストーリーに引き込まれていく。映像だけでなく、ストーリーテリングにも原作の忠実な再現という意志が感じ取れる。

 脇役や敵の演技も見事で、ジャッキー・ボーイ役のベニチオ・デル・トロのチンピラ風情や、娼婦街の門番ミホ役のデヴォン青木など、印象的な役柄が多い。マーヴに襲いかかる最強の敵ケヴィンにも驚く。ケヴィンを演じるのはイライジャ・ウッドだが、ロード・オブ・ザ・リングのフロド様的な格好良さは微塵もなく、狡猾かつ残忍でオタク風味の学級委員のようなルックス。注意してみないと、イライジャ・ウッドが出てきたことにも気づかないだろう。

 ストーリーは、犯罪者とその周囲で展開するため、自ずと暗く、そして残酷なシーンが多い。日本でもR-15指定となっているため、家族皆で楽しめるような作品ではない。また、やや劇画調とはいえ、吹き飛ぶ耳や、手首などお世辞にも穏当とは言い難い残酷描写も多いので、その手の映像が苦手な人は避けておいた方が無難だ。


■ コントラストを生かしたモノクロ映像表現がユニーク

 DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレートは5.96Mbps。124分という収録時間を考えると若干ビットレートが低いようにも感じる。モノクロを基調としていることもあり、とにかくコントラストや暗部階調表現に注意してディスプレイを調整したい。暗部ノイズはさほど無いが、解像感もそれほどではない。

 背景はCGベースだが、あえて解像感を落としているような印象。ただし、画質的に大きな不満を感じさせることはなく、白黒のコントラストが強烈な映画なので、ディスプレイによって見え方はかなり違ってきそうだ。ディスプレイの映像モードもコントラスト重視のモードを選択したい。

 音声は、英語がドルビーデジタル 5.1ch(448kbps)とDTS(1,536kbps)、日本語がドルビーデジタル5.1ch(384kbps)。最近では珍しくフルレート収録ということもあり、DTSを中心に視聴した。目立った聞かせどころは無いのだが、常に周囲のマルチチャンネルが活用されており、LFEもかなり使われる。

 派手さはないが、何も鳴っていないようでいて、微妙に部屋の空気がいつもと違うと感じるぐらいの周辺音が含まれており、なんとも不気味な音場。アクションシーンではかなり派手に破裂音などが入っており、不穏なシン・シティの雰囲気が楽しめる。

DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート

 特典ディスクは、メイキングのほか、「監督フランク・ミラー」、「スペシャル・ゲスト監督タランティーノ」、「車について」、「小道具について」、「特殊メイク解説」、「衣装について」、「オリジナル&日本版予告篇」、「ロバート・ロドリゲスの映画教室」、「オール・グリーン・バージョン」、「タランティーノの演出」、「シン・シティ ライブ・コンサート」、「ロバート・ロドリゲスの料理教室」と全部で13の項目を合計2時間以上にわたって収録している。

 内容的には重複もあるが、メイキングは短く、主要キャストや監督の作品への取り組みが確認できる。監督/原作のフランク・ミラーは、'90年代にも映画化の案があったが、「その際には原作のイメージを伝えるのにテクノロジーが追いつかなかった」と語る。

 監督の声による「ロバート・ロドリゲスの映画教室」が、制作の手間を知るにはもっとも手っ取り早いコンテンツ。2003年ごろVFX技術に自信をつけて、企画化をスタート。ジョシュ・ハートネットとマーリー・シェルトンをテスト撮影に雇い、コミックの世界とグリーンスクリーン上の俳優の演技を融合する実験を行なった。その結果が非常に良く、完成度も高かったため、実際の冒頭のシーンに使われている。モノクロ映像の「白」を目立たせるための色遣いのノウハウや、特徴的な色を加える際の判断など、具体的な手法についても説明されており、なかなか興味深い。

 また、「タランティーノの演出」では、基本的な姿勢を同じくしながらも、微妙に異なる両者の演出についてそれぞれの違いを語る。「観客も出てきた瞬間に違いがわかる」、と演出手法の違いを語る両者だが、視聴者としては説明されるまで、その演出の差を意識することはなかった。

 なお、本編ディスクもスタンダード・エディションとは異なっており、2種類のオーディオコメンタリを収録。1つは、ロバート・ロドリゲスと、タランティーノ、ブルース・ウィリスによるもの、もう一つはロバート・ロドリゲスとフランク・ミラーによるもの。いずれもロバートを中心に制作時の苦労や思い出が語られる。「まず映画化権を買って、そこで映画会社に脚本を見せる。暴力的だとそこで却下される。そうしたハリウッドの一般的なプロセスを踏みたくなかった。特にフランクにはそうしたことはさせたくなかった」とのことで、そのために「テキサス州のオースチンで制作した。ボブ・ワインスタインに連絡し、とにかくクレージーな映画を作れということになった」という。


■ プレミアム版にお得感あり

 R15指定ということもあり万人向け、という訳にはいかないが、一風変わったサスペンス/アクション映画として多くの人が楽しめる作品になっている。独特の映像表現も本作ならではだ。

 一見するとVFXなどはあまり使わなそうなハードな仕上がりながら、実は完全に劇画風のVFXを前提とした作品で、俳優の個性も生きており、見所は多い。原作のファンは日本には多くないかもしれないが、バットマンシリーズなどに通底する都市の暗部の描写には深みがある。

 ユニークな背景描写から、ストーリー展開までさまざまな視点から楽しめる作品になっており、深読みもできる作品だ。そうした意味で、より理解を深めたい向きには特典ディスク付きの「プレミアム・エディション」はお勧めできる。スタンダード・エディションの2,980円も手に届きやすい価格設定だが、VFX表現や原作に興味を抱いた人であればプラス1,000円で特典ディスク付きを選択した方がいいだろう。

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□ジェネオン エンタテインメントのホームページ
http://www.geneon-ent.co.jp/
□製品情報
http://www.geneon-ent.co.jp/movie/topics/sincity_pe_c.html
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【4月4日】「DVD発売日一覧」 4月3日の更新情報
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060404/newdvd.htm

(2006年7月11日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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