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西田宗千佳の
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バイ・デザインに聞く「低価格テレビ市場の真実」
テレビも「格差」時代に。薄利の液晶でどう儲ける?


 大画面テレビの低価格化が止まらない。しかも、大型化が進み、機能はリッチになる一方。消費者としては誠に歓迎すべきことだが、メーカーにとっては、厳しいことこの上ない。

バイ・デザイン 伊豆田 取締役

 外野から見れば、まるで荒波のように見えるテレビの製造・販売において、近年目立つのが「新規参入組」だ。ソニーや松下、日立といった「いわゆる家電メーカー」でもなく、船井電機のようにOEMメーカーとしての歴史が長いメーカーでもない。いわば「第三のテレビメーカー」だ。

 そんな中で、強い存在感を示しているのが「バイ・デザイン」。本誌でも、毎週のように価格改定や新製品のニュースが掲載されているので、名前を目にすることが多いメーカーの一つである。

 安いテレビで勝負する、のはよくわかる。だが、彼らに勝算はあるのだろうか? 店頭では、大手メーカー製の液晶テレビが、驚くような値段で売られている。価格差があまりなければ、ブランド力のないメーカーに勝ち目などないのではないだろうか?

 今回は、バイ・デザイン取締役マーケティング本部長 国内統括責任者である伊豆田伸吾氏に、「バイ・デザイン」が勝てる根拠を聞いた。そこからは、国内テレビ事業の持っている、もう一つの姿が見えてきた。



■ 他の「水平分業」とはひと味違う、「ノウハウ」の効果

 まず、バイ・デザインという会社について、少し説明しておこう。

 同社のビジネスモデルは、いわゆる「水平分業型」だ。ディスプレイパネルをパネルメーカーから調達、ディスプレイコントローラや画像処理チップと組み合わせ、海外の製造専業メーカーに製造委託を行ない、市場へと流す。バイ・デザインが担当するのは、商品企画と流通、そして営業である。これは、パソコンなどで採られているモデルとほぼ同じといっていい。パーツビジネスの進展により、どんなメーカーでも、すぐにテレビメーカーになれるようになっている、ということである。

 それに対し、大手家電メーカーのモデルは、「垂直統合型」と言われる。パネルやチューナなど、コアパーツの多くを自社もしくはパートナー企業で製造、組み立ても自社で一貫して行ない、販売計画なども、当然自社が責任を負う。

 前者は、小規模な企業でも市場参入が可能であり、低価格な製品を投入しやすい一方、調達コストがかかるため、販売元に還元される利益が薄くなりやすい。

 後者は、自社のみが持つ技術で製品の差別化がしやすく、製造コストの圧縮も可能だが、巨額な設備投資が必要な上、その方針を間違った場合、経営に取り返しのつかない傷を与えることになる。

 「結局、『大手は垂直、うちは水平』ということで、最終的には価格勝負、という話になる。でも、同じ水平分業でも、どこも同じというわけじゃないですからね」と伊豆田氏は語る。

 水平分業のライバルとの違いは、「技術ノウハウ」と「デザイン」だ。「日本は山が多いため、電波中継局が入り組んでいる。その境目で、誤動作しないように調整するには、長い経験が必要」と伊豆田氏。

 バイ・デザインは社員30人の新興企業だが、構成メンバーは、家電メーカーやパソコンメーカーで長く経験を積んだ人物が多い。技術本部長の多治見淑高氏は日立でテレビ設計部主任技師を務めた人物であるし、CTOのマーク・マッキーチャン氏は、80年代にソニーでトリニトロンの研究を行なっていた。また、伊豆田氏も、船井電機出身者である。

 もう一つのこだわり、デザインについても、大きな自信をもっている。同社は、常にオリジナルのデザインで勝負している。初代モデルはアルミ外装とアクリルパネルを配した高級感のあるデザインを採用、現在はピアノフィニッシュのアクリルパネルで仕上げている。イメージカラーは常に「黒」だ。

 「コストに厳しい水平分業のメーカーでは、なかなかデザインに力を入れられない。あるOEMメーカーなどは、まずテレビの中身を設計、それから『それが収まる箱』を作る。それじゃあろくなデザインはできません」。

2004年発売の初代30型液晶テレビ「d3032GJ」 地デジチューナ搭載の42型フルHD液晶テレビ「LF-4200DFK」

OSDのデザインにもこだわり

 デザインがカギになっている、という点は、大手家電メーカーのテレビも同じである。ただ、バイ・デザインが狙うところは少し違うようだ。

 「大手は数を売ることを狙いますから、8割、9割の人に好まれるデザインを作ります。でも、我々のデザイナーは『100人のうち10人に強く支持される、ひっかかるデザインを』狙っています」

 デザインについてのこだわりは、テレビの「中」にも反映される。低価格テレビでは、設定用のオンスクリーン・ディスプレイ(OSD)などのユーザーインタフェースが、かなり貧弱なものが多い。コストがかかる割に、購入動機に結びつかないからだ。

 現在のバイ・デザインのテレビでは、起動時のロゴ表示からOSDの見栄えまで、大手メーカー製に劣らないレベルのデザインが実現されている。

 「正直、2年半前にはじめて商品を投入した時には、そこまで手がまわりませんでした。アジアのメーカーに開発/製造を委託すると、『ツ』と『シ』が区別できないなど、フォントのデザインに違和感があったり誤字が出やすい。実際我々の製品でも、家電量販店のバイヤーさんからは、『次は誤字、直してね』と言われたこともありましたよ」と、伊豆田氏は反省しきりだ。

 こうした低価格テレビのもつ「マイナス面」を打ち消すことで、低価格テレビへの抵抗感を減らしていく。地味ながら着実に蓄積してきたノウハウが、いち早く市場に参入したバイ・デザインの強みとも言えそうだ。


■ 狙いは「同じ値段でワンサイズ・アップ」

 デザインなどで高級感を演出してはいても、バイ・デザインのテレビは、まぎれもなく「低価格」がウリ。デジタル放送対応商品の場合、一般的な大手メーカーの製品が、地上/BS/CSの三波対応デジタルチューナを搭載しているのに対し、バイ・デザインでは地デジのみの対応。ニーズの低い機能を切り捨てている、といえば聞こえはいいが、要はコストダウンの対象となっているわけだ。

 「販売の現場では、はっきり言って、同じサイズのテレビならば、大手メーカー製にくらべ、3万円から5万円安いことを求められます。ですから、地デジのみの対応となってしまっていたわけです。しかし、三波対応は必要ですから、近い将来に実現したいと思っています」と語る。

 ただ、単純に低価格化していくだけでは消耗するだけだ。「水平分業のテレビ事業は厳しい」と言われるのはこのためだ。しかし、バイ・デザインには別の考え方がある。

 それが「同じ価格でワンサイズ・ワンランクアップ」という戦略だ。「例えば、37型のテレビを買いに来た人に、バイ・デザインなら同じ価格で42型が買える、フルHDが買える、という方向で推していきたい。販売店からも、その方が売りやすい、という声を聞いています」と伊豆田氏は説明する。

 そしてさらに、こうもつづける。「そもそも、32型くらいの液晶は、もうビジネスになりませんから」

 液晶テレビというと、「まず32型、予算次第でそこから上を狙っていきたい」というイメージがある。だが、昨年以来、32型のパネルは競争が激化し、価格下落がとにかく激しい。伊豆田氏は、「大手メーカーなどは、売っても売っても儲からないのでは。うちもそこは変わりませんよ」と実情を語る。

 実際、バイ・デザインの大型液晶商品ラインナップは、2006年前半以降、急速に42型へシフトしている。現行のラインナップで力を入れているのも、個人向けの26型と、「おそらく日本家庭でメインになる」(伊豆田氏)と読む37、42型。しかも42型の液晶は、フルHDしか用意していない。

 大型化の流れは、プラズマテレビのラインナップでも行なわれる。同社は今年度中に、63型のプラズマテレビを、「驚くほど大胆な価格設定」で販売する。まだその価格を公開することはできないが、他社の同サイズプラズマテレビと比較にならないほど安くなる予定だという。パネルの解像度はワイドVGAで、ハイビジョンテレビではないようだが、「AVとしてのクオリティよりも、画面サイズを求める人にはそれなりのインパクトがあるのでは」と話す。

 ただ、この製品が投入できる理由は、同社が一般小売りだけでなく、業務用ディスプレイのビジネスも行なっているからだ。需要がはっきりしており、小売りではリスキーなサイズでも、まとまった数があれば製品化ができる。「小売りと業務用の両方をやっていて、小回りを効かせながら製品を準備するので、こういった製品計画ができる」と説明する。



■ 画質にも自信あり。120Hz駆動も年内に登場?

 となると、逆に気になってくるのは「クオリティ」だ。

 バイ・デザインがサイズをランクアップする間に、大手メーカーは「クオリティ」をランクアップする作戦に出ている。絵づくりを担当するLSIを独自開発してブランド化するほか、今春からは各社液晶テレビで一斉に、液晶の残像感を低減する120Hz駆動技術を採用している。バイ・デザインの顧客は価格重視だが、これらの差別化が効を奏すると、「ワンサイズ上より画質」となりかねない。

 だが、伊豆田氏は楽観視している。「画像エンジンについては、上位機で採用している『d:engine』の評判がいいので、その延長線上で考えています。120Hz駆動についても、パネルメーカー・チップメーカー側の準備が進んでいますから、年内にはめどがつくでしょう。キャッチアップできます」

 無論、これらの技術が導入されたからといって、大手との開発競争が終わるわけではない。価格を抑えねばならない以上、差が埋まることもない。しかし少なくとも、120Hz駆動に関しては、来年までに「ある意味あって当たり前」のものになる、と見ているのは間違いなさそうだ。


■ じわりと広がるテレビの「格差社会」
 「ドンキ」でバイ・デザインが売れる理由

 これらの事情をみると、「バイ・デザインはがんばっているけれど、生き残りはやっぱり大変そうだ」との印象が強くなる。しかしそれでも、伊豆田氏の表情は明るい。

 それもそのはず。同社は創業からたった3年半で、2006度末にはワールドワイドで73億円を売り上げている。社員数30人の会社としては、非常に堅調な業績と考えているようだ。

 「この規模を維持していく限り、順調にやっていける自信がつきましたね」と伊豆田氏は語る。2007年度は売り上げ150億が目標で、その達成も「おそらくいけるんじゃないか」と語る。

 だがそれは、「バイ・デザインの大型テレビがバカスカ売れる」ことを意味していない。同社には、我々があまり知らない顔がある。同社の主力商品は「大型テレビ」だけではないのだ。

 バイ・デザインの販路は、主に3つある。まず最初は、ご存知家電量販店。2つ目は、PC安売り店「PCデポ」でのプライベートブランド販売。この2つは、「PCデポの方が、スペックにこだわる人が多い」(伊豆田氏)という傾向はあるが、大きな差はない。

 だが、最後の販路は、商品の内容も売り方も大きく異なる。それは、「ドンキホーテ」を中心としたディスカウントストアである。

 「ドンキホーテで売れているのは、大型テレビではないです。2万円から5万円くらいまでで、15インチくらいの小型液晶テレビです」と伊豆田氏は説明する。そして、こう続けた。

 「当社全体での販売数量の、半分くらいですかね」。これには、大きな衝撃を受けた。低価格大画面テレビメーカーと思っていた会社が、実は小型テレビの会社になっていたのだから。

ディスカウントストアでは小型液晶テレビが人気 “売れ筋”のDVDプレーヤー/バッテリ内蔵10.2型液晶テレビ「DC-1000AW」

 「実のところこの結果は、創業時には予測もしなかったこと」と伊豆田氏は言う。現在の主力商品は、20型ワイドのデジタル対応テレビと、19型DVDプレーヤー内蔵テレビ。「ここでも『同じ価格でワンランク上』の法則は効いています。17型で4 :3の製品よりも19型ワイドがいい、という人が多い」という。

 そもそも、なぜドンキホーテでバイ・デザインが売れるのか? 「低価格メーカー同士だと、画質やデザインなら優れている」と前置きしたうえで、次のように語る。「大手メーカーが、やらないからですよ」。

 テレビを買うなら大画面、という印象があるが、安くなったとはいえ、「9万円、10万円では手が出ない」という層の顧客も少なくない。どちらにしてもテレビは必要なので、「より小さくてもやすいものを」というニーズは底堅い。しかも、そういった層の顧客は、ドンキホーテの利用率が高い。

 だが、10万円の32型ですら、大手メーカーにとっては利幅が少なく、手をだしづらいジャンルになっている。3万円程度のテレビでは、いくらやっても「垂直統合」のうま味は出てこない。

 そのため、小型液晶テレビを本気で手がける家電メーカーは驚くほど少ない。製品を用意しているところも、小型液晶はOEM供給だったり他社のパネルを採用したりと、「クオリティよりコスト重視」の姿勢が如実に見て取れる。

 家電量販店と、価格重視のディスカウントストアで、売っているものから客層、メーカーまで違う、という階層化は、これまでアメリカに見られた現象だ。日本は、「誰もが同じ家電を買う国」であったのだが、少なくともテレビについては、その常識は崩れつつあるようだ。

 特定の販路で売られる低価格商品は、販売管理費をかけられないので、他の階層に知られることなくヒット商品になっていく。これは、大規模販促を前提としている大手家電メーカーにはハンデだが、バイ・デザインにはそうではない。元々、「販売管理費をかぎりなくゼロにする」ことが、基本的なビジネスモデルとなっているからだ。その経営リソースと、テレビに関するノウハウを最大限に生かし、「ライバルよりワンランク上」を狙っているところが、ドンキホーテでバイ・デザインが勝つ理由なのだろう。

 「同じDVDプレーヤー内蔵テレビでも、他社の低価格製品は、単に海外からもってくるだけなので、DVDレコーダで録画したDVD-VRの再生に対応していなかったりします。我々は日本市場では削るべきでないところを知っていますから、きちんとDVD-VRに対応しています」と一例を挙げる。

 そんなドンキホーテでは、価格ももちろんだが、デザインに対する要望が大きいという。たとえば、前出のDVD内蔵テレビの場合、他の販路が黒基本の展開であるのに対し、白をメインにした多色展開。しかも、「ピンクがほしい、との声が大きいので検討中」なのだとか。


■ 今後は「プラスα」に注力
  2.4GHz帯を使った「ワイヤレステレビ」も

 小型テレビが好調ではあっても、バイ・デザインにとって、家電量販店ルートで売る大型テレビが大切なものであることに変わりはない。

 「いかに大型液晶テレビの比率を高めるかが、今後の課題。特に、42型の液晶が中心となるだろう。そのためには、プラスαの要素が必要になる」と伊豆田氏は話す。

 ここでいう「プラスα」とは、120Hz駆動のような、テレビ表示の高度化を指したものでない。他社テレビにない、ちょっとした機能のことだ。

 伊豆田氏は、「アイデアだが」と前置きした上で、以下のような機能を考えている、と明かす。

 「2.4GHz帯の電波を使った、『ワイヤレスお風呂テレビ』を追加できる機能をもったテレビ、なんて面白いんじゃないかと思っているんです。ソニーの『ロケーションフリー』みたいに大げさなものではなくて、1端末だけでも、安く簡単に追加できるようなものなら、ニーズがあるのではないかと」

 リモコンについても、「簡単リモコンも考えたい。お客様からは、『DVDレコーダとの連携』を望む声が多いんです。DVDレコーダのリモコン側には、なかなか我々のテレビのリモコン信号を入れていただけないようなので(笑)、逆にこちらのリモコンに、DVDレコーダのリモコン信号を入れられないか、検討しています」と話す。「新参者」ならではの悩みだ。

 現在は国内のビジネスが中心だが、海外比率を高めたいとの希望もある。現在アメリカ向けには、バイ・デザインブランドではなく、ホームシアターを各家庭にカスタムして導入する「CEDIA」というジャンルの市場に向けて、プライベートブランドで展開している。だから、どちらかといえば「高級AV」としての展開だ。

 「アメリカは販路で扱うメーカーが決まってしまっているので、現在はプレーヤーが少ないところで存在感を増していきたい」と考えているという。

 薄型テレビの市場は厳しい。低価格が求められていても、「安かろう悪かろう」が通じるほど甘くないのは間違いない。バイ・デザインが生き残るとすれば、それは「安いけれどちょっと違う」商品を提示する能力を持っているから、ということになるだろう。

 だが問題は、「どこが違うか」をアピールできるか、ということだろう。販促費をかけないメーカーだけに、それを周知させるのは難しい。

 「全商品に、デモモードを内蔵したり、POPを内蔵したりして、手をかけず店頭でアピールできる工夫を考えたい」と伊豆田氏は話す。それには、ブランドよりも中身、ということが誰にでもわかる「商品」が必要になってくるのは間違いない。


□バイ・デザインのホームページ
http://www.bydsign.co.jp/

(2007年4月26日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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