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西田宗千佳の
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Microsoft担当重役が語る
「我々がHD DVDにこだわる理由」


“お気に入り”HD DVDタイトル「Last Samurai」を持つ米Microsoft コンシューマ・メディアテクノロジー担当副社長 アミール・H・マジディマール氏

 次世代DVDを巡る闘争の中でも、重要なキャスティングボードを握っているのがMicrosoftである。

 だがその一方、「なぜ、MicrosoftがHD DVDに肩入れするのか?」については、首をかしげる人々も多い。OSのためなのか、ゲーム機ビジネスのためなのか、それとも……。

 米Microsoftのコンシューマ・メディアテクノロジー担当副社長である、アミール・H・マジディマール(Amir・H・Majidimehr)氏に、「MicrosoftがHD DVDを支持する理由」を聞いた。



■ 画質で「初期BDタイトル」を圧倒
  スタートに強い自信

 MicrosoftがなぜHD DVDを支持するのか? マジディマール副社長は「Blu-ray Discにはいくつもの問題があり、HD DVDならばそれをすべてクリアーできるから」と言い切った。

マジディマール:我々は、昨年(2005年)の9月の段階で、HD DVDを積極的に支持すると正式に公表しました。実は、昨夏に、Blu-ray Disc(BD)にはさまざまな問題があり、すぐには解決しない、ということがわかったからです。HD DVDは、画質、容量、機能、コスト、すべての点で、BDより上だといえるでしょう。

 最初に問題となったのはディスクの製造です。1層の25GBならどうにか出せるかもしれないが、2層の50GBについては、まずすぐには出てこない。DVDとのハイブリッドBDとなると、単なる夢、まったくの絵に描いた餅です。

東芝「HD-XA1」

 彼らは「HD DVDに比べ容量で有利」と主張していたわけですが、多くのHD DVDタイトルが、2層の30GBディスクで出荷されていることに比べると、逆に「容量で不利」という皮肉な状況となっています。

 Blu-ray Disc(BD)の映像は、10年前から使われているMPEG-2を使っているため、非常にプアです。HD DVDで使われている「VC-1(WMV)」はBDでもマンダトリ(Mandatory、搭載必須機能)になっています。しかし、今、BDではMPEG-2が使われています。これが問題なんです。

 また、現在のBDプレーヤーとソフトには、インタラクティブ機能がありません。それなのに、アメリカで販売されているのSamsungのプレーヤー「BD-P1000」は1,000ドル、それに対し東芝のプレーヤー「HD-A1」は500ドルです。

 ハードウエアやソフトウエアのサポート企業数が少ない、と言われますが、それは「現在」より「過去」を見たコメントですね。現在のところ、ソフト数はBDよりHD DVDの方が多いですよ。ハードの発売企業についても、様々な話し合いが行なわれています。事情は、変わりつつあります。

 確かに、彼の主張は「現時点では」正しい。米国で出荷されたBDプレーヤーとBD用ソフトと、HD DVDのそれを比較した場合、優劣はかなり明確だ。BDタイトルの画質は今ひとつ。それに対しHD DVDは、よりディテールの生きた映像に、インタラクティブ機能を備えたタイトルがリリースされている。

 これらの理由となっているのが、ビデオコーデックの「VC-1」とインタラクティブ機能「iHD」の採用だ、とマジディマール副社長は語る。いうまでもなく、どちらもMicrosoftが開発し、採用を働きかけてきた技術である。

 VC-1については、現在、北米盤を中心に採用が進んでおり、WarnerUniversalはビデオコーデックにVC-1を採用することを表明している。

マジディマール:4年前、DVDフォーラムにて、次世代光ディスクに向けた映像圧縮方式を決める活動がスタートしました。そもそも我々の次世代光ディスクへの働きかけは、そこでMicrosoftの技術を採用してもらうことから始まりました。

 その際に、2つのテストが行なわれ、VC-1はそのどちらでも1位でした。H.264は2位、もしくは3位という結果だったのです。いくつかのテストでは、H.264よりMPEG-2の方がクオリティが高いくらいでした。

 我々は映像のテクスチャとディテールをきちんと表現しよう、という狙いで開発しています。あくまで「デジタルシネマ用の圧縮方式」として、34型以上の大型スクリーンでの表示向け、ということですが、VC-1は他の方式よりも優れていると評価しています。

 H.264は元々ウェブのストリーミング用に開発されたものです。DVDフォーラムがテストするまで、大画面での利用は考慮されていなかったのです。その後、H.264はこの問題を解決するため、アルゴリズムをリデザインしました。しかし、問題を完全に解決できたとはいえないようです。

 同じムービーをVC-1とH.264でエンコードした場合、H.264の方が映像がソフトになり、ディテールが失われてしまいます。

 アメリカのスタジオがVC-1とH.264をテストし、すべてのスタジオがVC-1を選んだことからも、VC-1の実力は証明されています。

 H.264は元々ストリーミング向けに開発されてきた技術であり、その点で彼の主張は正しい。ただし、次世代DVDで使われるのはHD映像向けに用意された「ハイプロファイル」で、ストリーミング向けのそれとは異なる。彼のいう「アルゴリズムのリデザイン」とは、ハイプロファイルの採用とそれに向けたエンコードパラメータの最適化を指すものと思われる。

 事前に開発者などから聞いていた評判は、「VC-1の方がくっきりとした映像になるが、両者にさほど差はない」というものであった。「H.264の方がソフトになりがち」という彼の主張を裏返せば、VC-1の方がディテールがくっきりした映像になりやすい、ということなのだろう。「HD映像らしさ」を情報量・解像度の高さ、とするなら、ディテールがくっきりする傾向にあるVC-1が喜ばれる、ということなのだろうか。

 ただ、画質はエンコードの技術だけでなく、エンコード時のパラメータ設定や元画像の特質により大きく異なってくるもの。まだタイトルの数も揃っていない段階で結論を下してしまうのは早計である。

マジディマール:誤解してほしくないのですが、VC-1もH.264も、どちらも優れた圧縮方式です。特に、MPEG-2と比較した場合には、どちらも圧倒的に美しい。

 H.264の規格策定には、我々の会社からも技術者を派遣していますし、H.264に関するパテントのいくつかも所有しています。それだけ高く評価しているということです。

 しかし、「デジタルシネマ」向けとしては、VC-1が、より最適化されたものである、と考えています。

 マジディマール副社長に、HD DVDの魅力を最大限に体験できる「お気に入りタイトル」を尋ねたところ、「フェイバリットはラストサムライ(Last Samurai)」という。「画質は最高とまでははいかないが非常に良い。個人的な日本への思い入れもあるので」と語る。

 なお、画質という観点では、「The Chronicles of Riddick(リディック)」、「Serenity」を推薦。さらに、HD DVD/DVDのハイブリッドディスクの「FireWall」も「オススメできる。15GBのハイブリッドディスクだが、どのBDタイトルよりも画質がいい」(笑)という。

 これらのお奨めタイトルはすべて北米盤だが、ご存じのように日本のHD DVDプレーヤーでも再生可能だ。なお、The Chronicles of Riddick/リディックは、北米盤はVC-1だが、日本盤ではH.264を採用している。


■ インタラクティブ機能を実現した「iHD」
  「自由な開発」を主張、「政治の武器」を否定

 もうひとつ、HD DVDの強みとして主張するのは「iHD」。iHDは、HD DVDの「アドバンスト機能」やネットワーク機能を実現するために使われている技術であり、BDにおける「BD-Java」と対になるもの、といっていい。

 視聴を中断することなく、様々な付加コンテンツを見られるという、HD DVDのアドバンス機能は、使ってみると確かに魅力的な機能だ。

マジディマール:BD-JavaとiHDは、大きく違うストラテジーの元に実装されています。

 我々が考えたのは、iHDをウェブ技術をベースとして実装することです。非常にたくさんのクリエイターがウェブを作成しており、そのノウハウを転用できるよう発想したのです。

 BD-Javaはヨーロッパの放送で使われている「MHB」をベースに機能を追加したもので、非常に複雑です。

 映画会社のクリエイターはプログラマーではありません。コードを書くことなく、デザインすることでインタラクティブ機能を実現できるようにしたかったのです。プログラミングが必要になるとバグが発生し、デバッグも必要になりますからね。

 これは、BD-Javaがあくまで「Java」であることを皮肉ったコメントである。

 iHDは、Microsoftの.NET Frameworkをベースに、ウェブコンポーネント的な考え方で開発されている。そのため、iHDを使った動的なメニューなどの開発には、ウェブ制作のノウハウがかなり転用できる。

 あるコンテンツ制作者の話では、同じ動的なメニューを実現する場合、現状ではBD-Javaの場合、Javaのコードを書かなくてはならないものの、iHDでは1行のコードを書く必要もないため、制作の難易度はiHDの方が低いのだという。

 ただこの点については、BD-Javaの開発環境が整っていないため、という見方も出来るため、「iHDが100%優れている」と断言するのは危険だ。BD-Java向けのRADツール(統合開発環境)などが登場すれば、両者の差は大きく縮まる。

 むしろ「コードを書く」が故に、様々な自由度の高いコンテンツが作成できる、という面もある。携帯電話のコンテンツにおいてJavaが果たした役割を考えれば、その将来性が見えてくる。

マジディマール:もうひとつ大きな違いは、HD DVDは(アドバンスト機能に関する)すべての機能が「マンダトリ」だということです。ピクチャー・イン・ピクチャーも、2画面再生も、すべてのプレーヤーで楽しめます。

 しかし、BDはそうではない。Samsungのプレーヤーには、それらの機能がありません。アドバンスト機能が再生できるプレーヤーと、できないプレーヤーがあるのは問題です。

 ネットワーク接続も同様です。すべてのHD DVDプレーヤーはネットワーク接続の機能をもっていますが、BDは違う。Samsungのプレーヤーにはありません。

 この点については、マジディマール副社長の主張する通りといっていい。すべての機能がすべてのプレーヤーで使える方が、ユーザーにとってもコンテンツ制作者にとっても問題が少なく、わかりやすい。

 ただ逆に、すべての機能がついているということは、それだけリッチなハードウエアを要求するということ。東芝のプレーヤー「HD-XA1」においては、アドバンスト機能を実現するために、CPUにはPentium 4が使われていた。AV家電向けとしては破格に強力なCPUであり、その分コストにも跳ね返っていると予想される。

「Samsungは1,000ドル、東芝は500ドル」との発言があったが、むしろドライブ以外のハードウエア的には、BDよりもHD DVDの方がリッチ、といっても過言ではない。値段が安いのは、単に東芝ががんばっているから、に過ぎない。

マジディマール:確かに、スタンダードなBDプレーヤーやDVDプレーヤーに比べると、リッチなハードウエアリソースが必要なのは事実です。DVDを1、PCやゲーム機を10とするならば、HD DVDプレーヤーには4くらいのリソースが必要でしょう。

 しかし、「新しい体験」が提供できないと、次世代DVDの意味はありませんから、それだけの価値はあると思っています。CPU性能は今後向上してきていますし、コストの安いデコーダーも利用できるようになってきています、ハードウエアリソースの問題は、早期に解決するものと考えています。

 一方で、こんな話も聞く。iHDの実装には、インテルとMicrosoftのプラットフォームの利用が近道。だから東芝のHD DVDプレーヤーはPentium 4を使っているのであり、MicrosoftはHD DVDを推進しているのだと……。

 この点について、マジディマール氏は「我々のプラットフォームに縛る意図はないし、実際縛られてもいない」と否定する。

マジディマール:東芝のプレーヤーでのiHDの実装は、x86 CPUにも、Windowsも依存していません。完全にポータブル(移植が容易な)コードになっています。PCのCPUにも、組込用CPUにも移植可能です。たまたまPCのCPUが使われたに過ぎません。

 確かに、x86 CPUを使うのはコストがかかります。しかし、東芝は、規格が定まると同時にマーケットに投入する、という判断を下していました。そのような条件下では、PCのアーキテクチャを転用して開発するのは非常に賢明な選択だった、と思います。

 iHDを使うからといって、Microsoftの支配力が強まる、と考えるのは間違いです。iHDをMicrosoftが提案したのは事実ですが、DVDフォーラムで採用されたものです。ディズニとが共同提案という形にはなっていますが、実際にはたくさんの企業が共同で開発したものといっていいでしょう。東芝のノートPC(Qosmio G35/HV650)では、サードパーティの開発したiHDモジュールでプレーヤーが動いています。そういったものが自由に開発できることこそが、その証明といっていいでしょう。

 またマジディマール副社長は、自社でiHDをコアに「HD DVDプレーヤー開発キット」のようなものを作るつもりがない、とも語る。

マジディマール:iHDやVC-1に関する製品開発は、あくまでサードパーティを介して行なわれることなるでしょう。映画会社や家電メーカーに向けた開発環境、という市場があるのは理解していますが、巨大マーケット、というわけではありません。Microsoft自身が製品を投入するかどうかは、非常に慎重な判断が必要になってきます。

 マジディマール副社長は「iHD」の政治的思惑について、さらにこんな話も明かす。

マジディマール:昨年夏、BDA(Blu-ray Disc Association)はインタラクティブ機能を実現するものとして「iHDを使わない」との発表をしました。

 これは技術的な理由ではなく「政治的」な理由です。なぜなら、(BDAの)テクニカル・ワーキンググループは6カ月の検討の末、JavaではなくiHDを使うよう、提案していました。

 とはいうものの、iHDの利用率が高まれば、Microsoftにとってありがたいことであるのは間違いない。「家電へのMicrosoftの進出」を嫌い、家電メーカー側が政治的な決断を下したとしても不思議ではない。逆に言えば、HD DVDで発言力を強めようとするMicrosoftの「動き」が警戒された、といえるのかもしれない。


■ 強固なプロテクトが「VistaでHD DVD」のウリ?
  マネージド・コピーでPCが生きる

 PC上でのHD DVDのメリットは何でしょう? 容量の面では、むしろBDの方が有利では?。

マジディマール:確かに。HDD容量は、光ディスクでバックアップを取るには巨大になりすぎました。さらに容量の大きいディスクが必要とされています。とはいうものの、BDですら容量的には足りないわけですが。

 むしろ、PCで使う上で重要になるのは「マネージド・コピー」の機能です。

 HD DVDの映像をHDDにコピーし、家庭内でストリーミング視聴できます。しかも、劣化したものではなく、最高品質の映像を、です。

 BDは、当初この意見を受け入れませんでした。HD DVDではマネージド・コピーが「マンダトリ」ですが、BDは1年前には、そうではなかったのです。この点では、彼らも歩み寄ってきました。いい方向に動いているといっていいですね(笑)。

 マネージド・コピーは、元々AACSで規定された機能であり、BD/HD DVDともに利用可能であった。しかし、当初「マンダトリ」としていたのはHD DVDだけであり、BDはオプションとなっていた。現在は両規格で「マンダトリ」となっている。1年前、MicrosoftがHD DVDを推す、と決めたきっかけとも言われている。

 マネージド・コピーをMicrosoftが推す理由は、それがパソコンをホームネットワークの中心に据える「理由」になるからだ。最初から大容量のHDDと、コンテンツをコントロールするための高性能CPU、そしてLANの機能を内蔵している機器は、レコーダー市場がない北米では、パソコンくらいしかないからだ。「ホームサーバーやレコーダーでも、マネージド・コピーは利用されるだろう。パソコンとはニーズで住み分ける」(マジディマール副社長)とはいうものの、当面の主役はやはりパソコン、ということになりそうだ。

 では、パソコンでHD DVDを利用するためにはどんなものが必要となるのだろう? 特に気になるのが、Windows Vistaでの対応だ。

マジディマール:基本的には、DVDの時と変わりません。ドライブや再生用ソフトウエアを用意し、パソコンに組み込んで使うことになります。Vistaでも同様であり、最初からプレーヤーが組み込まれて出荷されるわけではありません。

 ただ、Vistaはビデオサブシステムが非常に強固に作られており、セキュリティを高めることが可能となっています。サードパーティのソフトが活用すれば、より強固なコピープロテクションシステムを持ったプレーヤーソフトを用意できるのです。

 例えば、BDやHD DVDで再生中の映像をスクリーン・キャプチャできないようにしたい、としましょう。Windows XPでは容易に撮影が可能ですが、Vistaでは「プロテクテッド・メディアパス」を経由して再生するため、そういった行為ができなくなります。

 スクリーン・キャプチャできないことを、ユーザーが喜ぶかどうかはかなり疑問ではあるが、そういった「強固な著作権保護」を著作権者側が求めていることは間違いない。Vistaがそれに答える機能を持っているのも頷ける。問題は、「どこがHD DVDに最適化されているか」という点だ。

マジディマール:Vistaのセキュリティパイプラインは、BDとHD DVDの両方を分析して作られています。ですから、どちらの要求も満たします。

 しかし、我々はBDのスペックにアクセスしえない部分があります。例えば、第2のコピープロテクションシステムである「BD+」です。

 BD+とは、BD固有のプロテクトシステム。ディスク上に小さなプログラムを収納し、仮にBDのプロテクトが完全に破られた場合でも、このプログラムをプレーヤーに読み込み、新たなプロテクトとして利用することが可能になる仕組みだ。いわば、「2段階目のプロテクト」である。

マジディマール:BD+は非常に複雑なアーキテクチャです。Vista上で、BD+に対応する方法を我々は思いつきません。ということは、Vista上ではBDプレーヤーの実装はより難しく、セキュアでない、ということになります。

 そもそも、BD+は、DVDフォーラム、AACSともに検討を行ないましたが、複雑で、それほど良い技術ではないとして、採用しなかった技術です。やはりこれについても、「政治的」な理由から採用が決まっています。

 AACSにBD+という、2つものコピープロテクションシステムが採用されることについては、消費者にとって負担となるため、良いこととはいえないでしょう。

 筆者は、BD+が実装できないからPC上でのBDプレーヤーがセキュアでない、と断言するのは早計と考える。そもそも、どのメーカーにもBD+の実装が不可能、言い切るのも乱暴だ。ただ、「PC用ソフトの中には、BD+が実装されなかったため、AACSの鍵が破られた場合、一律にPCでの再生ができなくなるものが出てくる」という可能性は否定できない。

□関連記事
【5月26日】【本田】Windows VistaのHD DVDサポート(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0526/mobile341.htm


■ 「必要な人向け」のXbox 360用プレーヤー

Xbox 360 HD DVDプレイヤー

 最後に、パソコンと並び、「コンシューマ向け製品」として重要な「Xbox 360 HD DVDプレーヤー」について聞いてみた。

マジディマール:基本的には、「必要な人に必要な機能を与えたい」という判断です。すでにXbox 360を持っている人にとっては、安価にHD DVDを楽しむ方法となるでしょう。しかし、ゲームをするすべての人に押しつけるものではありません。

 再生はすべて、Xbox 360本体で、ソフトウエアを使って行ないます。確かに、iHDの実現や、HD映像の再生には大変なマシンパワーが必要となりますが、Xbox 360用に綿密なチューニングを施し、再生を実現しています。先週(8月7日)、DVDフォーラムでデモを行ないましたが、画質などは非常に高く評価されました。

 ゲーム機のCPUでHD DVDを再生するのは、確かにかなり大変なことです。とはいえ、我々はもっともよくVC-1を知る会社ですからね(笑)。H.264の半分のMIPSで、再生を実現できました。一番のチャレンジは、H.264のHD映像再生ですが、これもうまく解決できそうです。BDではさらにピークレートが高いため、ソニーさんは苦労しているのではないかと思いますよ。

 Xbox 360+HD DVDドライブは「プアマンズHD DVDプレーヤー」ではない?

マジディマール:DVDフォーラムの定めるすべての機能、パフォーマンス、ビデオ/オーディオコーデック、iHDなどを備えています。削ったところは全くありません。

 ただし、Xbox 360はゲーム機であり、ステレオコンポーネントとは違うことは理解してください。専用のプレーヤーを置き換えるものではないのです。ノイズレベルや放熱(ファンノイズ)など、決してかなわない部分もあります。そうした点ではハイエンドのスタンドアロンのプレーヤーとは用途が異なります。「自室で手軽に」といった人に向けた製品といえるでしょう。

 以前E3で取材した時と同様、Microsoftの姿勢は「すべてをBDに」というPLAYSTATION 3とは異なっている。プレーヤーとしてのニーズを重視するSCEに対し、Microsoftはあくまで「付加価値」という位置づけなのだろう。

 また、ハードウェア、特にドライブの供給メーカーの少なさについても、不安の声を打ち消す。

マジディマール:コンポーネントの不足は両陣営に共通のこと。特に青色レーザーはまだまだ足りない。だからこそ、先行してより大きな購買力を持つことが重要になる。HD DVDの普及を進めることで、コンポーネント価格を下げることができる。

 マジディマール副社長のコメントは、終始自信に満ち、明確なものだった。一部異論のある部分もあったが、自信の多くは、冒頭にも述べたように、初期のタイトルとプレーヤーのクオリティに裏打ちされたものといっていい。

 だが、勝負はまだ序盤戦だ。BDの本命「PLAYSTATION 3」や、松下など「本気プレーヤー」はこれから登場する。年末、BDが本格的に離陸したとき、HD DVDのメリットはどこまで生きているのだろうか? 年末商戦に向け、新製品が投入される9月以降、本当の勝負が始まる。

□Microsoftのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/
□MicrosoftのHD DVD情報ページ(英文)
http://www.microsoft.com/hddvd
□関連記事
【2005年9月27日】MicrosoftとIntelがHD DVD支持を表明
-東芝やNECなど幹事会社は歓迎のコメント
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050927/hddvd.htm
【2005年6月27日】Microsoftと東芝、HD DVDプレーヤーの共同開発を検討
-デジタル家電とPCの両分野で協調を強化
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050627/mstoshi.htm
【5月10日】Microsoft、Xbox 360用HD DVDドライブを年末発売
-USBで接続。リモコンも付属
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060510/ms.htm

(2006年8月17日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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