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第281回:USB接続のMIDIキーボード EDIROL「PCR-800/500/300」
~ 細かな使い勝手が強化。バンドルソフトも豊富 ~



2月に発表されたUSB MIDIキーボードの上位モデル「PCR-800」

 Rolandの今春の新製品として発売されたUSB MIDIキーボード「PCRシリーズ」の新モデル「PCR-800/500/300」。アフタータッチ付きで、50系統のフル・アサイナブル操作子を装備するなど、フィジカルコントローラとしてかなり強力。

 また、「Cakewalk Production Plus Pack」というソフトウェア群がバンドルされているため、PCさえあれば強力なシンセサイザ・キーボードとしても使える構成になっている。旧PCRシリーズと比較して、どのように強化されたかなども含めて検証した。



■ EDIROLのUSB MIDIキーボードがフルモデルチェンジ

 先日発売されたRolandのUSB MIDIキーボード「PCRシリーズ」は、61鍵盤の「PCR-800」、49鍵盤の「PCR-500」、32鍵盤の「PCR-300」の3モデル。いずれもオープンプライスだが、実売価格はそれぞれ35,000円、30,000円、25,000円前後となっているので、手ごろな製品といえるだろう。

61鍵盤の「PCR-800」 49鍵盤の「PCR-500」 32鍵盤の「PCR-300」

 ご存知の方も多いと思うが、Rolandでは、それまで同じ鍵盤数のPCR-80、PCR-50、PCR-30を販売しており、今回は型番が一桁大きくなっている。デザイン的にも大きく変わりシルバーがブラックになったのとともに、操作子の数、配置なども大きく変わっている。

旧モデルとなる「PCR-80」、「PCR-50」、「PCR-30」

 以前にPCR-30を購入して使ってきたが、PCR-300と並べてみると、その違いがハッキリ分かる。

 操作子が27から50に増えている分、若干パネル面積が広くはなっているが、デスクトップに置いてみると、かえって小さく感じる。ブラックになったからというのも一つの理由ではあるが、旧機種ではUSB端子がリアにあったのが、新機種では左サイドになったため、奥行きが非常にスッキリするためだ。

PCR-30(上)と新モデル、PCR-300(下)との比較 PCR-300では、左側面に端子類を集中している

 もちろん、USB端子だけでなくACアダプタ端子、MIDIの入出力、ペダル用のコネクタなどすべてここに集約されており、リアには何もない。ちなみに、PCと接続して使う際はUSBから電源が供給されるため、ACアダプタは不要。この点は新機種・旧機種ともに同様だ。



■ フェーダーやボリュームなど細部の使い勝手が向上

 さて、今回は主にPCR-500を使ってみたが、使い勝手が明らかに向上したのがフェーダーだ。旧機種ではストロークが30mmだったのが1.5倍の45mmとなったため、かなり細かな動きができるようになった。また、従来フェーダーは8本だったが、9本となり、一番右のフェーダーはマスターフェーダーとして使えるため、より便利になった。

 もう一つ目立つのが、中央にある横型のスライダーボリューム。これは新開発のアサイナブル・クロスフェーダーで、ソフトシンセのフィルターコントロールやパラメータをアサインしてのDJスタイルのスクラッチプレイ、またDAWにおいては、2つのトラックのボリュームをクロスフェードさせるといった使い方が可能となっている。


フェーダーのストロークが1.5倍に伸びて、使い勝手が向上 中央には横型のスライダーボリュームを装備


18個のボタンはベロシティー付きパッドとして利用できる

 また結構便利なのが、A1~A9、B1~B9と計18個ならんだボタンだ。これらは普通のボタンとして使える一方、これをMIDIノートとしてアサインすると、ベロシティー付きのパッドとして利用できるのだ。最近パッド付きのデバイスがいろいろとあるが、PCRシリーズも対応したわけだ。

 これを使って、簡単なリズム入力などもできそうだが、パッドというよりも、やはりボタンっぽいし、ベロシティーセンサーの精度もそれほど高くないため、あまり多くを期待しないほうがいいかもしれない。なお、このボタン兼パッドにはそれぞれにLEDが内蔵されており、モードによって赤やオレンジに変化するようになっている。

 このように操作子側がいろいろと進化している一方で、キーボードそのものの性能も大きく向上している。これまでなかったアフタータッチ・センサーを搭載したことで、キーボードを押した後、さらに強く押したり、弱めたりして、音色を変化させたり、ビブラート効果を出すことも可能となった。また、そもそも鍵盤のタッチもよりよくなった感じだ。



■ PCで操作子設定が可能に。自動アサイン機能も搭載

 さて、これら操作子50個はすべてフルアサイナブルとなっているので、コントロールチェンジでもプログラムチェンジでも、MIDIノートでも、システムエクスクルーシブでも何でも割り当てることができる。一応本体だけでも設定できるようになっているが、それを一つ一つ作業していくのはあまりにも面倒。

 そこで用意されているのが、PCR EDITORというものだ。Windows版、Mac版それぞれ用意されているが、これを利用することで、それぞれの操作子への割り当てが簡単にできるようになっている。


設定用ソフトの「PCR EDITOR」は、Windows/Mac版が用意されている。Win版はVistaにも対応 操作子への割り当てをPC上から簡単に行なえる

 このPCR EDITORを使って、すべてオリジナルで設定してもいいが、主要DAW用の設定は予めコントロールマップ情報として本体のメモリに保存されているので、コントロールマップの番号を設定するだけですぐに使える。

 具体的には「SONAR」、「GarageBand」、「Cubase」、「Logic」、「B4」、「GM」などだ。そのほかにも、旧PCRシリーズ用の設定もそのまま読み込めるようになっており、そのライブラリがRolandのWebサイトに用意されているので、探してみるといいだろう。


操作子を最適な状態に自動でアサインする「DYNAMIC MAPPING」ボタンを搭載

 このコントロールマップのメモリーナンバー0に、DYNAMIC MAPPINGというものが用意されているが、これは、新PCRシリーズの大きな特徴ともなっている。本体パネルの左上にある「DYNAMIC MAPPING」ボタンと連動しているもので、稼動中のソフトウェアと有機的な接続をしてくれる機能だ。

 このボタンが押されると、DAW側がPCRを認識し、アクティブ・ウィンドウの主要パラメータを自動的にフィジカル・コントローラに合わせてアサインしてくれる。つまり、いちいちコントロールマップの設定をしなくても、DYNAMIC MAPPINGボタンを押せば、現在操作している画面に最適な状態にPCR側のアサイン状況が自動的に切り替わるというわけだ。


現時点では、SONARしか対応していないのが残念なところ

 ただし、ここにはひとつ大きなネックもある。現在、このDYNAMIC MAPPINGに対応しているアプリケーションはSONAR 6.2だけなのだ。コントロールマップがどのように設定されていても、SONAR 6.2を稼動中にDYNAMIC MAPPINGボタンを押すと、SONARのフィジカルコントローラ用アサイン画面が現れ、それ以降、すべてが自動的に使えるようになり、非常に便利だ。

 ほかのDAWでも対応すれば便利だが、すぐには期待できそうにない。



■ SONAR LEなど、3本が付属「CakeWalk Production Plus Pack」

 もう一つ新PCRシリーズの特徴となっているのが、バンドルソフトウェアだ。これはWindows専用となっているが、「Cakewalk Production Plus Pack」というものが付いてくる。「SONAR LE」、「Project5 LE」、「D-PRO LE」という3つのソフトのセットとなっており、現在のところ、これがバンドルされている製品は、新PCRシリーズのみのようだ。ご存知の通り、SONAR LEはこれまでも多くのRoland製品にバンドルされていたが、Project5 LE、D-PRO LEについては、今回が初登場となる。


DAW「SONAR LE」

 それぞれを簡単に説明すると、SONAR LEはDAWであるSONARの機能限定版。ユーザーインターフェイス的にはSONAR 4がベースになっているが、必要十分な機能を備えている。実際、MIDIでもオーディオでも、SONAR LEがあれば十分、レコーディングからエディット、ミキシングまでできてしまう。

 最高で24bit/192kHzでのレコーディングができ、オーディオトラック数は64、MIDIトラック数が256。オーディオの同時入出力数が4ステレオ(8モノラル)に制限はされているものの、普通は十分だろう。また同時利用可能なエフェクト数が24、ソフトシンセ数が8と制限されているが、あまり大きなプロジェクトを組まない限りは問題とならないだろう。

 DirectX/DXi、VST/VSTiのプラグインが利用できるが、ネックとなるのが標準搭載のプラグインの数が少ない。これはフリーウェアなどを集めてくれば結構使えるし、ソフトシンセについては後述するD-PRO LEが用意されているので、これが大きな威力を発揮してくれる。


ループベース・シーケンサ「Project5 LE」

 一方Project5 LEはループベース・シーケンサであり、かつソフトシンセ・ワークステーションでもあるProject5の機能限定版。乱暴な言い方をすれば「ACID」と「Reason」を足したようなソフトであり、テクノ系、ダンス系を得意とする音楽制作ソフト。

 さまざまなプラグインのソフトシンセ、エフェクトを起動させ、それをシーケンスするプログラムを簡単に組んでいくことができる。またReWireにも対応しているので、SONARをはじめとするDAWとの連携も可能だ。


プレイバックサンプラの機能限定版「D-PRO LE」

 そしてD-PRO LEはCakewalkのプレイバック・サンプラ、D-PROの機能限定版。機能限定というよりは、音色のライブラリ数、容量がちょっと小さいバージョンというほうが分かりやすいかもしれない。

 とはいえ、このD-PRO LEでもさまざまな音色データが用意されており、かなり使えるソフトシンセとなっている。DVD2枚組みのサンプリングデータが付属するD-PROのように100MB単位のサンプリングデータが用意されているわけではないが、それでも15MB程度のサンプリングデータで構成されるベース音源が用意されているなど、結構充実している。前述のSONAR LEやProject5 LEと組み合わせて使うことで、PCRシリーズをシンセサイザ・キーボードとして活用することも可能だ。


□Rolandのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□EDIROLのホームページ
http://www.roland.co.jp/DTMP/index.html
□製品情報(PCR-800)
http://www.roland.co.jp/products/jp/PCR-800/index.html
□製品情報(PCR-500)
http://www.roland.co.jp/products/jp/PCR-500/index.html
□製品情報(PCR-300)
http://www.roland.co.jp/products/jp/PCR-300/index.html
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~ NAMM2007出展のミキサーやキーボードなどが登場 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070213/dal269.htm

(2007年5月14日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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