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第282回:Steinbergのループシーケンスソフト「SEQUEL」
~ 豊富なライブラリと、シンプル操作が特徴 ~



 ヤマハ株式会社が独Steinbergの新たな音楽制作ソフトウェア、「SEQUEL(シーケル)」を6月下旬より発売する。SEQUELは「Cubase」シリーズとは異なる新たなラインナップで、価格はオープンプライスながら実売が16,800円程度の見込みということからも分かるとおり、エントリーユーザーを主なターゲットとしたソフトだ。

 5月17日に東京・渋谷でSEQUELの発表会が行なわれたので、その情報を含め、SEQUELがどんなソフトなのかを紹介していこう。

独Steinberg製音楽制作ソフト「SEQUEL」 東京 渋谷で発表会を行なった



■ シンプルさにこだわったループシーケンスソフト

「SEQUEL」メイン画面

 発表会で実際に目にしたSEQUELは、一言でいえば「非常にシンプルな操作を実現したループシーケンスソフト」。「ACID」や「GarageBand」、またある意味では「Live」に近いソフトではあるが、どんどん高機能化してDAWと自ら名乗るようになったACIDやLiveに対し、SEQUELはあくまでもシンプルさを前面に出している。

 またACIDがWindows専用、GarageBandがMac専用のソフトであるのに対してSEQUELはワンパッケージで双方に対応したハイブリッド。しかもMac版はPowerPCにもIntel Macにも対応するUniversal Binaryで、Windows版はWindows XPにもVistaにも対応した、何にでも対応したソフトになっている。

 そして、SEQUELの最大の特徴ともいえるのが、シングル・ウィンドウですべての操作が可能であるという点。画面上部がトラックが並ぶアレンジゾーンで、画面下部がミキサーやエディタなどが表示されるマルチゾーン。画面構成の面ではLiveを彷彿させるが、よりエントリーユーザー向けとして分かりやすくなっている。

ヤマハ株式会社 PA・DMI事業部MP推進部副部長 小島高則氏

 発表会でヤマハ PA・DMI事業部MP推進部副部長の小島高則氏は、「Cubaseには多くの中・上級ユーザーがついているが、SEQUELで従来のDTMユーザーに限らない多くのユーザー層を開拓したい。すでに海外では3月下旬よりSEQUELの発売を開始しているが、アメリカではDJユーザーなどが利用してくれている。国内においてはギタリスト、また管楽器ユーザーなどにもご利用いただきたいし、10代、20代の若いユーザーの獲得を目指したい」と話していた。

 確かに最近のDAWは非常に高機能化されているだけに、初心者にとっては敷居が高いのが実情。オーディオもMIDIもループシーケンスも扱え、プラグインのソフトシンセやエフェクト、さらにはミキサーにマスタリング機能……と何でも揃っているだけに、分かっているユーザーには嬉しいが、初めてのユーザーにはどこから手をつけていいかすら分からないのが実情だろう。そこで、改めてエントリーユーザーにターゲットを絞って開発したのがSEQUELというわけだ。


インターネットのループシーケンスソフト「MIXTURE」もコンセプトはSEQUELと同等

 もっとも、考えることはどこも同じで、国内におけるSEQUELの発表の数日前には、「Singer Song Writer」などで有名な株式会社インターネットからも、非常によく似たコンセプトのソフト「MIXTURE」が発表されたばかりだ。

 MIXTUREについては、また機会があれば紹介してみたいが、SEQUELとMIXTUREで共通するのは、非常にシンプルな構造のループシーケンスソフトで、1本のソフトですべてができる内部完結型のソフトに仕上がっているということだ。

 両者を比較すると、やはりSEQUELのほうがデザイン面、機能面で垢抜けているという印象を持つが、目指しているところはソックリだ。



■ 約5,000のループ素材を内蔵。インターフェイスはACIDなどと同等

 SEQUELの曲作りの基本は、画面下側のマルチゾーンでループデータを選択し、上側のアレンジゾーンへ貼り付けて、ループを繰り返すようにドラッグして引き伸ばすという、ACIDやGarageBandなどに共通のインターフェイスでの作業となる。

 現在ではどのDAWにも搭載された基本機能だが、これまでCubaseだけは、ループを引き伸ばす操作が非常に面倒だった。ACIDやSONARなどを意識しすぎて、わざとこのユーザーインターフェイスを避けているのではないかと思うほどだったが、SEQUELでは素直にこの共通ルールに従ったようで、使いやすくなっている。

Cubase4のメディアベイを採用

 また、ループ素材選びには、Cubase4で採用されたメディアベイがそのまま使われている。GarageBandと同様に曲のジャンルやスタイル、楽器などから目的のループ素材を絞り込むことができるようになっているのだ。このマルチベイに限らず、トラックプリセットやVST3などCubase4のサウンドフレーム・テクノロジーが、このSEQUELにそのまま搭載されている。

 また、内部解像度が32bitフローティングポイントになっているのもCubase4と同様じ。つまり、オーディオエンジンはCubase4と同じなのだ。

 ちなみに付属している、メディアベイで検索可能なタグが付いたループ素材は4,500種。さらに製品を登録すると、500種が追加され、計5,000ものループが利用できる。このうち約3,000種類がオーディオループで、約2,000種類がトラックプリセットデータを含むMIDIループとなっている。

 このことからも分かるとおり、SEQUELではGarageBandなどと同様、オーディオのループとMIDIのループがシームレスに扱え、ユーザーはそれがオーディオなのかMIDIなのかは意識しなくても使える。ちなみにその内訳は、「Rock/Blues/Metal」が約550、「Pops」が約600、「Electric/Dance」が約1,000、「Ambient」が約250、「Jazz」が約400、「HipHop/R&B」が1,250、「World」が約750などとなっている。

 これら計5,000のライブラリは、基本的にはCubase4/Cubase Studio4に同梱されているライブラリとは別モノ。ACIDizedされたループデータやAppleのApple Loops対応データは、サードベンダーを含め多くのライブラリが発売されているが、これまでサウンドフレーム・テクノロジー対応のライブラリは、Cubase4/Cubase Studio4に同梱されているもの以外はなかった。

 そこに約5,000ものライブラリが揃ったSEQUELが16,800円前後という価格で発売されたわけだから、Cubaseユーザーにとっても魅力的に映るかもしれない。前出の小島氏は、「Cubase4ユーザーにはSEQUELを単なるライブラリとして買っていただくことも歓迎」とのことだ。



■ ソフトシンセ音源をそのまま利用するコンセプト

 ところで、ここで気になるのは、そのライブラリのMIDIループデータはどのようにして音を鳴らすのかということだ。実は内部完結型のソフトであるSEQUELには外部のMIDI音源を鳴らす機能はない。つまり、ソフトシンセを使うのだが、そのソフトシンセとして採用されているのがプレイバックサンプラーの「HALionOne」とバーチャル・アナログシンセサイザの「Prologue」。Cubase Studio4に搭載されているのと同じ、プリセットのうち約600種類が搭載されている。またGMセットおよび60種類のドラムキットも搭載されている。

「HALionOne」のソフトシンセを採用(画面はCubase) 「Prologue」のソフトシンセも搭載する(画面はCubase)


「何もいじらずに使える」が基本コンセプトだが、パラメータの調整は可能

 スッパリと割り切っているのが、それらソフトシンセの扱い方だ。確かにここに搭載されているのはHALionOneでありPrologueなのだが、ユーザーにはそのソフトシンセのGUI画面は見えないようになっている。あくまでも画面下のマルチ・ゾーンにおいて、そのパラメータが見え、調整できるようになっているだけだ。ここを使って、ある程度の音色エディットは可能だが、そのまま何もいじらずとも使えるというのが基本コンセプトだ。

 一方、エフェクトのほうを見てみると、SEQUELには各トラックに対して2つのインサーションエフェクトがあり、それとは独立して各トラックにEQとコンプレッサも用意されている。またセンド・リターンのエフェクトが2系統あるとともに、マスターエフェクトとしても2つが組み込める。このマスターエフェクトとは別にステレオエンハンサとマキシマイザも搭載されており、エフェクトを駆使した音作りが可能だ。


Cubase4などで搭載する16種類のエフェクトが利用できる

 エフェクトとしては「Stereo Delay」、「Amp Simulator」、「AutoPan」、「Chorus」、「Flanger」など、やはりCubase4/Cubase Studio4搭載のエフェクトのうち計16種類が使える。ただし、このエフェクトに対する考え方も先ほどのソフトシンセと同様で、エフェクトのGUI画面は見せず、あくまでもマルチ・ゾーンにおいてパラメータを動かせるだけとなっている。

 なお、自己完結型ソフトウェアであるSEQUELに搭載されているソフトシンセやエフェクトは当然VST対応ではあるものの、ここに別のプラグインを追加することはできない。こうした割り切り方もSEQUELの特徴というわけだ。


メロディー部の打ち込みも行なえる

 このように、基本的にはループデータを並べていくループシーケンサだが、もちろん、ボーカルやギターなどオーディオのレコーディングも可能。またMIDIのピアノロール画面などは用意されているので、メロディー部分を打ち込んでいくこともできる。また、ACIDizedデータやMP3データ、WAV/AIFFについてはトラックへのインポートが可能になっているので、これらを活用してもいいだろう。ただし、サンプリングレートはすべて44.1kHzに固定。分解能は16bit/24bitが選択できるが48kHz、96kHz、192kHzなどは利用できない。



■ パート単位で曲構成を編集する「アレンジャー・モード」も

 できあがった曲データは2ミックスした上で、WAVE、WAVE64、AIFF、AIFC、OggVorbisなどへエクスポートできる。またiTunesへのダイレクト・エクスポートも可能なので、iTunes経由でCDを焼いたり、AAC、MP3、AppleLosslessへ変換することもできる。

パート単位で自由に構成を変更できる「アレンジャー・モード」を搭載

 もうひとつSEQUELの特徴的な機能が、「アレンジャー・モード」だ。これは曲のプロジェクトをいくつかのパートに分けてA、B、C、D……とパート番号を振った上で、自由に並び替えて、構成を自由に変えられえるというもの。マルチゾーンにおいて、各パート番号をパッド表示でき、これをクリックすることでリアルタイムでの構成変更も可能。いわゆるポン出し的なこともできるので、ライブパフォーマンス用としても使えそうだ。

 なお、気になるCubaseとの連携については、現在のところ対応していない。ただし、次のCubase4/Cubase Studio4のアップデートでSEQUELファイルのインポートを可能にするとのことなので、SEQUELで簡単に曲の構成を作った上で、Cubaseでより詳細に作りこむといったことが可能になりそうだ。

 もう1点ユーザーとして気になるのがプロテクト。これまでSteinberg製品では「SteinbergKey」というSyncrosoft社のUSBドングルを使っていたが、SEQUELでは、これとは異なるプロテクトが採用されている。

 これも同じSycrosoftのものだが、eLicenserというもので、CPU固有の番号をインターネット経由で認証してアクティベーションするというものだ。これによって1マシンにのみインストール可能となっている。安いソフトだからこそ、プロテクトが必要ということなのかもしれない。

 いずれにせよ、こうしたエントリーユーザー向けのソフトがDTM全体のユーザー発掘の起爆剤になってくれることを期待したい。発売は6月下旬だが、すでに海外で発売されているソフト(アメリカでは99ドル)を入手すると、マニュアルは英語だが、画面は日本語メニューで使えるようになっているそうだ。すぐに使いたいという人は海外から輸入するのも手だ。


□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.yamaha.co.jp/news/2007/07051701.html
□関連記事
【5月11日】インターネット、鼻歌入力対応の直感系楽曲作成ソフト
-フレーズやコード進行を配置して楽曲作成
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070511/internet.htm

(2007年5月21日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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