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第273回:音楽CD制作におけるDDPの現状とは?
~ 「DDP TOOLS」メーカーに聞く、開発経緯と今後 ~



 前回、MAGIXのDAW&マスタリングソフトである「Sequoia 9」について紹介した中で、「DDP」(Disc Description Protocol)対応したことからレコード業界で注目されていることについても触れた。しかし、このDDPについての情報がまだまだ非常に少なく、実態がよく掴めないというのが実際のところ。

 そこで、DDPのファイルをチェックし、編集することができるWindowsソフト「DDP TOOLS」の開発、販売を行なっているクリムゾンテクノロジーに伺って、営業担当で開発ユニットの岸田光夫氏と、技術担当で開発ユニットのユニットリーダー、小出英生氏のお二人に話を聞いた。(以下、敬称略)


■ 規格が緩く、互換性に問題があったDDP

藤本:クリムゾンテクノロジーさんはDDP TOOLSやDLS TOOLSなどかなり特定用途のソフトウェアをリリースされていますが、まずどんなことをされている会社なのか、簡単に紹介してください。

営業担当の岸田光夫氏

岸田:当社は「技術開発・ソフトウェア販売・ライセンス事業」、「コンテンツ原盤提供・企画サービス事業」、「コンテンツ制作事業」の大きく3つの柱で事業展開をしております。

 DDP TOOLSは、「技術開発・ソフトウェア販売・ライセンス事業」のひとつですが、「コンテンツ原盤提供・企画サービス事業」では、ネットワーク配信向けに数多くの原盤ホルダー様より、音楽・映像コンテンツをお預かりし、コンテンツプロバイダ様へ提供し、配信しているアグリゲーション・ビジネスです。またそれと並行して「コンテンツ制作事業」では、着うたや着メロ、またカラオケ用などのデータの作成も行なっています。


技術担当の小出英生氏

小出:代表取締役の飛河和生と私を含め、元々ビクターで、業務用カラオケ、民生用カラオケなどのMIDI関係の研究・開発に携わっていた者が中心となって、2002年に設立した企業です。そのため当初は、開発の事業からスタートしたのですが、その後少しずつ事業領域を増やし、現在3つの事業が三位一体という感じで動いています。

藤本:そんな中、DDP TOOLSを開発したキッカケはどんなところにあったのですか?

岸田:受託開発の依頼がきたのがキッカケです。レコーディングスタジオでDDP出力したものを工場に持っていった際、互換性の問題が生じることがあるため、そこを直すためのツールがほしい、と。


DDP TOOLS

 ご存知のとおり、レコーディングスタジオから工場への受け渡すまでの流れとしては、まずマルチで録ったものをトラックダウンして2chにします。それをプリマスタリングしてから工場へ持っていくのですが、DDPが出るまではUmaticのシブサンが主に使われていました。また、インディーズではPMCDを使っていたところが多いですね。その後継として登場したDDPは、規格がとっても曖昧なため、互換性における問題が生じ、それの解決策が欲しいと依頼されたんです。

藤本:DDPが実際に使われるようになったのはいつごろのことですか?

岸田:私が最初に話を聞いたのは3年ほど前ですね。米国のレコード会社から日本のマスタリングスタジオに、あるマスターデータがデジタルテープで送られてきた際、DDPによるデータだったんです。よく分からなかったけれど、たまたま、日米ともSADiEのシステムが使われていたため、あっさり読み込め、再生できたのですが、これは何のデータなんだということで話題になったんです。おそらくそのころが日本でDDPが使われた最初だと思うので、まだ歴史的にはとっても浅いものです。

藤本:いまSADiEの名前が出ましたが、まだDDPをサポートしている環境は少ないですよね。先週、MAGIXのSequoiaを使いましたが、他にどんなものがあるんでしょう?

岸田:SonicStudioにPyramix、AudioCubeなどがあります。またDAWではありませんが、BIAS PeakやWaveLabもプラグインの形でDDPがサポートされています。まだ、それほど多くの環境が用意されているわけではありませんが、DCA(Doug Carson & Associates)のDDPの規格が非常に緩くできていることから、互換性での問題が多いんです。Sonicで出力したものをSADiEで読んだらファイルを開くことができかかったり、SADiEの場合、バージョンによって互換性がなかったり……。

藤本:具体的に、どんな問題が起こるんでしょう?

岸田:一番典型的なのが、プリギャップに関するものです。DDPを出力する際、DSS(Data Stream Start) の設定というものが必要で、プリギャップに関してPRE1、PRE2という値を書き込まなくてはなりません。ところが、ソフトによって、デフォルトで設定されている値が、150だったり、0だったり、空白になっていたり……。多くのCDの場合、プリギャップが2秒とられているため150という値を設定しますが、この値が異なった状態でデータが受け渡されるとトラックのスタート位置がズレたりするわけです。そのため、各レコード会社やプレス工場などが話し合った結果をまとめ、日本レコード協会が「CD用マスタDDPファイル互換性ガイドライン」という形で、ここに設定すべき内容などを発表しているわけです。


Sequoiaでは4つのファイルが出力された

藤本:先日、Sequoiaで出力したところ4つのファイルができましたが、その4つという形でいいのですか?

岸田:そうです。ただ、この4つのファイル以外に、ジャケットのイメージデータやCUE SHEETなどが入っていても構いません。マスターデータとして、こうしたファイルも一緒にまとめて管理しているところもありますね。

藤本:4つのファイルともに拡張子がなく、ためしにテキストエディタで開いてみたものの、うまく開くことができませんでした……。

岸田:そこが大きな問題になっているところです。4つのファイルともにバイナリであるため、DDPを直接エディットすることができないのです。具体的にはDDPID、DDPMS、PQDESCR、IMAGEの4つあり、このうちIMAGEが、オーディオデータとなっています。このオーディオデータ的にはしっかり完成しているのに、ISRC(International Standard Recording Code)やPOSデータだけが違っているというときに、DAWにまで戻って、読み込んで編集し、書き出しをしなおさなくてはならない。これではあまりにも不便だということで、簡単にエディットができるDDP TOOLSを作ったというわけです。

DDPID DDPMS PQDESCR



■ 新バージョンでは波形表示やWAVでの切り出しも

藤本:3年ほどまえからDDPが使われだしたとのことでしたが、実際いまDDPはどの程度普及しているのでしょうか?

岸田:聞いている話では、大手レコード会社もしくは大手参加レーベルは6割以上がDDPになっているようです。シブサンからDDPに変り始めたのは昨年暮れくらいからですから、つい最近の話です。プレス工場であるビクターが昨年10月にシブサン、PMCDで持ってきたものは別途オプション料金がかかる旨を発表して以来、一気にDDP化が進んだようです。その結果、大手レコード会社は各社とも昨年中にDDP化をし、独立系のスタジオもDDPを作れないと困ると、移行しつつあるんです。ちなみに、米国では4、5年前からDDP対応がはじまり、今のような形になったのはここ数年のようです。そうした背景から、洋楽系のレコード会社からDDP化が進んでいます。ただ、インディーズ系はまだPMCDやシブサンを使っているところが多く、DDP化はまだそれほど進んでいないようです。

藤本:DDPにもいくつかバージョンがあるようですが、この辺の扱いはどうなっているのでしょうか?

岸田:規格としては、CD用として登場した1.00から、CDとDVDの兼用となった2.00、そしてDVD用の2.1、HD DVD用の3.0があります。すでに1.00は使われなくなっているため、音楽業界で使われているのは2.00です。カッティングマシンも多くのものがDDP 2.00に対応しており、CDとともにDVDも作成できるようになっているようです。

藤本:スタジオから工場へのDDPデータの受け渡しはどういうメディアが使われているのですか?

岸田:DVD-Rを用いるケースと、ネット伝送するケースがあります。単なるファイルですからFTPなどを使ってもいいわけですが、セキュリティーなどの観点から日本ワムネットが運用している専用線を使って伝送するのが標準になっているようです。ただ、バックアップ用などではDVD-Rが使われています。

藤本:ファイルで伝送するようになればPMCDで言われていたような、メディアやドライブ、書き込み速度で音質が変るといった話はなくなりますね(笑)。

岸田:そうですね。PMCDだって、カッティングマシンはデジタルで読み込むため、エラーが起きていなければ、何も変わらないはずなんですけどね。まあ、カッティングマシンは完全ブラックボックスになっているのでなんともいえないところなんですが……。ただ、DDPで問題になるのは、曖昧なデータがカッティングマシンに流れて、機械を止めてしまうことです。プレス工場は常にフル稼働していますから、止めてしまうと大ごとなんです。DDPの規格にマッチしていても、同じ場所に複数のPQが打たれているなど妙なデータになっていると、機械がエラーを起こして止まってしまうことがあるのです。そうした問題を生じさせないためにも、事前にDDPデータをしっかりチェックしておく必要があります。DDP TOOLSはそうしたチェック用としても役立ちます。

藤本:DDPデータを直接再生できるという点でも便利ですよね。


バージョン2.5では、プレイ中データの波形表示などが可能になる

岸田:そのとおりです。これまでPMCDの場合なら、プレスに出す直前の最終データを確認することができましたが、シブサンで聞いていたという人はほとんどいません。そうした最終データが確認できるという意味でも意義があるのではないかと思っています。また、1,500円CDを出そうというような場合、以前作ったDDPデータがあれば、DDP TOOLSでPOS情報だけ書き換えてしまえばすぐに出せるのですから、結構便利に使えるはずです。

小出:現在、DDP TOOLSは2.0というバージョンですが、4月末くらいまでには2.5というバージョンをリリースする予定です。新バージョンでは、プレイ中のデータを波形で表示ができたり、WAVでの切り出す機能が充実するなど、現場から出ていた「もっとこうして欲しい」という機能を実現させました。

藤本:価格的にはどうなるのでしょうか?

岸田:現行のDDP TOOLS 2.0のフル機能版は1ライセンスあたり98,000円、機能制限版のDDP PLAYERが29,400円ですが、2.5で若干値段を上げる予定でいます。完全に業務用のソフトの割にずいぶん安い価格設定だと言われているので……(笑)。


■ フル機能版ではCDからDDP作成が可能。Mac版は未定

藤本:フル機能版と機能制限版の違いはどんなところにあるのでしょうか?

岸田:DDP PLAYERのほうはプレイヤー機能と、DDPデータが日本レコード協会のガイドラインに準拠しているかどうかをチェックして、問題があればエラーログ表示をする機能に絞られています。それに対しフル機能版は、エラー結果を自動修正する機能や、ISRCやPOSデータ、TOC情報などを編集する機能などを持っています。


フル機能版では、CDからISRC情報などの吸出しも可能

藤本:フル機能版だと、CDからISRC情報などの吸出しもできますよね。

岸田:吸い出してPPDファイルを作成できるだけでなく、AudioCDを焼く機能も持っているため、このフル機能版は基本的に一般のコンシューマユーザーに販売することができないんです。これによる不正コピーなどが氾濫するとマズイですから……。

藤本:確かにそういう問題はありますね。ところで、こうしたツールがなくて困っているのは国内に限ったことではないですよね。海外でもニーズが高いのではないかと思いますが、今後海外展開についてはどう考えられているのでしょうか?

小出:まだ未定ではありますが、近いうちに展開していきたいと考えています。現在のところ、正規版のリリースはしていませんが、ベータ版として英語版のデモ版を配布しており、各国のレコード会社から多くのお問い合わせをもらっています。バージョン2.5をリリースするタイミングで海外展開もスタートできたらと考えています。

藤本:Macへの対応という予定はあるのでしょうか?

小出:そういったご要望は時々いただいていますが、移植にはかなりのパワーがかかる割に、それほどの出荷数も見込めないため、予定はしておりません。もし、Mac版のためにいくらでも払うというところが出てくれれば、喜んで開発しますが……。

藤本:最後に、DLS TOOLSなど御社のDDP TOOLS以外のソフトウェアについても簡単に解説していただけますか?

小出:DLS TOOLSはもともと社内のシンセの音色デバッグ用に開発したもので、一般にも販売をはじめました。MicrosoftのDLSのエディタの使い勝手があまりよくなく、そもそもDLSのパラメータすべてをいじることができないため、カラオケや着メロ用途としてDLS TOOLSが使われています。

 もうひとつ、AVGM(Advanced Guide for Music)というソフトをエクシングとブラザー、当社の3社で共同開発しました。こちらはText to Voice機能を利用した読み上げカラオケです。つまり、画面に文字を表示させるのではなく、言葉として歌詞を先に読み上げるというものです。まだ採用実績はないのですが、カーオーディオへの搭載や高齢者や目の不自由な方向けの機器などとして利用できればと考えております。

DLS TOOLS AVGM


□クリムゾンテクノロジーのホームページ
http://www.crimsontech.jp/jp/home.html
□製品情報(DDP TOOLS)
http://www.crimsontech.jp/jp/ddp/index.html
□製品情報(DLS TOOLS)
http://www.crimsontech.jp/jp/dls/index.html
□関連記事
【2006年11月20日】【DAL】“普通のPC”でDDP出力可能なマスタリング用DAW
~ Samplitude最上位バージョン「Sequoia 9」 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070305/dal272.htm
【2002年6月3日】【DAL】迷信だらけのデジタルオーディオ[特別編]
~ プレス・マスターCDとは? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020603/dal56.htm

(2007年3月12日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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